File.10 学園に潜む殺人鬼
学園編 第四話です
「誘き出すって、どうやるつもりなの?」
「理事長が関わってた国家プロジェクトの極秘資料が目当って事だろ?」
「確かにそうだけど、クロ君はどうやって見つけるつもり」
「見つける必要なんてないよ、もう僕が持ってるんだから」
「なんで持ってるの?」
「実はコレが目当てで来たんだよね」
はぁ~ って事はこの事態が収拾したらクロ君は学園を去るって事か、
よかった~ 私の平穏な学生生活が戻ってくるよ。
あっ、でも確かパパに頼まれたって言ってたっけ
あ~ 不安になって来た。
「ね、ねぇクロ君」
「なに?」
「クロ君はもう学校やめる、よね?」
「いや、面白いからしばらは生徒でいようと思う」
ダメだったよ。
私はあからさまに落ち込んでいる雰囲気を放ち、皆を少し引かせる。
でも、キシンさんは引かず、クロ君に迫る。
「詳しくお話を伺いたいですわ」
「やっぱあなた方もコレが目当てでしたか」
え、今。あなた方って言った?
って事はキシンさんもグル?
キシンさんは何とも悔しそうな表情を浮かべ、拳を握りしめている。
それを刑事さんは意外そうな表情で観戦している。
なんとも呑気な事だ。
「この資料のタイトルくらいはあなたも殺人鬼も知っているのでしょ?」
「えぇ、私と殺人鬼と呼ばれる彼はその資料を手に入れるよう命を受けてましたから」
「ふぅん、で。今回の裏切りは本当にあったの?」
「えぇ、それは間違いありませんの」
「その確信は何処から来てるのか教えてほしいな」
「仲間を、仲間を殺したのよ」
「確か毒爪では身内殺しは禁忌でしたね」
分かりました。とクロ君。
キシンさんは少し表情を曇らせる。
なにか思いだしてしまったのだろうか、
もしかしたら、殺された仲間と仲が良かったのかな。
クロ君はカバンの中からTOP-SECRETと赤印の判が押された封筒を取り出す。
「これでしょ?」
クロ君の問いにキシンさんはコクッ、と頷いてみせる。
「さぁ放送室に向かおうか」
クロ君の言葉で私達は放送室へ足を運んだ。
ピーンポーンパーンポーン。
BGMが学園中に響き渡り、
「君の探し物はここにあるよ。零三号、JIAP
欲しかったら第三多目的ホールまでおいで」
とクロ君は告げて放送を終了した。
「ねぇクロ君、その零三号 JIAPって何?」
「あぁ、これ。今は凍結されてるんだけどね。
以前政府がさ、日本版CIA作ろうって企んでたわけよ。
その詳細が記されているのがコレ、理事長は計画の
進行・修正を監督する立場にいた人間の一人なんだよ」
以外すぎて私は言葉を失くした。
まさかそんな夢みたいなことが本当に画策されていたなんて、
いや~ 現実って怖いね。
「へぇ~ 君のその手に持ってるのってそんな重要な物なのか~
ぜひ僕にも読ませて貰いたいね」
「なんだ。あんたにも野心ってものがあったんだな」
「まさか、ただの好奇心だよ。まぁそれより、
彼女の方が僕より読みたいだろうしね」
と刑事さんはキシンさんを視線で指し、
確かに。とクロ君は頷く。
「あら、私にも読ませて頂けるのかしら?」
「無理だね。これも仕事でね」
「あら、一体誰の依頼かしら?」
「ウチのオーナーから頼まれたんだよ」
ビクンッ。
まただ。
キシンさんもオーナーさんの話題になると、体が震えた。
オーナーさんって一体どんな人なんだろう、みんな恐れてるみたいだけど、
もしかしたら、鬼みたいな人なのかな、
でも、面は良いってクロ君は言ってたしな。
「さぁ、目的地に向かおうか」
クロ君は自信に満ち溢れた顔で言う。
「捕まえる気満々ね。でも始末は私の手で付けさせて貰えるかしら?」
「いいよ。捕まえて聞きたい事聞いたら後は好きなようにしても」
ホント、私って最近人の命のやり取りを真近で見てるよな。
これってほんの数日前まではあり得ない事だったのに、
人生って何があるか本当に分かんない物だな~
私達が第三多目的ホールに着くと、一人誰かホールの中央に立っていた。
「カリム!」
中央に立っている人をみてキシンさんは声を上げる。
「お譲様、お久しいですね」
「よくも私達を裏切ったわね!」
「仕方なかったんですよ。彼らの方が高額だったもので」
「金で仲間を、家族を殺すなんて、ケリは私がつけます…っ!」
そう言ってキシンさんは銃をカリムに向ける。
「あー 待った。待った。僕の話が終わってからって言ったでしょ」
「早くしてね。もう私、自分でもいつ引き金を引くか分かりませんの」
「君さ、コレの鍵持ってるよね?」
「……えぇ。鍵がなければそれはただの紙きれ、
二つあって初めて意味を成すものですからね」
「その鍵を渡してくれないかな?」
「それは無理なお話ですね」
「ここから逃げきれるとでも?」
「それは貴方からという事ですか、クロさん」
「まぁー そうだけど。この刑事さんも強いよー」
「おや、どこかで見た顔と思ったら。元同業者さんじゃないですか」
「おっと、そこまでにしてくれないかな~
過去はもう忘れたことにしてるんだ」
まさかの新事実!
っていうか刑事さんも裏社会側の人間だったんだ。
だから、クロ君と親し気にしてたのかな。
まさか元相棒だったりして……まさかね。
「そこのお譲さんも大物ですね。鳳凰院の御令嬢さん。かな」
「今は白井 明日香って言うの、分かる?」
あー めちゃくちゃ怖い。
でも、私だって出来るってとこ見せないと。
「ほぅ、なかなかどうして、肝が据わってますね」
「それは皮肉にしか聞こえないよ」
「しろちゃん……成長したねー 僕は嬉しいよ!」
「いや、今喜ばれてもどんなリアクションをしていいか」
大袈裟に喜ぶクロ君、そんなに嬉しい事なのかな?
私は動じない自分を演じてるだけなのに、なんか申し訳ないよ。
「さて、話題を戻させていただきますよ。鍵ですが渡す気は」
「じゃあ、さよなら」
その瞬間、私は自分の目を疑った。
カリムと呼ばれた人の身体が下から伸びる無数の白刃に貫かれたのだ。
「かっ! ぐはぁっ!」
彼は吐血する。
血は滴り、肉は抉れ、所々骨が姿を見せている
そんな目を背けたくなるような光景が私の目に映ってる。
「知ってたかい? この多目的ホールってね。床が取り外す事が出来るだよ。
その為にこの下に空洞がある。そこにちょっとした罠を仕掛けたんだ」
彼は白刃に貫かれながらも、
「か、か、ぎ…っ!」
「あぁ、そんな物ないのは君が一番知っているだろ?」
「じゃ、な。ん」
「何のために芝居をしたかって言いたいのかい?
簡単さ。君のお譲さまの嘘を見極めるためさ」
クロ君は目にも止まらぬ速さで私の横を走り去り、
銃を構えるキシンさんから銃を奪い取る。
「な、何をするんですの!」
「よく言うよ。嘘はいけないでしょ」
「な、なぜ私がウソをついてると?」
クロ君は耳に指を当てて、丸い形の機械を耳から取り出した。
「君が一番後ろに陣取って、携帯で連絡した事を友達が教えてくれてね」
「くっ」
「三手先を読んでおかなきゃね。特にこの世界じゃさ、
それに理事長を拷問してもコレの事は話さなかったろ?」
キシンさんは以前見せた悔しそうな表情を浮かべる。
「そりゃー そうさ。喋ったら家族が死んでしまうんだから、
最後は舌を噛み切ったろ、ね。刑事さん」
「ははっ、さすがだねー」
「いつ言うつもりだった?」
「その時がくれば。さ」
「クロ君!」
私は声を上げる。
特に何か言いたいわけじゃないけど、
声を上げずにはいられなかった。
もどかし過ぎて、もどかし過ぎて、とにかく声を上げなきゃいけない気がした。
「悪かったね、しろちゃんには話そうかと思ったんだけど、
タイミングがなかなか来なくてね」
「まー でも。クロ、少しやりすぎじゃないか?
カリムに喋られちゃ困る事でも知られてた……とか?」
クロ君は冷たい瞳で刑事さんを睨む。
私はクロ君という人間が一瞬で分からなくなった。
そして私は小声で言葉を零す。
「……誰を信じたらいいのよ」
次話ではクロとしろの関係に変化が!?