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scene:76 自由都市連盟軍の反撃

遅くなりました。

 撃退されたカッシーニ軍の参謀や指揮官達は、ファダル砦の作戦会議室に集まり作戦会議を始めた。

 まず、メイリゲル中将が重い口調で話を始めた。

「被害報告から聞こう。オスヴァルト中佐、君からだ」

 指名されたオスヴァルト中佐は唇を噛み締め、青褪めた顔で報告した。

「キラーマンティス一〇二体、キャノンベア六一体が敵の攻撃により撃破されました」

 メイリゲル中将が被害の大きさに顔を青褪めさせた。


 兵士達にも死傷者が大勢出ており、特に弓兵の死傷者率が高かった。

 被害を聞いたメイリゲル中将は肩を落とし、防備を固めるように命じた。

 この大失態により、自分は更迭されるだろうと中将は覚悟した。

 数日後、カッシーニ共和国の軍令部より、メイリゲル中将の更迭とロドリアス大将をファダル砦の最高指揮官に任命する知らせが届いた。


 その三日後に、ロドリアス大将が部下を引き連れファダル砦に到着した。

 休む暇もなく、大将は新しく配下となった少佐以上の将校を作戦会議室に集め会議を開いた。

「本国では国境地帯の趨勢を大いに憂慮している。この度の作戦失敗の原因を報告しろ」

 ボルノフ大佐が敵の騎乗傀儡の脅威について説明を始めた。

「騎乗傀儡が装備する遠距離兵器には幾つもの弾種があり、その中に驚異的な威力を発揮する特殊弾が有ります」

 ロドリアス大将は顔を顰め頷いた。

「どれほどの威力なのだ。報告書は読んだが、本当にキャノンベアが一撃で倒されたのか」

「その通りです。ただ特殊弾の数は少ないようです。もう一撃加えれば、キャノンベアを全滅させられたのに、敵の攻撃は中途で終わってしまいました」

「特殊弾の数は少ないか……だが、敵はキャノンベアを仕留めるという実績を上げた。今頃、増産しているに違いない」

 大将が指摘するとボルノフ大佐が違う意見を述べた。

「そうとも限らないかもしれません」

「どういう事だ。これほどの実績を示した兵器に増産命令を出さない軍人など居ない」

「いえ、増産したくても出来ないのではないかと思うのです」

「何故だ?」

 ボルノフ大佐は諜報員から送られて来た情報を提示した。

 その情報の中には、ニルム砦のクロンバイト少将が赤煌晶を送るようにユ・ドクトに要請している情報が有った。

「これは?」

「自由都市連盟軍の逓信部に潜入させた諜報員が送って来た情報です」

 逓信部とは軍内の命令や連絡・報告などの通信文を配送管理する部署である。

「推測では有りますが、特殊弾を製造するには赤煌晶などの希少な素材が必要なのでしょう。故に量産は難しいのではないでしょうか」

「だが、工廠には備蓄が有るだろう?」

「我軍もそうですが、新型軍用傀儡や爆裂弾・魔導徹甲弾の製造で大量に消費しました。ユ・ドクトでも同じだと思われます」

「なるほど、だが、全く作らないという事はないはずだ」

「仰る通りです。少数の特殊弾を所有していると思われます」

「その対策はどうする?」

「キラーマンティスの対策は難しいですが、キャノンベアには盾を持たせたらどうでしょう」

「盾だと……それで防げるのか?」

「敵の特殊弾は、軍用傀儡の装甲を突き破り内部で雷撃を放つ事で威力を発揮します。盾で特殊弾の貫通力を削り、装甲を貫けなくするのです」

 ロドリアス大将は口をへの字に曲げ考え込んだ。口の形は、大将の癖らしい。

「良かろう。試してみる価値が有る。キャノンベアの増援と盾の装備を軍令部に依頼する」


 一方、戦いの翌日、自由都市連盟のニルム砦でも、作戦会議が行われた。

 ヴォレス大尉が疲れた顔で席に着き、会議が始まるのを待っていた。

「大尉、大丈夫ですか?」

 エイタが声を掛けると、ハッとして大尉が顔を上げる。

「いささか疲れたようです」

「無理もない。あれだけ活躍した後、後始末や報告書を書かねばならなかったんだから」

 クロンバイト少将が会議室に入って来た。

 席に着くと集まった者達を見回してから、ヴォレス大尉に視線を止めた。

「ヴォレス大尉、騎乗兵達の被害はどれほどだ?」

「二十三名が戦死し、六名が重傷を負って医療室で治療中です」

「アサルトスパの損害は?」

「三〇機が破壊されました」

「残り一七〇機か。ダルザック連盟総長が騎乗傀儡を四五〇機増産すると決めた時、なんて馬鹿な事をと思ったのだが、英断だった。いや、四五〇機でも少なかったか」

 クロンバイト少将はアサルトスパを高く評価してくれているようだ。


 参謀の一人が、ニルム砦に最も近い都市であるド・バリフスから届いた知らせを伝えた。

「明日、ホメンドーラ二〇〇体が砦に到着するとの事です」

「ほう、このタイミングで新しい軍用傀儡が届くのか」

 少将の顔が少しだけ明るくなった。

 だが、参謀の一人が顔を曇らせる。

「その軍用傀儡は、大量生産に失敗したメルドーガの代わりに、短期間で開発された粗製乱造傀儡だという噂があります」

 ヴォレス大尉が顔を顰め。

「ホメンドーラを開発したのは、エイタ顧問だぞ」

 エイタは苦笑するしかなかった。

「まあ、短期間に開発したのは間違いではないが、決して粗製乱造傀儡ではないから」

 発言した参謀が身体を小さくして、エイタに失言だったと謝った。


「エイタ顧問が開発されたホメンドーラという軍用傀儡について聞きたい」

 少将はエイタにホメンドーラがどういう軍用傀儡か尋ねた。ユ・ドクトからの通達に概要を纏めた書面が有ったのだが、それだけでは性能が判るだけで、どういう運用をすれば良いか分からなかったそうだ。

 エイタはホメンドーラについて説明し、ジッダ軍との戦いにおいて、どう運用されたかも話した。

「基本的に対人用の軍用傀儡なのだな」

「そうなんです。基本的な運用方法は敵のキラーマンティスと同じです。ただ、ホメンドーラは迷宮探索の時に盾役として使うガードビーストが元になっています。敵軍用傀儡の攻撃をホメンドーラが防いでいる間に、アサルトスパが接近し仕留めるという運用も可能なはずです」


「ふむ。ホメンドーラとアサルトスパの連携か。参考になった。その情報を元に作戦を考えよう。エイタ顧問は一発でも多く特殊大型雷撃弾を作ってくれ」

 本格的な作戦会議が始まったので、門外漢のエイタは黙って聞いていた。

 参謀達の案は基本的に待ちの作戦らしい。塹壕も出来上がったので、それを利用して攻めて来る敵を迎撃するようだ。

「待って下さい。消極的過ぎるのでは有りませんか」

 ヴォレス大尉が声を上げた。

「どういう意味だ?」

 少将が興味を持ったようだ。

「今、敵の戦力は低下しています。時間をおけば回復してしまうでしょう。そこでホメンドーラが到着した後、敵の砦を強襲する作戦を提案します」

 参謀の一人であるガリクソン少佐が反対する。

「無謀です。確かに敵の戦力は低下していますが、以前に行った奇襲により敵は警戒しています。早期に発見され迎撃される可能性が高いと思われます」

 クロンバイト少将はガリクソン少佐の意見に納得しているようだ。


 ヴォレス大尉は勝機が今しかないと感じていた。国力はカッシーニ共和国の方が上である。時間を掛ければ、劣勢となるのは自由都市連盟なのだ。

 ヴォレス大尉は以前から考えていた作戦案を提案する決心をする。

「では、敵を砦から外へ誘引し、待ち伏せした味方により叩く作戦はどうでしょう」

 この作戦は非常に難しいものである。わざと負けて敗走する囮部隊は、一歩間違えると敵に包囲され全滅する可能性さえ有るのだ。

 少将は興味を示し具体的な作戦を検討するように指示した。


 テーブルの上に地図が広げられ、待ち伏せに最適な地点が検討された。

「この地点はどうだ。多数の兵を隠せる地形だと思われるが」

「いや、そこは敵の砦に近過ぎる」

「だったら、ここはどうだ」

「そこだと囮部隊の敗走経路が不自然になり、敵に罠だと気付かれる」

 数日間、作戦が検討され、なんとか成功するのではないかという作戦案が完成した。


 準備期間を一日置き、作戦案が纏まった翌々日に第二騎乗傀儡特別大隊とモルガート一〇〇体が砦を出発した。

 その後に兵士三〇〇〇が続いて出撃する。

 国境線を警備しているカッシーニ共和国の兵士を騎乗兵が蹴散らした。その後、アサルトスパとモルガートの部隊は素早い機動でファダル砦の近くに在る森へ移動する。

 その森で、巡回中のキラーマンティス小隊と遭遇した。

 モルガート部隊の指揮官であるカスパル少佐が、五体のモルガートをキラーマンティス小隊に向かわせた。キラーマンティス小隊の指揮官は逃げる事を選んだ。

 モルガートが剣を掲げ走り出す。モルガートの疾駆速度は人間より速いが、キラーマンティスはそれ以上だった。キラーマンティスは全力で逃げ、モルガートは後を追うが追い付けない。


 ヴォレス大尉がカスパル少佐に声を掛ける。

「少佐、キラーマンティスは我々が仕留めます」

 五機のアサルトスパが駆け出し、瞬く間にキラーマンティスに追い付くと特殊硬化弾を撃ち込んだ。

 キラーマンティスの関節部に硬化剤が入り込み固まった。キラーマンティスが動けなくなり、しばらくすると守秘機構が働き、制御コアが自壊し人造筋肉が燃え出した。

 敵兵士達はショットボウにより蜂の巣となり死んだ。


「よし、片付いたな。出発するぞ」

 ヴォレス大尉が騎乗兵達の働きに満足し号令を発した。

 本来なら階級が上であるカスパル少佐が指揮を執るべきなのだが、クロンバイト少将からヴォレス大尉が指揮するように命じられている。


 ヴォレス大尉達はファダル砦の前まで辿り着いた。一緒に移動していたはずのモルガートの姿はなかった。

 砦の見張り兵がヴォレス大尉達を発見し大声を上げ、警鐘を打ち鳴らしている。

 砦の防壁の上に弓隊が登って来た。前回と違うのは弓隊と一緒に盾を持つ兵士が現れた事だった。この前の奇襲で大勢の弓兵が死んだ対策を考え盾を用意したのだろう。

 ヴォレス大尉は騎乗兵にショットボウの一斉射撃を命じた。騎乗兵の構えるショットボウから弾丸が発射され、兵士が持つ盾に命中する。

 甲高い音を立て弾丸が盾に弾かれた。弓兵達が盾の影に隠れながら矢を放ち始めた。

「敵がそう来るなら……ダブルショットボウに大型専用弾を装填せよ」

 ヴォレス大尉は騎乗兵達が大型専用弾を装填するのを待ち命じる。

「狙え、撃て!」

 大型専用弾が敵の弓兵を襲った。盾に命中した大型専用弾は盾を弾き飛ばし、その背後に立っている兵士と弓兵も防壁の上から叩き落とした。

 防壁から落ちる兵士の絶叫が大気を震わせる。


 自軍の弓兵が殺られたのを見て、ロドリアス大将は防壁の上に大盾を持ったキャノンベアを上げた。

 それを見たヴォレス大尉は射撃を命じた。騎乗兵達は直ちにダブルショットボウの引き金を引く。

 大型専用弾が猛烈な速度で飛翔し、キャノンベアが持つ大盾に命中する。大盾は威力の有る大型専用弾を弾き返した。カッシーニ共和国軍の工廠が急遽用意した大盾は、兵士の持つ盾と比べようもないほど分厚い魔剛鋼製の頑丈なものだった。


「カッシーニの奴らめ、盾を用意しやがったか」

 キャノンベアが防壁の上から砲撃体勢に入ったのが見えた。ヴォレス大尉は部下達に散開するように命じた。

 その直後、防壁の上から爆裂弾が降り注いだ。

 逃げるアサルトスパに爆裂弾の破片が叩き付けられた。ほとんどの破片はアサルトスパに装備されているマナシールドが弾き返した。

 だが、散開するタイミングが遅れた騎乗兵の中には、爆裂弾に直撃されアサルトスパを破壊される者もいた。


 アサルトスパの部隊は北側の森の方へ退避した。

 カッシーニ軍は、騎乗兵が特殊大型雷撃弾を使用しなかったのを確認し、生産が間に合わなかったのだと推測した。チャンスだと判断したロドリアス大将は、砦の門を開いて追撃部隊を送り出した。

 キャノンベアとキラーマンティスの混成部隊が門を出て、アサルトスパを追い掛け始めた。

 アサルトスパを追ったカッシーニの混成部隊が北側の森の中に消えた後、南側の森に隠れていたモルガート一〇〇体と兵士三〇〇〇がファダル砦の前に現れ、攻城兵器を使って攻め始めた。


 大槌を持ったモルガートが門を破壊しようと殺到する。

 残っていたキャノンベアを全てアサルトスパの追撃に出した事を、ロドリアス大将は後悔した。

「仕方ない。ヴィグマン()型を出せ」

 ロドリアス大将は隠し玉と言うべきヴィグマン()型の部隊を、モルガート部隊にぶつけた。

 基本性能が似ている二つの軍用傀儡は潰し合い、みるみるうちに数が減っていく。

 残った軍用傀儡が数体となった時、戦いの主力は兵士達となった。

 ファダル砦から出撃した七〇〇〇のカッシーニ兵士が、三〇〇〇の自由都市連盟軍兵士に襲い掛かった。


 数に劣る自由都市連盟軍は後退を始める。

 後退の速度は段々と速まり、最後には潰走状態となった。

 それを見たカッシーニ軍は決定的な勝利を得るチャンスだと判断し、全力で追撃を開始した。

「今だ。奴らを皆殺しにしろ!」

「「「おお!」」」

 カッシーニ軍の兵士達から威勢のいい声が上がった。

 自由都市連盟軍の兵士が南側に広がる森に逃げ込むと、カッシーニ軍の兵士は躊躇する事なく森に飛び込んだ。


 カッシーニ軍の兵士達は、自由都市連盟軍の兵士を追って森の中深くに入り込んだ時、森の中に甲高い音が響き渡った。

 カッシーニ軍を指揮していたボルノフ大佐は、嫌な予感を覚え部隊の停止命令を出した。

 その時、細長い列となったカッシーニ軍の両側から、何かが飛んで来て兵士達の身体に穴を開けた。

「い、いかん。待ち伏せだ!」

「逃げろ!」

 自由都市連盟軍の作戦を悟ったカッシーニ軍の指揮官が退却を命じた。だが、遅かった。

 南側の森に潜んでいたホメンドーラは、ストームガンの弾丸を敵軍の兵士目掛け、ばら撒き始めていた。


 南側の森はカッシーニ軍の墓場となった。

 馬体型下半身の上に四本の腕を持つ上半身が載っているホメンドーラは、カッシーニ軍の兵士にとって悪魔に見えたらしく、ホメンドーラを見ると恐怖に顔を引き攣らせ逃げ出した。

 そんな兵士をストームガンが薙ぎ払うように一掃した。

 南側の森に入った七〇〇〇近いカッシーニ軍の兵士は、ほとんどが戦死した。


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