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12話 本音と建前

「じゃあ、次はぷろで……ええっと、プロデューサーか。お話を聞かせてもらうとしましょうか」


「お、俺も取材されるんですか?」


「もちろん」


 そりゃあ当然でしょう、と顔色一つ変えずに、すんとしている。

 ええ……そういうもんなのお?

 まあ、でも俺が何かを話すにしても、少しこっぱずかしいな。


「ええと、少しね。そうそう。唐紐屋から聞いたんすよ。どうやらあなたは、昔軍隊をしていたとか」


「ああ、まあ」


 まあああああたその話しかいな!

 もう、この話はどこまでいっても、必ずつきものになってしまうのよねえん……。


「何でやめたんすか!」


 こいつうう! 嬉々としてそんなことを聞きおってからに!

 しかし、しかしだよ。

 ここは見栄を張っていても仕方がない。こういう時はね、謙虚になるしかないんだからね。

 まあ、特にあれだ。こうやって報道の人を相手にしてるんだから、それは猶更だ。

 こんなインタビューされるなんて陰キャだった俺には、もう考えられすらしなかった出来事だ。


「知ってて聞いてます?」


「一応は! でも、一応裏は取っておかないと。それがゴメルド流っっすからね」


 まあ、そういう人は……悪くないのかな。

 ちゃんと取材をして言ってくれているのだから、存外悪い人ではないのかもしれない。

 でも、それならこういう話は二人のいないときにして欲しい!

 もう既にないけれども、威厳というものがあるから、うん。多少ね。


「そうですよ! まあ、自分があまりにつかえなくて……。へへ、どうよ。身についたのは、何を隠そうお盆でたくさんの料理を運ぶというものですわ!」


 暗黒微笑というものがあるのなら、まさに今の俺みたいなことをいうんだよ!

 ああ、この二人にこんなことを話さなければならないとは。

 静奈ちゃんは少し、俯いて、それでもパッと俺の方を見てニコッとしてくれる。


 雪芽さんは、そんなみじめな俺を見て、くすくすと手をあてて笑っている。

 まあ、この人にはあまり話をしていないし、まあそれは良いか……。逆に雪芽さんに本気で同情されてしまったほうが実際にはダメージがでかいかもしれない。


「ほうほう。それで今はこっちで、その、ええと。歌う人の」


「ああ、アイドルね!」


「そうそう。それっす」


「あ、そうだそうだ!」


 俺はせっかくだからと、この際にあるお願いをしてみようと考えた。


「あの、これって記事になるんですよね? だったら、そう、この名称というか。彼女たちのことは、アイドルっていう風に言ってあげてください」


「ほう? いや、まあその名称というかですね。いまいち、歌手とそのアイドルっていうのの違いが分からないんですよ」


 ああ、確かにそうだ。

 この世界には娯楽がなかった。だからこそ、そういうことは分からないんだろう。

 しかし、俺としてもアイドル好きではあったが明確にこれという答えはない。


「まあ、諸説。というか、俺の意見だと、彼女たちは歌だけをするんじゃない。もちろん、歌うだけじゃなく色んなものを披露、みんなに見せて夢や元気を与えるんです。踊ったりとかね。時にはああやって、衣装を着る見本というか、そういう人になったり。多様にわたります」


「ほほ~、まあ歌手とは違って歌うだけじゃないと」


 さらさらと書き始めた。


「まあ、安心してくださいよ。なにせ、うちの報道力はそれはそれは高いんすからね」


 本当かよ~、うさんくせえ、と心なしか思ってしまう。

 それでも、何人かの人がこの二人のことをアイドルという定義で認識してくれたらそれで良いかなと思う。


「じゃあ、この二人に出会ってですよ? 率直に、どうです?」


「どうですとは?」


 得心しなかったので俺はそう答える。


「ああ、要するに。静奈さんと雪芽さんに出会って、このアイドルをして。何か変化がありましたか? ええといい意味で、です」


 こうやって言い方を変えるあたり、この記者は優秀だともう。

 値踏みをするわけではないし、人生のキャリアは圧倒的に向こうが上なのだけど、こっちをしっかり考えた物言いをしてくれる。


「そうですね……」


 二人が、優しい顔をして、何を話すのかと期待して待っている。

 うう、まったくもってやりにくいぜ。


「やっぱり、こういうアイドルっていうのをやろうって言いだして。それに付き合ってくれて、とても嬉しいですよ。でもね」


「でも?」


「はい。それ以上に嬉しかった、いや。かった、て過去形にするのは変ですか。いやあ、もう本当にね。さっきも俺話したじゃないですか。もう軍人になったぞーって。まあ、色々あって俺もワンスの町に来たんですけどもね。そうして、夢見ていたらもうお前はいらないって言われて。今ようやくここで自分の力を活かせる場所が出来たなと。」


「それはプロデューサーさんには良かったじゃアないですか」


「いやまあ、それでもね? ここは保険もないんですよ。もう真っ黒な職場なんです。これは記事にされたら少し困っちゃうな。でも、そうやって二年間やってきて。このまま終わっていくのかなあとか思ってて」


 結構がんがんと話しているので、途切れるタイミングがあまりない。

 それでも、この二人には感謝じゃないけども、知っていてほしいと思う。

 俺の二人への気持ちを。


「でも、この二人が来てくれて、なんというか、変わりました。俺は二人に、自分たちの中にあるアイドル的な要素、そうですね。みんなを元気にすることが出来る特別な力、それがあるんだって気づかせてあげたいって。それで、色んな人が元気になるし、夢も見られると。まあ、静奈ちゃんは歌いたいっていうことも話してくれてましたけども」


「ほっほ~! んいやあ、熱い! 熱いよ!」


「雄一さん」


 静奈ちゃんが百点満点の笑顔で俺を見つめる。


「本当、かっこいいんだか悪いんだか。頼れるんだか、頼れないんだか。わからない人ね」


 仕方のない人っという風に笑って見せる。

 うう。なんか面目ない! すっごい自分で話しててこっぱずかしい!

 こ、これ記事になるのかな……。


「いやあ、本当にプロデューサー、演出家雄一は二人のことが好きで、自分もまた彼女たちに……?」


「はい。夢を見せてもらっていますよ」


「じゃあ、聞いていいかい?」


 急にゴメルドは親し気に、フランクに話しかけてきた。

 もうお前のことは分かったぜブラザー! ということなのか……? いまいち慣れない!


「どうぞ」


「雄一は、二人。アイドルをどうしていきたい?」


「それは、目標ということですか?」


「そうですね!」


「最終的な?」


「うーん、まあはい。直近の目標も、当然聞いてはおきたいところですが。せっかくそう言ってくれたんだから、そっちのことを話したいんじゃないですか~?」


 こっちのことはお見通しってことかい!

 

「まあ、そうですね! 将来は!」


 みんなの視線が一斉に集まる。


「世界一のアイドルです!」


「世界……一?!」


「はい。この子たちがいたから元気がもらえたーとか。そう言ってもらえるようにってことです! そのためには、ワンス城でこう、国民をたくさん集めて歌ったりとかいろいろと!」


「そうなれば、みんなあなたも見に来ますよね」


 ゴメルドはそう話した。

 ここで言った、『みんな』とはきっと観衆のことではない。

 きっと、俺と同期の軍の人たちのことだと思う。


 そう、だなあ。

 彼らに、俺がいま何をしているのか、それは分かってもらいたいな。でも、あくまでも前面に出るのは彼女たち。俺は裏方でサポート出来たら……良いんだよ! ちくしょう!


「んじゃあ、良い話も聞けましたし。そろそろ失礼しますね!」


「今日はありがとうございました」


 本当に良かったと思う。

 普段は言えないことも話せたし、自分の中で何が最終的な目標なのかも言うことが出来た。

 彼女たちは、俺のその無謀とも思える話を驚きも、否定もせずにうなずいていた。

 ありがたいと思う。



 全員でゴメルドさんを見送った。


「あんな熱い気持をうちに秘めていたんですね?」


「ほんっと。恥ずかしくないのかしらね~?」


 と二人は最後まで俺をからかっていた。

 しばらくは、このネタが続きそうだなあ。


「あの取材は来週くらいに新聞として配られるらしいから、楽しみにしておこう!」


 そういって俺は二人に言った。

 手を突き上げて。それはもう高々と。

 みんながあれを読んで、どう思うだろうか。

 い、今から考えると緊張する……。


 まさかこんな大きな新聞から取材がきて。

 唐紐屋さんにも感謝しないといけないな。


 もう既に虫の声が聞こえ始めて、夜も更けていることに俺たちは気づかされた。

 また明日からは、打ち合わせをしたり、おっちゃんの新作メニューの開発に協力をしなければならない。


 まだまだ、夢の実現までの道のりは長く感じるけれど、それまでの日々も、すごく実は良いものなのだと思う。


 俺は気恥ずかしくなって、そのまま自分の布団へとダイブした。


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