File.15 少女に見える闇
懇願の行方編 第四話です
それから私は愛祢ちゃんに声をかけることなく、
クロ君の元へ足を運ぶ。
「ねぇクロ君、愛祢ちゃん。大丈夫かな?」
「最終的には本人が決めるよ、どうするかは」
「でも、もっと出来る事があると思うの」
「しろちゃん、僕たちが出来ることはね。
手助けする事だけ、判断するはあの子だよ」
「その判断が心配なんだってば」
「信じてあげるんだね」
クロ君はそう言ってまた新聞紙を広げる。
私は仕方なく愛祢ちゃんが戻って来るのを、
ソワソワとお茶を飲みながら待つことにした。
それからだいたい十分後、
ようやく愛祢ちゃんは洗面所から戻ってきた。
「えらい遅かったじゃないか」
「レディーは身嗜みを整えるのに時間がかかるの!」
「まだレディーじゃなくて、ガールだろ」
クロ君の言葉に愛祢ちゃんは頬を膨らませ抗議する。
「まぁまぁ、二人とも」
私はまた間に割って入って愛祢ちゃんをなだめる。
「さて、そんな事よりも、行ってみますか」
「えっ、何処に行くの?」
「どこって、その子の求めてる者のとこへさ」
「見つけたの!?」
「あぁ、友達が教えてくれた」
愛祢ちゃんはなぜか無言だった。
嬉しい表情でも、悲しい表情でも、怯えた表情でもなく、
本当の無表情だった。
それから私達はチェスを出て、町の外れにある倉庫街へ着いた。
「こんなとこにいるの?」
「隠れるには打ってつけでしょ、それに住んでるらしいよ」
「ここにいるの? あの男の人」
「あぁ、ここにいるよ」
私達は一つの倉庫の前に立っている。
ゆうに五メートルはあろう扉の前に。
その時だった。
倉庫の裏側から物音が辺りに響き渡り、足音が遠のいていく。
「逃げたか」
「追わなくていいの?」
「無理でしょ」
クロ君の言葉の後、バイクのエンジン音が聞こえた。
「あー これは無理だね」
私は愛祢ちゃんに視線を落とす。
すると、なぜか安心したような表情を浮かべていた。
その後、なんの収穫もなく私達はチェスへと戻ってきた。
「愛祢ジュース買ってくる」
「じゃあ僕の分も頼むよ。君の分もおごってあげるからさ」
「わーい」
愛祢ちゃんはそう言って雑居ビルの正面に設置されている自販機へ。
「クロ君、私ちょっと心配だから見えてくるよ」
「無駄な心配だと思うけどな~」
「そんなことないよ」
そう言って愛祢ちゃんの後を追いかける。
雑居ビルの入り口を出ると、愛祢ちゃんと男の人が視界に入ってくる。
「やぁ、また会ったね」
「ぁぁぁ」
愛祢ちゃんは男の人に怯えている。
私はとっさに思いだす、愛祢ちゃんが見せてくれた画像の男を。
「クロくーん!!」
私は叫ぶ、クロ君に聞こえるくらいの大声で。
「何叫んでんだ~ お前も殺してやろうかぁ!」
刺殺魔はナイフを持つ手を大きく振り上げ、私目掛けて振り落とそうとしている。
ガラガラ。と窓が開く音が聞こえると、
刺殺魔の背後にクロ君が銃を頭に突き付けて立っていた。
「動くなよ?」
「て、てめぇーなに者だ!?」
「おいおい、僕を知らないなんてアンタもぐりだな」
「はぁー 何言ってんだよガキが、どうせオモチャかなんかだ…」
刺殺魔がクロ君を刺そうと振り返ると、
ドンッ。
と音が鳴り、
刺殺魔は右膝を地面につけ、
右足からは血が地面に広がっている。
「言ったろ? 動くなってさ」
「ぎゃーーー!! 血がぁ 血がぁ出てるよぉぉ!!!」
「うるさいな~」
そう言うとクロ君は銃口を右腕に向け、
ドンッ。
撃つ。
「アンタが殺してきた人たちも」
今度は左足に向け、
ドンッ。
撃つ。
「こんな思いをして」
さらに左腕に向けて、
ドンッ。
撃つ。
「死んでいったんだよ?」
クロ君は冷酷すぎる視線と言葉で刺殺魔を精神的にも攻撃し、
刺殺魔は地面でもがいている。
それも愛祢ちゃんの目の前で、血はクロ君足元まで広がり、
もうすぐ愛祢ちゃんに届こうかというまでに出血している。
「がぁぁぁぁっ!」
「そういえば、愛祢ちゃんはこの男を殺してほしかったんだろ?
いいよ。気が変わった」
そう言ってクロ君は刺殺魔の眼前に銃口を向ける。
「待ってーー!!」
引き金に指が掛けられると同時に、
愛祢ちゃんの言葉が辺りに響き渡る。
なんか急展開ですいません。