つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
「身長低いあんたと付き合うわけないw」とバカにされ幼馴染に振られた低身長俺、身長が同じなクラスのギャルに「素の歩幅が同じなので一緒にいて楽」という理由で何故か誘われてしまう。
身長はあと数年で伸びると思っていた。
だが伸びなかった。女子の平均身長にも届かず、伸びると信じてた紐タイプのグミがぶちぶちと切れるタイプだったというオチ。
そう、伸びないぶちぶちグミな俺も、今日は人生で一番の勝負の日を迎えていた。
幼馴染への告白である。
あ、ちなみにもう終わりました。
あのこれ、年末年始にサクッと読める短編目指してるんで、そのー、振られるまでのくだりは丁寧にやらないんですよ。
「身長低いあんたと付き合うわけないw」
身長165センチ。テニス部のエース的な幼馴染に俺は見下されていた。
ちなみに物理的には見下されていない。
俺は作戦家なので夕焼けの見える渡り廊下で告白したのだが、その渡り廊下は少し傾いているのだ。当然俺の方が目線が高くなるように立った。
だがしかし、そんなんで騙される幼馴染ではない。常に成績は学年一桁順位だしな。
てかちなみに容姿もめちゃ可愛い幼馴染、よく考えたら各方面で凄すぎないか? そりゃ振られるわ。
今は18時。
「あのー、最終下校時刻なんだけど」
「あ、ごめん」
机で落ち込んでた俺は、ギャルっぽい雰囲気のクラスメイトに話しかけられた。確か今日は日直だったかな?
僕は立った。
すると目の前のギャルっぽいクラスメイトは自分の手を頭のてっぺんに当てて……
てん、てん、てん。
三角形の高さを比べる点線を描くように手をひょこひょこ俺の頭まで持ってきて。
「身長全くおなじじゃない?」
「そうかも」
「マジかあ。ね、なら今日一緒に歩いて帰ろうよ」
「なんで?」
「ほら、自然な歩幅が同じだと並んで歩いてても楽でしょ」
「なるほど……ただ、問題があるぞ」
「問題……?」
「脚の長さが同じとは限らないだろ」
「はあ? 私が短足だっていうの?」
「いやどちらかといえば俺の方が短足説がある」
「あそう」
そしたら今度は自分の腰のあたりに手を当てて……またひょこひょこしたら……
「おんなじくらいだ。完璧ね」
「それはよかった」
「てなわけで一緒に帰ろうね?」
首を傾けるギャル風なクラスメイトに俺は言った。
「なんで俺とそんな帰りたがってるんだ……?」
「え、だからさっきからその話してたでしょ。歩幅が同じだからだよ」
「ほお」
「うーん。理由としては弱いってことなのかな?」
「いや、俺は全然いいが……」
「じゃそんな理由深掘りしないでよ。行くよっ」
先に歩き出したギャルの背中を見つめる。
ギャルの名前は青山ゆき。
名前と偶然の一致なので覚えていたが、少し前の初雪の日、青山ゆきは日常感をまとって登校してきた。
おそらく半年ぶりくらいに。
青山ゆきはあんまり女子のグループにがっつり入っているように見えなかった。かと言って寂しそうにもしていなかったし、クラスの仕事とか授業には普通通り参加していた。
そう、今日の日直の仕事だって無難にこなしていたに違いない。
けれど、俺は青山が何を考えているのかがわからないのだ。
ちょうど自分と同じくらいの背丈なのに、全然違う世界にいるんだろうなって思う。
だから……もしかしたら歩幅は一緒じゃないんじゃないか。そう思った。
☆ 〇 ☆
私が最後にキラキラした目をしたのはいつだろうって思う。
たぶん中学三年生のときじゃないかな。
ちょうどその時お姉ちゃんがモデルデビューした。
私もあんなふうになりたいなって思っていたけど、キラキラした目をしていたのは、私が輝いていたからじゃなくて、お姉ちゃんの輝きをただ反射していただけなんだなと知った。
私はお姉ちゃんを追いかけてモデルを目指した。
夢がなく、あるいは夢に向かって努力することもなく、ダラダラと学校でしている人よりも、自分はとても進んだ位置にいると思っていた。
けど。
それは私がうすうす自分がモデルに向いてないってわかってたのに、でも自分が特別であってほしいという願望を捨てきれずにいたからだ。
私はオーディションを受けまくり、学校の休みは続いた。
そうして幾度とオーディションに落ち、まず身長とスタイル的に無理、とはっきりと言われた時、私はぽんと夢から覚めた。
世の中ずるいと思う。
キラキラ輝くのに必要なアイテムが10個あるとしても、それを二人で分けようってなった時に5-5だとは限らない。
例えば私とお姉ちゃんなら10ー0だ。どっちが0かなんて言うまでもない。
学校に行き始めると、自分が誰にとっても興味ない存在なんだなとわかる。
まるで私の染めた髪が床の色に同化しているのかと思うくらい、みんなは普段通りに毎日似たようなムーブをしていた。
そんなみんなを眺めていて気づいたことがある。
私……コンプレックスだらけだわ。
みんな余裕で私より可愛いし、なんだかかわいい声でしゃべっている。
はーあ。これからどうしよっかなあ。
日課であるため息5連発位を放っていると、ふと、教室の斜め前方向にいる男子生徒が目に入った。
あの人、ちっちゃくない?
モデルに向いてない太鼓判もらえる私と同じくらい。男子なのに。
あの人って……私よりもさえてないかも。
見ているといつも一人でいることが多いし、何か得意なことがあるわけでもないようだ。
ただ……そんなある日。
「あ、あのー」
「ん?」
「これ……」
「これ私の筆箱……?」
「あ、そう……」
「あ、ありがと。わざわざ持ってきてくれたの?」
「まあ……日直だし今日」
「日直?」
日直だから移動教室の忘れ物ちゃんと持ってくるとか真面目な小学生かよっ。
って突っ込んだけどそれは口には出さず。なんか君って優しいんだなって思って。
「そっか。ありがと」
それで会話は終わった。
それからしばらく経って。
今度は私が日直になった。
と言っても私はバカ真面目に日直をやるような人ではない。
未来予知を使って六時間目まで日誌を埋めたら、何やら声が聞こえてきた。
「あいつ、祐穂に告ったらしいよ」
「え、あのスペックで⁈ ヤバ。チビなの自覚なしかよ?」
もしかして話題の対象は……あいつか?
確かにその後よく観察してみれば、どこか落ち込んだ風だった。
しかも挙げ句の果てには、最終下校時刻になっても机に突っ伏してた。おい、落ち込みすぎ……。
でも実は恋愛をしたことがない私にとって、なんだか努力家に彼が見えた。
それはそれとしてこのまま夜まで彼がいるのはどうかと思ったので、私は声をかけることにした。まあ……日直だし?
そういや彼に話しかけるのは初めてかもしれない。
どうせならガッツリ話してみたいところだが、でもどう持っていけばそういう流れになるだろうか。
共通点は……やはり身長か。
ならその方向で行こう。
そう決めてから私は声をかけた。
「あのー、最終下校時刻なんだけど」
☆ ◯ ☆
私と彼は、てくてく高校からの坂道を下っていた。
やはり、歩幅は同じだった。隣の彼はそれが意外だっていう風に、やたら丁寧に歩いている。
でもやっぱり歩幅一緒でしょ。少なくとも、私は人生でトップクラスに自然に歩いている。
だから私は訊いてみた。
「ねえ、今日フラれたでしょ」
「ななっ、なんで知ってんの?」
「そりゃ、色々と噂が聞こえてきてね」
「噂、かあ……。仕方ない。幼馴染とはいえ、かなり無理のある告白だったのかもしれない」
「幼馴染なの? 祐穂と」
「そう。幼馴染同士なのに不公平だよな。色々と」
「わかる」
「わかる?」
「私もお姉ちゃんと比べて、色々スペック終わってるからさ」
「あそうなの?」
「そう」
そっから言い訳がましく、世の中の不公平性と嫉妬について、とばとば話してぎゃはぎゃは共感した。
あー、楽しかった。
その日家に帰ると、お姉ちゃんがいた。
「あれ今日はお仕事ないの?」
「ないよ。もう早めの仕事納め」
「仕事納め?」
そういや今日終業式だったっけ? てことはもう冬休みか。
せっかく今日一緒に帰って来れた彼とも、しばらく会えなくなるな。
……クラスラインに彼のアカウントあった気がするし、暇だったらラインしていいかな?
☆ ◯ ☆
大晦日。
「ゆきはさー」
「ん?」
ダラダラしてたらお姉ちゃんがなんか言ってきた。
「来年の目標とかあんの?」
「お姉ちゃん先に言ってよ」
「雑誌の表紙に載ることかなー」
うざ。うざくない? モデルのオーディション落ちまくってる人の前でそれ言いますか。でかい肉食べたいとかにしようよ。
「で、ゆきの目標は?」
「んー。考え中」
「あ、ぼかした」
「ちょ、ちょっと部屋で電話してくる」
「え、彼氏?」
「一番ちげーわ」
……いきなりライン通話って変かな?
って思ったけど、あいつと話した時に一番すっきりしてしまったのでそろそろまた話したくなってきた。
変に年越しギリギリとかだとますます変になるから、何の変哲もない夕方に擬態して、今かと。
通話をかけたら彼はすぐに出た。
「もしもし……どうしたの?」
「いや、ほら、最近話してないから無駄に話そうかと思って。」
「あ、無駄前提でお話を……」
「ダメか?」
「いや。俺は全然いいが」
「でしょ。気が合うのよ私たち。身長も脚の長さも同じだし」
「それ絶対関係ない」
「……空気読めない人」
私決めた。
来年は、恋愛頑張ることにする。
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