移住
木の中に住めるようになった。
その知らせは一日のうちに町中を駆け巡った。
外側からは少し穴があいたくらいの変化しかなかったが、中では水を通す管やゴミを運ぶ管、節から節へ移動するための方法など色々な細工をしていた。それらの作業がようやく終わったのだ。
「ふっふっふ。やっぱり皆の知恵が集まれば、不可能はないのだ!」
そう気勢をあげる建築士が、一番に定住を決めた。
「何か異常が出ないか、常に見守りたいからね」
うそぶいて、植物学者も住居を確保した。
「もともとは獣が近づいて来ないか監視するためだ。私の研究が役に立つだろう」
レンズを発明した細工師が言えば
「俺の研究には高いところの方が向いているんだ」
と測量士までもが中に入りたがった。
皆が自分こそと言って喧嘩しだす中、ようやく町の取りまとめ役が決められることになった。
その役目を巡って議論の末、皆で取りまとめ役を決めるための方法が先に決められた。
一 名乗りをあげる者は、選出期間、出題を希望する住人達が作成した問題に挑む。
二 挑んだ者全ての結果は公表する。
三 結果が出揃った後、住人達の支持をより多く得たものが取りまとめ役となる。
四 選ばれてから1年後と5年毎に、再試験を行う。
王公貴族が地域を統治することが当たり前の時代、それは画期的な方法であった。
試験の末に選ばれたのは、とても愛らしい少女であった。
少女の母は祖国で第8王女として教育を受け、民を害した貴族と争って命を狙われたあげく、護衛に恋をして駆け落ちしてきた。
「民を捨てた私には、長になる資格はないわ」
そう言って試験に挑まなかった彼女だが、接していた子供には上に立つものとしてのあり方や交渉術が受け継がれていたのだ。
そして少女も、好奇心からあちこちの学者のもとへ顔を出しては積極的に知識を学んでいた。遠方とは言え王の血をひくことを争いの原因にならないかと危惧した勢力もあったが、少女は巧みな話術でその主張を押さえ込んだ。
少女は「統治者」ではなく「管理人」を名乗り、以後、様々な活躍を見せる。
木の節と節の間に床を作らせ階数を増やしたり、木の内部でも野菜を収穫できるように研究を進めさせたり。研究に没頭すると人と会おうとしなくなる学者達の生存を確認するためや自分の後継者を育てるために、年に数回木の外で講義を行わせることもこの時期に決められた。
少女の活躍により、町と木は更に繁栄した。