11話 初インタビューで…?
「ええっと、なになに? ワンス日日新聞? なんじゃこりゃ」
俺は差し出された名刺をしげしげと眺める。
うーん、しっかりとした素材の紙をしている。名前には、ゴメルドと書いてある。
名前の横には、社章だろうか城のマークがついている。
「どうですか? あの、実はですね我々はサンズレングループの会社なんですよ」
「ああ、確かに聞いたことが……」
あれから忙しくなった竜照庵に、一人の男が汗を垂らしてやってきた。
注文をするときにも、静奈ちゃんと雪芽さんをしげしげと見ていた。二人の責任者は誰なのか、と静奈ちゃんに話したそうで、おっちゃんを呼んだらしいが、そうやら俺のことを男は呼んでいたらしい。
なら最初から俺を呼ばんかい。
「そうでしょ! そりゃあもう、天下のサンズレンですよ! 不動産に報道! なんでもやってますからね! それに読者だっているし、影響力はかなり大きいんですからあ。あれあれ、先日汚職事件で失職した政治家いたでしょ? あれ、キンス議員。あの報道を最初にしたのも我々の新聞だったんすからね?」
へえ、としか言えない。
それが何なのだとも思う。
いや、実際に新聞自体はとっているはずだけれど、まあほら現代社会の授業があるわけじゃないし、そんな特別に世間に関する興味もなかった。いや、今はあるんだけども……。
それもあって、新聞はここに来てからはまともに読んだことがない。
「で、要望かなんか、あるんですか?」
「いや、なあに。あの二人の女の子についての話でね?」
んまあ、ここに来るなんてそれしか理由はないわな。
「あ、あの! 俺は二人とはやましいことはありませんよ!」
「え! やましい関係なんですか! それは聞き捨てならん!」
「いや、聞き捨ててよ! 何その解釈! 本当に関係ないですから」
慌てて俺は疑惑を否定する。
その慌ただしさが余計に怪しいと言われてしまえばそうなのかもしれないがね。でも、これだけは明確に否定しておかねばならない! 報道関係とは仲良くねって、確かテレビで前に誰かが言ってたしなあ。
「はいはい、今回はそんなんじゃないっすよ。いや、にしてもこの団子うまいっすねえ。うちにはこういうのを食す文化なんかないんでね。いやあ、色んなものがあってこのワンスは良い! これぞ首都って感じがしますよねえ」
なんともまあマイペースな輩だぜ。
「まあ、そう言ってもらえたのなら嬉しいです。おっちゃんも喜びますよ。ああ、向こうにいる人ね。調理してる」
「いやあ、それでね? 見ましたよ」
「ええ、何をっすか」
「審査会の記事!」
「ああ!」
唐紐屋さんが優勝した、審査会の話だった。
確かに、大旦那の話では結構界隈では有名だとか言うことだった。
「あれは、全国的にも話題でしてね。その審査会の記事を書いたやつがですよ、その優勝した唐紐屋の服を身にまとっていた女性が何よりもすごく良かったっていうじゃないですかねえ!」
ああ、道理で最初から二人を見ていたわけだ。
それで合点がいく。
「だから、それをぜひとも記事にしたい、そう思ったわけですよ! 美人な二人が何者なのかってね。いやあ、さっき唐紐屋にも行ったんですな。そうしたら、竜照庵って茶屋でなんてったっけ、ええと、そう。アイドルか。そういう組? みたいな人たちがいて、依頼をしたって言うじゃないですか。そんな面白い話があるってんならねえ、行かないと損でしょう! 記事としても美味しいわけで」
なんか少し釈然とはしないけど、唐紐屋さんも二人については褒めてくれたみたいだし、それが功を奏して、こうした記者が来てくれたのはまたとないチャンスだ!
ただ、ただだよ。
目の前で今、団子を、三本目の団子を食している記者を信用しても良いのか……。
でもあれだ、人を信頼しようってどっかの偉い人が言っていた気がするので、とりあえずはそれに従っておこう。
「じゃあ、仕事が終わったら。二人を呼んできますよ。さすがに今はまだ……」
と言って、後ろをちらと見る。
あと数組が並んでいて、座席も埋まっている状態。
取材があるからと、そっちを優先してしまってはいけない。
謙虚な姿勢! これって大事だから!
「ああ、大丈夫よ。こっちは邪魔にならないように、二人の働きぶりでも見てるから。それは良いですかい? こういうのも、取材対象の一つになるんでね」
「それは大丈夫っす! たぶん!」
おっちゃんの許可は取っていないけど、どうせ反対はしないと思う。
俺も、持ち場に戻る。
またどうせ俺が運んでいくと、お前が来たのかいって顔で見られるんだよなあ。
同時に記者のゴメルドも席を立って、入り口の横の柱にもたれるようにして二人をじっと見ている。
二人もあの視線はやりづれえだろなあ。
ゴメルドは不思議そうに見ている静奈ちゃんや雪芽さんに、自慢の髭を撫でながら会釈をする。
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「それじゃあ始めましょうか!」
ゴメルドはペンを手にして、メモを取っていく。
その手際の良さから、中々の手練れだと俺は見抜いた! たぶん……ちゃんとした記者なのだと思う。
一応、俺は監督者として同席している。
おっちゃんは、報道なんて興味ねえ、と話して皿洗いをしている。本当は俺も手伝わなければならないのだけれど、あえてこっちに行かせているということは、何かと不安なのだとも思う。
ツンデレかよ!
「ああっと、まずはそこの。ええと静奈さんでしたね」
「あ。はい! はい!」
おーおー、上ずってるよ。
声がもうド緊張してるよ。
人前で歌うのは大丈夫なのに不思議なもんだなあ。
「すごいっ緊張してるね。肩の力抜いて良いから」
あはは、とさすがのイケイケ記者であるゴメルドの方が委縮しているようだった。
眉をへの字にして、優しく微笑みかけている。
雪芽さんはどこか楽し気にしているのだけは少し気になるけど、静奈ちゃんのああいうのを見るのも好きなのだと思う。小動物的で可愛いからなあ。
「は、はい!」
「じゃあ、静奈さんだっけ。なんで君はこの町に来たの?」
「自己鍛錬です! 田舎の町に住んでいたので、首都に憧れもあったんですが……。どこか離れた場所で、何かがしたいって。えへへ、話してても結局よくわかりませんよね」
ほー、とゴメルドは得心したかのような表情をしていたが、少し静奈ちゃんをぎろりと見ると、すぐにその顔を元に戻した。
「良い心がけじゃないですか。俺もね、田舎に住んでて、どうにかこんな場所じゃ終わらねえぞって。それで都会に出て、栄転して本社で働いてんですよ。いやあ、一緒ですな」
んなこたあ誰も聞いちゃいねえよ、と思った。
ただ、こうして話をしてあげることで、静奈ちゃんの緊張を解しているのだと予想した。
「どう? こういう活動していて、楽しい?」
「はい! たのしいです。最初、歌うのはいつかしたいって考えてました。ああ、それは趣味でってことですよ? でも、それを叶えてくれて。嬉しいですよ」
「そりゃあ何より。こんなにきれいなんだから、さぞやモテるでしょ」
「そんなこともなくて。田舎は女の子とか多かったので。あと、人見知りですし」
えへへ……っと、笑うその恥ずかしそうな顔!
こんなに可愛いんですよもう!
ゴメルドも、その笑顔に少しドキッとしたのか、口早に質問を続けていく。
「どう? こうやってみんなから可愛いって言われるのは? 要するに、そりゃそうよ! って感じなの? 俺はこうカッコいいわけじゃないからさ。その可愛い人の気持ちってのが分からないわけよ」
「いやいや。そんな可愛いとか、美人だなんて思われているのかすら……。自分でもそんな風に思っていませんよ。隣にいる雪芽さんは美人で良いなあって思いますけどね」
おお、とか言いながらゴメルドはペンを走らせる。
そして、隣に座る俺の方に小さな声で耳打ちする。
「これ、本心で言ってるんすよね? 出来すぎじゃないっすか?」
「だから、そういってるでしょう。だからアイドルなんだよ!」
「なるほどお。道理で唐紐屋があんだけ推すわけだ」
え、そんなに良いこと言ってくれてたの?
そして、次は雪芽さんの方にも質問が飛ぶ。
「じゃあ、その美人な雪芽さんっていうのかな。あなたは、どこの出身なの?」
「そうねえ? あの世かしらねえ?」
「「は?」」
俺とゴメルドはほぼ同時に声を出した。
雪芽さんは、あらどうしたのかしら、という顔で俺の方を見つめている。
しまったげえええ!!!
この人は、なんでもかんでも、結構あっけらかんと話しちゃう人だったあああああああ。
いやあ、あたくし幽霊なんですよ~、って話したあかつきには、ただの痛いだけの女の子になってしまう! こんな美人なんだから軌道修正をしなければならない!
「あの世、というかね、まあここだよね! うんうん!」
「そうねえ、ずっと物置に入ってたから。まあそうなるのかしら?」
「物置に!?」
あかん!
別の意味でこの記者が燃えに燃えとる!!!
これじゃあ別の話になってしまああう!
「す、好きなんですよ! この子は! そういう場所が! な! な!」
静奈ちゃんにもそれとなあく視線を送る。
静奈ちゃんは、はいはいっていう感じで俺の方を見ている。
「いやいや! 雄一さん! そんなこと今までなかったじゃないですかあ!」
何をいっとんじゃあああああああ!
このあとも、ゴメルド記者に誤解を解くことでいっぱいいっぱいだった。
こ、この二人にはマスコミ対応もしっかりと学ばせなければならねえな……。
まだまだ、このインタビューは続きそうだった。
「次は雄一さんにも、話を聞きますんで」
「え……」
お、俺にもかよおおおおおおお!
俺の今の精神的ライフポイントはもう無いに等しいというに!
だが、ここは俺がしっかりと見本を見せてやろう! うん、それしかないな!




