魔王として
戦いと問題が解決してから数日がたった。
城下町跡で使えそうな場所と、瓦礫を撤去しなければならない場所の視察なども含めて昨日やっと準備が終わったといえる。
「それでは、これからはミヤマ君主導で頑張ってくれ。私も自分の城へと戻るとしよう。何かあればこれない距離でもないからな」
「わかったわ」
「それから、参謀たちの件についてだが。しばらくの内政はグランに頼んである。何かあればあいつにな。ガガのやつは一度こちらへ戻ってもらう。君たちもある程度戦えるようになっただろうし、これからは自主鍛錬あるのみだ」
「リュリアは? 魔法も基礎は教わったようなものだけれど」
「あいつはこちらに残りたいと言ってきたから、君に一存するが」
「まあ、本人が残りたいっていうならガズさんがあの人いなくて困るってことがないならいいわよ」
「そう伝えてやってくれ」
「わかったわ」
「それではな。帰還方法についても進捗があれば連絡する」
ガズさんはそう言って馬車を走らせて城へと戻っていった。
見送りを終えた後に私はリュリアの部屋へと移動する。ノックするとすぐに返事が返ってきて中へと入った。
「あら? ミコト様。あたしに何か御用?」
「私の一存だから伝えてやってくれって言われたから。まあリュリアが残りたいなら残っていいわよ」
「あら、わざわざありがとうございます。てっきりガズ様の返事の時点で大丈夫だったものかと思っていたわ」
「まあ、拒否する理由もないしね」
いつも通り私には理解できないレベルの高い魔術書などを開きつつ作業しているようだ。
「ふぅ……」
「おつかれ? 魔王様とはいえ無理は禁物よ」
「わかっているわ」
「あんなに愛されて尽くされてるのに、何におつかれ?」
「むしろ、それにお疲れなのよ。あれは、どういうこと?」
その人物とは久喜のことだ。
ダークエルフになった日から、朝起こしに来たりいたるところで世話をしてくる。
「だって、責任とるっていってキスされて、しかも全部それが自分のためってなったら。よっぽどのマイナス要素がなければ好印象にはなるわよね」
「まあ、それは。性格によりけりだけど理解できるわ」
「もしかしたら元から好意があったんじゃない?」
久喜が私に好意を持っていた。
いや、でも学校でもそこまでよく話すわけじゃなかったし、それはない気がする。
「どちらにせよ、関係性が変わりすぎて慣れないのよ」
「ミコト様は久喜ちゃんのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないわ! っていうか久喜ちゃん?」
「あの子、よくあたしに相談くるから。さすがに内容は教えられないけれど」
「へ、へぇ……」
なんでだろう。そこはかとなく外堀を埋められている可能性を考えてしまった。
「なんにせよ。あそこまでしちゃったんだし、邪険に扱ったら可愛そうよ」
「邪険にするつもりはないんだけど、いつか私が久喜なしじゃ生きれない体にされそうという恐怖がある」
「それは……頑張って! というか着替えは手伝わせてないって聞いてるんだけど」
「そこはかとなく危険を感じるからね! まあ、あとは美香がそこは譲らないみたいな雰囲気になってるから」
「へー、愛されてますね」
「そういうこというのやめて。恥ずかしくなる」
「あたしもミコト様のこと好きよ~」
「あぁ、もう! とにかく、うちの城にはいていいから! ただ色々手伝ってもらうわよ!」
「わかってるわ。仕事はきっちりこなすわよ」
「それじゃあ、ひとまず私はやることがあるから」
私はそう言って足早に部屋を去る。これ以上弄られたら熱でもでそうだ。
「あ、深山君。おつかれさま」
「美奈。ありがとう……久喜は?」
「美香と一緒にいたよ。たしか、敬ちゃんもいたかな?」
「そう……まあ、それならいっか」
「なんか大変そうだね」
「愛されるのも簡単じゃないなって思っただけよ。受け入れたら楽になれそうだけど、それはそれでなんかね」
受け入れるなら、改めて久喜を向き合わないと失礼だと思う。
いや、今の曖昧な状態も失礼かもしれないんだよね。
「っていうか、今更だけど私達、ここでは女同士じゃない!?」
「本当に今更だねー。でも、ほら愛にそこらへんは関係ないっていうじゃない?」
「まあ聞いたことはあるけど」
「それとも恋した事ない感じ?」
「年齢=彼女いない歴の人生は送ってたわね」
自分で言ってて悲しくなってきた。
「まあ、元男だし互いにそれを理解してる間柄だからいいんじゃない?」
「そういうものなの?」
「そういうものだよ。案外女の懐は深いってね。まあ、久喜ちゃんのあれは元から眠ってたものかもしれないけど」
最後の方は目をそらしながら言われた。
「そう……まあ、時間は良くも悪くもあるから、しっかり向き合っていかないとかしらね」
「もしもの時は相談してくれていいよ。わたしでいいならだけど」
「ありがとう。美奈も何か不便があったらいってね」
「うん。そうするよ……あ、メイドさんと約束してたことあるから行くね」
「またね」
ハーピィの体にも完全に慣れたようで、足早に廊下を移動していった。
私は王の間の前にあるバルコニーへと移動する。そこからは城下町跡が一望できた。
「まあ、やることになったからには、きっちりとやらないとね。それに、他の皆のことも気になるし」
久喜が1人で最初にいたにも関わらず、あの扱いということの答えは未だにはっきりとはしていない。
でも、私の予想が正しければ他にも勇者が来ているはずだ。それが、私達の知り合いかどうかはわからないけれど、可能性は高い。
「頑張るわよー!!」
私は誰へむけるでもなく空にそう叫んだ。
ここから魔王として本格的な町づくりに平和づくりの活動が始まる。
第1章 完