File.19 真実の真実
私は出来る限り速く、速く駆ける。
以前住んでいた家、生まれ育った家に向けて。
「お譲様!?」
「鈴木さん」
私の前に立つ白髪の老人は私を幼少の頃から世話をしてくれていた執事さんだ。
「お譲様、今までどちらへおられたのですか」
「それより、少年が来ませんでしたか?」
「えぇ、何でも旦那様の客人とかで、少し前に」
それを聞いた私は走る。
もう息も切れて、苦しいけど、とにかく走る。
階段を上り、廊下を駆け抜け、書斎の前まで来た。
ドアを開けようと、手を伸ばすと話し声が聞こえてきた。
「久しぶりだな」
クロ君!?
「あぁ、まさかお前から私の前に来るとはな」
「アンタが最初に来た時にもそう思ったよ」
「だろうな。で、何の用だ? 私は少々厄介事に取り組んでいるんだぞ」
「分かってる、だから暦を僕に預けたんだろ?」
「分かっているなら聞くな、金が欲しいならくれてやる。いくらだ?」
「そんな物は必要じゃない、今日は仕事で来たんだ」
「なんだ、やっぱり金か」
「……違う」
「じゃあなんだ!」
「アンタの暗殺だよ」
私はクロ君の言葉を聞いて部屋に入ろうと、ノブを回す。
すると、耳を疑う言葉が私の動きを止める。
「実の父親を撃つというのか!?」
「おいおい、その実の息子を捨てたクセに今頃父親気取りか?」
「私を殺すと言う事は、妹から父を奪うという事だぞ! それでもお前はいいのか!?」
「アンタを殺すって事はしろちゃんの……暦の為にもなる」
「それはお前が決める事ではないだろう! それとも何か、腹違いの妹に情などないと?」
「少なくともアンタよりは暦の事を想っているよ、だから」
待ってー!
私は何の考えもなく部屋に飛び込む。
クロ君は目を見開いて驚き、パパはホッと息を吐いた。
「しろちゃん……ッ!」
「クロ君、なんで」
「……」
クロ君はパパに向けて構えている銃を下ろそうとはせず、沈黙する。
「暦、はやく人を呼べ!」
「クロ君!」
「ぜんぶ、全部君の為なんだよ!」
「じゃあ何で話してくれなかったの!」
「この事が公になれば君が一番困るんだよ!? それくらい分かるだろう!」
「そんな事を言ってるんじゃないの! 何で私に本当の事を話してくれなったの」
「言えるわけないだろう、僕はもう真っ黒な人間なんだ。そんな兄なんて君はいらないだろ」
「……そんなことない、今までクロ君と過して大変だったけど、楽しかった」
私は笑顔でそう言った。
クロ君とパパはそれこそ世界の終わりでも見たかのような驚きを浮かべた。
「パパ」
「な、なんだ」
「私、家を出ます」
「何を言う! ここを出てどこに住もうというんだ!」
「チェスで私は助手として働いてるの! だからここを出ます」
「くっ、暦! 私に逆らうとっ」
ドンッ!
パパの言葉をクロ君は一発の銃弾で遮る。
「暦も羽ばたく時が来たんだよ、いい加減分かれよ?」
こうして波乱の時は過ぎ、翌日私とクロ君は一日掛けて話し込み、私はお仕置きとして、
『クロ君』という呼び方から一週間『お兄ちゃん』と呼ぶ事にした。
そして、私とお兄ちゃんと愛祢ちゃんの日々は続く。
急展開完結!