僕が私になった日
ガズさんに案内されてたどり着いたのは城の地下だった。
薄暗い中、ガズさんが壁にかかるランタンに火をつけながら進んでいく。
明るくなっていくほどに、不気味な雰囲気がますような気もする。
そして最奥にたどり着くと一つの扉があってその中へと入った。
「ここで行う。まあ方法は、ただここにいてもらうということなんだが、人に見られたくないということもあるだろう。なので個室に入っていてもらっても大丈夫だ。ひとまずこの扉からはでないでくれ。中途半端な変質が一番危ういのでな」
ガズさんはそういう。
中は至って普通の部屋だ。地下ということで窓がないせいか、牢屋とかを思い浮かべてしまう雰囲気はあるけれど、机や椅子があってランタンが壁かけられている普通の部屋に感じる。
壁に別の扉があって個室があるということを除いてだけど。
「外から鍵をかければいいのでは?」
「もちろんかけるが。変質時点で筋力が上がりすぎて物理的に壊す人もいるのでな……」
まるで昔、そういう事を経験したようにガズさんは言った。
「他にも召喚した人が……?」
「あ、いや、私は今回が初めてだ。ただ、仮にも魔族なのでいま戦争をしている国にくらしていた時期もあってそこでな。召喚理由は今とは全然違ったが、まあそれはいいだろう!」
ガズさんは何かを誤魔化そうとしながらそう言って、部屋の中央に人の頭程度の大きさの水晶とそれをはめる台座を設置した。
さらにその台座を囲むように鉄格子がつけられる。
「これを壊したからどうにかなるものでもないが、念のためにな。では、これから方法を説明する……といっても、先程言ったとおりこのフロアにいてくれればいい」
「どういうことなの? あたしはてっきりカプセルに入れられるだとか、薬を飲むだとか、適性の魔族に襲われるだとかまで想像してたけど」
「本来の同族化同種化は重ね重ねその方法をとるやつらが多いのであっている。ただ、適性の姿にするということは、ある意味で魂に体を合わせるという行為になる。この宝玉からでる魔力にはそれを促す力があるというわけだ」
「それだけ聞いていると、これを使わなくても場合によってはっていう雰囲気を感じるんですが」
「まあ、それも正解だ。人間が魔族の領地の中でもかなり奥地の魔力が濃い地域に長く滞在していると、適性の姿が人族でなかった場合は変質してしまうことがある」
「そうでしたか……ってことは、これはそれを強制的にってことですか?」
「そういうことだ。ちなみに同族化等の場合は、魂に自分たちの種族の魔力を刷り込んで適性に無理やり染めるという方法がとられている。たまにそればかりではないこともあるがな」
案外、しっかりとした理由とか法則みたいなのがあって、成り立ってるんだな。
まあそれでおも襲ってる時点で理不尽きわまりないとは思うけど。
「それでは始めるとしよう。変質は早い人は早いが、大体は半日程度かかるので頑張ってくれ」
ガズさんはそう言うとその宝玉を光らせて鉄格子を閉じる。そして部屋をでていった。
最後にはしっかりと鍵の閉まる音も響く。
「えっと……あれだ。あたしらはとりあえずここにいるけど、深山はあれなら個室とか言ってたし。使ってもいいとおもうよ」
入江さんは、僕を気遣ってかそう言ってくれる。
「う、うん。それじゃあまあ、さすがにあれだし部屋にいるよ」
「覗き窓とかあるみたいだし話くらいはできるでしょ」
僕はお言葉に甘えて個室の1つに入る。
部屋よりは狭いけれど、2人用の小さな椅子と机が設置されていて、端には全身鏡と簡易的なベッドも用意されている。
宝玉を持ってきて設置しているところを見ると、これが目的で作られた部屋じゃないと思うけど何の部屋だったんだろう。
やることもなく、とりあえず椅子に座りつつ時間を潰す。
「うぅん、暇だね」
「だね~、現代がどれだけ娯楽に溢れていたのかわかる気がする」
「深山もそう思わない?」
「まあ、たしかに。こういう時……っていうのもおかしいけど、家で待ってたりしないといけないときもゲームなりトランプなりあったからね」
「そうそう。せめてトランプくらいあればなぁ……でも、それっぽいカードゲームくらいは探せばあるのかな? もしくはチェスみたいな対戦ゲーム」
「ありそう。わたし、そういう系は弱いけど」
「あたしにはいつも勝つじゃん」
「それは美香が弱すぎるだけだよ」
「えぇ~」
そんな他愛もない話で気を紛らわせる。
窓もないせいで時間間隔は微妙に狂い始めてきている気がする。部屋に入ってからどれだけたっただろうか。
そう思い始めたときだった。
急に胸が苦しくなってくる。
「っ……な、なにこれ……」
どうにか収まるまで耐えようと思っていたけれど、動悸が激しくなってくる。
「深山?」
「入江、さん……」
「深山? どうかしたの?」
「なんか、苦しく……あっ!」
そこで気がついた。
最初に混乱して頭から抜け落ちていたけれど、これが変質ってことか。
たしかに体力使いそうだ。
耐えきれずに体のバランスを崩して椅子ごと倒れてしまった。
「深山!」
鍵を締め忘れていたようで、扉が開けられる。
「入江さん」
「深山どうしたの!?」
「きた……かも。ベッドまで運んでくれない」
「わ、わかった」
自分でまともに起き上がれなくて、そのまま個室のベッドに運んでもらう。
「本当に大丈夫?」
「うん……ありがとう」
僕が礼を言うと何かを察してか彼女は個室から中央の部屋へ戻っていった。
苦しさが徐々にましていく中、体の中の何かがうごいめいているような不快感に襲われ始めた。
「なに……これ……」
僕の精神が限界がきたのか意識が徐々に薄れはじめて瞼がおりてくる。
最後に目に映ったのは、近くの全身鏡の中に映る少女のような顔の誰かだった。
***
意識が戻ってゆっくりを起き上がると、あの個室の中だった。
違う場所にいたらそれはそれで怖いけど、どれくらい時間がたったんだろう。
「んぅ~!」
一度背伸びをして体の調子を確認する。
動悸は収まってるし、苦しさも綺麗さっぱりなくなっている。
特に目眩とかもしないから大丈夫かな。
改めてベッドから降りて立ち上がってみる。
しかし、その時事件は起きた。
自分のズボンがずり落ちてしまう。いや、ズボンだけでなく下着含めて全てだ。
「あれ?」
そこで自分の腕を見て気づく。こんなに白くて細かったっけ。
下半身の方を見ようとすると、胸の肉が邪魔で見えない。
「胸筋なんてなかったはずなのに……」
なんとなく触れてみると、触られた感覚があり自分の体の一部であるとわかる。ただ、筋肉と比べられないくらい柔らかいし、少しもんでみるとビリビリとした感覚が襲ってくる。
「や、やめておきましょう」
これ以上やるとどうなるかわからなくて、一度手を止める。
そういえば上の服もぶかぶかで袖は萌え袖になってまくらないと手が隠れてしまっている。
「なんでこんなサイズがあってないの?」
何かがおかしいと思うけれど、すぐに確信が持てない。
そして部屋の全身鏡の前まで来て映っている姿を見たときに、はっきりと様々なことを認識した。
プラチナブロンドで肩をすぎるほどの髪の毛に、サイズが合わなくてゆるゆるになった男子制服をきた少女。しかし、その胸はYシャツを押しのけようとするくらいに実っている。
身長や雰囲気は高校生なりたてくらいといったところか。
一番特徴的とも言えたのは肌の色だ。雪と表現してもいいくらいに真っ白になっている。
「思い出した。私、魔族に……あれ? 私?」
色々と思い出してから自分の自然と変わっていた口調に気がつく。
「うわぁ……修正っていうか、そこまで影響受けるのね。いや、それ以上に私が影響を受けやすいのかしら?」
自分で女言葉を話していることに違和感を感じなくなっている。
男だった私はどうやら記憶以外はなくなってしまったといってもいいらしい。
「ってことは……やっぱりない」
Yシャツがサイズが合わなくて下半身にもかかるようになってて鏡じゃわからなかったが、股の間に触れてみると、生まれてからずっと一緒だった男はいなくなっていた。
「しばらくさようなら……あぁ、もう、仕方ないわ。今はそれより美香……入江さんと三枝さんよ」
何故か自然と名前で呼びそうになった。友達ではあるけど、女子の名前を呼ぶ度胸なんて持っていなかったはずなのに。
この体か種族についてガズさんにもう一度聞かないといけなそうだ。
「下は……もう仕方ないわ。サイズ合わないんじゃ」
一応、床に落ちてしまった服も回収して個室をでる。
「あっ、深山。起きた……深山?」
中央のフロアに戻ると椅子に座ってる1人の女子がいた。
ただ、見覚えがあるようでない。
頭に2本の角が生えていて、人間の耳の位置には動物の牛のような耳が存在した。そして強調される胸、手足は牛のような毛皮が包んでいる。その足の先まで見てみると蹄のようになっていた。
「そうよ」
「えっ、いや、ちょっと……口調」
「色々自分でもわかってないから、今はおいておいて……それよりごめんなさい。どっち?」
「美香。入江美香だよ」
「み……入江さんね。えっと、ミノタウロス?」
「そう……でも、胸がこんなに大きくなるなんて思ってなかったの」
入江さんは現在、上はYシャツのボタンも外して胸を露わにしている。というよりもYシャツをよく見ればボタンがなくなっていた。
辛うじてきつそうではあるがブラがその胸を支えている。
「三枝さんはどうしたの?」
「変化が始まった途中で、やっぱり見られたくないっていってあっちの部屋にはいっちゃって。あたしたちがほぼ同時に始まったからさ」
「私ってどれくらい」
「30分くらいだよ? でも、あんなに苦しくなることはなかったから何かあたしたちとはちがったのかも?」
「もしかすると、体の中の臓器とかが女性のものに変わったからかも」
「あぁ……あり得るね」
私の中での結論を伝えてみると、それなら納得できるかもという反応だ。
「まあ、でもそれなら確認しないと駄目でしょう?」
「いや、でも」
「多分、三枝さんの性格だとこっちからいかないとでてこないわ」
私は三枝さんが入ったという個室の扉をノックする。
すると、中で何かが動いた音がした。
「三枝さん! 大丈夫?」
「だ、だれ!?」
「深山よ。いろいろあったの!」
「み、深山君!?」
「恥ずかしがってるのかはしらないけど、ずっとここにいるわけにもいかないでしょう」
「そ、そうなんだけど……姿を見られたくないっていうのもあったけど、ちょっと別の問題がでてきて」
「どうしたの?」
「でられないの。手が上手く動かせなくて、扉も鍵も開けなくて」
ノブを回してみると、たしかに鍵がかかっている。
「じゃあ、ちょっと扉から離れてなさい」
「は、はい!」
私はそういった後に入江さんを手招きする。
「なに?」
「ミノタウロスの筋力なら壊せない?」
「そういうこと……まあ、見られたくないじゃなくて開けられないんじゃしかたないってことでいい?」
「それでいいと思うわ」
そう確認をした後に、入江さんは勢い良く扉に張り手をぶつけた。材質的に硬そうなので拳ではいけなかったみたいだが、扉というより扉を支える金具が壊れた。
「三枝さん?」
「み、深山君? わ、わぁ~可愛くなったね」
「三枝さんはその……たしかに扉開けられないわね。ハーピィ?」
「そうみたい。えへへ」
部屋に入るとそこには顔は変わらないけれど、大きく見た目は変化した三枝さんがいた。
髪の色がオレンジ色ほどになって、一番目立つのがその両腕だ。人間の腕はなくなって、大きな鳥の翼になっている。足も膝より下が鳥のようなものになっていて、羽などの色はオレンジを中心とした色だ。
「足使えばいけたんじゃない?」
「歩くのもまだなれないの!」
「美奈大丈夫……って、すごいことになってるね」
「う、うん。美香も……爆発したね」
三枝さんは入江さんの胸を見ながらそういった。
「う、うるさい……まあそれより、可愛いからいいんじゃない?」
「ありがと、美香」
「さて、感動の再開みたいになっているのはいいけど、ひとまず。ガズさんがくるの待ったほうがいいし、真ん中の部屋に移動するわよ!」
「「は、はい」」
私がいうと、なぜか2人はすこし圧倒されたように返事した。
その後、ガズさんが来るまでの間に、色々と現状わかる自分の体のことを話し合った。