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10話 審査会とアイドル!

 唐紐屋はホクホクだった。

 あの後、審査員の人がやってきた。俺は別室待機だったんだが、やたら声が上がっていたのでこれは上手くいったな! と合点していた。


 帰る時も、唐紐屋の旦那は、優勝は決まったようなもんだ! と、息まいていた。

 それは少し考えが速いんじゃないかと俺は思ったが、まああの艶やかな姿を見てしまえば、そう思えてしまうのも無理はない。


 そして休みの日を挟んで数日後。

 夕食後のことだった。

 唐紐屋の旦那が、ニコニコしながら竜照庵にやってきた。


「若けえの、いるかあ!」


「ほれ、何か言って来とるぞ」


 おっちゃんは、またかといった風にため息を吐いた。

 どうやら、旦那は勝手に勝手口を開けて入ってきてしまったようだ。

 ちょっと不用心な気はするが、まあ、それはこの町の良い所? なのだろうか。


「結構遅いっすよ、もう」


 俺はおっちゃんと後片付けをして、そのままこれまでの話をしていた。

 お給料を上げてほしいだとか、保険には入れてくれとかそういった話をしていた。

 毎回おっちゃんは、お金がないからねえ……とウソ泣きをする。

 くっ! これではブラック企業じゃねえか!


 後ろを振り返ると、そこには中年のお手本のような旦那が立っていた。


「ようさ。若けえの、良いねえ。それにあの二人も、良いじゃねえか。よくやったな、源三郎よ」


「そうじゃな。でも、お前にはどう足掻いたって勝てっこねえよい」


 おお、何か大人の話をしている。

 事業主同士の何か、熱い目くばせがかっこいいぜ!

 そりゃあ、おっちゃんだって、店を出している以上は同業じゃなくとも、より繁盛させたいという気持ちもあるだろうしなあ。よく言うぜ!


 バツが悪いのか、おっちゃんは


「もう二人も風呂あがったじゃろ。わしも、もらってくるわい。あんまり、長くならんようにな」


 一応釘をさしておっちゃんは、上へあがっていく。

 これはたぶん、俺に話しているようで、その実は旦那に言っているのではないかと思う。


「で、どうだったんですか? 結果は出たんですか?」


「おう、出た。出たも出たりだ」


「で、ちなみに……どういう風で?」


 俺は不安と期待を入り混じらせながら、すっかり暗くなったであろう夜空を想像しながら天井を仰いだ。


「優勝だ! 満場一致だ!」


「ほ、本当ですか!」


「ああ、本当に良かった。今までも、そういう好機はあった。しかしだ。しかしだよ。あと一歩がどうしても及ばなかった。それが、てめえに言われて観に行った、ええとなんだ。らい……」


「ライブですか?」


「そう、それだ。そのライブてえやつを観て、まさかだ。これはと思った。そしてどうだ。やっぱりなあ、着ている子が映えりゃ品もそりゃ良くなる」


「それにしても、唐紐屋さんの商品が良いからですよ」


 実際にそれはそうだと思う。

 この審査会は、年に一度行われるものらしい。まず、老舗や新興のお店でここぞ! というところだけが審査の対象となるらしい。そこに選ばれただけでもすごいし、そこが仕入れて、手を加えたものだ。ものが良くない訳がない。


「いやあ、正式には明日が発表日なんだけどよ。そんなのあ良いだろうって、あの二人には伝えたって構やしねえって向こうさんに言ってやったのよ」


「はは、そういうことでうちにわざわざ」


 その一報を、とにかく早くしたかったのだと思うと、無性に嬉しくなった。

 どこか子供っぽいあどけなさを感じる。多くの人を動かして、老舗の看板を守っている人でも、こんな人のことで一喜一憂をするのだと思うと、小隊長の顔が思い浮かんで消えなかった。


「そうよ、二人はいるかい? これから、うちのことがよく取り上げられる」


「雑誌、みたいなもんですか?」


「そう。それだ。もうすぐに出るんだ。そん時は、若けえのにも見せてやっからよ」


「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと二人を呼んできますね」


 よほど、早く伝えたいのだろう。

 大旦那は手を揉みながら、たかが上へ行くだけなのにこっちへ手を振って合図を送っている。

 な、何か不気味な気がするぜ……。


______________________

___________

____


「あの、それは……一番ということですか!」



 静奈ちゃんは目をときめかせている。

 こう、その目と言い、子犬かのようだあ。かわゆい。

 両手を合わせて、喜びを表現している。


「すごいじゃない!」


 雪芽さんは、お風呂上りから髪をあまり乾かしていないのか、まだ水が滴って湿っているような感じで

非常に魅力的だ。いやあ、美人だあ。


「そうだ。この前は急にそっちのに頼んですまなかったな。引き受けてくれて改めて感謝してるよ」


「そんなことないですよ! 本当にまさか、あんな素晴らしいもの……うちの近所になかったので。まさか自分が着られるなんて思ってもみませんでしたよ!」


「そうねえ。わたくしも、ここに解放されてから。雄一には驚かせられっぱなしね」


 顔だけをこちらに向けて、ふふ、と目を細めて笑いかける。

 ど、どきどきしちゃあう!


「そう言ってくれりゃあ、話は早い。プロデューサ? とかなんとか言ったよな。前にそっちのには話したんだがな。素材は、それだけじゃあ活きることは出来ねえ」


「はい! そうです。わたしたちは、雄一さんがいてくれるからできたことです。まだ、その雄一さんの言う、アイドルになれているかはわかりませんが……。あとおっちゃんさんも、わたしたちを支えてくれてます」


「なかなか、良いことを言うじゃない! まあ、頼りないのには違いないんだけども、ここぞって時には雄一はちゃんとするのよね」


 なんだよう!

 今夜は俺を励ます会、でも開催してくれているのか?!

 

「分かってる子たちだな。聡い子じゃねえか。そこでよ」


 と前置きをすると、また勝手に戸を開いて、男たちを入場させた。


 うわあ。

 あのでっかい人たちだ。そう、護衛の人たちだ。屈強な感じで、いかにもその筋、みたいに見えてしまうぜ。

 そして、彼らの手には……この前彼女たちが着ていた物が。


「くれてやる」


「へ?」


「二人にくれてやるってんだ」


 そう言うと、机の上に、どんと着物を二着置いた。


「い、いやいやいやいやいや」


 こんな展開はないでしょうよ!

 なんてことなのよ! あんだけ高そうで、実際にかなり高いものを!? それにこれは審査会の優勝作品でもあるものだぞ……。


「だ、ダメですよお」


 ごにょごにょと、静奈ちゃんは隣でひそひそと話す。

 あ、当たり前ですよね……。そんで、俺もそれは理解している。


「あたくしは欲しいんだけどねえ、でも、さすがにこの恩は返しきれないわよお? 雄一ぃ」


 気づいたら、二人とも少し離れた位置にいたのが、急に俺のそばに来て両耳で語り掛ける。

 確かにこれがあれば、より煌びやかなものになる。

 彼女たちの魅力を、より伝えられるものになる。

 アイドルは衣装が大事なんだからね……。


「そりゃあ無理ですよ、こんなに高いもの」


「いんや。くれてやるっていうんだ。値段の良しあしじゃねえ。こいつを誰が着こなせるか、ていう話しだろい?」


「そ、それは……」


「なんだ。善意っちゃあ善意だがよ。これは俺っちの先行投資でもある。若けえのを俺は後押ししてやりたい。そして、この子たちがさらに有名になったらよ、そうしたら唐紐屋はさらに商売がよくなる。考えてもみな? 確かにこのブツは値段が高い。だが、審査会に優勝したら、それ以上の利益が見込める。それに一切報いないほど、唐紐屋は廃れちゃあいねえ」


 とはいえ、こんなに高価なものは……。


「うううううん」


「頼むぜ」


 そういうと、大旦那は頭を下げた。

 その姿に、俺は胸を逆に打った。


 これだけ成功している人が、年も若くて、それに無能呼ばわりされていた俺に頭を下げている。


「もう、頂いたほうが……良いんでしょうか?」


「こんなに、覚悟をして」


 それは確かだった。


「分かりました。旦那さん。これは、ありがたく頂戴します」


「おう、それで良い」


「代わりに」


「ん?」


「必ず、この子たちを成功に導きます。そして、必ずその時に、これを着て舞台に立たせて見せます!」


「ふん、良い面構えじゃねえか」


 そういうと、俺と旦那はどちらからともなく拳を合わせた。

 それが男の友情だ!


「期待しているぜ」


 と言うと、そそくさと外へ出て行った。

 二人に、そっと笑いかけて。


______________________

_________

__


 翌日、唐紐屋が審査会に優勝したという朗報は、瞬く間に広がっていった。

 それと同時に、そのモデルでもあった謎の美女がいたことも話題となった。

 それが、うちの静奈ちゃんと雪芽さんじゃないかということは、特徴からすぐに分かってしまった。


 結果


「いそがしいいいいいい!」


 一日中、目が回る忙しさだった!

 おっちゃんも喜んでいるし、まあ、これは良いのかな……! たぶんな!

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