表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠の帝王  作者: 液体猫【鳥籠の帝王 GoodNovelにて契約連載中】
城章 幽霊城~殷王朝時代~
110/154

⭐鏡

挿絵(By みてみん)

 パチパチと、()き火の(ほのお)が周囲を照らす。


 全 思風(チュアン スーファン)(ほのお)の形を瞳に映し、膝の上で横になる少年を見つめた。


 殭屍(キョンシー)の攻撃を受けた子供は足に怪我(けが)をしてしまう。感染は(まぬか)れたものの、傷口は化膿(かのう)が始まっていた。それを防ぐために彼は(ほのお)で子供の傷口を焼き、何とか阻止(そし)する。

 青龍(せいりゅう)の冷たい息と交互に(おこな)うことで火傷(やけど)は食い止められた。


 それでも子供にとっては、地獄(じごく)のような激痛(げきつう)であっただろう。口に無理やり(くわ)えさせられた布が、悲鳴を封じた。痛みに耐えながら涙を流し、声が()れるまで泣き続ける。


 ──どんなにつらかっただろうか。苦しかっただろうか。ごめんね小猫(シャオマオ)、私が君を(まも)るって決めたのに。それなのに……


 彼の脳裏には、そのときの子供が見せた涙が焼きついて離れなかった。

 瞳を細め、唇を強く()みしめる。


「君の側を離れなければよかったな」 


 後悔(こうかい)だけが押しよせた。


 宵闇に溶けこんだ子供の銀の髪は、いっそう美しく輝いて見える。長いまつ毛を伏せて眠る子供の額に手をやれば、怪我(けが)による熱が出てしまっていた。

 

「……私が代わってあげられたら、どれだけいいか」


 そんなことは到底不可能だなと、笑みごと望みを消す。膝の上に頭を乗せて眠る美しい子供の頬を撫で、ふっと(かな)しみの表情を浮かべた。


「──そのような事、冥界(めいかい)の王である貴殿でも無理ではないか?」


 ()き火の向こう側から声がする。


 彼は声に応えるように顔を上げた。


 視線の先には片腕の(そで)部分がない、青い漢服(かんふく)を着た男がいる。男は普段は爛 春犂(ばく しゅんれい)と名乗っていた。けれど責務(せきむ)など、地位が必要や場面では瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)という名前で通っている。


 彼はそんなややこしい男を凝望(ぎょうぼう)し、チッと舌打ちをした。爛 春犂(ばく しゅんれい)という男を邪魔者扱いし、子供のように威嚇(いかく)をする。


「……いや、貴殿は子供か?」


 はあーと、男の肩から大きなため息が()れた。


「何、言ってんのさ!? あんたが小猫(シャオマオ)の側を離れたから、こんな事になったんじゃないの!?」


 信用をしていたわけではない。ただ、大切な子供を(まも)るためには、あの方法しかなかったのだ。

 それを逆恨(さかうら)みとでも(しょう)しながら、まくし立ていく。


 男は返す言葉もないようだった。けれど落ち着いたままに腰をあげ、ふたりの隣に座る。


「その事については、()びよう。確かに全 思風(チュアン スーファン)殿の言う通り、この子を護れなかった私の落ち度だ」 


 熱に苦しむ子供の額をタオルをで(ぬぐ)った。

 水のないこの場所では、熱を下げる方法がない。青龍(せいりゅう)に頼もうにも、力の使いすぎて倒れてしまっていた。そんな状況下で、子供の熱を下げることなど不可能と()える。

 

「だがな? 今の私たちが何をすればいいのか。それは、貴殿とて、わかっているのではないか?」


「…………」


 図星を言い当てられ、彼はぐっと口ごもった。やがて降参(こうさん)したかのように両手を挙げ、眉根をよせる。

 そのとき、「ふみゅう?」というかわいらしい声とともに、(いと)し子の(まぶた)がゆっくりと開いた。


「あ、小猫(シャオマオ)、目が覚めたのかい?」


「…………」


小猫(シャオマオ)?」 


 どうにも様子がおかしい。

 全 思風(チュアン スーファン)爛 春犂(ばく しゅんれい)は互いに顔を見合せる。


 華 閻李(ホゥア イェンリー)の瞳は(うつ)ろそのものだ。どこを見ているのかさえわからないうえに、(まばた)きすらしていない。


「…………」


 そんな子供は大人たちの戸惑いなど無視し、全身を起こした。ふらり、ふらりと、不安な足取りでどこかへと向かう。

 全 思風(チュアン スーファン)の呼びかけにも(おう)じず、ひたすら何もない砂利道(じゃりみち)を進んだ。


小猫(シャオマオ)!? ……っ!?」


 子供の腕を掴もうとした直後、何かによって彼は弾かれてしまう。


 軽く走る静電気(せいでんき)(しび)れを覚えながらも、彼は子供の背中を睨んだ。

 糸目とすら思えるほどに凝視する。


 ──いったい何だ!? 急に、どうなっている!?


 自身の足元を見やれば白虎(びゃっこ)青龍(せいりゅう)の二匹が、毛を逆立てながら子供を見張っていた。うーうーと(うな)ってもいる。


 瞬間、子供の動きが止まった。かと思えば、何もないところでしゃがみ、土を掘り始める。


小猫(シャオマオ)、何をしているんだい!?」


 やめてと、慌てて子供の両手首を掴んだ。それでも子供は無言のまま、(うつ)ろな瞳で地を見下ろしている。


「…………」 


 ジタバタと、子供の腕力では彼に勝てないと知っていても、なおも暴れた。

 これには彼自身がまいってしまい、爛 春犂(ばく しゅんれい)に助けを求める。


 爛 春犂(ばく しゅんれい)も加勢し、子供の動きを封じようとした──

 転瞬(てんしゅん)、子供はゆっくりと、音もなく彼らへと振り返る。

 

 銀の糸のように細い髪が揺れた。

 端麗で、精巧(せいこう)な人形のように美しい顔に(つや)が生まれる。

 小さく、線の細い腕を少しだけ上げた。


 瞳に感情というもを残すことなく、子供は(うつ)ろなままに両手を(かか)げる。

 すると両目を塞ぎたくなるほどの、目映(まばゆ)い輝きがその場を包んでいった。


 全 思風(チュアン スーファン)ですらその光にあてられ、両目を閉じてしまう。


小猫(シャオマオ)──!?」


 華 閻李(ホゥア イェンリー)を必死に(つな)ぎとめようとした。子供の漢服(かんふく)(そで)を握り、必死に声をかける。


 子供の両手の輝きが増していった。するとそこから、金色の何かが形をなしていく。やがてそれは透明な板をはめた、鏡になった。


「鏡? ……うわっ!」


 問い質そうとした矢先、鏡は太陽の光のように熱く、(まぶ)しくなる。


 その光に耐えきれなくなった彼らは、皆が一様に目を(つぶ)った──




 しばらくするとガヤガヤと、唐突(とうとつ)にやってくる。静寂(せいじゃく)という静けさしかなかった場所のはずが、突然(さわ)がしさが耳に入った。

 いったい何だと、彼らはゆっくりと目を開ける。するとそこには……


「…………は?」


 先ほどまでいた、ただの砂利道(じゃりみち)ばかりの場所。それが嘘のように、(さわ)がしい。

 人の気配など微塵(みじん)もなかったはずなのに、目を閉じていただけで数えきれないほどの人間で溢れていた。


 建物も、生き物すら、今、ここに突然と現れたのである。これを驚かずして何とするのか。

 全 思風(チュアン スーファン)たちは、開いた口が塞がらない。いったいどうなっているのかと、彼らは周囲を見回した。


 そのときである。

 彼らの眼前(がんぜん)に、とある人物が現れた。


「──そこで、何をしている?」


 さらり、さらりと、細い蜘蛛の糸が流れる。太陽の光を受け、(きら)めくのは()の者の髪だった。

 

「……(シャオ)(マオ)?」

 

 わけのわからないままに立ちつくす彼の前に、華 閻李(ホゥア イェンリー)によく似た者が姿を見せる。

 華 閻李(ホゥア イェンリー)よりも背は高く、それでいて目が少し細い。線の細さは同じではあったものの、(いと)し子よりもはるかに大人。

 そんな言葉が似合う、美しい人物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ