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scene:61 遭遇戦の結末

お読み頂きありがとうございます。

リアルで忙しくなったので、次回から投稿は不定期になります。

 メルドーガ一体とヴィグマン()型三体の戦いはほとんど互角、メルドーガはパワーに優れ防御力が高い、一方ヴィグマン()型はスピードが有り傀儡なのに柔軟な動きが可能だった。

 ヴィグマン()型の武器である戦鎚は旧型のモルガートが相手ならば有効なダメージを与えられるだけの威力秘めていた。だが、相手がメルドーガだと分厚い装甲に弾かれ中々有効なダメージを与えられない。

 メルドーガが停止していれば関節や首を狙ってダメージを与える事は可能なのだが、動き回るメルドーガの急所に戦槌を命中させるのは傑作機と呼ばれるヴィグマン()型でも困難だった。


『ガン』『ガキッ』『ギッ』

 戦槌がメルドーガの装甲に弾かれる音が戦場に響く。

 オスゲート上級曹長はヴィグマン()型に命令を出していた敵兵を連れて来れば良かったと後悔する。敵兵は縛り上げた後、草原に置き去りにして戻ったのだ。

 メルドーガの活躍を見ておきたいというのが、急いで戻った理由である。しかし、戻ってみるとメルドーガの活躍どころか敗北寸前だった。


「ダブルショットボウがどこまで通用するか、実戦で試すのも有りか?」

 オスゲート上級曹長が騎乗兵達に命令を出す。

「ヴィグマン()型を焼夷弾で狙え」

 アサルトスパは散開し、ダブルショットボウの照準をヴィグマン()型に向ける。メルドーガに接近しているヴィグマン()型を攻撃するとメルドーガを誤射する可能性が有るので、ある程度離れるタイミングを待つ。


「コルシム中尉、敵軍用傀儡から距離を取るよう指示をお願いします」

 中尉の指示でメルドーガがウォーアックスを振り回し周囲からヴィグマン()型を追い払う。

「撃て!」

 六機のアサルトスパから焼夷弾が発射された。『ガン』という音が連続で響きヴィグマン()型の機体が衝撃で揺れる。次の瞬間、ヴィグマン()型が燃え上がった。

 偶然だが、三体のヴィグマン()型に二発ずつ命中していた。燃え上がったヴィグマン()型は炎に邪魔され攻撃目標であるメルドーガを見失いウロウロする。

 絶好の攻撃チャンスだったのに、メルドーガは攻撃しなかった。コルシム中尉から出された敵から距離を取れという指示が有効のままなのだ。


 オスゲート上級曹長は舌打ちをした。コルシム中尉がボーッと戦いを眺めているだけだったからだ。直接メルドーガに命令を出せればいいのにと思う。だが、命令権を持つのはコルシム中尉で彼の声でなければメルドーガは命令に従わない。

 焼夷弾に含まれていた油が燃え尽きると火は自然に消える。ヴィグマン()型は攻撃を再開した。

「弾種変更、大型専用弾で攻撃!」

 オスゲート上級曹長もダブルショットボウでヴィグマン()型を狙い発射ボタンを押した。重量のある大型専用弾は敵軍用傀儡の機体に命中し凹みを作り、衝撃で後退りさせる。


 ヴィグマン()型は攻撃目標を変えた。邪魔者を先に排除しようと判断したのかもしれない。ヴィグマン()型の一体がオスゲート上級曹長が乗るアサルトスパに走り寄る。

 上級曹長はヴィグマン()型を狙って発射ボタンを押す。命中した大型専用弾が敵の胸に凹みを付けるが致命傷ではない。

 アサルトスパを走らせる。こういう場合の対処法は騎乗兵には教え込んでいた。自分を追い掛けるヴィグマン()型をもう一機のアサルトスパが追い駆け、焼夷弾を撃ち込む。


 また炎に包まれたヴィグマン()型が立ち止まると上級曹長は引き返し大型専用弾を手早く撃ち込んだ。

 既にヴィグマン()型の装甲はかなり損傷していた。それでも大型専用弾を弾き返すだけの防御力は有る。

 軍用傀儡の防御力の高さにオスゲート上級曹長はうんざりする。

 大型専用弾の攻撃が全くの無駄だったのかと言うとそうでもない。関節部分に当たった大型専用弾はそこに凹みを作り、関節が正常に動かなくなる。

 ヴィグマン()型の動きがおかしくなった。


 オスゲート上級曹長は確実に敵軍用傀儡を倒す方法を選択した。

「コルシム中尉、いい加減メルドーガに攻撃させて下さい」

 中尉がハッとしたように気を取り直し、メルドーガに命令する。

 その後、動きがおかしくなったヴィグマン()型を一体ずつメルドーガが仕留め戦いは終わった。


 オスゲート上級曹長が周囲を見回すと倒れた軍用傀儡が煙を上げている。守秘機構が実行され、制御コアが自壊し人造筋肉が燃え出したのだ。

 こうなると倒した軍用傀儡から情報を得る事は殆ど出来ない。捕らえた敵兵を尋問するしか無いだろう。

 コルシム中尉が煙を上げているメルドーガの近くに立ち尽くしガックリと肩を落としている。新型四体を駄目にしてしまったのだ。降格は免れないだろう。

 中尉の指揮にも問題が有ったので自業自得だ。


 整備兵がメルドーガの残骸を馬車に乗せ、ついでにヴィグマン()型の残骸も二体だけ乗せた。持って帰って調べるのだろう。

 アサルトスパに損傷は無かった。接近戦を避けたのが成功したのだ。

「中尉、一度ユ・ドクトへ戻り報告した方が良いと思うのですが」

「判っている。引き返す準備を始めろ」

 悄然とした中尉は、力のない声で返答した。


 コルシム中尉が受けた任務は迷宮を調査し未発見の出口を確保するというものだった。出口には敵兵が居る可能性が高く、他の軍用傀儡も居るかもしれない。戦力がメルドーガ一体に減少した今では任務の遂行は難しい。

 来た道を引き返したオスゲート上級曹長達は、ユ・ドクトに戻ると休む暇もなく参謀本部に呼び出された。


 緊急報告会という名目で関係者が集められたようだ。

 広い会議室に入ったオスゲート上級曹長は、項垂うなだれたコルシム中尉の姿が目に入った。

 上級曹長の前には、キリアル中将や参謀達、それに不機嫌な顔をオベル工廠長が居た。すぐに報告会が始まる。

「敵軍用傀儡と遭遇したそうだな?」

 参謀の中で切れ者と言われるバオレル大佐がきつい口調で質問する。コルシム中尉が小さな声で肯定した。

「敵の規模を正確に報告しろ」

「敵兵5、ヴィグマン()型軍用傀儡五体であります」

 参謀達がガヤガヤと騒ぎ出す。


 騒いでいる参謀達を無視しバオレル大佐が質問を続ける。

「メルドーガも五体だったな。同数の軍用傀儡が戦闘し残ったのがメルドーガ一体……メルドーガとヴィグマン()型の戦闘力は互角だと言うのか」

 オベル工廠長が口を挟んだ。

「そんなはずは有りません。メルドーガなら完勝するだけの性能が有るはず、この中尉の指揮に問題が有ったのです」

 バオレル大佐は厳しい質問を矢継ぎ早に発し、コルシム中尉から戦闘の経過を克明に引き出した。

 その結果、メルドーガに欠陥が有るのが明白になる。


 バオレル大佐はメルドーガだけでなく、アサルトスパの働きについても問い質した。オスゲート上級曹長は正確に報告した。

「ふむ、メルドーガの戦闘アルゴリズムは未完成だというのは明らかだ。何故量産を早めたのだ」

 大佐の矛先がオベル工廠長に向けられた。

「そ、それは一刻も早く軍が求めている戦力を用意する為です。軍用傀儡の量産は軌道に乗るまで時間が掛かります。戦闘アルゴリズムは量産を開始してから改良すればと考えたのです」

 バオレル大佐は厳しい視線をオベル工廠長に向け、不満そうだが頷いた。

「なるほど……だが、それならちゃんと報告すべきだろう。中将も我々も戦闘アルゴリズムの事は知らなかったぞ」

 オベル工廠長が身体を縮め言い訳する。

「な、何かの手違いが有ったのでしょう。申し訳ありません」


 バオレル大佐は厳しい目をしていた。

「工廠長は早急にメルドーガの問題点を修正し、量産を軌道に乗せるんだ。それが出来ない場合、責任を取って貰うからな」

「そ、そんな……私だけの責任では……」

「君が強引に量産を決めたと聞いている」

 工廠長が青褪めた顔をしてゆっくり頷いた。

 そこに中将が追い打ちを掛ける。

「メルドーガは必ず数を揃えろ。一ヶ月後に五〇体欲しい」

 オベル工廠長は心の中で悲鳴を上げた。……無理だ。月に十二体が精一杯の状態のなのに。

 ふらふらと立ち上がった工廠長は、黙ったまま会議室を去った。


 中将はメルドーガが当てに出来そうにないと感じ、溜息を吐いてバオレル大佐に目を向けた。

「君はアサルトスパについてはどう思う?」

「軍用傀儡を破壊するだけの威力は無さそうですが、敵の軍用傀儡を足止めし味方の軍用傀儡が仕留めるチャンスを作るだけの性能は持っている。もちろん対人戦ならば驚異的な戦力となりそうです」

 中将は辛口の批評家であるバオレル大佐がアサルトスパを評価するのを聞き意外に思った。

「アサルトスパを三〇〇機増産する計画が有るのだが、進めるべきだと思うか?」

「基本は進めるべきだと思います。ただ製作責任者に確かめたい事が有ります」

「いいだろう。大佐にアサルトスパの件は任せよう」


「さて、問題は迷宮の抜け道だ。もう一度メルドーガを派遣すべきだろうか?」

 キリアル中将が参謀達を見回した。ギュリス中佐が即座に賛成した。

「戦闘アルゴリズムに問題が有ったようですが、やはりヴィグマン()型が配備されている可能性がある以上、メルドーガを出すのが正解だと思います」

 バオレル大佐が鋭い視線をギュリス中佐に向け。

「自分は反対です。メルドーガの戦闘アルゴリズムに問題があると判っているのです。もし出動させ戦闘アルゴリズムが原因で手痛い敗北を喫するような事になれば、それは我々の責任です。ここはモルガートとアサルトスパを組み合わせ送り出すのがよろしいかと思います」


 大佐の主張は正論だった。ギュリス中佐が悔しそうに歯噛みする。

「そうだな……」

 キリアル中将が決断しようとした時、ギュリス中佐が異議を挟んだ。

「異議あり! 迷宮の抜け道は垂直に伸びている井戸のような縦穴だと報告に有ります。アサルトスパでは縦穴を登れない」

 バオレル大佐が鼻で笑う。

「そんなものは障害でも何でもない。迷宮の壁に鉄杭を打ち込んで、それを手掛かり足掛かりにして軍用傀儡を登らせる予定だったのだろう。軍用傀儡が登ればアサルトスパを引き上げるのも可能だ」


 オスゲート上級曹長は参謀本部にも切れ者が居るんだと少し安心した。

 今問題になっている迷宮の縦穴をどうやって登るかは、エイタに相談した方がいいと思った。あの傀儡工なら最善の方法を考え出すに違いない。

 上級曹長は報告会が終わり、話の内容がアシルス砦や国境付近の状況に移ったので会議室を出ようかと考えたが、出る機会を逃してしまった。


「アシルス砦で小競り合いが発生したと聞いたが、すぐに収まったのか?」

 キリアル中将の質問にバオレル大佐が応える。

「夜間に国境を無断で抜けようとした一団を見回りの兵が発見し攻撃を加えた処、ジッダ側の兵が出て来て弓矢の撃ち合いになったようです」

「ジッダの奴ら、我が国に間諜スパイを潜入させるつもりだったか」

「そいつらはどうなったんだ?」

 参謀達が各々声を上げる。

間諜スパイらしい一団は、ジッダに引き返しジッダの兵も自国領へ戻りました」

 参謀達の間から安堵の声が漏れた。

 だが、この状態は危険だった。小競り合いに触発され本格的な戦争になる可能性が高いからだ。


 中将は眉間にシワを寄せ考えるも、すぐには良い案が出なかったようでバオレル大佐に問う。

「どうしたら良いと思う?」

「『チチラト村虐殺事変』を起こしたのがジッダだと証明し謝罪させる。その上で両国同時に国境線に集めた戦力を引かせます」

「だが、ジッダは『チチラト村虐殺事変』の犯人が自国の者ではないと言い張っている。使われたヴィグマン()型は外見を似せて作った偽物だと主張している」

「ですが、メルドーガを倒すほどの軍用傀儡です。偽物だと思えません」

 中将は少し躊躇ってから極秘の情報を出す。

「これは秘密にしていたのだが、ジッダの大使館から整備中のヴィグマン()型が盗まれる事件が有った」

 バオレル大佐が険しい顔になった。その盗難事件が他国の仕業だった場合、ヴィグマン()型そっくりの軍用傀儡を作り出すのは不可能ではなかったからだ。


「厄介な」

 大佐が呟いた。今まで『チチラト村虐殺事変』はジッダの仕業だと考えていたが、違う可能性が出て来た。

 そうなるとカッシーニ共和国の存在が怪しくなる。ウェルナー湿原に隣接していて湿原の領土問題で我が国やジッダとも争っている。


「まず、最初にアサルトスパの実験中隊が捕らえた連中から所属を聞き出し、どの国の仕業かはっきりさせる必要が有りますね」

 大佐の意見に中将も賛同した。中将は報告会の後に捕虜となった連中の取り調べを厳しくするよう命じようと考えた。だが、それは実行されなかった。

 牢に入れられた捕虜が全員服毒死していたからだ。牢に入れる前に身体検査はしている。誰かが外部から毒を持ち込んだ事になる。

 軍の内部に間諜スパイが居ると大騒ぎになった。


 オスゲート上級曹長は報告会から戻ると工廠へ行き、エイタに迷宮の縦穴を登る方法について相談した。

「直径五マトル《メートル》の縦穴をアサルトスパで登る方法か……」

 エイタはあの縦穴を思い浮かべた。縦穴の壁は石壁で非情に堅かった。あの石壁に鉄杭を打ち込むのは困難だが軍用傀儡なら可能である。

 ただアサルトスパには手がないので鉄杭を掴んで登る事は不可能である。


 エイタには幾つかアイデアが浮かんだ。それを上級曹長に説明しようとした時、オベル工廠長が現れた。

「おい、メルドーガの不具合調査を担当したのは貴様だったな」

 突然の訪問にエイタは驚いた。工廠長の目が血走り尋常な精神状態ではないのに気付いた。

「貴様の所為で大変な事になっているのだぞ。責任を取れ」

 何を言っているのか判らなかった。


 そう言うと工廠長が。

「何が判らないだ。量産がつまづきメルドーガの戦闘アルゴリズムに問題が有ると判明したんだ。それを見逃したのは貴様の所為だと言っている」

 エイタはやっと工廠長がメルドーガに起きた問題の責任を自分に押し付けようとしているのだと気付いた。

 オスゲート上級曹長が小声で報告会で起きた事を教えてくれた。

「ふざけるな……戦闘アルゴリズムを調査したのは工廠長自身だろ」

「エッ」

 都合の悪い事は忘れていたらしい。軍用傀儡に関する仕事は初めてだったエイタに戦闘アルゴリズムのチェックは出来なかったので、工廠長自身が調べたはずだった。

 バオレル大佐や中将に追い詰められ血迷った結果、問題の解決には動かず自分の代わりに責任を取らせる生け贄を探したようだ。今までもそうやって生きて来たのだろう。


2016/10/12 誤字修正

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