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一緒にいること

 その日はガズさんの城で一泊してから自分の城へと戻った。

 美園にも一度会いたいとは思ったけれど、朝早かったのとあっちで別の問題が起きていたりする可能性を考えると、そっちを優先せざるを得なかった。


「おかえりなさいませ、ミコト様」

「ありがとう、グラン。こっちで何かあった?」

「特に大きな問題はありませんでした。それと兵士長から聞き出した情報によると増援どころか救援もあちらはだすつもりはない特攻だったようです」

「ある意味予想通りだわ。まあ、でもそれなら皆は元の生活に戻していいわよ」

「わかりました。伝えておきます」


 私はグランに言った後に地下に降りた。


「リュリア……ずっとここにいたの?」

「まあ、ご飯の時以外はね。あたしの今してる研究はどこでもできる段階だから」


 地下に降りてすぐの牢屋の管理人達がいれば待機してるであろう空間の机にはいくつも本が開かれてる。


「久喜は?」

「人族の国に騙された……というよりも帰れないって可能性のほうで、結構精神にきてるみたいよ」

「そう……まあ無理もないわね。私達と違って1人だった中で、信用してた相手に裏切られたものだし。その上で今後どうなるかもわからないのだから」

「グランからは聞いたけど、そのことは伝えていないわ」


 おそらく救援がくる見込みがないということだろう。

 今、伝え方を間違えれば精神崩壊もおこしかねない。


「ひとまず……話してみるしかないわよね」

「まあ、もしもやばい時は出来る限りのことはあたしもするわ。精神面の魔法は専門ではないけどね」

「その時はよろしく頼むわね」


 私は牢屋の前へと移動した。


「久喜……大丈夫?」

「魔王……大丈夫ではないかな」


 消沈したというような雰囲気で牢屋の中のベッドに腰掛けている。

 私は牢屋の中に入ってリュリアに鍵をかけさせて彼女の隣に座る。武装はすでに解除しているし、しっかり話すなら必要なことだと判断した。


「約束したと言えるかはわからないけど、言ったからね。何から聞きたいかしら?」

「えっ? なんで……?」

「なんでと言われても困るのだけど」

「だ、だって、私達敵同士だよ? そんな、答える義理だってないし、魔王が勝ったんだし」

「まあ、ちゃんと答えるって言ったし……それに、久喜のことを放っておくわけにもいかないわ。でも、全部一気に言っても仕方ないし、聞きたいことから答える」

「そっか……じゃあ、その、ミコトって呼ばれてたけど。私の知り合いにもその名前の人がいて……でも、知ってる通り別の世界から私は来ているから。そんなことあるわけ無いと思って」

「あったらどうする?」

「それは……わからない。でも、そうだったら色々聞きたいし……でも、それが勘違いだったらって思うと怖いし」

「まあ、そうよね。でも、その考えは間違ってないわよ」

「えっ?」

「私は水琴。あなたの知っている深山水琴という人物に他ならないわ。ここには他にも入江美香、三枝美奈もいる。他にもあなたが知っているかどうかはわからないけど、同じ場所から来た人もね」

「入江さんと三枝さんがきて、あなたは深山くんなの? 本当なの?」

「証明のしようはないけれど、嘘は言ってないわ」

「で、でも、深山くんは男の子で!」

「あなただってエルフになってるじゃない」

「それは……でも、なんで、魔族に」

「私は魔王に召喚されたからっていったら答えになるかしらね? まあ、生き残るためにこの体になることを選んだの」

「そうなんだ……でも、そっか。深山くんだったんだ。それに他にもいるんだ、私が知ってる人」

 そう言っている彼女の声はどこか小さく震えていて、ふと横を見ると涙を流していた。

「久喜……」

「ご、ごめん……なんか、勝手に涙がでちゃって、それで」

「大丈夫……不安だったのよね」


 私は背中から方に手を回して私の方に抱き寄せる。


「深山くん」

「ゆっくり話はできるから、焦らないでいいから……」

「ごめん……」


 しばらく声も上げずに静かに彼女は涙を流した。

 落ち着いてから改めて話を続ける。


「深山くんがそうなったりしたことは、もう私の体がエルフになったこともあるからそれで納得する。だけど、魔王としてっていうのはどういうこと?」

「素質があったってことらしいわ。まあ、それでこの城から少し城下町を作るみたいになった矢先にあなた達がきたのよ。ただ、まあ私達を呼んだ魔王は平和な国を作ったり平和な世界にしたいってことらしいから」

「そうなんだ」

「否定しないの? 魔王がそんなこというわけない! とか」

「だって、魔王が複数人いた事も知らなかったし。もう、あの人達を信じられないっていうか。こうやって話してくれる深山くんのがまだ信用できる……私は深山くんに騙されてるの?」

「そんなことはない……としか答えることはできないわね。ただ、騙す理由も今はないわ」

「でしょ。だから、信じるよ」

「お礼ってのも変かもしれないけれど、ありがとう。他に聞きたいことはある?」

「うぅん……知らないことばっかりだからこの世界のこととかも知りたいかもしれないけど。それは、今聞く必要はないかな……だから、これだけ最後に知りたいの。私ってこれから……どうなるの?」


 声を震わせてベッドの毛布を掴みながら久喜は私の方を向いてそう聞いてくる。


「そうね……まず、ひとつだけ言えることは、あの国からの増援や救援はないらしいわ。兵士長から聞き出した」

「そっか……そうなんだ」

「だから、久喜の居場所はどこにあるか私にも答えは用意できないわ。あっちに戻すこともやろうと思えば可能だけど、また同じように使われるかもしれない。今度はもっと大きな前線の可能性もある」

「もっと大きな前線?」

「さっき言った人族と魔族の戦争のことよ。魔族の魔王の中にも私を召喚したような人も入れば、過激な戦争を起こして魔族だけの世界を作ろうとする人もいる」

「そんな……」

「だけど、私も久喜をそんなところに行かせたくはない。だから、もし久喜がいいのならだけれど、ここに残らない?」

「えっ?」

「私達を呼んだ魔王は帰れる方法を探ってくれている。それに少なくとも時間はかかるけど1つは帰れる方法がわかっているものもある。召喚した私達だけじゃなくても帰すことは可能って聞いてきたわ。だから、私達とここにいて、帰れる時が来たら帰るの」

「い、いいの? だって、私はここを攻撃して」

「騙されてたのよ。久喜はこの世界のことを何も知らないまま、騙されていた。それなら仕方のないことだわ。幸いにもここはまだ城以外は機能していない。勇者や召喚のことにも理解ある人ばかりだから、ゆっくり説明していけば大丈夫」

「でも――」


 私はそれ以上の言葉を遮るように久喜の両手を包み込むようにして握る。


「私は、知ってる人が利用されて死ぬのは嫌だから……もしかすると、あなたがここにいたら別のここでの戦いに巻き込むかもしれない。だけど、その時は守るから。だから、ここにいてほしい。皆もそう思うはずだから。気づいた時に死んでいたってほうが嫌なのはわかるでしょう」

「わかるけど……」

「これ以上、言うなら無理矢理にでも私はあなたの事をここに残るようにする」

「深山くん……私もいいのかな。本当にいいのかな」

「いいって言ってるでしょう」

「うん……! 一緒にいさせて」

「もちろんよ」


 私は泣きそうになってる彼女を今後は深く抱きしめた。


「どうやら、うまくいったみたいね」

「リュリア」

「ここに鍵は、もう開けっ放しでもいいかしら?」

「うん。大丈夫よ」

「じゃあ、あたしは部屋に戻らせていただくわ」

「リュリアもありがとう」

「ミコト様のお願いですから」


 リュリアはそう言うと牢屋の鍵と扉を開けてから上の階へと戻っていく。


「それじゃあ、久喜。皆に会いに行くわよ!」

「え? も、もう?」

「善は急げよ」

「う、うん」


 私も久喜の腕を引っ張りながら皆のいる部屋へ向かって歩きだした。

 当たり前といえば当たり前だけれど、久喜との再開を皆は喜んで受け入れてくれる。グランとガガにも私から説明したら「ガズ様とミコト様の考えならば反対などいたしません」「騙されてたなら仕方ねえ」と言ってくれる。


 これで、ひとまず今回のことは全て完結。私はそう思っていた。


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