表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠の帝王  作者: 液体猫【鳥籠の帝王 GoodNovelにて契約連載中】
城章 幽霊城~殷王朝時代~
105/154

旅をする

 夜になると全 思風(チュアン スーファン)たちは()き火を囲んで、これからについて話し合っていた。

 彼の膝の上には華 閻李(ホゥア イェンリー)がおり、(たくま)しい腕に包まれながら食事をしている。

 そんな子供の横には、大量の食材が山のように積まれていた。焼き魚はもちろん、町で仕入れたごま団子や包子(パオズ)など。どう考えてもひとりでは食べきれないであろう量の食材たちだ。けれど少年はそれらをもろともせず、次々と平らげていく。


「……い、閻李(イェンリー)、それは私たち四人ぶんの、一日の食品だぞ?」


 町に情報収集へ(おもむ)いていた瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)は、ついでにと一日ぶんの食品を買いこんでいた。

 最初はそれらを少しだけ置き、皆で食べていた。けれど子供のお腹の虫が収まることはなく……さしもの彼ですら、子供の純粋な眼差しには勝てなかったよう。諦めのため息とともに、全ての食品を差し出すことになったのだった。


 そんな経緯(けいい)のある食品は、あっという間に半分以下になってしまう。


「……うん、あいかわずの食べっぷりだね?」


 子供の、無限の胃袋に慣れている全 思風(チュアン スーファン)ですら苦笑いをするしかなかった。旅の途中でそれを知った瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)と顔を見合せ、肩をすくませる。

 黒 虎明(ヘイ ハゥミン)だけは子供の胃袋事情を知らないため、絶句していた。


 数分たつと、山盛りだった食品がきれいさっぱり消えていた。全てを食べ終えた子供はお腹をさすりながら、椅子代わりにしている彼を軽くつつく。


「ん? どうしたの小猫(シャオマオ)?」


「おやつ、ない?」


「まだ食べるつもりなのかい!?」


 底なし胃袋を撫でながらおやつをねだる子供は、とてもかわいらしかった。

 けれど彼も、食品を買ってきた瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)ですら首を強くふって何も残ってないと口々に伝える。

 

「……そっか。じゃあ、我慢する」


 口を(とが)らせた。


 聞き分けのよい子供に、誰もがホッとする。

 ふと、子供が小さなあくびをした。両目をこすり、頭が振子(ふりこ)のようにグラグラ揺れている。


小猫(シャオマオ)、眠たいのかい?」


「……う、ん」


 両目がとろんとし、(かんば)しくない受け答えだ。

 彼は子供の頭を撫で、寝ていいよと優しく(ささや)く。

 すると少年は、すぐに寝息をたててしまった。すやすやと彼の膝の上で寝る様は、とても庇護欲(ひごよく)をそそる。


 彼は抱きしめてしまいたい気持ちを抑え、お休みとだけ告げた。


 □ □ □ ■ ■ ■


 太陽が昇り、青空が広がる。雲は厚く、いろんな形を見せていた。ピューーイという(たか)の鳴き声が(とどろ)き、自然豊かな大地へと消えていく。

 (とが)った山がいくつも見えては遠くなっていった。雑草生い(しげ)る地は少しずつ少なくなり、徐々(じょじょ)に整備された道が増えていく。

 そんな道ではガッポガッポと、一頭の馬が荷台をひいていた。ときおり行き交う他の馬車と道をわけ合っては進んでいく。

 馬車の荷台に、全 思風(チュアン スーファン)たちが座っていた。彼の膝の上には華 閻李(ホゥア イェンリー)がおり、美しい見目のまま何かを話している。

 真正面には瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)が正座し、黒 虎明(ヘイ ハゥミン)胡座(あぐら)をかいていた──



「──閻李(イェンリー)が見た神々たちの出来事。それが本当ならば、神獣(しんじゅう)たちは内部分裂していると考えてよかろう」


 青い漢服(かんふく)を着用している男、瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)吐露(とろ)する。

 子供の持つ仙人ならぬ、術師としての才能は抜きん出ていた。その証拠に夢現再生術(むげんさいせいじゅつ)という、修行を必要とする術ですら無意識に習得している。その才能は瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)すらも驚くほどだ。


 そんな少年が見た夢には信憑性(しんぴょうせい)がある。少し前にも似たようなことがあり、彼らは子供の夢を疑うことはなかった。


「少女……いや、少年か。この少年が見た夢のおかげで俺の友、雪明(シュミィン)が救われたのも事実。疑う余地など、ありはしない」


 黒 虎明(ヘイ ハゥミン)のように、子供の夢のおかげで事件が解けた者もいる。

 彼は大物ぶりを崩すことなく、華 閻李(ホゥア イェンリー)の夢に従うと告げた。


「……しかし困ったものだな。まさか、神獣(しんじゅう)たちの世界ですら二分しているとは。閻李(イェンリー)の側にいる、その白い猫と青い(へび)のような者たち。彼らが神獣(しんじゅう)とするならば、残りの朱雀(すざく)玄武(げんぶ)は……」


 敵側に回ったと考えるべき。そう、口にする。


 これには全員が同意見らしく、(うなず)いていた。


「しかしわからん。なぜ神と称される者たちまで、離反(りはん)をするのか。そうしなけれなならない何かが、神々の世界で起きているというのか?」


 もはや、人間たちだけの問題ではないのではないだろうか。もしもそうなれば力を持つ仙人ですら、かのものたちの前では赤子のように(ひね)り潰されるに違いなかった。

 

 黒 虎明(ヘイ ハゥミン)は腕を組みながら盛大(せいだい)なため息をつく。


「…………」


「うん? 瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)殿、どうした?」


 瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)の視線が、眼前(がんぜん)にいるふたりへ(そそ)がれていた。そのことに気づき、男はきょとんとする。


「……全 思風(チュアン スーファン)殿。そなたは冥界(めいかい)の王であろう? そちらの世界では、どうなっているのか?」


 神の住む世界が分裂を始めてしまっているのならば、彼が治める場所とて例外ではない。視線を彼に向けたまま、静かに質問した。


 全 思風(チュアン スーファン)は首を左右にふりながら、膝の上に乗っている子供を優しく抱きしめる。目線だけを瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)たちへと向け、(なぎ)の眉を曲げた。


「似たような状況だ。私に隠れてこそこそと動く(やから)はいる。だけど小猫(シャオマオ)を傷つける事をしないなら、私は関知しないと決めているんだ」


 これは冥界(めいかい)という、どの世界よりも暗黒に満ちた場所を根城にする王の意見でもある。一見すると無責任だ。しかしそれが彼のやり方でもあるのだと、誰もが気づく。


「言っておくけど、私に協力を得ようなんて思わない事だよ。冥界(めいかい)がどうなろうと知った事じゃないしね」


 王にあるまじき発言の数々が飛び交った。


 そんな彼を唯一服従(ふくじゅう)させることのできる子供は、何の話だろうと聞き耳だけをたてている。どうやら彼が子供の耳に両手をあてて塞いでいるようだ。


「言っとくけど、小猫(シャオマオ)にお願いしても無駄だからね? そんな事にこの子を巻きこまないでほしいな」 

 

 世界全体の危機をそんなこと呼ばわりする彼は、かなりの大物なのだろう。

 これには黒 虎明(ヘイ ハゥミン)ですら言葉を失っていた。瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)は眉間のシワを(つま)み、やれやれとあきれた様子である。

 

「……それはそれとして、あんたらはいつまでついてくる気なわけ? 私と小猫(シャオマオ)逢瀬(おうせ)を、邪魔しないでほしいんだけど?」 


 子供のことしか頭にない彼にとって、目の前の大人ふたりは邪魔者でしかなった。(にら)みつけては威嚇(いかく)し、ハエでも追い払うかのように、しっしっとする。


「はあ。安心なされよ全 思風(チュアン スーファン)殿。彼は京杭(けいこう)大運河が見えてきた辺りで降りるそうだ。私はもう少し先にある幽霊城で降りるつもりだ」


「幽霊城?」 


 瑛 劉偉(エイ リュウウェイ)以外の声が重なった。

 彼は(うなず)き、きれいな姿勢を保って声を出す。


「うむ。桂林市(けいりんし)杭西(こうせい)の間に、(いん)王朝時代の城跡があるそうだ。そこでは夜な夜な怪奇現象(かいきげんしょう)が起きていて、不思議な声まで聞こえてくるそうだ」


 皇帝の使いの者として、その責務(せきむ)にあたらねばならないのだと口述(こうじゅつ)した。


「……(いん)王朝時代の、か。そうなると十中八九(じゅっちゅうはっく)、妖怪が絡んでるだろうね……って、小猫(シャオマオ)? 何かな、その目は?」


 面倒なことになりそうだなと、嘆息(たんそく)する。それでも腕の中にいる子供が行きたそうに目を輝かせているため、彼は仕方なく幽霊城へと向かう決意をした。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ