表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠の帝王  作者: 液体猫【鳥籠の帝王 GoodNovelにて契約連載中】
城章 幽霊城~殷王朝時代~
116/154

血晶石《けっしょうせき》の秘密、花の誕生

 華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の手のひらに乗るのは、(あか)い宝石のように美しい石だ。しかしその石を、あろうことか血晶石(けっしょうせき)と呼んでいた。


 そのことに全 思風(チュアン スーファン)爛 春犂(ばく しゅんれい)驚愕(きょうがく)し、互いの顔を見合せる。


「──ちょっと待って。血晶石(けっしょうせき)って……それは本当なのかい?」


 彼は華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の持つ石を凝視し、それを指差した。石は淡く光っている。

 誰もがその石を見、続いて銀髪の美しい者へと視線を移した。


「……はい。そう、呼んでいます。これはわたしの血液から作られた石です」


「君の?」


 どういう意味かと、(たず)ねる。


「えっと……わたしが小さかった頃、母がこれを作ったんです。この石に願いをこめれば、一度だけ力を発揮する。そう教えられました」


 たた一度だけ。願いを叶え、それが後々に己の能力として固定される。これが石の力だと、(かんばせ)に影を落とした。



 全 思風(チュアン スーファン)は目を細め、深く考えてみる。


 ──もしも、本当にこれが血晶石(けっしょうせき)というならば、殭屍(キョンシー)化の元を作り出したのは他でもない……小猫(シャオマオ)先祖(せんぞ)って事になる。ただそうなると、現代でも血晶石(けっしょうせき)が動いているというのはおかしな話になる。


 この華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)が作りだしたと仮定するならば、時間の流れ的に今もそれが作成可能とは言いがたい。なぜならこの者は(いん)の時代の人間であり、全 思風(チュアン スーファン)たちが生きる禿(とく)とは重なるはずがなかったからだ。

 (いん)から禿(とく)になるまで、(およ)そ千二百年。

 妖怪の血が混ざっているぶん、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の寿命が人間よりも多少長い可能性はあった。それでも、そこまで長く生きられるという保証すらない。


 ──何よりも私は知っている。禿(とく)王朝が設立されたとき、この人の子孫がいたから。本人は、もうとっくの昔に亡くなっていたからね。


 隣でともに困惑する男に視線をやり、ふうーとわざとらしいため息をついた。爛 春犂(ばく しゅんれい)ではなく、眼前(がんぜん)にいる美しい者を見張る。


「ねえ、その血晶石(けっしょうせき)ってやつはさ、出回ってたりするの?」 


「え? あ、いえ。これは母上が独自に開発した物らしく……わたしのためだけに作ったと、()っていました」 


 いったいどうしたのかと、小首を(かし)げた。さらりとした、細く美しい銀の髪が揺れる。それは(きら)めく翼のように背中を流れていた。

 荒れ果てた場所を根城(ねじろ)にしていた民たちからは、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の美しさに声を失う者も現れる。なかにはきれいだと絶賛(ぜっさん)し、頬を真っ赤に染める者もいた。


 そんなひときわ目立つ見目麗(みめうるわ)しさを持つ華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)を、彼はじっと見つめる。


「……じゃあさ。その石を作れるのは妲己(だっき)だけって事?」


 その質問はあまりにも深い追及だった。下手をすれば怪しまれ、警戒(けいかい)されてしまうだろう。

 隣で彼らの会話を聞いている爛 春犂(ばく しゅんれい)ですら、ぎょっと両目を大きく見開いていた。

 それでも彼は謎を謎のままにするのはよくないよと、男に小声で語る。すると男はぐっと言葉を飲みこみ、彼のすることを黙って受け入れていった。


「うーん。今は、そうですね」


「今は? ……何か、引っかかる言い方だね?」


「あ、えっとですね。わたしは、これの作り方を知っています。ただ、完成させる事はまだできず……」


 才能がないんですと項垂(うなだ)れ、元気をなくす。


「……ふーん」


 それだけ()うと、爛 春犂(ばく しゅんれい)へ向かって(あご)をくいっとした。男も彼が何を言いたいのか察知した様子で、(うなず)く。

 ふたりは華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)たちに聞こえぬよう、ひそひそと話した。


「──ねえ、今の話から察するに、私たちのいる時代……禿(とく)で起きてる殭屍(キョンシー)化は、小猫(シャオマオ)と同じ一族の者がやってるって事になるよね?」


「確かにそうだが……しかし全 思風(チュアン スーファン)殿。よく考えてみよ。閻李(イェンリー)の一族は、もうあの子しかおらぬのだぞ?」


「そう! 問題はそこなんだよね。小猫(シャオマオ)がやったなんてのは、天地がひっくり返ってもあり得ないし」 


 キッパリと断言する。


 爛 春犂(ばく しゅんれい)は彼の、華 閻李(ホゥア イェンリー)を想う気持ちに苦笑いだ。けれどそれが彼だと知っているので「貴殿(きでん)は、相変わらずだ」とだけ呟く。


 全 思風(チュアン スーファン)は当然だと胸をはった。直後、軽口は終わりを告げる。彼の瞳には神妙(しんみょう)さだけが残り、空気すら変わった。


「そうなるとだよ? 一族で生きているのは、小猫(シャオマオ)だけじゃないって事にならないかい?」


「それは……」


「だって考えてもみてよ。禿(とく)の時代に血晶石(けっしょうせき)の作れるのは、あの一族だけ」


 ──ただそれだと、白氏(はくし)たちが一族の関係者ってなるんだよね。


 (くに)の各地で起きている事件の全てには、白氏(はくし)が関わっていた。

 殭屍(キョンシー)化事件として世を騒がせているそれは血晶石(けっしょうせき)を使い、無理やり人間を化け物へと変化させてしまう。

 しかしここで、ひとつ大きな問題が(しょう)じた。”血晶石(けっしょうせき)を作れし者は、(ホゥア)の一族のみ”という、問題である。

 

白氏(はくし)の連中が本家ないし分家。だったら、全ての物事の辻褄(つじつま)は合うと思う」


 (いん)王朝時代に生まれた新しき術。それがいつしか、殭屍(キョンシー)を作り出すための術に変わっていたのではないだろうか。

 あくまでも憶測(おくそく)ではあった。けれどなかなかに的を射ているのではと、考えた彼も、それを聞いている爛 春犂(ばく しゅんれい)ですら納得してしまう。


「……華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)もかわいそうだよね。誰かを助けるために特訓した術が、人間を死に追いやるものへと変わってしまった。なんて、さ」


「それは仕方のない事ゆえ。時代が変われば、人も変わる。もちろん、気持ちや考え方とて同じ」


「なんか……やるせないな。……あれ?」


 そのときだった。彼の瞳に映った華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)の姿が(かす)かにズレている。美しい見目のままではあったが、ときおり幼さのある子供のように。けれどまた、元に戻る。

 それを一瞬だけ繰り返していたのだ。


 彼は気のせいだろうかと目をこする。もう一度華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)を見やれば、大人の姿をした麗人(れいじん)として立っていた。


 ──小猫(シャオマオ)に見えたけど……そんなはずない、か。


 気持ちを心の奥底にしまう。

 今やるべきことは何かと、自らの両頬を軽くたたいた。よしと声をだし、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)へと向き直る。

 銀髪をなびかせて立つ者の手にある石を黙視し、これから何が起きるのかと待ちわびた。



 瞬刻(しゅんこく)華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)が石に軽く唇を落とす。形のよい(つや)やかな口から、耽美(たんび)な息が(こぼ)れた。すると、石がひとりでに宙へと浮かび上がる。


 華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)はそれを目で追い、心臓の上に両手を()えた。


血晶石(けっしょうせき)、わたしの願いを聞いてくれ。わたしはこの場所に自然を戻したい。例えそれで、わたしの力が固定されたとしても……それでもいい!」


 銀の髪も、白い肌すらも、妖艶(ようえん)に包まれていく。すると……石が静かに砕け散った。欠片(かけら)は音もなく地へと落ち、手を加えられることなく(もぐ)っていく。

 やがてそれはにょきりと芽を出し、一気に大きな木や草へと成長していった。


 荒れた地に緑が生まれる。

 自然を失った大地が花で埋めつくされていった。

 伸びた木には鳥が()まる。

 花には(はち)(ちょう)などが、(みつ)を求めにやってきた。



 この場にいる民たちは驚き、姜子牙(きょうしが)は落ち着きなく周囲を見渡している。



「……これが君の、小猫(シャオマオ)の一族の力なんだね」


 力を行使したためか、ふらついてしまう華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)を支えながらささやいた。

 

 ──そうか。小猫(シャオマオ)あの人(・・・)の花の力。それの始まりは、華 茗沢(ホゥア ミンヅァ)だったんだ。

 

 過去の歴史に触れることは、これからの未来を変えてしまう可能性もある。けれどここは過去ではなく、何かが見せている現実なのだと、彼はそう考えていた。

 触れてはならぬことではなく、知らねばならぬ真実。それがここにあるのだと、唇を噛みしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ