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scene:71 戦いの始まり

 アサルトスパ三〇〇機を率いたルチェス大尉達がアシルス砦に到着した。

 アシルス砦で指揮を執るのはケムフェス少将である。彼の指揮下には一万七〇〇〇の兵力とモルガート二五〇体が配されていた。

 ケムフェス少将は一年ほどアシルス砦に常駐し指揮を執っていたので、アサルトスパについてはよく知らない。参謀本部からアサルトスパ三〇〇機を送ると連絡が有った時、少々がっかりした。

 騎乗傀儡などと呼ばれるゲテモノの傀儡より軍用傀儡を一体でも多く送って欲しかったのだ。


 ルチェス大尉が到着の報告にケムフェス少将の部屋に行くと少将はテーブルの上に広げた地図を見詰めていた。

 大尉が騎乗傀儡特別大隊の到着を報告すると少将は窓に歩み寄り下を覗いた。少将の居る二階の部屋からは砦の中にある練兵場がよく見えた。

「ほう、壮観な眺めだな」

 窓の下には三〇〇機のアサルトスパが整然と並んでいた。その光景を見た少将は騎乗傀儡と言う新しい兵器が戦力になるかもしれないと思い始めた。


「大尉、戦が始まるのも時間の問題だ。そこで確かめておきたいのだが、君の部隊はどれほどの戦力となるのかね?」

「アサルトスパが二機いれば敵の軍用傀儡を仕留められると考えています」

「では、三〇〇機のアサルトスパはモルガート一五〇体に匹敵する戦力だと考えてよいのだな」

「その考えは間違いではありませんが、騎乗傀儡が得意とする戦いは機動戦であります。広い場所を走り回りながら敵を追いダブルショットボウや騎乗兵のショットボウで叩くのが基本となります」

「なるほど……軍用傀儡とは運用が違うと言いたいのだな」

 大尉はアサルトスパが得意とする戦術や戦い方を説明した。


「君の部隊については大体理解した。それでは地図を見てくれ」

 ルチェス大尉がテーブルに広げられた地図を見ると国境付近の詳細なものだった。

「ジッダの奴らが攻めてくるとしたら、正面を流れるプロスト河に掛かった橋を渡り街道に沿って攻めて来るか、下流の浅瀬を渡って来るかしかないだろう。君はどちらだと思う?」

 プロスト河に掛かっている橋は、一〇年の歳月をかけ造られた頑丈な石橋で兵士達の大軍でも移動できる幅が有った。一方、下流の浅瀬は大きな岩がゴロゴロと転がっている場所で、兵士達も渡るのには苦労するはずである。


「奴らなら橋を選ぶでしょう。軍用傀儡を先頭に突撃させ橋を占拠し兵士を移動させるのが、一番安全な方法ですから」

「それはそうだが、戦争ともなれば橋には十分な戦力を張り付かせるつもりでいる。容易たやすく突破出来るとはジッダの奴らも考えていないだろう」

 橋に戦力を張り付けるのは当然の対応である。それをジッダが予測しないとは思えない。となると……もしかしたら……。

「これまでに何度か小競り合いが有ったと聞きましたが、それは何処で発生したのですか?」

 大尉が尋ねると少将は即座に答える。

「下流の浅瀬付近だ。見回りをしていた兵士が発見し戦いになった。軍用傀儡を含む小部隊だったそうだが、すぐに退却した」


 偵察にしては軍用傀儡を伴っているのがおかしい。ルチェス大尉は疑問に思った。ジッダが何か企んでいるのではと疑い、地図を念入りに調べる。

 小競り合いが有った場所から北の方角に小さな森がある。この森なら伏兵を隠せる広さが有りそうだ。

「この森を調べる必要が有ると小官は考えます」

 大尉が指差す地図上の森を見て、少将は低い唸り声を発しながら考えた。

「敵の伏兵を心配しているのか?」

 大尉が肯定すると少将は、調査と敵が居た場合は掃討するようルチェス大尉に命じた。


 翌朝、三〇〇機のアサルトスパを引き連れ、問題の森に向かった。

 森に到着する直前、三隊の偵察隊を出す。

 偵察隊の一員となったヒュルケンはアサルトスパを操縦しながら森に入ると慎重に先に進んだ。森の中は樹々が密集しており、アサルトスパで進むのに苦労する。

 森に入り周りが薄暗くなるほど梢が空を覆うような場所まで来た時、奥の方で人の声が聞こえた。ヒュルケン達はアサルトスパから降り、木陰に身を隠しながら前に進んだ。


 森の中に空き地があり、百数十名のジッダ兵士とヴィグマン()型五二体が野営していた。

 ヒュルケン達は様子を観察してから、そっと木陰を離れ自隊に戻った。

 偵察隊が戻り森の中にジッダの兵士が野営していたと報告する。

「やはり居たか……奴ら、戦争を始めるつもりなのだろうな。狙いは……橋の確保か」

 戦争の始まっていない現在でも橋の両端にはそれぞれの国の兵士が警備をしている。その数は両国とも五〇名と決められており、そのルールは長年守られて来た。


 ヒュルケンが意気込んで声を上げる。

「大尉、奴らを殲滅させましょう」

 ルチェス大尉もジッダの奴らを叩き、自国内に居る敵戦力を排除したかった。だが、多数のアサルトスパで乗り込めば見張りに見付かり乱戦となるだろう。

 狭い空き地と森の中が戦場となる。アサルトスパには不利な戦場であった。

「森では戦わない。奴らが森を出た所を叩く」

 ジッダの狙いが橋だと判っている以上、森と橋の中間点に潜み敵を待ち伏せれば確実に勝利出来ると判断したルチェス大尉は大隊を中間地点まで戻し、待ち伏せに最適な場所を探した。


 敵が通過すると思われる進撃路の脇に小さな丘が存在する地点が最適だと判断し、丘の裏側の斜面に穴を掘って隠れる事にした。

 アサルトスパを隠すほどの大穴となると人力で掘るのは大変である。そこで新たに用意された装備を試す事にした。アサルトスパの足の裏に装着する小さなスコップのような装備である。


 騎乗兵達が装備を八本ある足の中の前足二本と三番目の足二本に装着した。アサルトスパは四本の足で身体を支えスコップを装備した足で土を掻き出し始めた。

 凄い勢いで大量の土砂が掘り出され始め、瞬く間に大きな穴が出来上がっていく。これを見ていた騎乗兵達はアサルトスパが土木工事にも使えそうだと思った。


 ルチェス大尉は伝令をアシルス砦に送り敵の状況と作戦内容をケムフェス少将に知らせた。伝令は少将に報告した後、ある知らせを持って戻って来た。

「少将より連絡です。ジッダ侯主連合国が最後通告を連盟総長に渡したそうです。明日には戦争が始まります」

 それを聞いた大尉は森に居るジッダ兵が今日動き出すと予想した。

 戦争が始まれば橋に配備される戦力は増える。その前に動き出すはずだ。


 案の定、森に居るジッダの連中が動き出した。森を出たジッダ兵とヴィグマン()型は隊列を組んで進軍を開始する。ジッダ兵の動きには覇気があり、その顔には戦意が溢れていた。

「クククッ……連盟の連中が慌てふためく姿が目に浮かぶぜ」

「まさか、このタイミングで橋を奪われるとは奴らも思っていないだろうからな」

 ジッダ兵は開戦直後の奇襲作戦が成功すると信じて疑わないようだった。


 隊列が小さな丘に差し掛かった時。

「突撃!」

 丘の裏側でジッダ兵を待っていたルチェス大尉は号令を発した。

 穴に潜んでいたアサルトスパが一斉に飛び出し丘を駆け上がる。丘の上に幾筋もの土煙が舞い上がり敵の隊列に急速に迫る。

 丘を超えた時点で敵兵士に発見され警告の声が上がった。慌てて武器を構える敵の姿が見える。

 丘を駆け下りながら騎乗兵達はダブルショットボウの狙いを敵隊列に定め専用弾を発射する。ダブルショットボウの発射音が響き、専用弾がジッダ兵の身体を引き裂いた。


 敵の断末魔の声や悲鳴が戦場に響き渡った。

 敵の指揮官らしき男がヴィグマン()型に敵を攻撃するよう命じた。ヴィグマン()型は大きな戦槌を持ってアサルトスパに襲い掛かる。

 丘を駆け下りた騎乗兵は敵の軍用傀儡が迫るのを見て、専用弾をヴィグマン()型に向けて放った。高速で撃ち出された専用弾は軍用傀儡の装甲に当たり火花を散らすと同時に甲高い金属音を響かせた。

 専用弾はヴィグマン()型の装甲に浅い傷を付けただけだった。それでもヴィグマン()型が迫るスピードは落ちていた。

「馬鹿め、そんな武器がヴィグマン()型に通用するものか。」

 敵の指揮官が専用弾を弾き返したヴィグマン()型を見て表情を明るくし、敵を叩き潰せと命じる。


 ルチェス大尉はダブルショットボウの弾倉を特殊硬化弾に切り替えるよう指示すると同時に、ある作戦を命じた。

 アサルトスパの一部がヴィグマン()型の前に飛び出した。ヴィグマン()型の反応は当然ながら命令通り襲い掛るというものだった。

 アサルトスパは敵前で回転すると逃げ出した。追い駆けるヴィグマン()型はすぐに後ろからもう一機のアサルトスパが付いて来るのに気付いた。

 ヴィグマン()型は組み込まれた戦術アルゴリズムに従い、立ち止まると後ろから追って来るアサルトスパに襲い掛かった。振り上げた戦槌がアサルトスパの頭部に命中しようとした時、騎乗兵が速度調整スライドスイッチを最大にする。

 アサルトスパの速度がググッと上がり、戦槌の下を潜り抜けたアサルトスパの頭部がヴィグマン()型の胸に激突した。アサルトスパの頭部がベコッとと凹むが、ヴィグマン()型を突き飛ばしていた。

 地面に横たわったヴィグマン()型に、逃げていたアサルトスパが戻り特殊硬化弾を次々に命中させる。

 一旦起き上がったヴィグマン()型だったが、前進しようとした時には関節が動かなくなっていた。そのまま地面に倒れ二度と起き上がらなかった。


 一方、激突したアサルトスパは頭部を損傷した時、偽魂眼が機能しなくなっていた。こうなったアサルトスパは高速では走れなくなる。地面の状態が分からないからだ。

 こういう戦いが戦場のあちこちで起き、最終的にヴィグマン()型五十二体は全滅した。アサルトスパも十二機が破壊された。

 ヴィグマン()型が全滅した後は早かった。ジッダ兵の半分が死傷し半分が捕虜となった。


 その頃、砦で指揮を執っていたケムフェス少将は砦に配備されているモルガート二〇〇体と兵士四〇〇〇名を橋に派遣した。

 ジッダ侯主連合国も同じく新型軍用傀儡ベルゴルド五〇体、ヴィグマン()型二〇〇体、兵士五〇〇〇を橋に向かわせた。

 当然の結果として橋を挟んで戦いが始まる。

 最初は互角の戦いが続いたが、遅れて来たベルゴルド五〇体が投入されると自由都市連盟側は劣勢となる。

 じりじりと後退した自由都市連盟軍はアシルス砦まで押し戻された。


 そこへルチェス大尉が率いるアサルトスパの部隊が帰って来た。

 まずは敵兵士に狙いを定めた騎乗兵がショットボウで兵士を狙い撃つ。専用弾や特殊硬化弾が残り少なくなっていた為である。

 アサルトスパの一部は砦に戻り補給の弾丸を運び出そうとしていた。


 砦の防壁にはケムフェス少将が立ち眼下の戦いを見守っていた。

「クソッ。ルチェス大尉の部隊は何をしている。一番の脅威となっているベルゴルドを何故叩かない」

 副官が答えた。

「敵の伏兵部隊を叩いた時にダブルショットボウの弾をかなり消耗したようです。敵の軍用傀儡と戦うには補給が必要だと連絡が有りました」

「……補給を急がせろ。モルガートの部隊はどうなった?」

「半数が倒され、残りは砦の門前で敵の猛攻を食い止めています」

 ケムフェス少将は半数が倒されたという言葉に目眩を起こしそうになった。


「クッ……予備のモルガートにアサルトスパの補給を手伝わせろ」

 敵の軍用傀儡を倒す力が有るのはモルガートとアサルトスパだけである。そして数の多いアサルトスパが補給の為に敵軍用傀儡と戦えないのは拙い状況だった。

 モルガート五〇体が補給に投入され、アサルトスパの下に専用弾と特殊硬化弾が届けられた。


 ルチェス大尉はケムフェス少将の決断に喜んだ。

「これで戦える。まずはベルゴルドを仕留めるぞ」

 ルチェス大尉は一体のベルゴルドに対し四機のアサルトスパで戦いを挑むよう指示を出した。

 敵兵の中に居る軍用傀儡と戦うのは危険だった。アサルトスパにはマナシールドが組み込まれており矢などは弾き返すが、全体重を乗せた槍の攻撃は防ぎきれない。アサルトスパ自体は大丈夫でも騎乗兵が倒されれば戦えなくなる。

 それ故、敵の軍用傀儡だけをおびき出し戦うのがベストなのだが、軍用傀儡が攻城戦をやっている状況だと難しい。

 初めにアサルトスパの四機でベルゴルドの周囲に居る歩兵を駆逐する。他の歩兵が近付かないように一機だけ見張りに残すと三機がベルゴルドを囲んで戦いを始めた。

 ベルゴルドには専用弾がほとんど効かなかった。騎乗兵は即座に特殊硬化弾に切り替え関節を狙って発射する。ベルゴルドの馬力はメルドーガ並みであり、一発や二発の特殊硬化弾では動きを止められなかった。

 確実に仕留めるには十数発を命中させる必要があった。その間、ベルゴルドが大人しくしているはずもなく、主力武器である狼牙棒を振り回して襲って来た。

 この狼牙棒は全体が金属で出来ており、先端には魔剛鋼製のトゲトゲが付いている。人間なら一発で挽肉となり、モルガートでも三発も受ければ倒れてしまう威力が有った。


 騎乗兵達は巧みにアサルトスパを操り、一定の距離を保ちながら特殊硬化弾をベルゴルドに撃ち込んだ。だが、ベルゴルドも激しく動き回りアサルトスパに狼牙棒を叩き込もうとする。

 その攻撃のほとんどは躱せたが、新しく入った騎乗兵が躱しそこねアサルトスパが破壊された。さすがに訓練期間が短か過ぎたようだ。

 十数発の特殊硬化弾が命中したベルゴルドは動きがギクシャクし始め、遂にはガシャッと膝を突くと地響きを立てて倒れた。


 それを見た敵の指揮官は慌てた。

「ベルゴルドを守るんだ。ヴィグマン()型は蜘蛛型傀儡を攻撃しろ」

 その命令は遅すぎた。次々とベルゴルドは倒れ、その数を減らす。一方、ヴィグマン()型もアサルトスパと戦い倒されていた。

 劣勢を悟った敵指揮官は撤退を決意する。橋まで後退したジッダ軍は橋の周りに即席の陣地を構築し立て籠もった。


 自由都市連盟とジッダ侯主連合国との間で起きた戦いの初戦は日が暮れた事で終わった。

 騎乗兵は疲れ果て、弾も尽きたので、これ以上の攻勢には出られなかった。それでも自由都市連盟軍の士気は高かった。アサルトスパの活躍を見た兵士達が、この先の戦いに希望を見い出したからだ。

 その夜、ケムフェス少将に呼ばれたルチェス大尉は、その働きを賞賛された。


 一方、橋を占拠したものの軍用傀儡の多くを倒されたジッダ側は戦意が衰えていた。

 ジッダ侯主連合国軍のミルドック少将は即席陣地の天幕で情報部の中佐に八つ当たり気味に文句を言う。

「どういう事だ。情報部から来た報告では、あの蜘蛛型傀儡には軍用傀儡を倒すだけの能力はないはずではなかったのか」

 中佐は汗を拭きながら弁解する。

「そのはずだったのです。ですが、特殊な弾丸を開発したようで」

 この時以来、ジッダ軍は特殊硬化弾対策に頭を悩ませる事になる。


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