有機体型自律制御プログラム殲滅ヒト型兵器 3.03
今日もアラーム音に起こされる。
そして一日が始まる。
いつも通りに朝食を食べ、歯を磨き、顔を洗い、学校へ行く支度をする。
いつものように着替えていた。
が、いつもというのは続かないらしい。
ドゴォォーン!
突然の大きな爆発により足がふらつく。
何事だ⁉
かなりの威力だということはすぐにわかった。
急いでベランダから外の様子を見ると、遠くに黒い煙が大きく昇っていることがわかる。
下の方を見ると腰を抜かして動けないアバターや避難しているアバター、中には幼い
アバターが泣き叫んでいるなどとかなり衝撃的な光景を見た。
突然の出来事で動くことができない。
ドガァァーン!
再びふらつく。
二回目の爆発は肉眼で確認できた。
さっきの爆発よりも威力が高い。
僕は爆風により後ろに倒れてしまった。
部屋の窓ガラスは割れ、干していた洗濯物は散らかりなり、本が崩れ落ちたりなどと部屋はかなりひどく散らかっている。
そんな状況の中、玄関が開いた音がした。
誰だ?
しかし今のこの状況の中、冷静に考えることはできなかった。
気づいたときには怪しい黒服のアバター達が僕を囲っている。
「急に僕の家に入ってきて……あなた達は誰ですか……?」
やばい、ものすごく怖い。
僕がビビッているのを察した一体の黒服のアバターが近づいてくる。
「勝手に君の家に侵入してすまない。私たちは君を保護しにきた」
「保護……? 保護してくれと頼んだ覚えはありませんけど……」
「事情はあとで話す。でも今は私たちを信じてくれ。君はここでデリートされてはならない。頼む……」
目の前のアバターが頭を下げると周りのアバター達も頭を下げ始めた。
名前も知らない彼らが初対面の僕にここまでするということは余程の緊急事態だということだろう。
「わかりました」
「ありがとう。時間がない、早くこちらへ」
僕は黒服たちに囲まれながら、アパートの地下駐車場へ案内させられた。
すると目の前にはレトロな感じのごついバイクとそれに乗っているハードボイルドな中年男性がいた。
「ファーストアバター、東上シンを無事保護しました」
「ご苦労」
黒服のアバターがハードボイルドなおっさんに状況報告している。
想像以上にやばいやつかな……
不安が増加していく。
「東上シン、早く後ろに乗れ」
渋い声が地下駐に響く。
生まれて初めてフルネームで呼ばれたと思う。
言われた通りに急いでバイクの後ろに乗り、おっさんの腰を掴む。
バイクに乗るのは初めてだ。少しわくわくしている。
「しっかり掴んでろ」
「………」
何も言わず頷くと、おっさんは少し笑ったような感じがした。
「行くぞ」
そう言い、バイクは凄まじい速さで動き出した。
同時に、その後ろを見守るかのように黒服達の車も動き始めた。
地下駐を出るとさっき見た風景がさらに悪化している。
建物の一部が崩壊したり、壁や道に亀裂がはいり、黒焦げである。
それに倒れているアバターも……
「酷いありさまだな」
おっさんが口を開く。
声のトーンはさっきよりも下がっているように聞こえた。
「あの……あなたは……?」
「まだ名乗ってなかったな。俺はソウキチ。松浦ソウキチ」
「松浦さん、今、僕たちはどこへ向かっているんですか……?」
この一言を発するとしばらく沈黙が続いた。
「……今、俺たちは『ルークス』へ向かっている」
「『ルークス』って何ですか……?」
「そうだな……まあ、政府機関の裏組織ってところだ。詳しいことは状況が落ち着き次第説明する……」
「は、はい……」
政府機関の裏組織。この言葉を聞いたとき、なぜ僕が『ルークス』へ? いろいろ
疑問に思うことは多くあるが、今は彼らについていくのが一番だろう。
「シン、少しの間目を閉じろ」
「え?」
「いいから早く」
「はいっ!」
言われるがまま目を閉じる。ぎゅーっと目をつぶる。
5秒くらいかな?
「もう開けていいぞ。ゾーンは越えた」
ゾーン? 何のことだ?
ソウキチの合図で恐る恐る目を開ける。そこにはこれまで見たことないような大きな
円柱型の建物があった。
「これは……」
あまりの大きさに言葉を詰まらせる僕。
ともかく大きい。というか大きすぎる。こんなに大きい円柱型の建物見たことない。
「これが俺たちの極秘組織、『ルークス』。セカイ再生を目的とする組織だ」
「ルークス…… ここで僕は何かするんですか?」
「……」
ソウキチは何も言ってくれない。
再び沈黙が続いた。
「そうですよね……こんなすごい基地に僕を連れてきたということは何かするはずですよね……」
「そうだな……」
こんな会話をしているとバイクが止まり、ソウキチがヘルメットを外した。
どうやら『ルークス』に到着したらしい。
「ついてこい」
言われるがままソウキチの後ろをついていく。
目の前には大きなゲートがあり、どうやらIDがないと入れないらしい。
「これ首にぶら下げてろ」
投げ渡されたIDカードを首にぶら下げ、ルーカスの中に入った。
その後、エレベーターに乗り地下へ移動。
普通のエレベーターかと思いきや、上下移動だけでなく、左右に動いたり斜めに移動したりと四方八方に動く。
やっぱ秘密基地ってすごいな。
エレベーターを降り、暗いトンネルのようなところを抜けると機械的な音が聞こえてくる。
一体何してるんだ?
「着いたぞ」
扉が開くと作業服を着たアバターがたくさんいる。
その中のクールな女性がこちらへ近づいてきた。
「ようやく見つかったのね」
「ああ。今回の事態はこの子に対処してもらうしかない」
「現状、策はこれしかないものね……」
ハードボイルドなソウキチとクールな女性の会話。
これが大人の雰囲気というやつか。
ちょっと憧れるな……
「あの……」
大人の雰囲気の中、恐る恐る声をかける。
ずっとここに立っているわけにはいかないし。
「初めまして。ルークス技術開発局長の久保田メイです。よろしく」
するとポケットに入っていたメイの右手が僕の目の前に出てきた。
握手だ。
「東上シンです。よろしくお願いします」
初めて他のアバターと握手を交わしたかもしれない。
「早速だけど東上シン君、君にやってほしいことがあるの。こちらへ」
薄暗い中。今度は早歩きのメイの後ろをついていく。
今から僕は何をするんだ?
「主電源、接続して」
その一言で暗かったのが一気に明るくなった。
そして目の前には巨大なロボットが現れた。
外見はロボットというよりかは僕たちにアバターの形に近いシュッとしている。
ロボットの腹部くらいから見上げているがかなり大きい。
まさか……
「私たちアバターにより作り出された最高の決戦兵器『有機体型自律制御プログラム殲滅ヒト型兵器 アリティア』その最初の機体。我々アバターを現実世界へ還す機体」
「殲滅……」
あまりの衝撃に言葉が出ない。
SFだけの話だと思っていたことが現実にあるなんて……
それに現実世界へ戻す? どういうことだ?
言っていることが理解できない。
いや、状況を吞み込めていないだけだ。
「そして東上シン君、あなたが乗る機体よ」
「え?」
この一言が僕をさらに焦りと困惑の世界に引き込んだ。
僕がこれに乗る?
何言ってんの?
乗れるわけない、無理に決まってる。
「なんで僕なんですか?」
「これは君にしかできないことなの」
そんな曖昧な返答に僕はさらに困惑する。
僕にしかできない?
どういうことだ?
「じゃあ仮に僕がこれに乗るとして、僕は何をすればいいんですか?」
「君には『有機体型自律制御プログラム』通称『械威獣』を殲滅してもらいます」
「『械威獣』って何ですか?」
今は質問をたくさんして時間を稼ぐしかない。
この質問をするとメイの目つきが変わった。鋭い目で僕の方を見ている。
後ろにも視線を感じ、振り返るとソウキチも他の作業員も僕の方を見ている。
みんな僕に注目している。
「時間がないの。質問は敵を殲滅してからよ」
「乗れ……」
さっきまで口を閉じていたソウキチが開いた。
同じく彼も鋭い目つきで僕を見ている。
「無理ですよ……急にこんなロボット見せられて、挙句の果てに械威獣を殲滅しろ? 無理ですよ! 僕は平凡な生活を送りたいのに!」
バチンッ!
ゲージ内に痛々し音が響く。
ソウキチが僕の右頬をビンタしたのだ。
あまりに突然だったため僕はその勢いで倒れてしまう。
頬を叩かれたのは生まれて初めてだ。
「お前がこれに乗らなければ、他のアバター達は平和な生活を送れなくなる! お前のその判断で罪なきアバター達が悲惨な目に合う! それでもいいのか!」
僕の胸ぐらを掴み激しく主張するソウキチ。
僕は一度、自分自身を無理やり落ち着かせる。
よく考えればソウキチの言う通りだ。
罪なきアバターが被害に合う。それだけは絶対にあってはならない。
家から見た風景を思い出せ。
自分より年下の幼いアバター達が泣き叫んでいたことを。
みんなを守る。
それは今、僕にしかできないこと。
ここで動かなければ僕は彼らを殺すことになる。
嫌なことから目を背けるな、現実を見ろ。
「乗ります。僕が平和な日常を取り返します」
この一言が全ての始まりとなる。
「総員、一型種戦闘配置及びアリティア発進準備!」
僕のこの言葉を待っていたかのようにソウキチが命令を出した。
その後、アナウンスが響き渡る。
『総員、一型戦闘配置! 繰り返す、総員、一型戦闘配置!』
「メイさん、後を頼む」
「わかりました」
そう言い残し、ソウキチはエレベーターに乗りどこかに向かっていった。
「じゃあ、シン君あの中に入って」
しばらくすると目の前に宙に浮いた大きな球体が機械により運ばれてきた。
結構な大きさだな……
「あの……これはどうやって入れば……?」
「もう少し待って」
言われた通りに待っていると球体が僕の真下に動いてきた。
「まさか、飛び乗れということですか……⁉」
「言ったでしょ、今は時間がないの。早く!」
落ち着け……自分ならできる!
とにかく自分に言い聞かせる。
一度、深呼吸をする。
そして意を決して飛び込む。
「あああああああ!」
思っていたより高い。
絶対、足に響くと思ったけれど案外、普通に着地できた。
飛び降りて着地できたのはいいものの、中が真っ暗で何も見えない。
そしてメイを含む数名がこの場を離れ、司令部へと行ってしまった。
「なんなんですかここ!? 何も見えませんよ!」
『オップファー内、パイロットを確認。視覚化情報処理を開始』
突然、球体の中から男性の声がした。
音が少し濁っているため、スピーカーから音が出されていることはすぐに分かった。
そして暗かった内部が一瞬眩しく白く光り、目を開けると外の様子が見える。
それと同時にアリティアの目が発光した。
僕の隣には操縦席らしきバイクのようなものがある。だがタイヤがない。
ロボットの操縦席といえば、たくさんボタンやレバーがあったりしてゴツいイメージ
があったが実際はかなりシンプルな構造のようだ。
『シン君、隣にあるバイクのようなものが操縦席です。それに乗って』
「はい」
乗るといきなり腰にシートベルトのようなものが巻かれた。
ここから落ちないようにするためだろうか。
『パイロットの生命活動解析開始……異常なし。マイナス電子、拡散開始』
するとベルトを巻かれた腰あたりがビリっときた。
電気だ。
しばらくこのビリビリ感が続く。
「この電流みたいな感覚、地味に痛いんですけど」
『大丈夫。脳まで伝わればそのうち慣れるわ。今は我慢して』
「我慢してって……」
仕方ない。我慢しよう。
というかこの感覚が脳まで伝わるのか……
大丈夫かな……?
この技術に対する不安が高まる。
『脳内の信号を受信。アリティアとのシンクロ開始。シンクロ率分析中』
『内部バッテリーは現在100%。予備電源は180秒間活動可能です』
『シンクロ率、62%。暴走の可能性、ありません』
「了解。発進準備!」
張りのある声で指示を出すメイ。
それと同時に動くアリティア。
動いているというより、脚部に装着されている機械により動かされている。
『アリティア、射出位置に固定完了』
『安全装置、解除します』
「了解。発進準備完了。松浦指令、いつでもいけます」
「わかった。アリティア、発進だ」
ソウキチから指示が出されると猛スピードでアリティアは急上昇した。
「うううう……」
あまりの速さに身体にかなりの重力がくる。
身体が重い……。
『地上ゲート、開放します』
頑張って顔を上へ向けると徐々に光が差し込んできた。
いよいよだ。
ここまで来てしまった以上、逃げることはできない。だが今からの戦闘に恐れている
自分がいる。
それでもやるしかない。
決意を固め、アリティア地上へ到着した。
が、周囲を見渡しても械威獣らしきものはいない。
が、爆発は更に激しい状況。
「あの……械威獣はどこに……?」
『械威獣可視化処理を開始します』
『裸眼では敵を見ることができません。だからこの可視化処理をしないと見えないの』
メイに説明されると目の前が徐々にぼやけてくる。
目を軽くこすると巨大なクワガタのような昆虫が現れた。
頭部はクワガタのような大きなはさみ、手はカマキリのような鋭いカマ、足はバッタ
の足の形をしている。
「これが械威獣……」
予想外の特徴にビビる僕。
怖いというより気持ち悪い。
15年以上生きていてこんなに気持ち悪い化け物は見たことない。
考えていると敵がこの機体の存在に気づき、しばらく目が合う。
「グヴゥゥ……」
こちらを向いて唸る。
足をバッタのように曲げ、背中の羽が開いている。
威嚇か?
嫌な予感がする……
「グヴァァァ‼」
予感は見事に的中。
AIがものすごい勢いでこちらに飛んでくる。
械威獣が飛ぶと、飛んだ場所が爆発した。
『敵付近に爆発を確認! 恐らく、飛ぶことにより爆発したものと考えられます』
状況を説明されている場合ではない。
「うぁぁぁぁぁぁ」
アリティアの腰がハサミに挟まれ身動きしにくい。
さらにカマで攻撃してくる。
身体が切られていくような感覚が伝わる。
かつてないほど痛い。
「グゥゥゥ……」
痛いながらも今は必死に抵抗する。
そう思い、カマを無理やり掴みへし折ろうとする。が力が強く中々折れない。
折ろうとするほど暴れる械威獣。
「はぁぁぁぁっ‼」
ともかく力を入れ、無理やり片方のカマをへし折る。
すると血を流しながらアリティアを放し、ビルに体当たりする械威獣。かなりのダ
メージを与えた証拠だろう。
『今がチャンスよ!』
メイに言われ、械威獣の方へ走る。
街を壊しながらさらに暴れる械威獣。
いつも見ていた風景が一気に壊れていく…
「………」
暴れる械威獣のハサミを掴み反対側をへし折る。
その鋭いハサミを使い攻撃する。
攻撃するたびに血しぶきが出てくる。攻撃すればするほど血まみれになるアリティ
ア。
この時、僕はほぼ無言で攻撃していた。
「…………」
そしてとうとう械威獣はピクリともしなくなった。さっきまであんなに暴れていた
のに。
『目標、完全に沈黙』
オペレーターの声が耳に入る。やっと終わったんだ。
「はぁはぁ……」
息が荒い。
無意識のうちにかなり体力を消耗していたらしい。
『よくやってくれたわ。あとの処理はこちらでするから本部まで帰還して』
「わかりました」
『回収地点はE-17。案内を出すからそれに従って』
アクセルを再び握り回収地点へ向かおうとする。
がアリティアは動かない。
「どうしたんだ?」
もう一度アクセルを回してもピクリともしない。
おかしい……
「メイさん、急にアリティアが動かなくなったんですけど?」
『おかしいわね……確認するわ』
「お願いします」
メイさん達の指示を待ち、倒した械威獣を見つめる。
「これが械威獣? これがプログラム……? ただの生き物じゃないか……」
するとオップファー内が一気に真っ暗になった。
焦る自分に強い電流が脳内に伝わる。
僕は意識を落としてしまった……