File.13 昼下がりの刺殺魔
懇願の行方編 第二話です
「何しに来たんだよ」
「酷いな~ いっつもそれだよね。一言目はさ」
「刑事さん、まぁどうぞ」
と、私は刑事さんをソファーに腰掛けさせる。
「やっぱお譲ちゃんは優しいね~ クロにも見習って欲しいよ」
「今日はどんなご用事で来たんですか?」
「いや~ 実はさ。ここいらで血まみれの少女が目撃されてるんだよね」
ドキッ。と私の心は反応する。
この人の嗅覚は半端じゃないな。
「それで来たってわけなんだな~」
「何しにだよ?」
「その少女の保護にさ。心辺りあるだろ? 二人ともさ」
バレてる?
この言い方ってバレてるよね。
今この場に愛祢ちゃんがいなかって良かった~
いたらもう言い訳できないし。
「その話、もっと事情を話すべきじゃないか?」
「ん~ 情報が欲しいってわけか、でも君ならそんなの電話一本で済む話だろ」
「誠意ってやつを見せろって言ってるんだよ」
「あー なるほど。まぁいいよ、ここらへんでさ。
殺人事件が多発してるのは君の耳にも入ってるだろ?」
「あぁ、最近じゃ十件も発生したんだろ、ちなみに六件が未解決」
「うは~ 痛い所つくね~ でね。その一つに刺殺魔がいるんだけど、
その犠牲者の娘さんじゃないかなって見てるわけよ。
どこにもいないからさ。それに血まみれって事は生き残ったって事だろ?
だから必死に探してるってわけだよ」
「なるほど、唯一の目撃者か」
「そっ、もしかしたらその子一人で刺殺魔事件は解決しちゃうかもしれないからね」
私は二人の会話が一段落したところで、お茶を出す。
刑事さんは、おー 気が利くね。とお礼を言って一口飲む。
「で、刑事さん。なんで最近こんなに殺人事件が多いんですか?」
「さぁー 超能力者じゃないんで分かんないけど。
たぶんストレスでも溜まっちゃってるんじゃないかな~」
「そんな、鬱憤を晴らすのに人殺しなんて」
「お譲ちゃん。人間そんなに巧くできてないだよ、
何万人に一人くらいは異常者と呼ばれる人間はできるよ。
まぁ本人達が自覚してるかどうかは分かんないけどね」
「刑事さんって心理分析官なんですか?」
「違うよ、ただ思う所を述べたまでさ」
この人もこの人で充分変わり者だと思う、
それはやっぱり自覚しているんだろうか?
こんな事を言うだけに。
そしてクロ君は私達の会話を静かに見ていた。
このまま話が逸れて帰れ。と思っている様な目で。
「さてクロ。どうなんだい? 誠意は示したよ」
「……しろちゃん。携帯持って来て」
「う、うん」
私は愛祢ちゃんが眠っている自室へ行き、
机に置いておいた愛祢ちゃんの荷物から、携帯を手に取って部屋を出て、
クロ君が待つ部屋へ戻る。
ちなみ私の部屋は事務所から行き来可能だ。
事務所の入り口から見て左側にドアが奥と手前に一つずつあるのだけど、
私は奥の部屋を使わせて貰っている。手前がクロ君だ。
右側はオープンキッチン、その奥にお風呂とトイレがある。
そして中央奥にクロ君のデスクがり、その手前にわが事務所自慢のソファーが二つ、
ソファーに挟まれるようにテーブルが一つある。
「はい」
私は携帯をクロ君に手渡す。
「ほら、これに映ってるから」
クロ君は携帯を操作して刑事さんに投げ渡す、
これだったら別に私が渡した方が良かったんじゃないかな。
なんてちょっと思う。
「へぇ~ 君の趣味がこんなに子供っぽかったなんてね~」
「それは僕の携帯じゃない」
「冗談だよ。そう怒らないでくれ、それにしてもコレの持ち主は?」
「その先はビジネスだ」
「ビジネスか、一体幾ら位かな」
「アンタじゃ一生働いても足らん額だ」
「そんなに渡したくないのかい?」
「……独り身は寂しいもんだ」
「……そう、まぁこの画像はコピーさせて貰うよ」
「あぁ、別に構わない」
刑事さんはそう言うと、自分宛てにメールして見事殺人犯の手がかりをゲットした。
「んじゃ、また来るよ」
「もう来んな」
刑事さんは笑いながら帰って行った。
クロ君は少し機嫌が悪くなって、新聞紙を広げる。
私はソファーに座って、お茶を飲む。
「ねぇクロ君、犯人捕まえるの?」
「分かんない」
クロ君は新聞紙を広げたまま答える。
その表情を私は見れない、新聞紙が邪魔で、きっと見られたくないんだろう。
そう私は思う。
「でも、調べたんでしょ?」
「まぁね」
「何か分かったの?」
「いや、あんま。僕の情報網に引っ掛からなかったんだ」
「そんなに大物なの!?」
「いや、小物だよ。小物すぎて引っ掛からなかったんだ」
「へぇ~ そんな事もあるんだね」
「でもさ。そんな小物に殺されるなんて、あの子の親も可哀想だね」
「クロ君って意外と優しいよね」
「僕は生粋の優男だよ?」
「そうだったね」
心配してなさそうに見えて、実は私以上に愛祢ちゃんの事を思ってるんだよな。
やっぱり、過去が関係しているのかな?
しばらくすると、クロ君は新聞紙を閉じて私が淹れたお茶を飲み始める。
すると、愛祢ちゃんが起きてきた。
愛祢ちゃんの第一声は寝ぼけた口調で、
「ママ~?」
次話では中々進まない事態に進展があります。