14話 変な女の子と転機
今日はお休みの日だった。
俺はと言うと、やることを頼まれていた。いわゆる、おつかいだ。
ただやることは至ってシンプル。
この真昼間に、いつも仕事で着ているユニフォームのお洗濯をしてもらって、綺麗にしている。
うちで出来なくはないけれども、やはり頑固な汚れは洗い落とせない。
「今まではそれでも良かったんだけれどものう」
と明後日の方向を見ながらおっちゃんは話していた。
これだけ繁盛してきたら、やっぱり少しでも綺麗にしておいたほうが良いと俺も思う。
特に二人は、新品同様なものを着ていてもらいたいと思う。
こんなパシリも俺じゃなくても構わないのだけれど、さすがに二人もお疲れの様子。
それに、近々またライブをやりたいと思っている。
だからこそ、俺がこのパシリを買って出たという寸法。
「よう、ゆういっちゃん! 元気かい!」
「はい! ありがとうございます!」
今日は色んな人に声を掛けてもらえる日だ。
というか、掛けられすぎだろ。
静奈ちゃんと雪芽さんが来てくれて、色々と話題にはなっていたのでちょくちょく声を掛けてもらえることはあった。それでも、こんなに多くの人には初めてだ。
そう、それにもう一つ。
今までは、主に二人の話題が多かったけれども、今日は俺自身への話が多い。
これも思い当たることはあれしかない!
ゴメルドおおおおおおおおお!!!
きらーん、と俺に「どうっすかあ!」とアピールしてくる姿が容易に想像できる。
なんだよ、本当に知らなかったけれども、あれってこんなに影響があるんかいな……今回は良い方向に働いたけれども、怖いなあ。どうなっていくか。一つ間違えたら一気に悪いことも広まるってことだもんな。
くわばらくわばら……。
「もうちょっとだな」
俺はこの昇龍切通し(しょうりゅうきりどおし)と呼ばれている道を通っている。
これがメインストリート。
他には、塩間街道とも呼ばれていて、こっちの方が親しみある。
もともとは、ここには逸話があるらしい。
竜が住んでいて、村に雨が降らなくなった時に、どういったことをしたのかは知らないが、雨を降らせてくれたらしい。
その竜が天に昇っていくときに、多くの林とかを倒していったとか。
そうして出来た道がここだという。
時代が下って、ここが海と繋がっていて、塩を運ぶルートになっていたので、道をさらに整備して今のような形が完成した。それからも、何回か整備をされたらしい。
今では、そこから延長されて城へと続いていく。
故に、このメインストリート沿いには老舗が多く、唐紐屋もそこにあるっていうこと。
その逸話にあやかったであろう(おっちゃんは参考にしていない! と豪語しているが)茶屋こそが、竜照庵でもある。
メインストリートに沿ってあるものの、飽くまでも昔は旅館であって、ずーっと前から竜照庵があったわけではない。ワンスの外れの方にあるし、恵まれた立地とはいえないものの、利便性はある。それに一応は入りやすい……のかな?
「おう! あの竜照のとこのじゃねえか!」
「あ、どうも~」
ははは、と会釈だけはしておこう。
本当に、少し行った先なのに、そこまでに中々行けん!
今までは、「ああ、あの……雄一ね」みたいに、その、なんだ。元軍人のね! みたいな。
よし、頑張れよって言われて野菜とかをもらったりしたものだ。
今回はまあ、そうじゃなくて恐らくはプロデューサーとして! そう! あの頃の俺とは違うんだ! みたいな感じで見られているはず!
そんなこんなで、でも着いた。
『和白社』(わじろしゃ)と書かれた看板の中へ入っていく。
「はい! いつもありがとね! 三十三番ね、はい!」
俺は三十三、と書かれた札を渡す。
これが要は、うちの店のユニフォームの注文番号になっている。
「じゃあ、確かに三十三番ね! これね! ここの紙に受け取りの名前だけ書いてもらえるかしら」
「ありがとうございます!」
この世界は、三日に一度で休みがあって、六日目には二日の休みがあることが一般的だ。
要するに、水曜日と、土日が休みというもの。
いやあ、良い世界だね!
ただし、竜照庵の場合にはそうではない。
こちとら客商売じゃい! と息巻いた結果、ずらして火曜と土曜日しか休みがないという状態だ。
連休がないって辛いけれど、きっとそれでも休みがあるだけマシだというものだ。
今日は普通に休日ではないのだけれども、多くの人がいた。
俺もなんだかんだで、軍では雑用ばかりだったんだし、こうやって洗濯の技術を学ぶっていうのも、存外悪くなかったんだろうなあ。
「ねえねえ、新聞見たよ!」
いつも担当してくれる青葉さんが言ってくれた。
「ああ、ありがとう、って言ったらいいのかな」
青葉さんの年齢は知らない。
けれども、曰く同じくらいじゃないの? ということだったので、普通ため口を使っている。
「そりゃあ名誉なことでしょ! みんなすごいな~って言ってるよ?」
「まあねえ。あの子たちは、自分で何をすべきかが分かってるんだもん。そしてそれをやっちゃう。実際に、彼女たちを見て、新しい仕事を始めた! って。影響を受けました、ていう人もいるらしいよ」
「ああ。もちろんね、あの子たちもだけど。そういったものを作ろうって、やるほうも大したものよ?」
「あ、ありがとおおおお!」
いつも、俺が竜照庵で働き始めて、悲しみのズンドコにいる時から、優しく声を掛けてくれて憧れでもあった青葉さんに、こんな風に評価してもらえるとは! 人生ってなにが起こるかわからんね。まあ、異世界にいった時点でもうよくわからんがね!
俺は手提にそれはそれは綺麗な仕事着を入れてもらって、手渡される。
「今日は少し混んでるね、次も予約してから来ますわあ」
「その方が良いかもね? 最近はうちも色んなとこに支店を出して、すごい頑張ってるからさ。雄ちゃんには負けていられないね」
そうやってウインクをする青葉さん! 青葉ちゃん!
こう、何だろうね。
元気のある頼りがいのある女の子っていいなあ。
たぶん、こっちの世界にいたら……陸上部とかの部長さんかな? キュッと引き締まっているのに、出る場所はちゃんと出ている。
そうか、あの子もこの店の看板娘みたいなものなんだなあ。
がってんがってん!
「ありがとう! まあ、俺が手掛けるんだ! まだまだまだ! 伸ばしていくよ!」
「いやあ、すごいわよね~。まだ若いのに」
「お前もだろがい!」
「青葉さ~ん!」
「青葉さんちょっとお」
と、色んな人達が呼んでいる。
「は~い、今いきまあす。ちょっと話し込みすぎちゃったみたい」
それもそうだろう。
いくら予約をしているから早く受け取れるとはいえ、待っている方からしたら「はよせえや!」と言われてしまう。ちょうど青葉さんも呼ばれたし、俺も戻るとするかなあ。
そうして踵を返そうとしたときだった。
「ああ、そうそう。雄ちゃんね」
「んあ?」
いきなり呼ばれて、情けない声になってしまう。
「こうやって話題になるのは良いけども……、こういう時に限って、変なのがやってくるからね?」
「あはは! 考えすぎだよ!」
ちょっと難しそうな顔をしたけれども、青葉さんはすぐに顔を崩して「じゃあね」と手を振ってくれた。
それだけで幸せでございまする!
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竜照庵ももう近い。
マイホームが、だんだんと見えてくる。
竜照庵という味気のある文字が見えてくる。この看板が視界に入れば、もうすぐだ。
はたから見ればへったくそだけども、こう遠くから見たら味があるように見えるのはなんでだろう。
よし、もう着いt…
「ちょっとあなた!」
「へ?」
急に話しかけられたので、思わず阿保みたいな声が出てしまった。
「あなた! 畑山雄一ね!」
「はあ」
やたら甲高い声の人。
しかし、振り向いても誰もいない。
視線をすーっと下に向けると……いたああああああああああああ!
って、あれ?
この純白の衣装って。
これは教会の人では?
「浄迎の人?」
「そうよ! 雄一! あんたに物申すわ!」
お、なんだなんだ……
と、人がこちらを見ている。
な、なんだこの人は! 甲高いアニメ声なので、とにかく目立つ。そればかりか、声がまあでかい!
これで気にするなって方が無理な相談だ。
「雄一……見つけたわよ!」
ふふふ、と意味ありげに笑っている。
なんだこのちっこいロリっこは……。
そこで青葉さんの話を思い出す。
「変なのがやってくる……変なのが……」
こういうことだったかああああああああ!
白昼堂々、それも休日に! 俺は変なロリに何故か標的になってしまったのだった……。




