13話 旅立ちをする人とアイドルの力
「ほうほう。それでこれは、そういうことってんじゃな?」
今日もおっちゃんはため息を吐いていた。
手で串を持ち上げては、台に引っ掛ける。そして焦げ目がつくかどうかというタイミングで、くるくると回している。
俺も高校一年生の時に文化祭で確かそんなことをしてたっけなあ。
そんなに難しいものなのだろうか。おっちゃんは、団子の柔らかさは俺にしか出せない! と豪語する。
まあ、俺には確かにその食感を出すのは難しいと思う。
「ええ、まあ……みたいっすねえ」
今日は朝から満員御礼。
ライブも最近はやれておらず、若干ではあるけれど落ち着きを取り戻しつつあるという時だったにもかかわらず、この状態だった。
そしてそれは今朝から予想していたことでもあった。
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「おいおいおいおいお」
俺はわが目を疑った。いや、正確には、これは間違いなのだと思うようにした。
しかし、そこにはしっかりと書かれている。
『次世代の娯楽か! アイドルというカタチ!』
新聞の二面に、でかでかと『アイドル』という文字が浮かんでいる。
今現在アイドルという言葉を使用しているのは俺たちしかいない。
いわば、造語みたいなものとして扱われているからだ。
先週の取材インタビューなんて、そこそこ『町で話題のあの人!』みたいなもので、あさりとした内容なのだと思っていた。
にもかかわらず、右一面の上半分を、俺たちが独占しているといった状態だ。
デカデカと静奈ちゃんと雪芽さんを、流れ星を散りばめたような素敵な女性だと表現していた。
「なになに? 死ぬまでに会いたいあの子……やだあ、雄一ぃ。これってあたくし達のことを言っているのかしら?」
「まあ、そういう、ことなんでしょうね……」
死ぬまでに会いたい人、かあ。
良い言い方をしたもんだと思う反面で、いかにも新聞の記者っぽい過大表現だなあとも思う。
もうちょっと何か言い方もあるだろうよ!
「わわわ……。ええっと、アイドルの二人は夢と希望をくれる救世主であり、女神でもある……。そ、そんなあ。そんなこと!」
静奈ちゃんも、隣から覗き込んでは赤面している。
それもそうだろいう。
俺も、こんな表現をされた暁にはこっぱずかしくて仕方がない。
『ワンスの町の毘沙門天!』とか言われるのかなあ。
いや、それはそれで結構いいか……。
「しっかし、これはまたこれで凄いことになりそう」
「でも良いじゃない?」
「ん?」
「だって、雄一はわたくしたちのことを、ちゃんとアイドルって知らしめたかったのよね? だったら、良いんじゃないかしら?」
確かに、アイドルというもの。それに、二人のことを確実により知ってもらえるのは、ありがたい。それにしても、かなり大事になっているような気がするぜ……。
「あ! ほら見てください!」
そう言って静奈ちゃんが指をさす先には、俺のことも書かれている。
「なになに? このアイドルの仕掛け人であり、二人の世話役が畑山雄一氏。熱い野望と夢を聞かせてくれた。彼はプロデューサーと呼ばれており、いわば彼女たちの監督をしている。今までの行事や催しはこの畑山氏の手掛けたもので、どれも大成功を収めている……。そ、そして……」
「魔術師、だってえ」
雪芽さんがこれまた吹き出しちゃいますよ、と言わんばかりに茶化してくる。
そして、それを注意したいのはやまやまだけども、その言い方は本当にやめてくれい!
ただただ恥ずかしいだけじゃねえか!
というか「なにこいつ! 自分のことを魔術師って言ってるの?」 とか言われそうだ……。
なんてえことよ。
「いつからお仕事を変えたのかしらね~」
そう言って、雪芽さんはおどけて、開店の準備をし始めた。
自分のことの書かれた記事に、それはそれは満足したっぽい。
一応、首都ワンスの周りには『異形の輩』という、魔物? みたいな生物がいるのはいる。ただし、それも自警団や軍が簡単に討伐しているし、命を奪うような大型な生物もいない。
俺も最初話を聞いたときは、ファンタジーか! と喜んだものだが、実際は昆虫の進化系みたいなものでそんな大それたものではなかった。
そういったものを討伐する人たちを「魔術師」ということがある。これは畏敬の念を込めてのこと。
「変えてないよ! 大体、魔術師と呼んでもらえるはずの軍隊を解雇になっとるっちゅうにい!」
なんだこの毎度のクビ話は。
講談師じゃないんだから!
しかし、思った以上に紙面を割いてもらったみたいだった。
だからこそ、これは良いことでもあると思う。
ただ……こっちの本職、なのかな。そっちの方が忙しくなってしまうかもしれない、というかなる!
「いやあ、大変じゃのう。ここも増築でもするか?」
おっちゃんが言うのも無理はない。
流行ることにかんしては嬉しいのだが、常連さんたちが来られなくなってしまうかもしれない。そういう点をおっちゃんは大事にしていたからなあ。
「まあまあ、雄一くん。君にこの二人のことは任せるわい。じゃがのう……」
「は、はい」
「竜照庵の仕事を手抜にしたら承知せんからなああああああああ!」
おっちゃんにそうやって言われ、それを静奈ちゃんも、奥にいる雪芽さんも笑っている。
ううん、幸せだ。
でも、もっとこの二人のために頑張らなきゃ。
こうしたゆったりした時間って今では中々取れない。
それに関する寂しさはどことなくある。
だけれども、それが惜しいからといって立ち止まっていたら、それこそ自分勝手だと思う。
唐紐屋の旦那さんにも、助けてもらった。
そういった人たちの想いを無駄にしちゃあいけないからな!
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そして今日はてんてこ舞いの忙しさでもあった。
いやあ、こんなことになるとは……。
「中々話にいけなかったぜ、っとと。通してくれよ」
人ごみをかき分けて、カウンターで団子を運ぼうとしている俺に話しかけてきてくれたのは、バイエンスさんだった。
「ああ、前はどうも!」
「どうもっていうか、結構何回か来てたんだがな」
「ああ~……」
そうだっけ。
すっかり忙しくて、気が回っていなかった。
「俺も忙しそうだからよ。あまり話しかけなかったのよ」
「あれ? そういえば、イングシュさんは?」
「ああ、あいつなら。仕事を辞めてな」
「ええ! そうなんですか?」
「そうそう。自分で会社を設立するんだって言ってたな。なんか警備系の会社だったな」
「警備?」
「ああ。俺たちが橋を作ってる最中に、異形のせいで怪我したやつがいてなア。直接やられたわけじゃないんだが。それから、そういう事故っていうのか、そういうのを無くしたいってさ」
「新しい道を、選んだんですねえ」
「おうよ。でも、今でもしょっちゅう会ってるしな。それに、あいつはもともとそういうのをしたかったらしいんだ。それを、二人。そう、アイドルに後押しをされたんだって言ってた」
今確かに、バイエンスさんはアイドルと言った。
「見たぜ。頑張ってるな。みんな話してたぜ。お前は落第生で追放された身分だけど、多くの人たちはそんなのを気にしちゃいない。監督、アイドル仕掛け人、プロデューサーだなんて言われてるんだからよ」
「そ、そう……なんですね」
「おい、雄一君! 運んでもらわなきゃ、後がつっかえちまうぞい」
「あ、ああ! すいません!」
おっちゃんに言われて、ふっと現実に戻ってくる。
「じゃあな。また落ち着いたら飲もうや。まあ、お前のことだ。落ち着くこたあないだろうけどもな」
そうやって、日に焼けた体を照らしながら、にかっと大口を開けた。
あのイングシュさんを、二人が後押しをした。
夢を見せられたのかもしれない!
よし!
近くライブをしよう!
そして、もっとみんなに二人のことをアピールするんだ!
今日の記事の影響で、結構な人が来ている。
取材から一週間は、本当にライブが出来なかった。
このフラストレーションを、また使わせていただきますよ! 今やれば、さらにヒートアップ間違いなしだ!
そう考えると俺は、さらにエネルギーが湧いてくる!
うおおおおおおおおおおおおおお!
二人はそれぞれ、自分の役割を果たすばかりか、今もお客さんを笑顔にしている!
俺だってやったるでえええええ!
「竜照庵特別! おまちです!」
「ああ、どうも……。出来れば、あの子たちに持ってきて欲しかったなあ」
バイエンスさん……
俺は、まだまだ……。落第生みたいっすよ……




