この世界ですべき事
リュリアが戻ってきてから私は地下へと向かった。
ガガは念のために警戒をしてグランはもう1人捕まえたという兵士長らしき人物を問い詰めるといってどこかへいった。
この世界の基準をよく知らないからあれだけど拷問まではいかないと思いたい。
地下へたどり着くと牢屋がいくつか並んでいてそのうちの1つに久喜がいる。
大きな怪我もないみたいで安心した。
「調子はどうかしら?」
「いいわけないでしょう……」
まあ、普通はそうだ。
牢屋に入れられていい調子になるなんて、奇特な人以外はありえない。もしくは捕まることが目的という高度な作戦でもない限りはね。
「まさか久喜とこんな形で会うことになるとは思わなかったわ」
「そ、そう! 魔王! なんで、私の名前を知ってるの!」
久喜はこちらへ詰め寄り鉄格子を掴んで聞いてくる。
「まあ、落ち着きなさい。あとで答えてあげるから……こっちの質問にひとまず答えてくれればね」
「なに……私が知ってることなんて殆どないよ」
「なんでそういえるの?」
「それは教えられないけど」
おそらく勇者が異世界から来たものであるということを相手側に知られないためとかだろう。それが理由だったらすでに意味はない。
「まあ、ひとまず……なんでこの城に向かってきたの? 一番聞きたいのはそれよ」
「それは魔王がいるからでしょ。人族を滅ぼそうとしている」
「その魔王がこの城にいるとは限らないじゃない」
「え? 魔王って複数いるの?」
「えっ? 知らなかったの?」
私が思わずそう聞き返すと久喜は小さく数回頷いた。
勇者には余計な情報みたいなのは極力与えてないのか。人族の国も真っ黒な可能性がでてきてしまった。
「くそっ、めんどくさいわね……」
「え? ど、どういう? 私、騙されてた? 魔王を倒せば帰れるって……」
久喜も私の反応を見て混乱しはじめた。
魔王を倒せば帰れるって、複数人いる魔王を全てって意味だととれば騙してないってごまかしそうな人間が勇者を召喚したってことね。
「久喜! 答えなさい……これから増援は?」
「えっ!? そ、それは……」
「いいから!」
「わ、私はそういう方向は聞いてなくて。兵士長に聞いても『それは我々におまかせください。勇者様はとにかく魔王を』としか返ってこなくて」
完全に手駒扱いか。やばい、他のクラスメイトはどうなんだろう。
「それじゃあ、勇者としてこの世界に来た時他には誰かいなかった?」
「私は1人だったけど……って、なんでそれ!」
他には勇者はいない。でも、言い方あれだけど勇者にしては弱すぎる。
それに扱いが雑だ。王の間に来たときもよく考えたら、1人で特攻させるなんておかしい。
グランとガガの時点で圧倒されている状態なら、撤退して鍛え直すって考えたほうが絶対に良いはずだ。
つまり、他にも勇者はいる可能性がある。
「はぁ……」
思わず私は深い溜め息をついてしまう。
「ね、ねえ! 魔王、教えて! 何を知ってるの!?」
「うぅん……」
今答えて良いものか。いや、最低限確認しないといけないことがある。
久喜にはしっかりとしたものを答えたい。クラスメイトとしても。
「ちょっと、まってなさいちゃんと答えたいから!」
「それってどういう?」
「リュリア……帰ってくるのを待ってるわけにも行かないから、こっちは任せていい?」
「任せなさい。ガズ様のとこへ行くのね?」
「正解!」
「あっ! 魔王!」
「ふふっ、まあ敵の言葉とは思えないかもしれないけど信用してあげて。ミコト様が貴方のことを考えてるからこそだから」
「ミコト……?」
そんな会話を背中に私は走り出した。
あの後、すぐにグランの部下の兵士を1人捕まえて馬を走らせた。
夜にはガズさんの城へとたどり着き、メイドさんに頼んで時間をつけてもらう。
客室に案内されて待っていると、ガズさんがやってきた。
「そんなに急いでこちらへくるとは何かあったのか? グラン達からは特に連絡はなかったが」
「聞きたい事があるの」
「ふむ……聞こう」
私はまっすぐ視線を向けていると、ガズさんも向かいの席に座った。
「まあ、さすがにこれは連絡があったと思ったけど、攻撃があったわ」
「それは聞いている……どうだったのだ? まあ、こうやってこれてるところを見ると問題はなかったようだが」
「問題はないわ。むしろ、敵がなぜあんな数で攻めてきたのかがわからないくらいにね」
「ならば、なにが聞きたいのだ?」
「勇者を捕まえたわ」
その言葉を聞くとガズさんが椅子を倒しながら立ち上がった。
「なに!? それは……まあいい。続きをいってくれ」
改めて席に座って再び聞く姿勢になってくれる。
「その勇者が私のクラスメイト……まあ、いわゆる同じ世界の人間だったわ。今はエルフだったけど、それは転生時点でなってて、勇者の力の1つだって」
「まあ、私も勇者としてこの世界に来たものは、それに見合った姿になると聞いたことがある。おかしいとは思わんが」
「問題は、その勇者の扱いが雑だったのよ。明らかにあの規模で攻めてくるなら、ガガとグランによってダメージを多く負った時点で、全体で引き返していいレベル。勇者を特攻させるなんて作戦はもってのほかだわ。実力だって把握してたでしょうし」
「言いたいことはわかるが……」
「それで聞きたいのだけれど、この世界に魔王が複数いるっていうのは人族はしっているのよね?」
「当たり前だ。人族の国の王は文字通り国王とすれば。魔王の1つの城を中心とした領地の王は魔王であり、その殆どは適性や素質を持っているといえる。常識だ」
「勇者がそれを知らなかった。私は人族側は勇者を複数人呼んでいて何人かは手駒とか捨て駒にしてもいいという扱い方をしているように思ったわ」
「なんだと……魔族のあの魔王なら理解できるか。人族にもそんなやつがいるというのか」
机の上に置かれたガズさんの手はかすかに震えている。それは怒りを耐えているようだ。
「私の力でどこまでできるかわからないし。平和には関係ないかもしれない。だけど、ガズさんにこれを聞いた上で頼みたいの」
「なんだろうか」
ガズさんもどうにか気持ちを収めたのか、私の方をまっすぐ見てくる。
一度、大きく呼吸をしてから私はそれを言う。
「私達を帰す方法で、ここに召喚した人以外でも異世界へと帰すことができるのか。もしできるなら勇者がきたとしても捕まえてほしい……多分、私達の知り合いだから」
「ほう……」
「お願いします……無茶を言っているのは承知」
私は席を立ち上がって頭を下げる。
するとガズさんも席を立ち上がってこちらへと歩いてくる足音が聞こえる。
「頭を上げてくれ」
「ガズさん……?」
「そんなことは言われなくても手伝うに決まっているだろう。私は平和を目指している。そのために他の世界を巻き込んでしまった。だが、同じことをして敬意も払わずに利用するだけしようとする輩は許せん。可能な限り助けようじゃないか。むしろ私にもそれを手伝わせてくれ。それができて初めて平和を作れるのだと思う。綺麗事かもしれんがな」
「ガズさん……」
ガズさんは手を差し出してくる。
私はその手をとって握手を交わす。
「なら、その平和を作るのを私も可能な限り手伝うわ」
「よろしく頼む」