第3話 幼馴染は努力家の地味っ子
「ヒヒロ君、部活は?」
「はあ?」
このメガネの地味な子は、同い年の先輩で、生徒会の下っ端で、学級委員もやってる、教師の内申点稼ぎに熱心な女だ。
…それは酷い言い方だな。
みんなのために献身的な女子生徒と言うべきだよな。
よく宿題を映させてくれたり、
弁当を作ってきてくれたり、
使える子だよ。
本当に助かる。
名前はオオガワラだかオガサワラだか、そんな感じだろう。
ちょんまげ、じゃないのか、ポニーテールというヘアースタイルをしているが、今どきの女子生徒らしくないのは、眉毛をいじったり化粧をしないからだろうか。
これと言って特徴が無いが、とにかく地味なのが特徴なんだよな。
地味。
校則を守っているからそんな地味になってしまうんだろうか。
磨けばいい女になるのに。もったいない。
「また部活サボって街に遊びに行くんでしょ?生徒会で散々、陰口言われてるよ…」
「ちゃんと門限には戻ってくるだろう。だいたい、部活のことは生徒会には関係ねえ話だろう」
「いやいや、生徒会というくらいだから、関係あるんじゃないかな、ねえヒヒロ君・・・」
「ああ?」
「言わなくてもわかってると思うけど、部活、辞めるなら辞める、続けるんならばちゃんと行かないと。」
「みんなに迷惑ってか?」
「あのね、あなたの影響じゃないと思うけど、いや、たぶんあなたの影響かな、最近増えてるらしいの」
「なにがぁ?」
「練習をサボっているわけじゃないけど、他の部活のさぼり仲間と遊んでいるというか・・・」
「ん~どういうことかな」
「グレちゃった感じの子が増えたの、この学園で」
「おおよそ、それは俺のせいだろうな」
俺は元々は運動部だった。
でも部活にはいかなくなった。
理由は、もう自分は試合に出られないとわかってしまったからだ。
ようするに、俺は留年してしまったのだ。
本来は3年生で、最後の部活動なのだが、流石にこれ以上部活動に顔を出すわけにはいかなかった。
留年が決定した人間が大会に出てもそりゃ悪くねえだろうけども、、、
正直、辛かった。
確かに素行は悪かったかもしれんが、部活は楽しかったからな。
留年した俺がそのクラブにいたら、他のメンバーが気を使うだろう。
でもだからと言って、辞めてしまったら、その場所から逃げてしまったら
本当に未来の自分はそれで後悔しないだろうか。
それが一番怖い。
このまま終わらせるのはちょっと悲しいんじゃないか。
それがいつまでも足かせになっていたのだ。
「遊んでいるのはいいのよ――ただ、残念ながらその行為は当てつけにしか見えないのよ。少なくともほかの人間には。下級生への悪い影響もあるし」
メガネの奥の鋭い目に俺は思わず息をのむ。
オガサワラちゃんは、地味だがかなり頭が切れる。俺に厳しい意見を突き付けてくる。
しかし俺とて自業自得で留年したのだから、いまさら何か試合に出てやろうなんて気持ちはない。
だがしかし、恐らく気持ちのやり場が見つからないんだろう。
いままで踏ん切りがつかなかった。
「しかし、中等部の部活道の態度まで目が行き届いているとは。周りがよく見えてるんだな。感心するぜ」
「わ、わたしは生徒会だからね。一応。」
「おいー照れるんじゃない。胸を張れよ」
彼女が大変なのは俺も知っていた。幼馴染だから余計にな。
押し付けられた生徒会の役員
押し付けられた学級委員
彼女は才色兼備というわけではないが、家柄も名門で、なにかとリーダーシップを持って進めてくれるので、みんなが頼りにしてしまう。
みんな自分のために動いてくれない。
自分だけが疲れてしまう。
彼女のイライラと時折見せる悲しい顔に同情してしまう。
彼女も周りが自分のために動いてくれる人間ばかりならばもっと輝けるはずだがな。
「一応挨拶だけはしておく。部長と顧問に」
「そうしてくれる?」
「オガサワラちゃんのおかげで、やっと、部活を辞める決心がついたよ。ずっと引きずってたんだよ。逃げたんじゃ、一生負け犬なんじゃないかって。」
「ヒヒロ君・・・・」
「後輩たちに悪影響を与えてしまうような・・・・悪いお手本は、もっとタチが悪いだろ。潔く姿を消すわ」
「ありがとう。でも、何かしら部活には入ってね?」
「そうだな。文化部がいいな。というと文化部に失礼か。じゃあな。」
「オガサワラちゃんもさ、少しは息抜きした方がいいよ。クラスに生徒会に、部活に、大変だろう」
「あっ、じゃあヒヒロ君も生徒会に来る?助かるんだけどなあ」
「冗談。俺は教師からの内申点よりも、自由が欲しい。じゃあな。」
俺はその場から走り去った。
あいつは、気を使って俺が留年したことを言わない。
でも、俺を甘えさせない。
宿題や弁当をくれるが、俺がルールを破ろうとすると怒ってくれるのだ。
地味でおとなしいのに、中等部のころから、俺に懐いてくれた。
まあ本当は嫌われているのかもしれないが、よく俺の動向を見ていたな。
俺もあいつのことをよく見ていた。
地味で引っ込み思案な自分を変えようと、生徒会に立候補したんだよな。
あの、あいつが。
あいつは生徒会長になれなかったことを、根に持ってるかもな。
あいつがあれだけ努力してもなれなかったのを見て、励ましてやったりもした。
それでもあいつは、活動を手を抜いたりせず、雑用だってこなしているだろう。
あいつからは、女性らしからぬ、異常な野心を感じるのだ。
家柄もあるし、もしかしたら女性初の総理大臣になれるかもな。
「ん~」
それにしても、新しい部活かあ。
科学部か、書道部がいいな。
文化部はサボリ部と相場は決まってるから。
「ん?あっ!?」
そんなことより、ハジメを連れてゲーセンに行かないと!
エッグは待ち時間が長くて、尚且つ1人あたりのプレー時間も長いから、グズグズしてられんっ!
すまん!未来の大統領!あとで退部届けは出しておく。
俺は、中等部まで猛ダッシュ
さきほども説明したが、ここの学校は小中高大一貫教育なのだ。つまり・・・
エレベーター式なので、高等部と中等部、初等部がある。敷地内はかなり広い。
この広大な敷地を毎日走ってるだけで、相当な運動になってると思うんだ。だから部活はもういいだろう。
ハジメは、最近、初等部から中等部に上がったばかりの、中学一年生だ。
ハジメとの最初の出会いは、実は、はっきり言って覚えていない。
中等部のころから、校則違反を繰り返す俺に、小学生だったハジメが面白がってくっついて来てた、そんな感じだろうな。
「ヒヒロさんって転校生なんですか?」
「ここは小中高大の一貫の学校なのに、転校生がいる訳ないじゃないか。なんでそんな事きくんだ?」
「あまりクラスメイトと話してるところを見たことないし・・・いつも授業を受けてないみたいだから。」
それは・・・それはだな。言いにくいんだが。
「実は留年してるんだよ。だから、ほらクラスメイトも部活の仲間も空気を読んで
あまり俺に話しかけてこないのさ。」
「この学校は初等部から高等部まで一貫した寮生活なのに留年なんてあるんですね。」
「逆だよ。一貫した寮生活だからこそ、留年が可能なんじゃないか。」
「ねえねえ、ヒヒロさん。このままずっと留年して、、僕と一緒に卒業しませんか?」
「バアロオ。さすがにそれは無理だ」
俺は真面目に答えて、思わず笑ってしまった。
この学校の嫌いな部分があって、それがどうしても俺は受け付けないのだ。
教育方針が、まるで同じ商品を作り上げるような、同じ答えしか許さないのだ。ひとりひとり、違って当たり前のはずなのに、おかしいじゃないか。
だから、授業を受ける気がない。
それで、とにかくまあ留年してしまったというわけだな。
しかし、その教育方針が間違っている、とは言えないのだ。
「りんごやみかんを生徒に例えるな」という人がいたな。
今の時代は綺麗に育った虫のついていないものしか購入者は欲しがらない。
だからその需要に合わせた育成をすること自体は、必要なことなのかもしれない。
誰にも必要とされないことは、何より怖い事だからな。
だから、オガサワラちゃんの言うことくらいは素直に聞いているのだ。
彼女の需要に会ったみかんでいたいからな。