計画、そして世界 4.0
本部全体に警告音が流れる。
「何が起きているの⁉ 状況は⁉」
「アリティア、活動維持に問題発生!」
「アリティア内部に高エネルギ反応を検知」
「パイロットが危険よ。オップファーを強制排出して!」
「アリティア、排出信号拒絶。排出できません!」
「パイロット、生命活動に問題発生。脈拍および心拍数の詳細不明」
「アリティアの内部バッテリーを落とせ」
焦るメイやオペレーター達にに対して冷静に判断するソウキチ。
「了解っ」
「アリティア、予備電源に切り替わりました。活動停止まであと180秒」
アリティア内部にあるバッテリーが外れた。と同時にアリティアの目が強く発光する。
「第五層までの装甲の除去を確認!」
一名のオペレーターが言うと全員驚きの目でモニターに映し出されているアリティアを見る。
「ヴゥゥゥ…………」
静かに唸るアリティアはまさに神の化身のような姿をしていた。
次の瞬間…………
「ヴァァァァァァ‼」
アリティアは咆哮した。
そして街を次々と破壊していく。ビルやマンション、建築物がまた一つ倒れていく。倒されるたびにモニターや電線がバチバチと音を立てながら。
「これが……アリティア…………⁉」
驚愕するオペレーター一同。しかし一名、こんな状況でも静かな男がいた。
「活動停止まであと30秒‼」
「想定外ね……」
「いや、これも想定内だ……」
こんな事態でも冷静に会話するメイとソウキチ。
「アリティア停止後、直ちにパイロット救出及び復興作業ににとりかかれ」
「情報操作はいいのね?……」
「そんなことは政府に任せればいい。今はパイロットの方が最優先だ……」
ソウキチは何も言わずモニターを見続けている。まるでこの事態はすべて計画されていたように………
「ヴゥゥ……」
最後まで街の破壊をやめることなくアリティアは活動限界を迎えた。
「アリテフィア、活動停止……』
「パイロット保護を最優先。現地でオップファーを強制排出』
機体の回収よりもシンの救助を最優先にするソウキチ。
いくら冷静な状態を保っていてもシンのことが心配らしい。
その証拠にソウキチの手は微かに震えていた
「あともう少しで完成する……そうすれば私の、いや私たちの世界が完成する…………」
覚えているのはここまで。
「ここは……病院…………?」
目の前に映し出されているのは真っ白な天井。
なぜ僕はここにいる?
考えれば考えるほど頭が痛い。が、痛いと同時に浮かび上がる一つのビジョン。どこかで聞いたことのある男の声。はっきりとは思い出せない。だがこれだけは分かる。
あの声は何回も見たことのある夢に出てくる男性の声だということ。
「東上君……?」
聞いたことがある声。それは毎日、耳が腐るほど聞いていると言ってもいい馴染みのある声。
声がする方へゆっくりと顔を動かす。
「三野……? なんでここに……?」
そうだ。なぜイロハがここにいる。呼んだ覚えはこれっぽっちもない。
―でも、イロハが横にいることで落ち着くというか安心感というか……不思議な感覚に包まれる。
「東上が大変だ‼って先生に言われたから、急いでここに来たの」
「そうだったのか。ありがとう……」
僕をここまで心配してくれたイロハには感謝しかない。まさか彼女がここまでして
くれるなんて思ってもいなかった。
ありがとう。
「お礼なら美味しいもので!」
にかっと笑いながらの彼女の要望。
こんな状態でもプラス思考を保っているイロハはほんとにすごい。
僕はその要望を飲み込む。というか飲み込まないといけない。
「う、うん。わかった」
せっかくお見舞いに来てくれたんだ。これくらいはしないと。
重い身体を無理やりゆっくりと起こし上げる。
「よし‼ じゃあこの後行きたい喫茶店があるの‼ 今すぐそこへ行こう‼」
突然すぎる。
やっぱり断るべきだったかも。
「行きたい気持ちはあるけど、こんな状態で行ってもいいの? さすがに無理だと思うけど……」
そうだ。病室にいることはどこかしらけがをしているはず。そう簡単に外出できないだろう。
でも正直なところ痛いところはない。
不安な表情をした僕に笑顔でイロハは返答をする。
「そこは大丈夫! ちゃんと先生に許可はもらってます! あと、それで元気でたら普通に退院していいって!」
「マジかよ……」
あまりにも予想外の返答で脳内がポカーンとしてしまう。
僕の担当医、医師免許持ってるよな……? 疑いたくないけどこれだけはマジで疑
うレベル。
「もしかしてその行きたい喫茶店はこの付近にあると?」
「ご名答!」
ウィーン
部屋の自動ドアが開く音。
見覚えのある黒服達。
「お取込み中失礼。東上シン君、身体の具合はどうだ?」
「は、はい。特に異常はありませんが……」
「そうか、よかったな。悪いがこのあと本部まできてくれないか?」
「え?」
「え?」
声を合わせた僕とイロハ。彼らが来てから一言も言葉を発しなかったイロハが口を開いた。
「あの……私たちはこれから喫茶店に……」
黒服達にビビッている。その証拠にちょっと涙目だった。(ちょっとかわいい)
そりゃビビるよな。僕もそうだった。今のイロハはあの時の僕と同じ気持ちだろう。
「それはすまない。君たちの用を済ませてからで大丈夫だ」
空気を読んだ黒服達が気を使ってくれた。見た目は怖いけど根は優しいのだろう。
「ありがとうございます」
「ではまた連絡します」
そう言い残して彼らは部屋を出て行った。
「なにあれ。こーわっ。東上君、あんなに怖いアバター達と知り合いなの?」
引いた顔でこちらを見てくる。
僕と黒服達があんな風に会話すれば疑ったり引いたりするのは仕方ないか。
「ま、まあ知り合いというか…うん、そんな関係……? 別に悪い人たちじゃないと思ってるけど…」
「ふーん。そうなんだ。」
疑いの目でこちらを見てくる。
まずい…でもこれと似たようなことがこの間もあったような…?
「それはともかく、喫茶店行こう」
誤魔化す! なかったことにする!
「何ていうお店なの?」
機嫌を取り直したのか、彼女はにかっとした表情で言った。
「喫茶らいぶってとこ」