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scene:78 休戦協定

久しぶりの投稿です。

 エイタが強化装甲鎧を作ろうかと考え始めた頃、ユ・ドクトではキリアル中将とダルザック連盟総長がカッシーニとの戦争について話し合っていた。

 カッシーニ軍と自由都市連盟軍の間で、小競り合いは毎日のように続いていたが、大規模な戦闘は起きていないとニルム砦からの報告を受けている。

 両国軍の指揮官は兵士達が疲弊しており、戦力の補充が必要だと感じ、本国に増援の要請を行っていた。

 だが、両国の政治家の中には財政の数字が思わしくない事に頭を悩ませ、戦争を続けるより講和を選ぶべきではないかと考える者も現れ始める。


「中将、講和を申し出て、カッシーニが話に乗ると思うかね?」

「いえ、あれだけの犠牲を払ったからには、何らかの成果を掴み取るまで講和は無理でしょう」

 軍の中で一番の実力者がキリアル中将だと知っているダルザック連盟総長は、戦略上の話し相手としてキリアル中将を選んだ。

「中将、このままでは連盟の経済が破綻する。短期間で戦争を終わらせられないかね」

 自由都市連盟は周辺諸国との貿易で成り立つ国であり、戦乱が続くと国民が疲弊し国家財政も苦しくなる。

「軍としても、今回の戦争は長引かせたくないのです。ですが、カッシーニはファダル砦が落ちない限り諦めないでしょう」

「ファダル砦か、あそこにはまだ一万を超す兵力があるはずだ。簡単に落ちるものではないだろう」

 キリアル中将は少し躊躇ってから。

「騎乗傀儡が五〇〇、ホメンドーラが三〇〇ほど増援出来れば可能かもしれません」

 ダルザック連盟総長が刺すような視線を中将に向けた。

「そんな兵力が何処にあると言うのだ。使い物にならないメルドーガに多くの軍事費を投入したのは、参謀本部だったのではないか!」

 中将は唇を噛み締め。

「申し訳ありません」

「いや、済まん。興奮してしまった。君を責めている訳ではない。最終的な決定をしたのは連盟総長である私なのだから」


「いえ、新型軍用傀儡の開発を任されたのは参謀本部です。その責任者である自分に責任がある事は承知しています」

 ダルザック連盟総長はキリアル中将が優秀な軍人であると評価しており、代えの人材が存在しない事が判っていたので、メルドーガの失敗を彼一人の責任として更迭しようとは考えていなかった。

「カッシーニ軍について、情報はないのか?」

「ホメンドーラの活躍で、多くの兵士を失い戦意は低下しているようです」

「今がチャンスという事か。現兵力だけでファダル砦を落とすのは無理なのだな」

「はい、現兵力でファダル砦を攻めれば撃退され、敵の戦意が回復する恐れがあります」

「うーむ」

 連盟総長は唸り声を上げ考え込んだ。


「自分に一つだけ考えがあります」

 キリアル中将が連盟総長に告げた。

「考えとは?」

「敵のカッシーニ軍も戦力の補充を考えているはずです。今、休戦協定を申し出れば敵も承知する可能性があります」

 その提案を聞いたダルザック連盟総長は、難しい顔をする。

「休戦協定の期間中に、兵力を揃えようというのだろうが、それは敵も同じではないか。国力が上のカッシーニの方が有利となるはずだ」

「普通に考えれば、そうです。ですが、我々にはエイタ顧問が居ます。彼なら何か対策を思い付くかもしれません」

 ダルザック連盟総長は眉をひそめ。

「おいおい、彼は優秀な技術者だが、万能ではないのだぞ」

「判っています。ですが、彼の魔導紋様に関する知識は驚くべきものがあります。何か打開策を持っているかもしれません」

「よし、彼を呼び戻そう」


 エイタはユ・ドクトに戻るようにという連絡を受け、首都に戻って来た。

 久しぶりに工房に戻り、休む暇もなく参謀本部へ向かった。中将の執務室には連盟総長とキリアル中将が待っていた。

「ニルム砦での活躍は聞いている。ご苦労だった」

 ダルザック連盟総長がエイタの苦労を労う。

「少し疲れました。もしかして休暇をくれるという訳ではないんですよね」

「残念ながら違う」

 エイタは溜息を吐いた。

「それでユ・ドクトに戻したのは、何故です?」

 キリアル中将はカッシーニとの戦いが有利になるものを開発出来ないか尋ねた。


「時間が有れば、開発は可能です」

「時間はない」

 エイタは何が可能か考え始める。新しい軍用傀儡を開発するのは無理な話だ。そうなると既存のものを改良するという事になる。

 まずは、騎乗傀儡アサルトスパの改良である。今回の戦いで三〇機ほどのアサルトスパが破壊されていた。そのほとんどが、先に騎乗兵が倒され操縦者を失ったアサルトスパが破壊されるというケースが多かったらしい。

 キャノンベアのバーストキャノンから撃ち出される魔導徹甲弾や爆裂弾が直撃した場合は仕方がないとして、近距離に爆裂弾が着弾し、その爆風と破片により命を落とす騎乗兵が多かった。


 騎乗兵に強化装甲鎧とまでは言わないが、防御力の高い鎧と兜を装備させるのは有効だろう。それを提案してみるとキリアル中将が良い案だと頷く。

 ダルザック連盟総長が質問する。

「騎乗傀儡には、マナシールドが組み込んで有るのだろ。それを強化する事は出来んのか?」

「それは難しいです。マナシールドの消費エネルギーは多いので、それを強化した場合アサルトスパの魔力供給タンクを大型化する必要があります。構造を変える必要が出て来て、短期間には無理です」

「なるほど、騎乗兵に鎧を着せる方が早いという事か。だが、攻撃力は上げんで良いのか」


「敵は大盾を装備するようになっています。それをなんとかしなければなりません」

 キリアル中将が身を乗り出し。

「キャノンベアと同じく爆裂弾を使うのはどうだ?」

「どっしりと構えられた状態で大盾に命中しても、爆裂弾の威力を受け止められる可能性があります。なので、移動中に爆裂弾を命中させるとか工夫が必要です」

「その辺は騎乗兵の訓練で対応するしかないか」


 ダルザック連盟総長は少し気になって、エイタに尋ねた。

「もし十分な時間がある場合なら、どんなものを開発する?」

 エイタは少し頭を傾げてから。

「そうですね。究極の騎乗傀儡みたいなものを作りたいです」

「ほう、それはどんな騎乗傀儡なのかね?」

「まずは一回り大型化して出力を上げます。少しくらいの攻撃なら弾き返す装甲も欲しいし、軍用傀儡でも一撃で撃破する強力な武器も欲しい。でも一番は今以上に戦場を高速で駆け回る機動性です」


 連盟総長は笑い声を上げた。

「素晴らしい。君に時間を与えられないのが残念だよ」

 キリアル中将は短時間で出来る騎乗傀儡の改造はないか尋ねた。

「そうですね」

 エイタは少し考え、マナシールドに『隠蔽』の魔導紋様を加え、アサルトスパを敵から見えないようにする事が可能なのではないかと閃いた。


 そのアイデアを連盟総長達に伝えると。

「興味深い。その機能を元に戦術を組み立てれば、面白い戦いが出来そうだ」

 キリアル中将が嬉しそうに声を上げた。

「ジッダ侯主連合国と戦っていたルチェス少佐達がユ・ドクトに戻って来る。エイタ顧問は彼らの騎乗傀儡を改造してくれ」


「しかし、騎乗兵の防具と新型マナシールドだけでは、我軍を勝利に導くのは難しい。他にアイデアはないのか?」

 キリアル中将が強い口調でエイタに尋ねた。

「……ちょっと時間を下さい。考えてみます」

「そうだな。いきなりアイデアを出せと言われても、エイタ顧問も困るだろう」

 連盟総長の言葉に、中将も頷くしかない。


 中将は騎乗傀儡に関して、エイタのアイデアが出るのを待つ事にした。

「ならば、ホメンドーラはどうだ。何か改良点は思いつかないか?」

「ホメンドーラは砦の内部に入りさえすれば、本来の機能を存分に発揮出来るんですけど、あの堅牢なファダル砦だと難しいですね」

「当たり前だ……ん……ちょっと待て。新しいマナシールドだが、騎乗傀儡でなくとも搭載可能なのか?」

「魔力供給タンクさえ有れば、可能ですけど。それが何か?」

「五年ほど前になるのだが、軍で攻城兵器を開発したのだ」

 そんな物が有るなら、今回の戦いでも使えば良かったのにとエイタは思った。


「そんな物が有るなら使えばいいのにと思っただろ?」

 エイタはズバリと言い当てられ頭を掻く。

「その攻城兵器には問題が有るのだ。大型のドリルで城壁を破壊する兵器なのだが、重過ぎて簡単に運べるものではないのだ」

 その攻城兵器は、爆裂弾などでは破壊出来ない堅牢な城壁を破壊する為に開発されたものだった。先端には巨大なドリルが有り、そのドリルを回転しながら城壁にぶち当て穴を開けるという代物である。その重量は傀儡馬六頭引きでないと動かないというものだ。

 開発した後、こんなものをどうやって敵の城壁まで運ぶのだという話になり、お蔵入りとなった失敗作である。形状から城壁に穴を開ける兵器だと分かるので、集中的に狙われるのは当然だと指摘されたのだ。


「その攻城兵器を新型マナシールドを装備した台車に載せて移動させられないか?」

 エイタはいいアイデアだと頷いた。

「可能です」

「ファダル砦を落とせる可能性が出て来た。連盟総長、カッシーニに休戦を申し込みましょう」

「判った」

 ダルザック連盟総長はカッシーニ共和国に休戦協定を申し込む決意を固めた。

 自由都市連盟とカッシーニ共和国との間で、休戦協定の話し合いが進められた。この休戦協定では、国力が上の自国に有利だと考えたカッシーニ共和国は積極的に話し合いに応じ四ヶ月の休戦協定が結ばれた。


 四ヶ月という時間が出来た自由都市連盟は、一丸となって戦力増強に邁進する。工廠の中で兵士の防具を作っている部門は、騎乗兵用の防具開発を開始した。

 ダルザック連盟総長は、再度の騎乗傀儡増産を決定した。もちろん、新型マナシールドに改良したものを製造する予定である。

 増産数は三〇〇機、それに乗る騎乗兵の育成も始める。自由都市連盟では騎乗傀儡の活躍が広まり、騎乗兵は花形兵種と認識されるようになっていた。

 騎乗兵に転属を希望する兵士が増え、ルチェス少佐は選ぶのが大変という状況に驚く事になる。


 エイタは新型マナシールドの開発を始めた。マナシールドに組み込まれている魔導紋様を研究し、これに『隠蔽』の魔導紋様をどう組み込むかを考える。

 工廠の技術者も全面的にエイタに協力したので、新型マナシールドの開発は順調に進み一ヶ月後に完成した。

 アシルス砦からルチェス少佐の騎乗傀儡特別大隊が戻り、工廠で整備作業が行われる。マナシールドを新型に変える作業とオーバーホール作業である。

 ジッダとの国境線で激しい戦いを繰り広げたアサルトスパは、何らかのダメージを受けている機が多く整備を入念にするようにルチェス少佐が命じたのだ。


 エイタは久しぶりにルチェス少佐と再会した。

 ルチェス少佐は工廠に現れると、大きな声でエイタに。

「よお、元気だったか?」

「元気ですけど、忙し過ぎて目が回りそうだよ」

「仕方ないさ、それだけ重要人物になったって事だ」

 エイタが苦笑する。

「そんな者にはなりたくなかったんだけどね」

「戦争が終わるまでの辛抱だ」


 エイタは今回改修する新型マナシールドについて、ルチェス少佐に詳しく説明した。

「『隠蔽』の魔導紋様というのは、どういう仕組なんだ?」

「光を屈折させ、背後の光景をシールドに映し出す仕組みだ」

「という事は、目で見えるものしか隠せないんだな」

「ええ、大きな音を立てるとバレます」

 エイタは一緒に『遮音結界』も組み込めないかと研究してみたが、難しいという事が判った。


 マナシールドの開発が終わり、改修手順の指示とアサルトスパ増産計画、攻城兵器を乗せる台車の設計が出来上がると、エイタは仕事を優秀な技術者に振り分けた。

 自由な時間を作り、キリアル中将から頼まれたアサルトスパの改良アイデアを考えようと思ったのだ。

 ところが、工廠の技術者の一人が、ダブルショットボウのリム部分に使う材料を変えるというアイデアを出し、大型弾の初速が大幅に上がった事でアイデアを出す必要が無くなった。

 初速が上がったダブルショットボウと特殊大型雷撃弾、特殊大型爆裂弾の使用で軍用傀儡はなんとかなるのではないかと軍は判断したようだ。


「やる事が無くなってしまった」

 エイタは自由になった時間を利用し、宿場町バルムで手を付けた装備の強化を始めた。

 新型のリパルシブガンは、現在の防護鎧では反動を吸収しきれないので、防護鎧の性能を上げるか、強化装甲鎧を作るかだ。

 エイタはどちらにするか迷い、防護鎧の延長では限界があると考え、強化装甲鎧を開発する事にする。そのノウハウは職人のベッサムから手に入れている。


 エイタは強化装甲鎧の素材を何にするか考えた。一般的にはカトブレパスの革に部分的に魔剛鋼のプレートを固定したものが多いようだ。

 エイタはレッドカトブレパスの革を使おうと決めた。通常のカトブレパスより丈夫であり、魔剛鋼のプレートの量を減らせると思ったのだ。

 エイタは工廠に出入りしている商人から、レッドカトブレパスの革を手に入れ、革職人に革鎧として加工して貰う。その時、エイタの身体より一回り大きな革鎧になるよう注文した。


 革鎧が出来上がる間に、エイタは革鎧の内側に固定する支柱骨格を製作する。支柱骨格は人造筋肉を取り付け、使用者のパワーを増強するものである。

 この支柱骨格の構造と人造筋肉の組み込み方が、強化装甲鎧を製作する上で一番重要になる。

 取り敢えず、ベッサムから教わった通りに製作し、試す事にした。


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