異世界の優しさ
結局風呂の沸かし方がわからず、水道から水を出して、水で体を洗った。俺が着ていた日本のつなぎの作業着は、血と泥でどろどろで、ちょっとシミが落ちないくさい。
昨日ミレイが、初日に俺が着ていた服セットを銀貨8枚の格安で売ってくれたので、とりあえずの俺の服はそれだ。……くそが、あの守銭奴め。集落を討伐してやったんだから、服くらいタダでよこしやがれ。
そして泥のように眠りにつき、朝になって身支度をする。
つっても簡素な服と靴、リュックくらいだが。
リュックには金が入っている。硬貨の量にしたら2、30枚程度なのだが、金だからなのか、結構な重量がある。
俺は武器屋を見るために、街へと繰り出した。
「腹減ったな……」
昨日から何も食べてない。俺は定食屋を見つけて入ってみた。本当、言語理解があって良かった。
「いらっしゃい!」
中はカウンターに席が5つ、テーブルと椅子セットが3つの、日本のラーメン屋みたいな内装だった。
「あー、初めてなんだけど何が食える?」
「ほう、お客さん、グランダムは初めてかい?」
「グラ──、あー、そうなんだ」
この街はグランダムと言うのか。
「なら、グランダム名物、うどんを食ってきな!」
「ほう、うどんか。じゃあそれで」
「へい、毎度!」
初めてなのに毎度とはこれいかに。
しばらくすると、
「へいおまち!」
うどんが出てきた。
「…………これは……」
「ん?それがうどんだよ」
「ああ、ありがとう」
俺がお礼を言うと店員はびっくりしていたが、すごすごと戻っていった。
丸い丼の中に白い太い麺が入っている。うどんだ。
だが、普通じゃない。
まず具がおかしい。
チャーシューのように味付けされてる薄切りの肉が2枚乗っており、5cmほどの長細い茶色いもの、うん、めんまだ。
海苔が丼の端に3枚刺さり、これはネギだろう、空いたスペースにこんもりと乗っている。
それにスープの色だ。クリーム色をしていて、豚骨ラーメンのスープのような見た目だ。
一口すする。
「うん、ラーメンだわ。しかも麺だけうどんのラーメン」
間違いない。絶対日本人が持ってきたものだろう。だが、どこかで情報が交錯してこんなことになってしまったのだろう。
「口に合わないかい?お客さん」
心配そうに店員が見ていた。
「いや、口に合うよ。むしろすげー美味い」
「そりゃ良かった!」
これがバカに出来ない。マジでうまかった。日本でやったらワンチャン流行るかもしれない。
「またどうぞー!」
料金は大銅貨7枚だった。豚骨ラーメンが700円なら高くはないだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お?」
道を歩きながら店を眺めていると、歯ブラシらしきものが店内に見えた。俺はその店に飛び込む。
そこは雑貨屋だった。
だが……
「これ、何?」
店員の女の子に話しかける。
「え~、今までどうやって歯を磨いてたのぉ?」
「……歯ブラシなの?」
「当たり前じゃ~ん、それ以外にあるぅ?」
歯ブラシと言われたそれは、何かの毛を紐でひとかたまりに縛り、先が噴水のように二股に割れた鉄の棒が、毛の塊に挿してある。
「あー、毛が悪くなったら、頭の毛束だけ交換するの?」
「それ以外なくなぁい?」
「……」
話し方がイラッとする。
「あ、ありがとう、また来るよ」
俺は雑貨は日本から持ち込もうと思い、店を出た。その女もなんか驚いた顔をしていた。
街をぶらぶらする。
「あ、あった」
木の看板に、剣がクロスし、その後ろに盾が描かれた看板があった。多分武器屋だろう。
「すいませーん」
一声かけてから店に入る。だが誰もいない。
仕方なく店内を見て回るが、なんと値札が付いていない。これじゃいくらかわからない。
壁に一振りの西洋剣が飾られている。なかなか立派そうな剣だ。俺はそれを手にとってみた。
「……どうせ買うならいいものを買いたいよな。これ、この間の剣より切れ味が良さそうだな」
ちゃんと刃がついていた。これは触ったら怪我しそうだ。ちなみにこの間借りた剣は、刃の部分に指を滑らせても全く大丈夫だった。
「金貨120枚だ」
ビクッ!
いきなり声を背中からかけられ、びっくりしてしまった。そいつはドワーフだった。髭面すぎて年齢不詳だ。
ってか金貨120枚?……1200万かよ!!
「た、たかすぎね?」
「それはミスリルだ。買わないなら壁に戻せ」
「……」
つうかそんな高級品を無防備に壁に飾っとくなよ!!
「レプリカだ」
「……」
心を読まれた。
「あー、値段が書いてないんだが……」
「予算はいくらだ?」
俺は、そういう方式かよ!と思ったが、『あなたにも出来る異世界生活』にも常識はかなり違うとしつこいほど書いてあった。
郷に入っては郷に従えだ。
「あー、なるべく安い方がいい。冒険者ランクはEだ」
「そうか、なら待ってろ」
一瞬Eランクをバカにされるかと思ったが、ドワーフは表情も変えずに店内を歩き回り、色々と持ってカウンターに戻ってきた。
「つけてみろ」
「……」
このぶっきらぼうなのがスタイルなのだなと理解し、俺は皮鎧?をつけてみる。脇の下のところから腹側と背中側に2つに割れ、胴を挟み込んで金具で止めるタイプだ。
意外と硬い皮だ。これなら防御にはなる。
「ちょっと胸がきついかな」
「しゃがめ」
「……」
言われた通りに両膝をついた。
するとドワーフは金具で止めた脇の下側ではなく、その逆側の脇の下のところで何やら少し緩めた。
「どうだ?」
「あー、いいかも」
「全部つけろ」
「……」
皮の籠手、すね当て、ベルトのような剣帯を装備する。どれもベルトで止めるタイプだ。
「おー、思ったより動きやすい!」
「これを持て」
剣を渡された。鞘から抜いてみると、刃の厚みはかなり厚い西洋剣だ。初日に借りたものより若干シャープで光沢もある。
「いい剣だ。でも高そ────」
「振ってみろ」
「……」
俺は適当に中段に構え、剣を振りかぶり振り下ろす。
「……その程度の腕ならそれで充分だ」
「…………」
剣術レベル1だからか?なら3で来たらどうなるんだよ!と言いたかったが、それよりも、
「高いんだろ?」
「金貨1枚だ」
「剣が?」
「全部だ」
「っ!安すぎね?!」
流石に全部で10万は安い気がする。価値がわかってるわけではないが、品質から見たらものすごく安く感じる。
「弟子の練習品だ、売り物じゃない」
「でもすげー良い品だろ。俺は正直剣の良し悪しはわからねえけど、良い品だってのはわかるよ!」
するとドワーフの口角が少し上がった気がした。
「Eだろ?早くDになれ」
「おやっさん……」
これは励ましだ。俺が冒険者で成功しろと励ましてくれてるんだ。多分その意味で安くしてくれている。
…………くそ、泣かせやがる。どっかの守銭奴に見せてやりたい。
俺はリュックから金貨を出し、
「ありがとう。早く金持ちになって、また買いにくるぜ!」
俺は武器屋を後にした。
あの無表情のドワーフが、最後には驚いた顔をしていた。




