準備
数日後。
グランのだした斥候が帰ってきたと聞いて私は王の間へとやってきた。
「ミコト様」
「お疲れさま。それで?」
「はい、でてこい」
どこかに隠れていたのかグランが呼ぶと小柄な人物が目の前に現れる。見た目だけだと人間だけど、まあ現在の国の状況から察するに魔族だろう。共存はこれからだと思う。
「報告しろ」
「はっ、隣国のディリアで情報を集めてまいりました」
「グランはもう聞いたの?」
「はい。ですが、こいつを育てるためにもとおもいまして。その、わたくしも教育係が終わればまた戻るかもしれませんので」
「そういう配慮だったのね。ありがとう……でも、まだ全て聞いても理解しきれるかわからないから。ひとまず、不穏な動きの真相と最重要なものを教えて」
「はい。前日に見受けられた不穏な動きですが、どうやらあの国に1人勇者がきた模様です」
「勇者?」
「異国かはたまた私達の知らない場所からか現れた物だと噂が流れていました。物資に関してはその勇者を中心としつつ動きを進めるための準備のようです」
「そういうこと……それで、その動きっていうのは?」
「どうやら、私達の国を攻めようとしていた模様です。斥候は攻める際に拠点としてこの城を制圧できるかどうかを調べるために出されていたものだと」
「まあ、使われていなかった城だものね。制圧できれば、ガズさんの国とも近いから、かなり役立ってしまう。さすがに私でもわかるわ」
「それにともない。5日後にこちらへと攻撃を仕掛けてくる可能性があることがわかりました。以上です」
「ありがとう……5日後ね。ちなみに戦力はわかる?」
「申し訳ありません。そこまでは……しかし、エルフの勇者を中心としながらもあの小国の兵士や騎士達で構成された部隊と思われます。外からの勇者以外の目立った増援はなかったようです」
「そう……いいわ。あなたは戦える?」
「はい。少しですが」
「こいつの強さは隠密戦や森の中などの地形を活かした戦闘が得意です。わたくしが保証しましょう」
「そう。それなら、森の中での防衛と見張りを頼めるかしら? 敵の斥候も森のなかにいたそうだから」
「わかりました」
そう言って再び目の前から消えていった。
「グラン……ちょっと、あらっぽくなるかもしれないけど、協力してくれる?」
「もちろんです。勇者が不確定要素ではありますが、あの小国が防衛力を崩れない程度に攻撃にさける人数ならばわたくしとガガでどうにかできます」
「じゃあ、よろしくたのむわ。あと、勇者のことだけど、少し気になることがあるから可能なら単独で王の間までたどり着くように誘導できる?」
「やってみましょう。しかし、1人ではまだ危険では」
「もうひとりいるでしょう。彼女に頼んでみるわ」
「わかりました」
魔法を教えてくれているダークメイジとグランは、反りが合わない。ガガはどちらとも良くも悪くも関係を気づけているといった感じのようだ。
私はその夜にとある部屋の扉をノックした。
「は~い」
「入っていいかしら?」
「いいわよ~」
扉を開けると部屋の中には魔術書で埋まる本棚や水晶などのアイテムなどが数多くある。
壁際に設置された机で作業をしていたであろう人物がこちらを向く。
大人の女性という雰囲気があり、体等としては人間だ。ただ、魔力によって染まったと言っている紫色の髪や青色の目が魔族となったことを主張してくる。
まさに魔法使いというような格好をしている彼女が、私達に魔法を教えているダークメイジのリュリア・ガーデンだ。
「あたしに何かようかしら~?」
妖艶で少し不思議な雰囲気の彼女だけれど腕はよく、面倒見もいいと私は思ってる。
「今度、ここが攻撃される可能性が高いことがわかったわ」
「あぁ、アイツも言ってたわね」
グランのことだろう。嫌そうにそう言う。
「それで、あたしも前線でアイツと戦えって?」
「違うわ。ちょっとしたいことがあるの。私が別の世界から呼び出されたことは知ってるわよね?」
「もちろん。魔術書の解読の一部はあたしの仕事だからね。帰還方法については別の人が同時でやってて今もしているらしいけど」
「今回攻めてくる中に勇者と言われてる人がいるらしいの。ただ、それが私達と同じ世界からきた人の可能性があるわ。それを確かめたいからグランとガガに王の間まで誘導してもらう。1対1の形になるのだけど、もしもの時のために、リュリアには近くで待機していて欲しいの」
「そういうこと。わかったわ、それならついでに防御魔法とか支援もできるようにしておくから、任せてちょうだい」
「ありがとう」
「いいのよ。他ならない貴方の頼みだもの」
彼女はそう言って私の頭を撫でてくる。今は同性とはいえ照れてしまう。
「前から聞きたかったのだけど、どうして私にそんな優しいというか……なんというかなの? 魔王だからとか関係無い感じがするのだけど」
「えっ? そ、そうね……なんていうか。人間の見た目の子でメイド以外の子にあうことがなかったのよ。あたし力強いから城下町にいっても、どうしても怖がられるか敬われるかだったから。あと、ちょっと自分よりも小さい子に頼まれたり命令されるのが刺激に」
ちょっと、やばい雰囲気なのは気の所為だと思いたい。
頼むことを頼み終えて部屋を後にして、私もその日は就寝した。
そして、用意や知識を蓄えていくうちにあっという間に時間は過ぎていきその日はやってきた。