初めての戦い
朝早くに目が覚めて2階のバルコニーから外を眺める。
霧に包まれて少し遠くになると見えない状態だ。このまま晴れずに敵を迷わせてどこかへとやってくれないかなんていう願望を持ってしまいそうになる。
「はぁ……そんなことにすがってちゃだめだって」
私は一度部屋へと戻って、今日のために用意していた物を確認する。
そして大体装備の確認を終えた当たりで扉がノックされた。
「おはよう、深山」
「おはよう、美香。入っていいわよ」
「じゃあ、お邪魔するね」
窓の外を見ればいつの間にか霧が晴れて朝日が昇り始めていた。
「とうとうきちゃったね」
「きちゃったわ。ただの高校生だったはずなのにね」
「本当にね。でも、また高校生に戻るためにも、全員生き残らないと駄目だからね」
「そうね」
美香が朝から部屋にきたのは、簡単に言えば服の問題だ。
ぶっちゃけると、未だに女性服の細かい着方とかを理解しきっていない。最初にここについた時に着たワンピースとコートの冒険者風の物や、それに似たものくらいだ。
ただ、今日は敵が来るということもあって、グランやリュリアから念を押されて別のものを着ることになっている。
黒と紫で尊厳や存在感を表すドレスだ。魔王であることを主張したほうがいいということらしい。
しかし、ドレス自体は戦闘などを考えてなのか動きやすさを追求した作りになっていた。
問題は、それの着方を私が理解していないこと。
つまり、美香が部屋に来たのは着替えのために呼んだというわけだ。
「ごめんね」
「いいよ。あたしにできることなんて今はこれしかないし。あたしのほうこそ、全部深山達に任せることになっちゃってさ」
「それこそいいのよ。得意不得意もそうだし、時間の問題もあったんだから。私はちょっとみんなよりも戦闘ができる体になったから、今動けるだけ」
私だって男のまま別の種族になってたら、こんなに早く戦えるようにはなっていなかっただろうし、1人だったならたとえ誰が魔王だとしてもこの城にくる決断も、魔族となる決断もできなかったと思う。
「よしっ、似合ってる」
「なんで、いつも足は太もも近くまでのやつなの」
「ガズさんが用意したのが、そういうのしかないから。でも、短いよりはいいんじゃない?」
丈が膝まであるから足の素肌は見えなくなっている。ただ、タイツとはいわないけど、結構ピッチリしてるからこれはこれで何とも言えない気持ちになりそうなんだけどな。
「似合ってるって言われても……まだ、素直に喜べないわ」
「喜べるようになったら、もとに戻っても女装しちゃうかもしれないしいいんじゃない? まあやるなら手伝ってあげるけど」
「冗談でもやめてちょうだい。流石にそれは想像したくないし、そこらへんも問題なくなるはずだから」
そう思っていくしかない。ただ、記憶の操作がされるとまでは聞いてなかったかも。
まあ、そうだとしても男に戻れば精神もそっちに戻るはずだから問題ないはず。
「あはは、ごめんごめん……じゃあ、頑張って。そんで、また着替えさせて」
「そうね。またよろしく頼むわ」
美香はそう言うと部屋から出ていく。
敵がどの時間に来るかまではわかっていないため、朝日が上って少ししたら迎え撃てる形を作っておくことになっている。
美香は使用人や美奈達と一緒に隠れていてもらうことになる。敬のことも頼んであるから大丈夫。
私は頬を軽く叩いて気を引き締めて王の間へと移動する。
そこにはグラン、ガガ、リュリアの3人がまっていた。
「それじゃあ、今日はよろしく頼むわ」
「おまかせください。予定通りに」「オレたちに任せてください」「フォローは任せて」
3人とも頼もしい限りだ。むしろ私が必要あるのかという実力が実際のところ出し当たり前か。
***
日が空高く上った昼過ぎの頃、その時は訪れた。
「魔王様! こちらへと向かってくる集団を発見しました! すぐに城下町跡地までは到達するかと思われます」
城の周りを見張っていたグランの部下の1人がそう告げる。
「そう、ありがとう。城の警備に混ざって頂戴」
「了解しました!」
そう言って、王の間から去っていく。
王の間からまっすぐ前に移動した場所にあるバルコニーに移動して、遠くを見る。
砂煙を上げながらたしかにこちらへと向かってくる何かがいた。
しかし、思った以上に小さい。
「小国とはいえ、そんなに人員不足? それとも防護の優先度合いが予想と違ったか……まあ、こちらとしては願ったばかりかしら。挟み撃ちを成功させるほどの精鋭隠密部隊でもいない限り」
後ろの森も警戒をさせているけれど、そちらからの報告はない。
作戦とかに詳しくない私だけれど、現代の戦争の一般レベルの知識やゲームでの創作知識は持ち合わせている。
主人公とかが勝つパターンや負けイベントとして、予想もしてない方向からの攻撃は王道だ。
まあ、グランの部下がそれを見逃すとも思えないから、ストレートにあの砂埃の集団だけと見ていいとは思うけど。
「ふふっ、どうしよう。これって魔王の素質か種族の素質なのかしら?」
そして、こうして戦いのことを深く考えているとなぜだか自分の中から楽しさや興奮を感じていた。前準備ではこんなことはなかったのに。
「精神的に何かでてるのかしら? まあ緊張したり恐怖で何もできなくなるよりはいいけど」
私は王の間へと戻る。
そして少しして、戦闘の始まる音が城下町跡地から響いてくる。
私にとって最初の戦いが始まった瞬間だった。