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scene:51 因縁の再会

 エイタ達の迷宮攻略は順調に進んだ。

 攻略場所は草原エリアをクリアし森林エリアに移っていた。直径が二マトル《メートル》以上も有る巨大常緑樹が生い茂り、壁のように聳えているエリアである。

 住み着いている魔物は成人男性と同じ位の体長がある凶暴な猿ジャイアンエイプと体高四マトル《メートル》ある羽毛竜である。羽毛竜は巨大な後ろ足二本で素早く移動する竜で全身を鳥の羽毛のような毛で覆われている。

 この凶悪な竜は貪欲で出会った全ての生き物を捕食する。


 その他にも昆虫型の魔物やオーク、黒狼などが居るが、リパルシブガンで瞬殺可能だ。

 迷宮に行く前に、工房で作戦会議を開きモモカとメルミラの意見を聞く。

「エイタさん、羽毛竜は強敵だと聞きましたけど、私達の武器で仕留められるでしょうか?

 エイタはちょっと頭を傾げてから。

「羽毛竜の防御力は、それほど高くない。ただ再生力が凄いようだ……一気に仕留めないと回復してしまう」

 モモカがアイスの頭を撫でながら口を挟む。

「羽毛竜の弱点を探すのです」

 ……弱点か。他の探索者が心臓に槍を突き刺しても再生したと聞いている。残るは脳だけど、あいつの脳は小さい上に頭蓋骨だけは頑丈なんだよな。エイタは探索者ギルドで調べた羽毛竜の資料を思い出していた。


 リパルシブガンの専用弾が頭に命中しても角度に依っては跳弾する可能性がある。一発ではなく何発か連射する必要が有るかもしれない。

 そこで問題になるのが、羽毛竜の特殊攻撃である。

 羽毛竜には特別な攻撃能力が有り、シェイクシャウトと呼ばれている。シェイクシャウトは破壊の威力を秘めた吠え声である。このシャウトを浴びせられた者は脳を揺さぶられ身動きがとれないようになる。

 対策としては近寄らせない、耳栓をする位しかなかった。


 そこで、エイタが魔導紋様の中に『遮音結界』と呼ばれるものが有るのを思い出した。

 この『遮音結界』は結界の内側で発せられた音を外には漏らさないと言う効果が有り、密談や隠密行動の場合に使われる。エイタは『遮音結界』を解析し外側の音を遮断出来るように改造した。


 シェイクシャウトの対策として作り上げた魔導工芸品は<絶音結界>。腕輪型の防具で、魔力を流し込むと音を遮断する。

 全員分の<絶音結界>を用意したエイタ達は、森林エリアへ乗り込んだ。


 一日掛けて草原エリアの端まで行き、そこで一泊してから森林エリアに入った。

 森に入ってすぐにジャイアンエイプを発見した。大木の樹上で騒いでいる大猿にアイスが気付いたのだ。

 この大猿達は騒いでいるだけで襲って来ない。エイタ達が無視して進むと大猿達も付いて来る。少し進んだ所でオークと黒狼が戦っている所に遭遇した。

 オークは錆びた剣を持ち黒狼に斬りつけている。黒狼は素早く躱しオークに飛び掛かって胸に爪を立てた。胸から血を流したオークがよろける。そこに黒狼が跳びかかり首筋に牙を突き立てる。

 オークは悲鳴を上げ剣を振り回すが、段々と動きが弱々しくなり倒れた。


 黒狼はオークの死体を踏み締め満足そうに喉を鳴らした。黒狼がオークをむさぼろうとした時、樹上の大猿達が樹の枝や糞を黒狼に投げ付ける。

 黒狼は飛び退って避けた。その隙に大木から飛び降りた大猿数匹がオークの死体を持ち上げ樹上に運び上げた。黒狼が上を向き怒りの吠え声をあげる。口の端から泡を吹くほど怒り狂っていた。


「大猿って性悪だね」

 モモカが大猿を寸評する。大猿の一匹が悪乗りして黒狼の頭上にある枝へ行き、黒狼に尻を向けあざけりの笑い声を上げる。

「キィキ、キッキーー!」

 その様子を見た黒狼が刺し貫くような視線を大猿に向け雄叫びを上げた。

 それを聞いて、黒狼の頭上に居る大猿が枝を揺さぶり挑発する。

 その時、大猿が乗っていた枝がビキッと音を発した。

「アッ」

 メルミラが驚きの声を発すると同時に枝が折れ、黒狼の目の前に大猿が落下した。エイタの目には黒狼がニヤリと笑ったように見えた。その後、黒狼は大猿の尻に噛み付いた。

 尻に噛み付かれた大猿は悲鳴を上げながら大木に登ろうとするが、がっちり黒狼の牙が尻に食い込んでおり黒狼から逃げられない。

 大猿達はオークの肉を手に入れた代わりに仲間を一人失った。


 黒狼が大猿を咥えて去り、それを大猿共が追い掛けると辺りは静かになった。

「あの猿、嫌い」

 モモカが嫌そうな顔をして大猿達を見送った。辺りには大猿達が投げた糞が散らばっていた。メルミラも眉間にシワを寄せ大猿達を睨み付けている。どうしても糞を投げる行為は許容出来なかったようだ。

 エイタ達はジャイアンエイプとだけは戦わないようにしようと思った。


 森林エリアを探索し青煌晶と赤煌晶の鉱脈も幾つか発見した。メルミラは幸運に感謝したが、その幸運は長くは続かなかった。

 森の奥に入った所で羽毛竜が大ムカデを捕食し貪っている光景が目に入った。大ムカデの堅い外殻をバリバリと噛み砕き呑み込んでいる。

 長さ三マトル《メートル》の大ムカデを貪る羽毛竜に、メルミラは少し腰が引けている。体高四マトル《メートル》の竜は半端でない威圧感があった。


「ギルドの資料で想像していたより凄い」

 メルミラが呟くように言う。モモカも羽毛竜の大きさに脅威を感じているようだ。もちろん、エイタも羽毛竜に恐れを抱いた。リパルシブガンやプラズマ投擲弾が通用するか……不安にはなるが一戦交えないと結果は判らない。

「盾役がパーティに居ないのが問題か……だけど、あんな化物を相手に盾役を努められる探索者は一流だよな。やっと中難易度迷宮を攻略するパーティには来ないか」

 ……そうなると自動傀儡で代用するしかないか。エイタはスパトラをチラリと見た。スパトラ程度の重量では羽毛竜の攻撃を受け止められないだろう。

 あいつの攻撃を受け止めるには軍用傀儡並みの巨体と重量を備えた自動傀儡が必要である。だが、そんな傀儡を開発するには巨額の開発資金と大勢の人員が必要だ。


「取り敢えず、試してみるか」

 エイタは羽毛竜を不意打ちする作戦を立て実行に移す。

 スパトラのリパルシブガンを準備したモモカとエイタが羽毛竜に狙いを付ける。エイタの合図で威力【五】の専用弾による攻撃が始まった。

 リパルシブガンの引金を引くと同時に強烈な反動がエイタの肩を襲った。防護鎧ボディアーマーにより反動の力は分散されるが、それでも身体を大きく揺さぶる。

 専用弾は音速の数倍となる速度で大気を切り裂き羽毛竜の胸に命中した。


 意外にも、専用弾は羽毛竜の胸を貫通した。資料に有った通り羽毛竜の外皮はそれほど頑丈ではないようだ。一瞬、胸に空いた小さな穴から血が吹き出す。だが、すぐに血が止まり傷口が塞がった。

 モモカが発射した専用弾も羽毛竜の胴体に穴を開けたが結果は同じだった。羽毛竜が食い掛けの大ムカデをポトリと落とし、凄まじい雄叫びをあげた。


 メルミラとモモカがビクッと身体を震わす。エイタは頭を狙って専用弾を放った。胴体や巨大な顎門に比べ脳が入っている頭部はあまりにも小さく狙い撃ちにするのは難しい。

「外れたか」

 エイタが頭を狙っている間も、モモカは胸や胴を狙い羽毛竜の身体に穴を開けた。しかし、敵は驚くべき再生力で復活する。羽毛竜がエイタ達を発見した。

 身体に比較して小さな目でエイタ達を睨んだ羽毛竜は地響きを立て走り寄ってくる。エイタは痺れるような恐怖を押し殺し冷静に状況を確認する。


 リパルシブガンで羽毛竜の突撃を止めるのは無理だった。

「メルミラ、プラズマ投擲弾だ」

 メルミラが羽毛竜目掛けてプラズマ投擲弾を投げた。輝く球体が加速し羽毛竜の胸を捉え、そこに大きな穴を穿つ。穴からは鮮血が吹き出し、不死身と思えた身体をよろめかせる。

 エイタもプラズマ投擲弾を取り出し投擲した。投擲弾は羽毛竜に衝突する寸前にプラズマを叩き付けた。羽毛竜の表皮にある毛が焼失し内部の筋肉も炭となる。次の瞬間、炭化した筋肉の残骸や残った骨肉を粉砕しながら魔剛鋼製本体が貫通する。


 高い再生力を持つ羽毛竜でも、この攻撃には大きなダメージを受けたようだ。エイタとメルミラは召喚籠手を使って投げたプラズマ投擲弾を手元に引き寄せると魔力を注ぎ込む。

 口の端から血を滴らせた羽毛竜が大きな口を開け、シェイクシャウトを放った。


『ギャシャアアアアアアーーーーー』


 キーンとするような厚みのある音の衝撃波がエイタ達を襲った。本来なら相手の脳味噌をシェイクするはずの衝撃波が<絶音結界>により遮断され、無効化された。

「足を狙え!」

 エイタが指示を出し、メルミラと同時にプラズマ投擲弾をもう一度投げ放たれた。メルミラのプラズマ投擲弾は下腹に命中し穴を開けた。一方、エイタのプラズマ投擲弾は右足の付け根に命中し関節を削り取る。

 羽毛竜が悲鳴を上げドッと倒れる。


 チャンスと悟ったエイタとモモカが倒れた羽毛竜の頭部に狙いを付けリパルシブガンを連射する。二発は厚く頑丈の頭蓋骨を削っただけだったが、エイタが放った三発目は頭蓋骨を貫通し脳を破壊した。

 羽毛竜は少しの間痙攣を繰り返した後、完全に動かなくなった。羽毛竜の魂から解き放たれた顕在値がエイタに吸収される。エイタは久し振りに身体が煮え立つような感覚を味わった。顕在値レベルが上がったらしい。


「はあっ」

 メルミラが大きく息を吐き出し肩の力を抜いた。

「よくやったぞ。怖くなかったか?」

 エイタがモモカを褒めるとモモカはスパトラの上で嬉しそうに声を上げる。

「怖かったよ。でも、お猿さんの方が嫌」

 エイタ達はジャイアンエイプが戻らない内に、羽毛竜からマナ珠と魔法水晶、牙と羽毛、それに肉を剥ぎ取った。羽毛竜の肉は鶏肉に近く美味いらしい。


 羽毛竜を倒した先には峡谷迷宮の最後のエリアである二等区荒野エリアがある。エイタ達は荒野エリアに入る入口を探し当てた所で引き返す事にした。

 強敵との戦いは短時間で終わったが、精神的に疲れてしまったのだ。それに荒野エリアを探索するには事前調査が不十分だった。

 エイタは手応えを感じていた。このまま続ければ、近い日に迷宮を攻略するだろう。


 その日の夕方、探索者ギルドに立ち寄ったエイタ達はフェルオルのパーティが買取カウンターで職員の若い女性と話している処に出会した。

 パーティは四人に増えていた。二マトル《メートル》を超える大男で重装備の戦士のようだった。

「ストームウルフを仕留めたよ。さすがに強敵だったなあ」

 フェルオル達も草原エリアに行ったようだ。大男がストームウルフの毛皮を抱えている。

「さすがフェルオル様ですわ。ストームウルフって身体の周りに竜巻を纏っている危険な魔物なんでしょ」

「そうだけど、僕のフレイムランチャーが竜巻を吹き飛ばしたから簡単に仕留められたよ」

 カウンターの女性が眼をキラキラさせてフェルオルを見ている。


「エイタ」

 誰かに名前を呼ばれた気がして周りを見回すと、ヴィリス支部長が手招きしている。エイタ達はカウンターへ行き支部長に。

「呼びました?」

「ああ、警邏隊のユジマス隊長が探していたぞ。何かしたのか?」

「エッ、何もしてないけど。何だろ」

 エイタは帰りに警邏隊に寄ろうと決めた。剥ぎ取った素材をギルドに買い取って貰い、メルミラとモモカは先に帰し警邏隊の本部に向かおうとした。


 そこへ探していると言っていたユジマス隊長と警邏兵三人がやって来た。

「エイタ・ザックス……君に軍事機密漏洩の嫌疑が掛かっている。一緒に来てもらおう」

「エッ!」

 ……ど、どういう事だ。軍事機密なんかに関わった覚えな……


 ………………

 …………


 ……ん……もしかして、あれか。エイタはクレメンテス工房のヒュマニスから頼まれた部品の製作……。


 エイタは警邏隊本部へ連行された。本部に到着したエイタは小さな部屋に連れて行かれ、意外な人物と再会する。連行された部屋で待っているとジッダ侯主連合国大使館のダルス武官と兄弟子のドムラルが現れたのだ。

 一瞬でエイタの顔が険しいものと変わり、鋭い目で二人を睨み付ける。

「本当に生きていやがったか」

 兄弟子が残念そうに言う。ダルス武官も忌々しそうにエイタを睨んでいた。


「この二人は、お前がジッダ侯主連合国の軍事機密を盗んだ犯人で、我が国の軍事機密も狙っていると訴えた」

「そんな馬鹿な。整備していたヴィグマン()型を盗まれたのは本当だけど、盗んだのはオイラじゃない」


 ユジマス隊長は兄弟子とダルス武官をぎろりと睨み。

「エイタは否定しているが、何か証拠が有るのか?」

 兄弟子がエイタを睨みながら告げる。

「調べてみれば判る。こいつがユ・ドクトに戻ってから、幾つかの愛玩傀儡や魔導工芸品を売り出したようだが、それが証拠だ」


 兄弟子の言っている意味が判らなかった。それはユジマス隊長も同じだったようで、どういう意味か問い質した。

「きっとこいつはヴィグマン()型を売り渡した代わりに愛玩傀儡や魔導工芸品の設計情報を貰ったに違いない」

 ドムラルは自分でもそう信じているようだった。師匠はエイタに才能が有ると言ったが、設計に必要な傀儡構造学や材料学などの基礎を先に教え、高度な魔導紋様に関する知識を教える前に死んでしまった。

 兄弟子は次々と新しい愛玩傀儡や魔導工芸品を生み出すほどの知識をエイタが持っていないのを知っているのだ。

 だが、エイタは『地下迷路採掘場』で多くの魔導紋様に関する知識を得ていた。その知識を使い、新しい魔導工芸品や愛玩傀儡、魔工兵器を開発したのを、ドムラルは知らない。


 ユ・ドクトでエイタを発見したのはダルス武官だった。彼はエイタを調べ、傀儡工として成功を収めたのを知った。

 それをドムラルに伝えた時。

「弟弟子は、お前より随分優秀なようじゃないか」

 ダルス武官の一言がドムラルの何かのスイッチを押した。

 ドムラルは何故エイタが様々な商品を開発出来たのかを考えた。そして、誰かから知識を受け取ったのだと言う考えに辿り着いた。しかし、そんな貴重な知識を貰うには代償が必要なはずだ。

 すぐにヴィグマン()型の盗難事件を思い出した。そして、盗難事件にエイタが関わっていたのではないかと邪推する。ドムラルの頭の中で一つのストーリーが出来上がった。


 ドムラルは、そのストーリーをダルス武官に伝え、エイタを罰するように頼んだ。しかし、邪推を元に作り上げた空想に過ぎないので、何の証拠もなかった。それに軍用傀儡の盗難事件に関しては、エイタの処分は済んでいる。しかもジッダ侯主連合国大使館にはエイタが死んだと報告している。

 ダルス武官は大使に、エイタが死んだと言うのは間違いだったと訂正した。大使はエイタの事など余り問題にしていないようだった。そんな小者など放っておけとダルス武官に告げた。


 だが、ダルス武官とドムラルにとって、エイタは喉に刺さった骨のように気になる存在となっていた。力尽くでエイタを捕まえ処分しようかと思ったが、失敗する確率が高いと気付いた。エイタが手強い探索者に成長していたからだ。

 その後、エイタにつけ込む隙がないかと監視を続け、エイタの工房に軍事関連の仕事をしている工房の主人が出入りしているのに気付いた。


 その結果、エイタが自由都市連盟の軍事機密も狙っているのでは、と邪推する。そう考え始めるとエイタの行動が怪しく見え始める。

 実際に怪しい動きをしているクレメンテス工房のヒュマニスなのだが、ドムラルとダルス武官はエイタの行動が怪しいと思ってしまった。

 ダルス武官には警邏兵に知り合いが居て、そいつに怪しい奴が居ると知らせた。


 その知らせを聞いたユジマス隊長は疑問を持ったが、エイタを連行しダルス武官とドムラルの両方から証言を聞こうと考えた。


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