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思わぬ適性と新しい友だち

「ま、まさか。淡い希望と思っていたが、現れるとは……」


 一度驚きの大声をだしたかと思うと、壁の方を向いてボソボソと自問自答を始めてしまった。

 ちなみに水晶の上に何か文字が浮かび上がったけれど、僕には現状読めない。


「あ、あの、これなんて書いてあるんですか?」

「む? あぁ、会話語の加護は召喚魔法陣に組み込んでいたが、読み書きは忘れていた……まあ、そこはいくらでも対応方法はある。それで、君の適性だが……手っ取り早く言えば『魔王』になる」

「えっ……?」


 思わず聞き返してしまった。


「『魔王』だ。まあ、この世界には魔王は多くはないが複数いるからおかしいことではない……しかし、魔王が仲間になってくれればいいとはいえ、希少なのでいないと思っていたらこんなにもすぐに……いや、すまない。これではまるですでに君が魔王になることを決めたようだったな。改めて考えてみて欲しい。ちなみに、種族としては……なにっ!?」


 魔王のところにしか最初目がいっていなかったのか、改めてみて再び驚いた。


「ど、どうしたんですか?」

「いや希少種族というか上位種の魔族【ファントムプリンセス】だな。女性しかいないアンデット系列の姫ともいえる存在だ」

「えっ、女性しかいない!?」

「まあ、性別もどうにでもなるから気にするな……とはいえ、選びにくくはなったかもしれんが、私個人の意見としては、是非力をかしていただきたい存在だといえる」

「わ、わかりました……考えてみます」


 僕はひとまずそう返事する他なかった。

 その後、入江さんと三枝さんも確認が終わってこちらへとくる。


「返事はすぐでなくてもいい。ただ、断りでもいいのでしっかりと改めて伝えてくれると助かる」

「わかりました」


 他の人達と入れ替わるようにして、王の間へと戻る。

 そして端の方へと移動して改めて話しながら考えることにした。


「えっと、2人は……あぁ、いいや。さすがに聞くのはデリケートだから」

「それいったらあたしら聞いちゃったんだけど。あの人が露骨に驚くから」

「だね~。それで、その、ふたりはどうするつもりなの?」


 三枝さんがそう聞いてくる。

 正直、迷っている。

 女になるということに対しての躊躇や戦いに巻き込まれたり帰れるときになっても元の姿に戻れるかを聞くの忘れたっていうのが断る要素だ。

 受け入れる要素としては、魔王という適性は素人からしても力のあることだけはわかる。それがあれば僕が生きていくことを考えると、とても重要な要素であり、知り合いくらいなら守れる力まであるかもしれない。それに希少種族だと言っていたし、姫といって驚くからには弱いとか大きなデメリットがあるということではないだろう。


「あたしは……複雑だけど、正直力は付きそうだから受け入れてもいいと思ってる。ただ最初に深山がって言ったけど、あの話を聞いたら深山に無理強いはしたくないから、あたしがやるからとかでは決めなくていいからね。男が女になるとか想像もつかないし」

「わたしは……役立てるかわからないし、すごい大きい違いがありそうなんだよね。だけど、人間のままだと何ができるかわからないし、それなら適性の姿にもなってできることをしたいって気持ちはある……かな」

「美奈……」

「美香だけに任せるのも辛いもん」


 女子同士の友情は強いな。なぜか、こんな時なのにそう思ってしまった。


「そういえば、他の人たちもこの世界にきてるのかな」


 考えがまとまらず、つい別の話題を振ってしまった。


「どうなんだろう? あたし達はちゃんと説明されたけど、たしかに場所によっては危険だよね。武器なんてないし」

「もしもの時は、わたし達が力を手に入れればそんな人達も助けられるかも……なんて?」

「でも、もしも勇者なんかになってたら敵同士だよ」

「そ、それはそうなんだけどぉ…………捕まえて洗脳しちゃうとか?」


 三枝さんのその言葉にこの場の空気が固まった。


「じょ、冗談だよ」

「美奈……疲れてない?」

「美香、やめてぇ! 心配しないで!」

「三枝さん無理は駄目だからね」

「深山君までぇ!?」


 だけど、まあ一つの手ではある。というか場合によっては洗脳されて戦いに無造作にだされることもこの世界じゃあるのかもしれない。

 魔法や道具がどんなものが存在しているか次第だな。

 考えれば考えるほど知らない疑問が出てきて、答えが先延ばしになってしまう気がする。

 でも、今決めなくていいって言葉にしたがって先延ばしにして何か起きたときに、何もできないじゃ遅い。

 ヒーローになりたいとか、そんな大きな夢も度胸もないけれど、身近な人くらいは守れないといけない気がする。


「決めた」

「そう……それじゃあ、何時行く? まだ忙しそうなんだよね」

「落ち着いてからにしよう。僕もそれまでに気持ち作るから」

「深山君……無理はだめだからね」

「ありがとう……」


 その後、他の人も一通り動き終わってから、再び客室へと移動した。

 客室では水晶に布をかぶせて丁寧に片付けをしている黒鎧の姿があった。


「ガ、ガズさん。ちょっといいですか?」

「むっ? いいぞ。えっと……」

「深山水琴です。あ、深山が苗字? ファミリーネーム? です」

「ミヤマ君だな。すまない、個人個人と自己紹介しあってなかったな。後でそういう時間も作らないと……それで、私に何か用かな?」

「一応、その……覚悟を決めたので」

「なにっ!? わ、私が言うのもなんだが、早くないだろうか? なんだかんだで全員、最初は決意していても考え直すと言った子ばかりだったぞ」

「考え直した結果です。ただ、どうしても一つ聞きたいことがあるので、それだけいいですか?」

「私に答えられる限りのことならば答えよう!」


 黒鎧は手に持っていた水晶を、保管していると思われる鍵付きの小さな箱にいれてからこちらへと向き直る。


「魔族とか魔物になったとして、元の世界に帰るときには元の姿に戻れるんですか?」

「むっ、あぁ……すまない。説明を忘れていたな。それはもちろん戻すことが可能だ。他の世界では知らないがこの世界では同種族へと変えたり侵食するような生態を持つ魔族・魔物は数多くいる。そして、奇跡の力によって動物が人になることもある。少なくとも人間に戻す術は私も知っているので安心して欲しい。簡単には使えないため、帰るときの魔法陣に組み込むという方法になるがな」

「元に戻れるというなら大丈夫です。元に戻れずに魔族になって世界に帰ったら、大騒ぎどころじゃなくなってしまうので」

「こちらの説明不足だ。すまない。では……本当に良いのか? こんなことを言うのもあれだが一度行ってしまえば、簡単には戻れん」

「わかってます。でも人間のままで何もできないくらいなら……そっちのが僕はいいと思っただけです」

「そうか。わかった、その後のことも出来る限りサポートする。そしてそちらのお二人も?」

「あたしも覚悟決めた。大事な人を守るためだからね」

「わ、わたしもです」

「そうか……わかった。だが、それには体力を使う。建物の中で君たちは気づけてないかもしれないが、もう夜が。一晩開けた明日に、魔族化……適性な姿への変化を決行ということでいいだろうか?」

「僕は大丈夫」

「あたしも……ていうか、一回休ませてもらえるならありがたいしね」

「うん」


 話が終わるとガズさんは僕達とともに王の間へやってきて、部屋へ案内するといって移動し始めた。

 それについていくと、この建物は王の間で想像したとおりゲームで見るような王城とでもいったものらしく、かなり大きく広かった。


「部屋の数は多いから、このフロアの物は使ってくれて構わない。ただ、多くても私の感覚では一部屋で4人が限界だと思うので、そこらへんは話し合って欲しい。夕飯は先程の客室に用意しようと思う。廊下を道なりに来てくれればたどり着くから、少ししたら来てくれ。疲れて眠りたいという人はそれでも構わない。では、私はここで一旦失礼する」


 そういってカシャンカシャンという鎧特有の足音を響かせながら去っていった。

 部屋はあの三つ編みの子が、今日のところは知っている人同士で男女別れてがいいのではという提案をして、皆それに頷く形になった。

 不良みたいな人とかが混ざってなかったのは幸いなのかもしれない。

 ただ、問題は僕は人付き合いが決して得意なわけではない。桧山という友人がいたからこそ他にも友達を作れていた人間だ。

 前のクラスの友達もあいにくここにはいない。

 それぞれがグループになって部屋に入っていく中、僕も一人で部屋に入ろうとすると後ろから肩を掴まれる。


「ね、ねえ。もしかして、君一人かな?」


 後ろを振り向くと、そこには黒髪のイケメンがいた。

 ただ、顔をみてイケメンだとは思うけれど、ものすごい不安とか緊張とかで台無しになっている感がある。それでもイケメンと言えるレベルの顔立ちは純粋にすごい。


「は、はい。クラスメイトも女子しかいなくて」

「そ、そうなんだ……あ、あの、実は俺も1人でさ。心細いから一緒の部屋じゃ駄目かな」


 ものすごい涙目になって包み込むように手を掴まれる。


「ぼ、僕とでいいなら別にいいですけど……深山水琴です」

「俺は萩沢敬(はぎさわけい)だ。けいは敬うって漢字一文字で」

「め、珍しいね」

「よく言われるよ。あぁ~……よかったぁ」


 そう言うと彼は床に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫? ていうか友達いそうなイメージが、僕からしたらあるんだけど」

「クラスメイトほっとんどいなかったんだよ! あと、男子の友達は少ないんだよな。俺は友達になりたいのに勝手に嫌われて行っちゃったりして」


 見た目でイケメンということに対して嫉妬する男子がいることを、僕には否定できないしその事実を伝えることもできそうにない。


「いつも一緒にいてくれる郷山ってやつがいるんだけどな……こんな時になって、俺はいつもあいつに支えられっぱなしなんだなって自覚したよ。っていきなりごめんな! こんな話して!」

「い、いや、大丈夫! まあ、ひとまず部屋入ろう?」

「お、おう!」


 ただ、僕の第一印象はイケメンだけれどすごいさみしがりやの同級生というものになったから、珍しく誰かがいなくても仲良くなれそうな気がする。

 僕は夕飯を頂いて湯浴みもさせてもらってから眠りについた。

 明日のことを考えすぎて寝れなくなるかもという考えは杞憂におわり、予想以上の疲れですぐに寝れたらしい。


 そして翌朝。

 目が覚めて部屋の中を見渡す。


「やっぱり夢なんかじゃないんだ」


 1つの希望だった、全てが夢だったという可能性が否定された。

 少しだけ残念に思いため息を吐く。そして、ベッドから降りた時だった。


「すぅ……すぅ……」


 部屋的に言えば向かい側の壁に設置されたベッドに萩沢君が寝ている。

 そのはずなんだけど、気のせいだろうか。僕の眼が正しければ、胸が少し盛り上がっている気がする。

 しかし顔は完全にあのイケメンのままだ。それに俺っていう口調だった。

 声の高さもまあ高いかもしれないけど、別に気になるようなことはなかったはずだ。


「あ、あの……」

「んぅ……はい」


 起きた萩沢君とばっちりと目が合う。


「うぁっ!? えっ、あっ、おはよう!」

「お、おはよう」


 飛び上がるようにして壁際まで移動した萩沢さん。かぶっていた布が外れても男子制服だ。着替えがなかったから仕方ないけど、男子制服だ。


「ごほんっ……あ、あの、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「な、なんだ? 俺に答えられることなら答えるけど」

「萩沢君? 萩沢さん?」

「あ……さ、さん。で、あってます」


 自分の胸を少し見てからそう答えてくれた。


「どういうこと?」

「修学旅行の悪ノリで男子制服着せられてたの。ほら、1日目はついたら旅館で一泊だからかしこまる場所もないって」

「へ、へぇ……でも口調は素なんだよね?」

「う、うん。なんか、小さい頃に近所のお兄さんとか男子と遊んでること多くて、気づいたら。直そうとは思ってるんだけど、なかなか直らなくて。面接とかじゃないかぎりは、そのままにしてる」

「そっか」

「ご、ごめん! 男女っていってたのに、騙すようなことして! 俺も昨日の夜に気づいたんだよ。怖さで頼んじゃったけど、そういえばって」

「い、いや、まあこの状況で1人はあれだからいいよ。それに何事もなかったし」

「ごめん……明日からは違うところに混ぜてもらうよ」

「あ……それも大丈夫」

「え? でも」

「萩沢さんが大丈夫ならだけど……僕、今日で女になるらしいから」

「へっ?」

「適性ってやつだって」

「えぇぇぇ!?」


 その後、朝食を食べたあとに僕と入江さんと三枝さんは王の間に来ていた。


「それじゃあ、案内するからついてきてくれ」


 ガズさんがそう言って移動していくのについていく。

 これで、人間の僕とはお別れになる。こんなことになるなんて、想像してなかったしするわけもなかったな。

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