自分の能力
王の間にくると敬以外はみんな集まっていた。
敬はまあ仕方ない部分もあるし、ガズさんの部下の人が一緒にいてくれているらしい。
「深山君のスカートだよスカート! しかもミニにあの足!」
「素材いいよね。着せ替えしててすごい思ったもん」
「むぅ……」
「なに、ガズさん文句あるのかしら?」
「いやなに、魔王らしさのある妖艶な物も多く用意していたが、やはり冒険者にも見えるそれを選んだかとな」
「着方もセンスもわからないのよ! まあ、気が乗ったらね」
「楽しみにしておこう。まあ、今日は掃除をするということだしそちらのほうがいいだろうからな」
「まあ、早く始めるわよ。優先は食堂と調理場に王の間と会議室! 客室は今は後回しでいいわ。自室は各自余裕がある時にやりなさい」
「ガズさん。わたしに使えそうな道具ある?」
「ブラシでいいなら持ち手がないものなら足で使えると思うが……私が言うのもあれだが、足で使うことに躊躇があるなら無理にとは」
「ううん。仕事してないほうが、もやもやするし。大丈夫です」
美奈は自分の状態でできることをしてくれようとしている。
「それじゃあ、私とガズさんは王の間。美香とえっと……部下の人達は会議室。今倉庫とかの整理している人は終わり次第1階の食堂と調理場の掃除をしてもらえるように誰か連絡しておいてくれるかしら」
「では、私が!」
兵士の1人の人が名乗り出てくれたので任せることにする。
「お願い。じゃあ、せめて今日城の中で暮らせる状態にするわよ」
『おー!』
数人のノリがいい人達の掛け声があがりつつ掃除が始まった。
しかし、始まってすぐにわかったことは王の間の広さだ。ゲームとかでも十分広いと思ってたけど、実際に立ってみるとそれを実感する。
「カーペットとか椅子の装飾もあとでつくらないと、威厳も何もないわよね」
「たしかにそうだな……しかし、そのレベルだと職人に頼む必要がある」
「知り合いでいない?」
「城下町にいることはいるが、可能なら自分の城下町ができて職人が来た時に頼むとよいのではないか? 関係性も作れる」
「そういう考え方もあるのね。わかったわ」
掃除しながらガズさんに色々と魔王としてやらなければいけない事も聞いていく。
特にガズさんが念入りに言ってきたのは、敵が来た時の城内の対策はしておくべきだということだ。
「どんな方法があるの?」
「ひとまず、住居は非戦闘員がいる部屋への通路をすぐ封鎖できるようにしておくことと。逃げ道を作っておくことだな。城があるからあるとはおもうが確認しておくといい」
「それなら最悪王の間にもトラップ作ってもいいかもしれないわね」
「まあ、大掛かりなものは物々しく交渉時に無駄な威圧があるから避けた方がいいが、落とし穴等ぐらいはいいかもしれんな。私の城にも牢屋につながる落とし穴はある」
「問答無用で奈落の底とかじゃないあたりは優しいのね」
「むしろ。それがすぐ出て来る当たり。君の思考は結構過激よりだな」
「殺さずすむならそれがいいと思っているわよ。それに勇者なんかが知り合いの可能性もあるんだからね」
「その場合の対処は君に任せよう。扱いに困るなら私のほうで対処もできるしな」
「そうさせてもらうわ」
昼について日が段々と落ちてきた頃で、王の間の半分の掃除が終わった。
「ふぅ……かなり重労働ねこれ」
「使わないとはいえ、もう少し手入れしておくべきだと私も学んだよ」
「自室は後でいいけど、終わるかしら」
話しながらも手は止めずに掃除を続ける。
「あ、そういえば聞きたかったことがあるんだけど」
「なんだ?」
「私の種族って、具体的にはどんなことができるの?」
【ファントムプリンセス】という種族に聞き覚えはない。見た目も肌の色等はともかく人間にほど近くて特徴がつかみにくい。
「アンデットを束ねる姫だからな。ひとまずアンデット種の使役はしやすいだろう。恐らく使い方がわかってくればスケルトン系のアンデットは作り出せもするはずだ」
「死霊魔法みたいなもの?」
「その他にはそうだな。相手が弱っていたりすれば魂に干渉することも可能だ」
「魂に干渉?」
「相手の魂をしばりつけることで、動きを封じたり洗脳したりだな。その他にも霊体にのせて自分の魔力を相手に送りつけることもできるときいたことがある」
「霊体……」
少しイメージしてみると、半透明で白い幽霊のようなものがでてきた。
「これかしら?」
「それも霊体の一種だな。魂に干渉する場合は素手で相手に接触したり、霊体の腕をつくりだして触れるのが効果的だ」
「そういうことなのね」
やってみると腕も作り上げられた。
ただ、使うと少し疲れがます。魔力を使うって感覚なのかな。
「私が知っているのはそのくらいだが。他にもなにかあるかもしれんが、そこは自分で見つけてくれ」
「わかった。ありがとう。ちなみに魔王の適性は?」
「プレッシャーの強さと魔力と身体能力の底上げなどだな」
「わかりやすいわね。私の種族も元々かなり魔力はあるわよね」
「あぁ。だから、魔法を覚えてみるのもいいかもしれんな」
「余裕が出てきたら視野にいれてみるわ」
そんな風にして話している時、王の間の入り口からみんなが戻ってきた。
「あたしたちも手伝うよ」
「さすがにここ広いもんね」
「おまかせください!」
「皆……よろしくたのむわ」
外が暗闇に包まれた頃に予定していた掃除や整理などが無事に終了した。
城の中がランタンの火で淡く光っている中で、私は城門の前から外を眺めている。
思えば外にまともにでたのも初めてだった。空を見れば見たことない星座が多いが、はっきりと星が見える。
今更だけれど、私は夜目が効く種族らしい。町の跡地も夜の闇の中はっきりと見える。
「ひとまず、皆が帰れるまではここを守っていかないとね」
私は改めて心に刻み込んで城内へと戻った。