表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/80

scene:79 強化装甲鎧とリパルシブガン

前回の投稿から長い期間が経ってしまいました。

申し訳ありません。

 エイタは試験的に、自分の体格に合わせて支柱骨格を製作し、その周りに人造筋肉を貼り付ける。それだけでは動かないので、人造筋肉を制御する<魔力制御符>や小型魔力供給タンク、それに加え制御に必要な装置を組み込んだ。

 <魔力制御符>のアルゴリズムは、ベッサムから教わったものを参考にしている。

 因みに、試作品に組み込んだ人造筋肉の筋力支援倍率は、八倍である。筋力支援倍率とは、人間の筋力をどれほど倍増させるかという数値だ。

 取り敢えず、動く強化装甲鎧らしきものが完成した。但し、装甲部分はまだなので、外見は人型の軍用傀儡から、頭部と装甲部分を剥ぎ取ったかのような感じである。


 それを見たモモカが、

「これって、どうやって動かすの?」

 その質問の答えとして、エイタは強化装甲鎧の原理を説明した。強化装甲鎧の内部には人間の動きを感知する圧力センサーが組み込まれており、装着者の動きを模倣するような仕組みが構築されているのだよと。

 当然、強化装甲鎧は人間の何倍もの出力が出せるので、驚異的な動きが可能となる。

 説明を聞いたモモカは、あまり理解できなかったようだ。可愛く首を傾げ『むむむ~っ』と唸っている。


「動かして見せようか?」

「うん、見たい」

 エイタは試作品を工房の外へ運び出す。工房の中で試す訳にはいかないからだ。モモカが見守る中、庭で装着して背中の魔力供給タンクの下部にある起動スイッチを入れる。

 慎重に右足を一歩進めてみた。右足が地面を蹴る動作をした一瞬後、試作強化装甲鎧の脚部人造筋肉が反応し、凄まじい力で地面を蹴った。

 当然、エイタの身体が後ろから突き飛ばされたかのように、前へと投げ出される。

「うぎゃあああ!」

 エイタは叫びながら、右手を地面へ伸ばし受け身を取ろうとする。だが、その動作も試作強化装甲鎧が増幅させ、片手だけの力で身体が宙に浮く。

 何度もアクロバット的な動きを繰り返した後、エイタは起動スイッチを切るのに成功。その瞬間、エイタはバタリと倒れた。


 モモカが走り寄ってきた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 エイタは鼻血を出しながらも、笑顔で起き上がる。酷い目には遭ったが、試作品が動いた事が嬉しかったのだ。

「アハハハ……ちゃんと動いたぞ」

「……」

 モモカは鼻血を出しながら笑っているエイタを見て、ちょっと引いた。


「お兄ちゃん、失敗したの?」

「……いや、失敗じゃない。使い方に慣れていなかっただけさ」

「ふ~ん」

 モモカの視線が、エイタには痛かった。


 エイタは筋力支援倍率が高すぎた事を反省する。慣れていなのに、軍用の最高品質である人造筋肉を好きなだけ使い筋力支援倍率を上げ、制御できなくなったのだ。

「作り直すの?」

「大丈夫、<魔力制御符>に組み込まれているアルゴリズムを少し変えて、出力を抑えるようにすればいいだけだよ」

 エイタは筋力支援倍率を三倍に調整して、もう一度歩いてみる。今度はなんとか歩けた。だが、自由自在という訳にはいかない。

 人造筋肉の反応が、実際の手足の動きと比べ一瞬だけ遅れるのだ。なので、それを考慮して動く必要があると教訓を得た。


 エイタは試作品にいくつかの不具合を見付けていた。人造筋肉の動きに不自然なものがあるのを気付いたのだ。七日ほどの時間を掛け不具合を洗い出したエイタは、人造筋肉の取り付け方を工夫するなどの改修を行う。

 取り敢えず、問題なく動けるようになった試作品に装甲を取り付けた。装甲はレッドカトブレパスの革鎧の各要所に魔剛鋼の板を取り付けたもので、相当な防御力がある。

 当然だが、装甲を付けた強化装甲鎧は重い。エイタの体重と比べ半分くらいの重量となった。起動スイッチを入れないと、水の中で動いているような感じになる。


 試作の強化装甲鎧が出来上がった段階で、新型リパルシブガンの試射をもう一度行った。今回は強化装甲鎧がリパルシブガンの反動を完全に受け止め、セレクトレバー【5】での試射も成功する。

 その威力は凄まじく、レッドカトブレパスでも一撃で仕留められそうだ。


 試作強化装甲鎧を改修し、本格的な強化装甲鎧を作り上げた時、キリアル中将から呼び出しを受けた。

 参謀本部へ行くと、訓練場に案内される。そこには工廠の職人数人と、参謀本部の人間が攻城兵器の性能試験を始めるところだった。

 攻城兵器というのは、先端に大型ドリルを取り付けた装置である。参謀本部では『攻城ドリル』と呼んでいる。だが、攻城ドリルは攻城兵器の失敗作として認識されていた。


 工廠の職人達は、攻城ドリルに頑丈な台車を取り付けて移動するようにしていた。ところが、攻城ドリルは容易に移動が不可能なほど重すぎた。

 エイタは攻城ドリルに騎乗傀儡に使われている脚部を一〇本と魔力供給タンク、新型マナシールドなどを取り付けるように指示を出し、その完成した姿がここにある。

「顧問、指示通りに完成しました」

 エイタは『ドリルムカデ』とでも言うべき攻城兵器をチェックした。攻城ドリルとの接合部分は頑丈に作られている。

「問題ないようだ」


 キリアル中将は、部下の一人に合図を送る。その部下はドリルムカデに取り付けたマナシールドのスイッチを入れた。その瞬間、新型マナシールドの隠蔽機能が働き出す。

 ドリルムカデの姿が幻のように揺らぎ見えなくなる。と言っても、完全に消えた訳ではない。近くで見ると空間が揺らいでいるように見える。

「これでは、敵に発見されるのではないのか?」

 中将が不具合ではないかと指摘した。

「いえ、不具合ではありません。もう一〇歩ほど離れて下さい」

 職人の言葉に従い、エイタや中将が一〇歩ほど離れる。


 少し距離を置いて見ると、揺らいでいた空間が周りの景色に溶け込み、ドリルムカデの姿が完全に消えていた。

 参謀本部の軍人は、目が飛び出るほど驚いた。

「な、なんと……完全に消えている」

 参謀の一人が驚きを込めた声を上げた。

 『隠蔽』の魔導紋様は、世界中で数人の者にしか知られていない希少なものだ。しかも、あまり実用性のない魔導紋様だと思われている。それは『隠蔽』の魔導紋様の効果範囲が狭かったからだ。

 従来の効果範囲は、『隠蔽』を刻んだものを中心に顔の大きさ程度だった。エイタはマナシールドに組み込む事で効果範囲を飛躍的に拡大させた。それは画期的な技術であり、他国が持っていないものである。


「素晴らしい。画期的な技術ではないか」

 キリアル中将が褒めると、数人の職人が、何か言いたそうな顔をする。

「何か有るのかね?」

 参謀の一人が確かめた。職人達が言い難そうにしているので、中将がエイタの方へ視線を向ける。

「職人達は、『隠蔽』を使った時の魔力消費の多さを問題だと思っているのでしょう」

「何! 説明してくれ」

 エイタは中将を始めとする参謀本部の人間に、『隠蔽』とマナシールドの組み合わせについて説明した。マナシールドに『隠蔽』の機能を組み込んだ事で、魔力消費が増大し使用時間に制限を掛ける必要が発生した事実を伝える。


「なるほど。制限時間というのは、どれくらいなのだ?」

 職人の一人が、三〇ミテラ(十五分)だと答えた。

「短いな……燃料を増やし時間を伸ばす事は可能ではないか」

「残念ながら、時間制限を超えて動かした場合、魔力供給装置が火を噴く可能性があります」

「ダメか……ならば、攻城兵器の移動速度が見たい」

 キリアル中将の要望で、職人達はドリルムカデを点検した後、訓練場内を一周させた。


 ドリルムカデの移動速度は、速いとは言えなかった。軍人達が真剣な顔で考え込み始める。どうやって敵砦の防壁まで送り込むか、頭を悩ませ始めたのだろう。

 攻城兵器の性能試験が終わる。キリアル中将がエイタを呼び寄せた。

「後一ヶ月で、休戦期間も終わる。もう一度、ニルム砦へ行ってもらえないか」

「オイラは職人なんですけど」

 エイタが異議を唱えると、中将が頭を下げ。

「敵も休戦期間に何らかの対策を立ててくると予想される。その対応を頼みたい」

 エイタは中将の顔を見て承諾した。その顔には国を守りたいという真摯な気持ちが現れていたからだ。


 ヴィグマン邸に戻ったエイタは、アリサに説明した。

「また、危険な場所へ行くの?」

「キリアル中将に頼まれたからな。……それに国の浮沈に関わる事。少しくらいの危険を犯すのは、覚悟の上だ」

「だったら、モモちゃんとメルミラは、ここで待たせたら?」

 エイタは悩ましげな顔をする。

「そうしたいんだけど、二人が絶対一緒に行くと言い張るんだ」


 その後、アリサがモモカを説得しようとしたが、無駄だった。結局、アリサとエイタが諦める事になる。

 エイタ達は荷造りを始め、二日後に旅立った。

 前と同じように、ニルム砦の手前にある宿場町バルムで宿を取った。翌日、ニルム砦へ挨拶に行く。ここで疲れた顔をしているクロンバイト少将に迎えられた。

「すまんな。少しでも安心が欲しかったので、キリアル中将に頼んで君に来てもらったのだ」

 エイタは何をすればいいか尋ねる。

「騎乗傀儡の改修作業を手伝ってくれないか。手が足りないのだ」

 ヴォレス大尉が指揮するアサルトスパのマナシールドを改修する作業が遅れているらしい。


 エイタが手伝う事で、マナシールドの改修は休戦期間終了の七日前に完了。時間が開いたエイタ達は、もう一度、赤煌晶と神銀を採取する為に高難易度迷宮『岩宮殿迷宮』へ向かう。

 万が一何かあった時、赤煌晶と神銀が必要になるだろうと思ったからだ。

 今回、新しくなった装備は、リパルシブガンと強化装甲鎧である。前回と同様に、山羊頭鬼とレッドカトブレパスに遭遇した。

 リパルシブガンのセレクトレバーを【4】にした状態で戦いが始まり、山羊頭鬼の頭を一撃、レッドカトブレパスの胴体を二撃で仕留めた。


 メルミラが感嘆の声を上げる。

「前は、あんなに苦労したのに、凄いです」

 エイタ達は赤煌晶と神銀を手に入れ、迷宮を出てバルムへ向かう。もう少しで町に到着するという地点で、前方に火の手が上がるのに気付いた。エイタは呆然とした顔で、

「バルムの町が燃えている……」

 宿場町が炎に包まれていた。微かに住民の悲鳴と叫び声が聞こえる。メルミラが悲鳴に似た声を上げた。

「あああああ……。な、何が起きてるの?」


 その時になって、エイタは気付く。これが協定破りだという事を。

 カッシーニ軍は、警備が薄くなっている国境を突破し、ニルム砦を避けてバルムの町を襲ったのだ。

「メルミラ。モモちゃんを連れて、ニルム砦へ行ってくれ。バルムが襲われていると伝えるんだ」

「エイタさんは、どうするんです?」

「少しでも住民を助ける。早く行ってくれ」

 モモカが拒否するように首を振る。

「モモカも、助けに行く」

 エイタはきつい口調で、

「ダメだ。メルミラと一緒にニルム砦へ行くんだ」


 モモカとメルミラは、渋々という感じでニルム砦へ向かった。

 エイタは強化装甲鎧を装着したまま、リパルシブガンを担いで町に近付く。町を襲っているのは、エイタが予想していたものより小さな集団だった。

 キラーマンティスが七体、兵士が一〇〇と少し。敵兵力は小さかったが、被害は大きい。数百人の住民が血を流し倒れていた。

 一人の兵士が住民だと思われる老人に槍を突き立てた。

「クソ野郎が……人の命を何だと思っているんだ」

 エイタはリパルシブガンを構え、まずキラーマンティスを狙う。

「壊れろ!」

 リパルシブガンの専用弾が発射された。その反動でリパルシブガンの銃床が強化装甲鎧の肩を叩く。だが、人造筋肉と頑丈な支柱骨格が力を吸収する。

 強力に加速された専用弾は、軽く音速を超えキラーマンティスの背中に命中し貫通。燃料タンクを撃ち抜かれたキラーマンティスは、次の瞬間燃え上がった。


 一体のキラーマンティスが燃え上がると、敵兵達がエイタの存在に気付く。敵の指揮官がエイタを攻撃するように命令を出した。

 残りのキラーマンティスが、エイタを目掛けて迫って来る。エイタは先頭のキラーマンティスに狙いを定め引き金を引く。

 次々に躯体を射抜かれたキラーマンティスが、重々しい音を響かせ地面に倒れる。

「そ、そんな馬鹿なあああ!」

 敵の指揮官が、目が飛び出しそうな顔をして叫んだ。

 七体のキラーマンティスが全滅。それもたった一人の人間によってである。敵の指揮官は信じられなかったのだろう。


「あいつを殺せ!」

 大勢の兵士が槍や剣を構え、エイタに殺到する。リパルシブガンを初めて人間に向けた。躊躇ってから、決心し引き金を引く。専用弾が兵士の肉体を貫通。後ろにいる兵士も胸を射抜く。

 あまりにも威力の大きな専用弾は、二、三人の身体を貫通する。

 リパルシブガンを人間相手に使うには、強力過ぎた。だが、専用弾にも限りが有る。敵兵士の二割ほどを倒した時、専用弾が尽きた。


 エイタは仕方なくプロミネンスメイスを取り出し構える。

 期せずして白兵戦が始まる。兵士の槍が強化装甲鎧の装甲に叩き付けられた。装甲は軽々と槍の攻撃を撥ね返し、エイタはお返しとばかりにプロミネンスメイスを敵兵士に打ち下ろす。

 三倍に増強されたパワーが、敵兵士を叩きのめす。元々エイタの膂力は強い。魔物から取り込んだ顕在値が、エイタの肉体を強化しているからだ。

 その強化された筋力が、強化装甲鎧により増強されたのだ。敵兵士の肉体が叩き潰され、宙を舞う。一人対一〇〇人の戦いだ。

 強化装甲鎧に包まれたエイタの腕が、プロミネンスメイスで敵を薙ぎ払う。プロミネンスメイスがポキリと折れた。

「クソッ、武器も作り直さないとダメだな」


 エイタは強化装甲鎧で包まれた手足を使って戦い始めた。敵は槍や剣で襲い掛かるが、強化装甲鎧がエイタの肉体を守る。一方、エイタの攻撃は一撃で敵兵士の肉体を壊した。

 カッシーニ軍の兵士達は、巨人とでも戦っているかのようにバタバタと倒れていく。しばらくはエイタの無双状態が続いた。だが、体力には限界がある。

 エイタの手足が重くなり、息が上がる。もうダメかと思った時、ヴォレス大尉が率いる騎乗兵達が駆け込んできた。ニルム砦から駆け付けて来たのだろう。

 その後の戦いは早かった。アッという間に敵兵士は駆逐された。

「お兄ちゃん……」

 モモカが駆け寄ってエイタに抱き着いた。かなり心配していたのだろう。


 エイタを助けたヴォレス大尉は、倒れている敵の軍用傀儡を発見した。

「こ、これは!」

 キラーマンティスの躯体には、何かが貫通した痕が残っている。カッシーニ軍の昆虫型兵器は、決して防御力が高いタイプではない。それでも本物の軍用傀儡の装甲は頑丈である。

 それを貫くエイタの武器は、生半可な威力ではないと分かる。ヴォレス大尉はどんな武器か知りたいと思った。

 エイタに武器について尋ねる。

「迷宮を探索する時に、使っている武器です。希少な材料を使っているものなんで、軍用の武器には向きません」

「しかし、軍用傀儡を倒せる武器なら、軍でも欲しい」

「黒煌晶を必要とする武器なんだよ」

 ヴォレス大尉が顔をしかめる。黒煌晶は工廠でも備蓄のない魔煌晶だった。高難易度迷宮の奥でしか採掘できない。エイタが大金を払って集めたので、今は国中探してもないだろう。

「無理か……特殊大型雷撃弾が有るから必要ないか」

 大尉は諦めたようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
【連載中】

新連載『崖っぷち貴族の生き残り戦略』 ←ここをクリック

『天の川銀河の屠龍戦艦』 ←ここをクリック
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ