大食い
相席になった華 茗沢を見れば、とてつもない量のご飯を胃へと入れていた。美しい顔に似合わずな豪快な食べっぷりに、全 思風と爛 春犂は絶句してしまう。
丸くて赤い机は二段構えになっており、上段が回る仕組みだ。その上段をくるくると回し、乗っている食べ物を次々と食していく。
青椒と肉を絡めた青椒肉絲、鶉の卵と白菜を庵で絡めた八宝菜。白いご飯に卵を混ぜ、炒めた炒飯や、鶏の唐揚げに甘辛タレをかけた油淋鶏など。
数々の定番料理などが、全てひとりの美しい人物によって、あっという間に消えていったのだ。
下段にある包子や小籠包、ごま団子など。それも全て瞬く間に、銀髪の者のお腹に吸収されてしまった。
「あ、すみません! 胡麻そばと、麻婆豆腐、それから回鍋肉に餃子。棒々鶏もお願いしまーす!」
店員が来ては空になった皿を片づけていく。そして、できたての料理を置いていった。
華 茗沢は笑顔に華を咲かせ、箸を左手で持って食べていく。
当然、それを見ている彼らは言葉すら失っていた。全 思風はそっぽを向き、ううっと唸る。爛 春犂は口を押えながら青ざめた顔で、うぷっとなっていた。
そんな彼らの様子に気づき、華 茗沢はきょとんとする。
「あれ? おふたりは食べないんですか?」
せっかく来たのだから食べなきゃ損するよと、無邪気にも似た笑顔を浮かべた。
その微笑みが眩しすぎたようで、全 思風は罪悪感すら覚えてしまう。
「……た、食べるけどさ。その前にいいかな?」
声を震わせながら、眉をひくつかせた。箸を右手で持ち、華 茗沢を凝視する。
「そんなに食べて大丈夫なの? 気持ち悪くなったりとかは……」
「……? ありませんけど?」
そんなことを心配していたのかと、ふふっと微笑んだ。その姿は天使か、女神か。店員含む、店にいる者たち全てが華 茗沢の美しさに魅了されていった。
それは全 思風にもいえることのようで、彼は両目を見開く。
──本当に、綺麗な人だ。小猫も綺麗だけどこの人には、あの子とはまた違う美しさがある。それに何より……
この大食いが、大切な子の姿を思い起こさせていった。今も行方がつかめず、ずっと気配を探ってはいる。けれど愛し子はその気配すら消してしまっていた。
これでは探しようがないうえに、彼の精神そのものが不安に埋めつくされていく。
ギュッと、誰にも見えぬところで拳を握った。
「……ねえ。君がそこまでたくさん食べるのって、理由とかあったりするのかな?」
愛しい華 閻李には尋ねたことすらない。
ここまで食べつくすからには、胃袋が無限ということだけではないようか気がしたからだ。勘のようなものを働かせ、彼はまっすぐな瞳で華 茗沢へ問う。
華 茗沢は箸を置き、口を拭いて天井を見上げた。
さらりと流れる細い銀の髪が、憂いと儚さを強くしていく。男性とも、女性とも見てとれる見目麗しさに、隣の席にいる客の喉が鳴った。
それでも、それすら慣れた様子で、華 茗沢は口を開く。
「……知っているかはわかりませんが、わたしは普通とはちょっと違います。この髪はもちろん、出生も普通とは呼べません」
それでもと、薄い唇から甘い吐息を溢した。それはとても妖艶で、全 思風ですら唾を飲みこむほどである。
「姜子牙様に会ったのでしょう? ならば、あの方に聞いているはずです。わたしの両親について」
「……やっぱり、本当なんだね?」
華 茗沢は静かに肯定した。
「はい。ですが、それを民は知りません。どうか……どうか、その事だけは秘密にしていただけないでしょうか!?」
顔や仕草、食事事情など。どれをとっても、愛しい子にそっくりであった。それでも違う人物であることに変わりはなかったので、彼は淡々とした笑みで頷く。
「言わないよ。必要もないしね。ただ、本当になぜ、そこまで食事を必要とするのか。それだけは知りたいかな」
──ここでその秘密を知れば、戻ったときに小猫の手助けができるかもしれないしね。食べることは健康の証かもだけど、それにしたってあの子の食欲は異常としか思えないんだ。
もっと食べさせてあげたい心と、健康を考えて止めるべきか。常に彼は、それで悩んでいた。今回、目の前にいる者から何かを得られるのならと、必死になって尋ねる。
華 茗沢は美しく微笑した。
「わたしの体の中にあるのは霊力、そして妖力です。このふたつが反発しあい、常にお腹が空いてしまう。原理などは不明だけど反発した結果、それが食欲になってしまったのではと、医者から言われました」
人間が陽ならば、妖怪は陰となる。これらは仲良く交わることはできず、常にぶつかり合っていた。
その反動として、食欲というものになってしまったのではないか。
華 茗沢は弱々しく呟く。
「わたしとて、抑えれるものなら抑えたい。だけどそうすると力が出なくなり、何もできなくなるんです」
難儀な体ですよねと、苦く笑んだ。




