表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠の帝王  作者: 液体猫【鳥籠の帝王 GoodNovelにて契約連載中】
城章 幽霊城~殷王朝時代~
119/154

「お帰り」「ただいま」

 息をひき取った華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)を前に、妲己(だっき)が庇いたてをする。悪女と呼ばれていた彼女の思わぬ行動に、全 思風(チュアン スーファン)たちは驚愕(きょうがく)を隠せなかった。

 けれど(とき)は彼らを待ってくれるはずもなく……


 再び、あの頭痛といった症状とともに、世界や景色がぐにゃりと曲がった。

 前回同様、立っていられないほどの不快感を覚えた彼は片膝をつく。華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)をしっかりと抱えながら両目を瞑り、そのときが終わるのを待った──


 □ □ □ ■ ■ ■


 ホーホーと、夜を現す野鳥の鳴き声がする。

 全 思風(チュアン スーファン)は頭痛が治まったのを確認し、ホッと胸を撫で下ろした。彼の腕の中で眠る銀髪の美しい少年、華 閻李(ホゥア イェンリー)を見、ふふっと微笑する。


「……やっぱり、小猫(シャオマオ)だったね」


 夜なのに(きら)めき続ける銀の髪に触れた。少女と見間違(みまご)うほどに整った顔立ちの子供の額に、優しく口づけを落とす。

 すると子供の長いまつ毛が動き、ゆっくりと目を開けた。


「……ふみゅう? ……(スー)?」


「うん、(スー)だよ」


 彼の膝を枕にして眠っていた子供は、寝ぼけ(まなこ)で上半身を起こす。目をこすりながら小さなあくびをし、彼をじっと見つめた。


「ふふ小猫(シャオマオ)、大冒険の感想は?」


 優しく、絶対的な笑みで(たず)ねる。

 子供は(あご)に手をあて、うーんと考えこんだ。やがて全 思風(チュアン スーファン)と目線を合わせ、(はかな)げに笑む。


「うん。結構ハラハラはしたけど、滅多(めった)に経験できない事だったと思うよ」


「ふふ、そうか。それはよかった」


 ともに微笑みながら互いの指を絡めた。


「でも(スー)、いつ僕が華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)になってたって気づいたの?」


 こてんっと、かわいらしく小首を左へ(かたむ)ける。その姿は非常にあいらしく、まるで小動物のよう。


 全 思風(チュアン スーファン)は、んんっと顔がにやけるのを我慢(がまん)した。膝の上に乗る子供の銀髪を軽く(すく)いあげる。くるくると絡ませようとするが、美しく(つや)やかな髪はいとも簡単にほどかれてしまった。

 彼は諦めの苦笑いをし、銀髪の一房(ひとふさ)におとなしめな口づけを(したた)める。

 

「そう、だね。初めは気づかなかったかな。でも、白虎(びゃっこ)たちが華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)に懐いてたでしょ? あの辺りから、もしかしたら! って思ったんだ」


 もともと蝙蝠(こうもり)躑躅(ツツジ)は人懐っこい性格だ。その躑躅(ツツジ)だけならば疑うことはしなかったのだろう。

 けれど白虎(びゃっこ)牡丹(ボタン)、そして青龍(せいりゅう)神獣(しんじゅう)である彼らは、【冥現(めいげん)の扉の鍵】の元に集まる習性があった。

 その鍵とも()える存在の華 閻李(ホゥア イェンリー)(なつ)き、楽しそうにしている。


 それを知っているからこそ、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)への彼らの態度がよりおかしく見えていた。


「たくさん食べてる姿を見たときは、君と重なった。ただあれは、半分妖怪の血をひいているからという理由だったんだよね」


 人間と妖怪は違う。人は(もろ)く、妖怪は霊力が高い。人間の(うつわ)で妖怪の血と力を制御するためには、食欲で補う必要があった。

 それが華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)華 閻李(ホゥア イェンリー)(ホゥア)の一族が食欲旺盛(おうせい)な理由であった。


「……確かに僕も、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)も、どれだけ食べても空腹感は消えないんだよね」


「うん。それについては別にいいと思うよ。個性だし。何よりも、小猫(シャオマオ)が幸せなら、それでいいって思ってる」


 ふっと、目を細める。子供を背中からギュッと抱きしめ、その温かさを堪能(たんのう)した。


「話を戻すけど……私が確信を持ったのは、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)荒野(こうや)を自然いっぱいにしたときなんだ」


 血晶石(けっしょうせき)の始まりでもある石を使い、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)はたくさんの自然を作りあげる。木々はもちろん、名もなき雑草、そして花たち。花は最終的には(あお)彼岸花(ひがんばな)へと姿を変えた。

 そのおり、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の姿は一瞬だけ変わっていく。その姿は愛してやまぬ、子供そのものだった。


「あのとき、彼と君が重なった。幻のように、ね。でも……」


 子供の首元に腕を伸ばす。無骨で大きな手が、子供の細い首を優しくなぞった。

 突然のことに子供の体はびくっと跳ねる。恐る恐る彼を見、大きな目を見開いた。

 

「あの姿はまぎれもない、私が愛している小猫(シャオマオ)だった。だから私は確信した。ああ、彼の中に魂が入ってしまっているんだなってね」


 子供の首から手を離し、にっこり微笑む。自信に満ちながらほくそ笑み、端麗(たんれい)見目(みめ)を強く印象づけた。


「……私は、君を絶対に逃がしはしない。ずっと一緒にいて、楽しい事や嬉しい事、もっといっぱいしよう。って、決めてるんだ。もちろん、私が側を片時も離れない前提(ぜんてい)でね?」


「ふふ、なぁにそれ? (スー)ってば、それは重たいよ」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)は「えー?」と、半分諦めたように苦く笑う。


「もう! 相変わらずだなあ……って、あっ!」


 ふと、何かを思い出したかのように、子供は両手で自分の口を押さえた。子供の首が、ギギギと音をたてるかのように動く。ひきつった笑みをしながら、あのねと口を開いた。


「何か間違えてるみたいだから、一応言っておくね」


「……?」


「あのね? 華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)は、女の人だよ?」


「……はい?」


 しばしの間、ふたりに沈黙が走る。やがて……


「はあ!? 華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)、女だったの!?」


 彼の叫びにも似た声が、近くの木に留まる鳥を驚かせた。そのとき、すぐ近くでドサッという音がした。

 子供は何ごとかと振り向く。するとそこには、大きな袋を肩に担いで戻ってきた爛 春犂(ばく しゅんれい)がいた。彼もまた衝撃(しょうげき)を受けているようで、顔を青ざめさせながら口をパクパクさせている。

 

「あ、先生。戻ってきたんだ。って、あれ、先生? どうし……うわっ!?」


 突然、爛 春犂(ばく しゅんれい)が四つん()いになった。ぶつぶつと、男ではなかったのかなどと(つぶや)いている。


 そんな彼を見て、子供は苦笑いしか浮かんでこないようだ。

 

小猫(シャオマオ)、本当に華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)は女性なのかい?」


「え? うん、そうだよ。あの人すごく細くて、胸はあんまりなかったみたいだけど。すっごく綺麗な女の人だよね?」


「ウン、ソウダネ」

 

 全 思風(チュアン スーファン)は遠くを見ながら、はははとから笑いをした。

 爛 春犂(ばく しゅんれい)は「わからん! 閻李(イェンリー)の一族は、わからなさすぎる!」と、後悔(こうかい)のようなものを口にしている。


「……こほんっ! そ、それについては私たちの落ち度という事だね。うん! そ、それよりも!」


 半ば無理やり話題を切り替えた。わざとらしさもあったが、失態(しったい)をいつまでも引っぱるわけにはいかないと気をとり直す。


小猫(シャオマオ)は、いつ記憶が戻ったんだい?」 


 この質問に、子供はうーんと腕を組んだ。

 上目遣(うわめづか)いで彼を見、無邪気に頬を緩ませる。頬を赤らめ、恥ずかしげにもじもじと。左の人差し指を自身の唇にあて、えへへと照れ笑いをした。


「秘密だよ」


「んんっ!」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)の微笑みに花が咲く。

 瞬間、彼は口を押さえて(もだ)えた。


 ──ああ、小猫(シャオマオ)。なんてかわいいんだ。本当にかわいい。


 目に入れても痛くないとはこのことかと、歓喜(かんき)(ひた)る。そして再び子供を抱きしめ、両脇に手を入れた。軽々と子供を浮かび上がらせ、己の方へと向かせる。


 子供はきょとんとした様子だ。


小猫(シャオマオ)、お帰り」


 子供の額に軽く唇を落とす。


 子供は恥ずかしそうに(あご)を引っこめ、おずおずと顔をあげた。その瞳はとろけるよう、白い肌には火照った色がよく似合う。

 そんな少年は(はかな)く笑んだ。


「うん。ただいま」


 ふたりは強く抱きしめあう。


 月が輝く夜、再びふたりは同じ時間を歩みはじめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ