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scene:64 迷宮攻略

 少し時間は掛かったが別のワイルドスコーピオンの巣を発見した。エイタ達が巣に近付くと巨大なワイルドスコーピオンが地面に開いた巣穴から姿を現した。

「速攻で仕留めるぞ」

 フェルオル達が苦戦の末倒したワイルドスコーピオンだったが、エイタ達が持つリパルシブガンの威力の前には無力だった。

 セレクトレバーを【4】にしたリパルシブガンの専用弾は簡単に巨大サソリの外殻を貫き確実にダメージを与えていく。最後はメルミラがプロミネンスクラブが止めを刺した。

 驚く事にガードビーストの出番もなかった。これは武器と魔物の相性が良かった結果だろう。


 ワイルドスコーピオンの剥ぎ取りを行った後、巣穴に入った。

 縦横二マトル《メートル》ほどの洞窟のようだった。変な臭いがするが、我慢して奥へと進む。ちょっと進んだ先に独特の地層が浮き出た神銀の鉱脈が有った。

 メルミラと二人で鉱脈を掘り大量の神銀を手に入れた。

「お兄ちゃん、抽出しないの?」

 モモカが尋ねた。

「するよ。今日は神銀を抽出する専用の魔導工芸品を持って来たんだ」

 リュックからお椀型の魔導工芸品を取り出した。その魔導工芸品の底を神銀鉱石に密着させ魔力を流し込む。

 神銀抽出具は淡く黄色の光を放ち鉱石から神銀だけを吸い上げ始める。両手でないと持ち上げられそうにない大きさの鉱石から拳大の神銀しか取れない。とは言え金などと比べるとかなりの含有率である。


 全部の鉱石から神銀を抽出すると欲しかった量を上回った。

 エイタは予備としてもう少し欲しかったので、他のワイルドスコーピオンの巣を探し必要量の二倍を手に入れた。

「エイタさん、迷宮の最奥まで行ってみませんか」

 メルミラが提案する。


 この荒野エリアにはワイルドスコーピオンの他に火炎トカゲ・雷牛・ミノタウロスが居る。

 最奥のボス的存在はミノタウロスである。牛頭の巨人は巨大な斧を持ち敵を攻撃する。その皮膚は鉄並みに頑丈で弓矢や鉄製の武器は大したダメージを与えられない。

「行ってみるか」

「あたしも行ってみたい」

 モモカも賛同する。モモカの狙いは最奥に有るというアカミル栗である。最も美味い栗として有名で、一粒が銅貨二枚もする超高級品だ。


 荒野エリアを奥に進むと火炎トカゲと遭遇する。

「赤いカメレオンだぁ~」

 モモカが嬉しそうに声を上げた。

 全長三マトル《メートル》程のトカゲ型魔物である。真っ赤な皮膚と口から炎を吹き出すのが特徴で、獲物に炎を吹き掛け弱らせてから噛み付いて仕留めるのが攻撃パターンだ。


 何も命じていないのにアイスが動いた。ジャキンと魔剛鋼製の爪を伸ばし飛び跳ねるようにして火炎トカゲに近付く。

 火炎トカゲが大口を開け炎を吹き出す。アイスがドガッと地面を蹴り飛び上がる。炎を避けたアイスは火炎トカゲの頭を飛び越え背中に着地した。

 巨大トカゲは高熱を発しており、人間では近寄るのが難しい。しかし、アイスは自動傀儡である。少々の熱ではビクともしない。

「ヘキョヘカ」

 気合を発し火炎トカゲの後頭部に鋭い爪を突き立てる。

「グゲッ」

 火炎トカゲが思わず声を上げ、背中に居るアイスを振り落とそうと身体をよじる。

 振り落とされたアイスは一回転して立ち上がり、火炎トカゲの脇腹に爪を立て一直線に引き裂いた。この一撃で肺を傷付けられた火炎トカゲはのた打ち回り死んだ。


「ヘケッヘカー」アイスの勝利の雄叫びだった。


「アイスが段々自由になっている。完全に自我に目覚めてるな」

 エイタ達は火炎トカゲから皮と肝・マナ珠を剥ぎ取った。その後、気になったのでアイスの身体を調べてみると外皮として使っているアサルトウルフの毛皮、特に足の部分が少し焦げていた。

「アイス、無茶するなよ。毛皮が焦げてるぞ」

 アイスは焦げている部分を見てから、慌てたように手足をバタつかせる。そして、ハッと気付いたように顔を上げる。

「……何だよ?」

 エイタに歩み寄ったアイスはエイタの履いている靴を脱がそうとする。

「何する。その靴を履くつもりか……判った。後でアイス用の靴を作ってやるから」

「ヘカヘキョ?」

 アイスは『本当に?』というように鳴き声を上げ、エイタが頷くと喜んでクルクルと回り、モモカの所にトコトコと駆け寄って抱き付いた。


「良かったね」

 モモカがアイスを抱き上げ頬ずりをする。

 エイタ達は迷宮の奥へと進み、大きな岩が無秩序に散乱している場所に到着した。ここがミノタウロスの巣であるらしい。

 岩の陰から覗いてみると、大きな岩に座った牛頭の巨人が、巨大な斧を手に持って目を瞑っていた。

 まるでエイタ達を待っていたかのように、パチリと目を開け、こちらに向かって雄叫びを上げる。


「ウオオオオオ─────────ッ!」


 羽毛竜のシェイクシャウトのような衝撃波は無かったが、全身に鳥肌が立つ。

「モモカ、リパルシブガン。メルミラはプラズマ投擲弾で攻撃だ!」

 モモカとメルミラが魔工兵器を出すのを確かめ、ガードビーストに指示を出す。

「前進して、ミノタウロスの攻撃を受け止めるんだ」

 ガードビーストがミノタウロスの前に進み出る。


 身長三マトル《メートル》、灰色の剛毛に覆われた筋肉質の身体に憤怒の表情を浮かべた牛頭の巨人がミノタウロスである。

 ミノタウロスは凄まじい筋肉を躍動させながら巨大な斧を振り上げ、ガードビーストの頭上に振り下ろした。

 ガードビーストは魔剛鋼製の盾を使って受け止めようとした。巨大な斧が盾に衝突し爆発音のような激しい音を響かせる。

 ガードビーストは両手を使い盾を支えていた。その足元を見ると踏ん張った地面がへこんでいる。どれだけ凄まじい力が込められていたかを伺わせる。


 エイタは知らず知らずのうちに唸り声を上げてしまう。

「拙いな。あんな攻撃を何度も受け止めたら関節部分が負荷に耐えきれない」

 自分の攻撃を受け止められたミノタウロスは不機嫌な様子で鼻の穴を広げ吠える。

 もう一度、斧を振り上げガードビーストに叩き付けた。


「攻撃開始」

 エイタとモモカがリパルシブガンの専用弾をミノタウロスに叩き込む。胸と肩に命中し皮膚を破り筋肉に食い込む。セレクトレバーは【4】、ワイルドスコーピオンを仕留めた威力の有る専用弾だったが、ミノタウロスの強靭な筋肉は貫通するのを阻止した。

「セレクトレバーを最大に!」

 エイタはリパルシブガンのセレクトレバーを【5】にして構える。

 銃床を肩に当てミノタウロスの心臓を狙って引き金を引いた。腹に響くような発射音が聞こえ銃床が防護鎧ボディアーマーの肩に食い込む。防護鎧ボディアーマーに仕込まれた人造筋肉が衝撃を分散させエイタが吹き飛ぶのを抑えた。


 発射された専用弾は音速の四倍ほどの速度で飛翔しミノタウロスの右胸に命中する。専用弾は強靭な皮膚を突き破り分厚い筋肉に減り込む。先程はそこで勢いを失い筋肉に止められたのだが、今度は筋肉を貫通し肺を破壊する。

 ミノタウロスが口から血を吐き出した。続いてモモカの撃った専用弾がミノタウロスの脇腹に減り込む。

 メルミラはプラズマ投擲弾を投げた。ミノタウロスの足に命中し、高温のプラズマが太腿の筋肉を焼く。

「ダメージは与えたけど、表面だけが焼け焦げた感じです」

 メルミラが不安そうに呟く。それを聞いてエイタが声を上げる。

「一発や二発で仕留められる相手じゃないぞ。攻撃を続けるんだ」


 激怒したミノタウロスはガードビーストを無視し、エイタ達の方へ突っ込んで来ようとした。そこにガードビーストが回り込んで突進を受け止める。

 ミノタウロスはガードビーストの足を掴み剛力で振り回した。ガードビーストが吹き飛び、岩に叩き付けられた。人型の魔物の場合、こういう攻撃が有るのでガードビーストに回避方法を組み込まないと駄目なようだ。


 ミノタウロスが吠え、痛みと憎悪で血走らせた目でエイタ達を睨む。もう一度突進しようとしているミノタウロスの右膝にエイタが専用弾を撃ち込んだ。

 専用弾はミノタウロスの右膝を粉砕する。ミノタウロスの巨体がクルリと回転しながら横倒しとなった。

 こんな化物を近寄らせたら一巻の終わりである。

 ミノタウロスは立ち上がろうとしている。人間なら片肺を撃ち抜かれた時点で動けなくなるはずなのに……牛頭の巨人のタフさに畏怖を覚え指示を出す。


「ここで仕留めるんだ。息の根が止まるまで攻撃だ」

 エイタ達は専用弾の全てをミノタウロスに撃ち込み息の根を止めた。


 エイタは身体に力が漲るのを感じた。どうやら止めの一発はエイタが撃ったものだったらしい。ミノタウロスが持っていた顕在値がエイタに流れ込んで来たのだ。

 高難度迷宮を中心に活動するアデプト《達人》級の探索者は、最低でも顕在値レベルが25を超えると言われている。エイタの顕在値レベルは22になったのでもう少しという所まで来ている。

 但し実績から言うと中難度迷宮である峡谷迷宮を攻略したので、高難度迷宮に挑戦する資格は有る。

 ただエイタは無理はしないつもりだ。モモカやメルミラには高難度迷宮は危険だ。


「や、ヤッター」

 モモカが喜びの声を上げる。横を見るとメルミラが静かに涙を流していた。探索者であるメルミラにとってミノタウロスを倒すという事は大きな目標だった。

 それを達成したのだから嬉しいのは判る。


 ミノタウロスから角とマナ珠を回収した。この角は高価な薬の材料となるらしく高額で取引されている。

 皮膚の一部も剥ぎ取り持って帰る事にした。この皮で靴を作ろうかと考えたのだ。矢を弾き返すくらい丈夫な皮なので防具にしようかとも考えたが、専用弾やプラズマ投擲弾が皮にダメージを与えたので使える部分が少ない。

 革鎧は無理でも靴なら、アイスの分を含めて四足分作れるだろう。


 迷宮の一番奥はアカミル栗の林になっていた。普通の栗より三倍ほど大きい。モモカとメルミラは喜んでアカミル栗を拾い集めた。

「棘には気を付けろよ」

「うん」

 二人が栗拾いをしている間に、エイタはガードビーストのチェックを行う。

 岩に叩き付けられても外装に傷が付いたくらいで故障はしていなかった。但し、懸念していた通り肘の関節部分が極僅かだが変形していた。あのまま数発ミノタウロスの攻撃を受けていたら壊れていたかもしれない。

 関節部分にも加わった力を逃がす仕組みが必要かもしれない。

「その前に受け止めるだけじゃなく、受け流す動作もきっちり組み込まなきゃ駄目だな」

 ガードビーストの問題点も幾つか見付けたエイタは帰ろうと考えた。


 モモカ達は大量のアカミル栗を手に入れご機嫌となっていた。

 栗は麻袋に入れスパトラの後部にある収納部分に詰め込んだ。

「さて、帰るぞ」

「は~い」

 モモカが元気よく返事をする。メルミラも迷宮を攻略したという達成感で顔を輝かせている。


 急いで迷宮から戻る。外に出ると日が落ち夜となっていた。モモカは疲れてスパトラの上で寝ている。

 ヴィグマン邸に戻り、メルミラを帰す事にした。

「メルミラ、スラムにいつまで住んでいる気だ。こっちに引っ越して来い」

「こっちって……北側の住宅街にですか?」

「そうだ。ミノタウロスの角やマナ珠などを売れば金貨一〇〇枚以上になるんぞ」

 それに加え赤煌晶や神銀も売れば相当な金額になる。


 メルミラは金貨一〇〇枚と聞いて自分の報酬が金貨一〇枚以上になるのだと気付いた。

 そんな大金を持っているのがスラムの住人に知られれば変な気を起こす者がきっと出て来る。

「家族と相談してみます」

 メルミラは疲れているはずなのに弾むような足取りで帰って行った。

 後日、メルミラの一家はヴィグマン邸に近い場所にある小さな貸家に引っ越す。


 寝ているモモカを起こし、着替えさせてから寝かせる。

 その物音に気付いたアリサに捕まり、迷宮での出来事を語らされた。

「へえ、ミノタウロスを倒したんだ。凄いわね」

 食堂のテーブルでハーブティを飲みながら話すとアリサは自分の事のように喜んでくれた。

「神銀と赤煌晶を手にれるのが目的だったんだけど、ガードビーストが十分盾役として役に立つと判ったんで最後まで行こうと思ったんだ」

「もしかして、高難度迷宮に挑戦するの?」

 エイタは首を振り否定する。

「当分は峡谷迷宮で素材を集めながら力を付けようと思っている」

「それがいいわ。工廠の方はどうなの?」

「ちょっとだけ嫌な奴らが居るけど、大体気楽にやってるよ」

「アサルトスパとかいう騎乗傀儡が街で評判になっているわ。敵の軍用傀儡を倒したそうじゃない」

「倒したのは新型の軍用傀儡だよ」

「そうなの。新型は役立たずで騎乗傀儡が軍の主力になると聞いたわよ」

 誰が流した噂かは知らないが、それを聞いたオベル工廠長が頭から湯気を出して怒る姿が頭に浮かんだ。

「とばっちりがこっちに来なきゃいいけど……」


 翌日、工廠に行くとルチェス大尉達が野盗を退治し帰って来るという知らせが有った。

「野盗退治ではアサルトスパが大活躍したそうですよ」

 情報を知らせてくれたオスゲート上級曹長が笑顔を浮かべている。

「そうするとアサルトスパを三〇〇機増産するという話が実現するのか」

「我々も忙しくなりそうですね」

 実験中隊も規模を拡大し本格的な大隊となるだろう。

「大丈夫なのか。また新人ばかり集まるんじゃないのか」

 エイタが指摘するとたちまちオスゲート上級曹長の顔が曇る。


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