File.07 私立夕日ヶ丘学園
学園編 第一話
私立夕日ヶ丘学園はチェスからバスで十分くらいの距離にある高等学校、
在籍する学生はおよそ千人、東京ドーム三つ分の広さを誇るの学校です。
立地条件も良く、緑あふれる良い学校なのですが、私からしてみれば、
もう、良い学校とは呼べないかもしれません。
なぜなら、
「クロ君、本当に入学したんだね」
「入学じゃないよ、正確に言えば転入さ」
「でも、前に在籍した高校ないんでしょ?」
「そこら辺はコネで何とかなったよ、
それにしても噂に聞く高校という奴に行けるのはワクワクするな~」
クロ君はキラキラした目で窓の外を見ている。
方角的に見えるわけないのに、よっぽ楽しみなんだな。と私はクロ君を見て思う。
それにしても、噂の高校という奴って、本当に学校に行って無かったんだ…。
次は、夕日ヶ丘前~ 夕日ヶ丘前~
バスのアナウンスを聞いた私達は席を立ち、バスを降りる。
バス停は校門の目の前に設置されていて、利用する学生や職員には嬉しい限りだ。
校門を過ぎると、校舎までの無駄に長い道が五百メートルほど続く、
「へ~ ここが高校ってやつか、でかいな~」
「いや、たぶんこんなのウチくらいだと思うよ」
「そうなのか?」
「普通ね、それより事務所空けてといてもいいの? お客さんとか」
「大丈夫、大丈夫。ノックして中から開かなかったら帰るって」
「そりゃー そうでしょ」
「中から開けずに入って来る人いたでしょ?」
「あー そう言えばいたね」
「基本、あぁいう人の仕事は断るんだよね~
こっち(裏)じゃウチ(チェス)は有名だからさ
分かる人はノックして待つわけよ」
「へぇ~」
そんな話をしているとチャイムが鳴り響き、私達は大急ぎで教室に向かう。
少し前の話になるけど、私はクロ君からは【しろちゃん】と呼ばれている。
でも、親から授かった名前は【暦】、
鳳皇院 暦というのだけれど、
クロ君に誘拐されてからの名前は、白井 明日香になった。
ちなみに、白井 明日香というのは私が自分で決めてた名前だ。
クラスの中では、明日香ちゃんや白井さんと呼ばれている。
転入したての私にはまだニックネームと呼ばれるものは残念ながら付けられてない。
「えー 突然ですが、また転校生です」
『えぇー!』
クラスはざわめく、ほんの数日前に私が転入してきたというのに、
また転入生が来たということに驚いている。
「じゃあ入ってきてくれるかな?」
そしてドアが開き、クロ君が入ってくる。
私は気付くのに少しだけ時間が掛かったけど、クロ君ってイケメンなんだよね。
だから、クラスはざわざわと小声が目立ち始める。
特に女子。
そして残念な事に昨日まではなかった机と椅子が私の横にある。
転入生を隣同士にしますか、なるほど。
「どうも始めまして」
クロ君は挨拶を始める。
っていうか、名前どうするんだろ?
クロです! なんて言わないだろうけど。
「クロです!」
言ったよー!
思いっきり言ちゃったよ!
うわぁー なんか快感を覚えるな~
というか、クロ君は恥ずかしくないのかな。
「き、君、ふざけちゃいかんよー」
「あっ、すいません。今のはあだ名って事で、
改めてまして、白井 黒です。明日香とは兄妹です」
新設定!?
聞いてないよそんな事、いつの間に決めたの!
しかも私は妹ですか!?
クラスはまたざわめく。
「はい。みんな静かにして、じゃあ黒君は妹さんの隣に」
先生に促されてクロ君は私の隣に来る。
そしてクロ君は小声で、
「よろしくね、明日香ちゃん♪」
と、めっちゃ楽しげに言う。
クロ君が席に座ると、私も小声で、
「なんで兄妹設定ができてるの?」
「なんとなくそっちの方が面白いかな~ って思って」
「いや、確かに面白そうな設定だけど、当事者になれば別だよ、
第三者から見ればおもしろいだろうけどね」
「僕は第三者だよ」
「……確かに気構えはそうだよね。でも当事者だよ」
っていうかクロ君ってS?
天然Sですか!?
私は玩具じゃなよ、分かってるよね。クロ君。
私は恐る恐るクロ君の顔を見る。
……笑っとるー! しかも黒っ!
こんなんで私の学校生活どうなるのよー!
授業中はクロ君は大人しく勉学に励み、
休み時間になればその性格を活かして、
あっという間にクラスの男子達に解け込んでいる。
一方、私は転入初日によくしてくれた愛生ちゃんとおしゃべり中。
「ホントに明日香ちゃんの兄妹なの?」
「う、うん」
「いいな~ 私は一人っ子だから羨ましいな~」
「愛生ちゃんは一人っ子なの?」
「うん」
「てっきり、お兄ちゃんか弟がいるかと思ってたよ」
「え? 何で」
「だってこの前、たく君お菓子買ってきといてね~
って電話で言ってたよね?」
「あ~ それはお父さん」
「えっ、お父さんを君呼びですか?」
「うん。だって若いし」
「何歳なの?」
「二十三
「若ってか、えぇ! お、おかしくない?」
「お母さんがね、再婚したの」
「あー だからお父さんが若いんだ、よかった~」
「何で?」
あははっ、と私は笑ってごまかす。
っていうか、そんな事もあるんだね、世の中。
放課後。
私は何気なく、というかクロ君と別々で帰ろうという魂胆で、
教室を出てバス停までダッシュ、したけど。
なぜか、なぜかクロ君がバス停の待合席に座っていた。
先回り…かな?
でもおかしいな、私の方が早く出たはずなのに、
それでいて持ち得る限りの力を使って走ってきたのに、
なんで先にいるの?
しかも汗一つ掻いてないし。
「何してるのクロ君?」
「何って、バスを待ってるんだよ」
笑顔で答えるクロ君。
何でだろう、その笑顔が怖く思えてしまう。
「じゃなくて、私の方が早く出たよね?」
「そうだね」
「どうやって来たの」
「走ってきたよ」
クロ君はチーター並みの脚力を持っているというのか!?
バスが来た。
けど私はまだ聞きたい事があるか、クロ君をこの場にとどめる。
「何? まだなにか話すの、バスの中でも話せるのに」
「いいの、この場でハッキリしときたいの」
そう。とクロ君はバスを見送る。
「で、なんでク」
ドカーンっ!!!!!!!
轟音が鳴り響き、鉄の残骸が雨の様に降っている。
道路を舗装しているアスファルトにはヒビが走り、
バス停から五十メートルほど進んだ所では鉄の塊が炎に包まれ、
人の声なんだろうか、耳を塞ぎたくなるような声が聞こえてくる。
そして私の目には炎に包まれた人たちが映っている。
バスが爆発した。
次話ではまたまた新キャラ登場!