表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/154

白と黒と黄

 全 思風(チュアン スーファン)の手に握られているのは剣だ。鞘は黄金(おうごん)ではあるが、蒼白い(ほのお)に包まれている。

 

「私は容赦というものを知らないのでね」


 黄金(こんじき)に煌めく瞳を細め、鞘から剣を抜き出した。剣の中心には(ほおの)の模様が刻まれている。焔はたった一つだけれど、強い存在感を放っていた。

 鞘を腰にかけ、剣を握る。切っ先を村へと向け、一緒に屋根の上へと登っている華 閻李(ホゥア イェンリー)を直視した。


「君はここで待っていて」


 空いた左手で、宙に紋を描いていく。やがてそれは小さな蝙蝠(コウモリ)に変わっていった。

 蝙蝠は円らで愛らしい瞳を瞬きさせながら、銀髪の頭上を陣取る。ふんすという鼻息が聞こえてきてしまいそうなほどに胸を張る蝙蝠を、華 閻李(ホゥア イェンリー)は軽くつついた。


「わあ! この子、可愛い」

  

 人懐っこさが目立つ蝙蝠を、ギュッと抱きしめる。蝙蝠と頬を合わせては、かわいいを連呼していた。


 ──んんっ! 小猫(シャオマオ)の方が可愛い。蝙蝠、私と場所を変われ!


 悶えたい気持ちを隠し、表情筋を強張らせる。どうしたのかと顔をのぞいてくる華 閻李(ホゥア イェンリー)に悟られまいと、笑顔で誤魔化した。


「……遊びはこのぐらいにしよう。この村を解放してあげないと、ね?」


「解放?」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)と蝙蝠は、息が合ったかのように小首を傾げる。


 全 思風(チュアン スーファン)は微笑し、顎をくいっとした。

 視線の先には村がある。連れてきた殭屍(キョンシー)たちまでもがおり、彼らは悲鳴にもならぬ雄叫びを静かに響かせていた。


 全 思風(チュアン スーファン)は不敵に牙をのぞかせる。そして剣を持って地上へと足をつけた。

 右足の軸に体重を乗せ、剣を持つ右肘を少しだけ下がらせる。ふっと、一瞬の息遣いを空気に溶けこませた。

 直後、目にも止まらぬ速さで地を蹴る。柄の部分で殭屍(キョンシー)たちの腹部、頭部を吹き飛ばしていった。その際に剣からは、空を何度も切り裂く音が吐き出される。


 抵抗する間もない殭屍(キョンシー)たちは、その場に倒れていった。なかにはまだ動ける者もいる。


 全 思風(チュアン スーファン)は、あははと余裕のある笑いをした。彼らの間をすり抜けて村の反対側に体を落ち着け、踵を返す。そして殭屍(キョンシー)を挟んだ側にいる華 閻李(ホゥア イェンリー)へと声を張り上げた。


小猫(シャオマオ)! そこから、この村全体を見渡してもらえないかい?」

 

 山積みとなった殭屍(キョンシー)たちを軽く蹴る。





 言われた華 閻李(ホゥア イェンリー)は蝙蝠を抱きしめながら、村一帯を確認した。すると……


「……あれ?」


 目に映るのは崩壊した家屋や、殭屍(キョンシー)に成り果てた村人たち。そして全 思風(チュアン スーファン)だ。

 けれどもう一つ。

 華 閻李(ホゥア イェンリー)の視界に、ここにあってはならぬものが映っていた。それは村全体を包むようにして広がっている、(しゅ)色に輝く陣である。


「……陣だ。村全体が、赤い陣に覆われている。これは……血晶石(けっしょうせき)の力? ……ううん。それよりももっと強い…………あっ!」


 ハッと、顔を上げる。蝙蝠を頭の上に乗せ、近くの屋根へと飛び降りた。身長よりも長い銀の髪を風に遊ばせながら、大きな瞳に(げん)を乗せる。


(スー)ー! これは血晶石(けっしょうせき)じゃない。それよりも厄介な、血命陣(けつめいじん)だ!」


 屋根から降り、屍たちを挟んだ場所で止まった。


 全 思風(チュアン スーファン)殭屍(キョンシー)たちの横を通って、華 閻李(ホゥア イェンリー)の前に立つ。


血命陣(けつめいじん)? それは、血晶石(けっしょうせき)とどう違うんだい?」


 剣を地面へと刺す。両腕を組み、決して大きくはない瞳で華 閻李(ホゥア イェンリー)を凝望した。


「僕も詳しいことはわからない。ただ、細かな血晶石(けっしょうせき)の力を集めて大きなものにする。それが血命陣(けつめいじん)だって話だよ」


 顎に手を当てて、空を仰ぎ見ながら唸る。詳しい内容は伝わっていないのか、これ以上のことはわかりかねていた。


「……この村に入った時、私は妙な違和感を覚えたんだ。体をくすぐるようでいて、チクチクと刺すような。それが何なのかわからなかった」


 だけどこれでハッキリしたよと、地面に突き刺している剣を抜く。


「だけど小猫(シャオマオ)の言葉で、ようやくわかった……かな!」


 剣を携え、華 閻李(ホゥア イェンリー)へと振り下ろした。同時に「そこから離れて」と、華 閻李(ホゥア イェンリー)へ囁く。


「……え!?」

 

 突然のことに戸惑い、華 閻李(ホゥア イェンリー)は両目を瞑る。瞬刻、背後で鈍い音がした。

 それは何かと、恐る恐る見てみる。


「え? な、何……!?」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)の背にあったのは家屋だ。けれどその家屋から一本の腕が伸びている。白い布に覆われた腕には全 思風(チュアン スーファン)の剣が深く(ねじ)りこんでいた。

 数秒もたたぬ間に腕は華 閻李(ホゥア イェンリー)の細い髪をすり抜け、だらりとしてしまう。


 驚くことしかできない華 閻李(ホゥア イェンリー)の腕を、彼は引っ張った。軽い音とともに、華 閻李(ホゥア イェンリー)は彼の厚い胸板へと押しやられる。


「……ひ、人!?」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)の言う通り、家屋から腕とともに現れたのは白い服を着た人物だった。村人のように殭屍(キョンシー)になっているわけではない。生きた人間だ。


「な、何で人が……っ!?」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)の言葉を遮るように、白服の者がゆっくりと腰を上げる。腕に刺さっている剣を無事な片方で抜き、その場に放り投げた。

 白服の者は布で顔を隠している。けれど骨格や体格などから男だということが伺えた。


「…………」


 白服の男は何を言うでもなく、二人を睨むように視線を走らせている。


「その服から見るに、白氏(はくし)のようだね」 


 無言の時を破ったのは全 思風(チュアン スーファン)の低い声だった。彼は華 閻李(ホゥア イェンリー)を後ろに隠し、自身の剣を拾う。


「ここにいるって事は、この村の件に関わってると言っていいのかい?」


 剣の鋼部分を指で這った。すると剣は蒼白い(ほのお)を再び生む。


「……っまだだ! その程度で、我らは怯まんぞ!」


 白服の男は怪我を負った片腕のまま、口笛を吹いた。

 小さな地響きとともに、地にある(しゅ)の陣が淡く輝き始める。すると無数の殭屍(キョンシー)たちが陣を破って、地面から這いずってきた。


「……へえ? これで私をどうこうしようというのかい?」

 

 村とはまた別の方角から現れた殭屍キョンシーたちに囲まれても、全 思風(チュアン スーファン)は余裕ありげに微笑する。


「ふっ。貴様がどのような奴かは知らぬが、この量の殭屍(キョンシー)を前に、生き残れるとは思えん!」 


 白服の男は額の汗を拭いながら、高笑いをした。吐血をしてでも成し遂げたいようで、荒い息遣いを含ませる。


「これで……貴様らは終わりだーー!」


 白服の男の怒涛が合図となり、殭屍(キョンシー)たちは一斉に二人へ襲いかかった。



「……ふーん。お前たちは、この私を喰おうと言うのか?」


 低く、それでいてよく通る全 思風(チュアン スーファン)の声が、その場に轟く。

 長い三つ編みが大きく揺れた。

 漆黒のように深く沈む瞳は、月のごとく妖しく(かがよ)う。そして右手で持つ剣の(ほのお)が勢いを増した。


 微笑みを絶やさずに地を蹴り入れ、殭屍(キョンシー)の群れへと押し立てる。

 刃を縦に一閃すれば、空気が蒼白く揺らめいた。鋭く、それでいて重い刃は殭屍(キョンシー)の首を跳ねる。

 横一閃に流せば、複数体の殭屍(キョンシー)たちが、音もなく胴体を真っ二つに切り裂かれていった。


「言っておくけど殭屍(キョンシー)などという雑魚では、私の相手にならないよ? だからと言って小猫(シャオマオ)に手を出すようならば……」 


 月を乗せた瞳が煌めく。


「──もっと、痛いめに合わせてやろう」


 恐ろしくもあり、それでいて美しい。今の全思風(チュアンスーファン)は人というものを恐れない、残酷な武器そのものとなっていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ