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私は、仕事から帰ると、マスカラをすぐに落とし、食事の準備をする。
“もう会えない”
あの人にそう言われてから、何日が過ぎたのか。
花火大会の夜。私はあの人の事を好きになった。一目惚れに近い感情かもしれない。会場からは少し離れた、高台の小さな公園だった。二人で手を繋いでベンチへ座る。
繋いだ手。
どれくらい前になるのかな、はじめての恋人といるような、新鮮な気持ちになっていた。
あの人は言った。”花火が綺麗だね”
私は公園を見渡す。ずっと、この時間が続くといいのに。二人はキスをした。
それが彼との出会い。すぐに、交際が始まった。休日はお互いの部屋に行き、料理を作る私。料理は苦手、彼の口に合うといい。二人の時間を楽しんだ。
順調な付き合いだったけど、次第に彼からの連絡も遅くなり、少し嫌な予感がした。
ある日、彼から、”会社の女性からネクタイピンを貰ったのだ”、と告げられる。
私は、彼に怒って、”どうして受け取ったのか”と問い詰めた。相手の女性は、何故渡したのか。どういう関係であるのか。
女性の話をしてくる時点で、別れを告げているのだろうか。もう、元には戻れないのだろうか。
私は、騙されているような気になり、更に彼を問い詰める。当然、気を悪くする彼。”もう会えない”と彼は言う。
秋が近くなるに連れて、お互いの仕事も忙しくなった。もう、私の事なんて、覚えていないのだろうか。彼はその人の事が好きなのだろうか。
仕事の帰りに、夏のあの公園に立ち寄った。目の前には夜景が広がっていた。