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scene:4 基魂表示─ステータス

 翌朝、目を覚ましたエイタは、昨日の残りのパンとスープを食べた。身体の痛みは幾分軽くなったように思える。ジョッキを持って広場に行き小川で洗う。それから顔を洗って小部屋に帰って来た。

 ジョッキを外に通じるドアの前にある台に置き、藁束に目を向けた。


「隠した黄煌晶は部屋に放って置けないな」

 藁束の下から黄煌晶を取り出し麻袋に入れた。もう一つの麻袋に入っていた銅鉱石は部屋の隅に積み上げた。

 麻袋二つと水筒、ツルハシを持って広場に向かった。


 何故だか身体が軽い。

「アッ……顕在値がレベルアップしたんだった」

 ……『基魂表示』の魔導紋様を使って基魂情報ステータスを調べなきゃいけないな。

 魔導紋様を使うには刻印呪液とペンが必要だ。それに刻印呪液を入れる容器も要る。刻印呪液はマナ珠を砕いた粉末と油で作製出来る。ペンは魔物の骨を加工して作れそうだ。


「問題は刻印呪液の容器と油だ。入れ物はジョッキを使うか……そうすると油は」

 エイタはバーサクラットが居た小空間に迷宮蔦が生えていたのを思い出した。迷宮蔦の実は油分を多く含んでいる。

「よし、今日もあそこに行こう」


 幸い昨日の経路を覚えていたので、同じ経路を通って小空間の入口前まで来た。中を覗くとバーサクラット二匹は再生していた。

 迷宮は不思議だ。この魔物達が何処から来るのか、偉い学者でも判らないと言う。


 二匹同時に戦うのは無謀だ。一匹ずつ誘い出して倒そう。エイタは小石を拾い、近い方のバーサクラットに向けヒョイと投げた。小石はバーサクラットの胴にポテッと当たった。

 バーサクラットがビクッとして周りを見回す。ツルハシの柄を入り口からちょっとだけ中に入れ、すぐに引き戻す。その動作を何度か繰り返すとバーサクラットの興味を惹いたようだ。

 バーサクラットが入り口に近付いて来た。周りを警戒しながら近付く魔物の気配を感じた。エイタはツルハシを振り上げたまま入り口に飛び込み、バーサクラット目掛けてツルハシを振り下ろした。

 脳天にザクリとツルハシが突き刺さる。


 もう一匹のバーサクラットがエイタに気付き、襲い掛かって来た。ブンとツルハシを振り回す。バーサクラットの方が素早く、こちらの間合いの内側に飛び込まれていた。それでもツルハシの柄にバーサクラットの頭が当たった。バーサクラットが弾き飛ばされ地面をゴロゴロと転がる。


 エイタは容赦なく追撃し、ツルハシを振り下ろす。バーサクラットは横に飛んで躱す。

 ツルハシを持ち上げようとエイタの動きが止まった瞬間、バーサクラットの爪に腕を引っ掻かれた。血がダラリと垂れる。

「痛え、こいつ」

 痛みを無視してツルハシを振り回すと、先端がバーサクラットの頭を掠った。

 足元をヨロっとさせたバーサクラットに止めの一撃を振り下ろす。


「ハアハア……なんとか仕留めたけど……ツルハシは武器じゃねえな。やっぱし本物の武器が欲しい」

 バーサクラットの死体からマナ珠を回収し、死体を採掘場所まで運んだ。

「んん……不思議だ。昨日掘る前に戻ってる。黄煌晶も有る」

 エイタは黄煌晶ではなく固そうな灰色の岩を掘り出した。地面に転がった灰色の岩に何度かツルハシを打ち込んだ。砕かれた岩の破片が散らばる。その中から鋭いナイフ状の岩の欠片を拾う。


「こいつでバーサクラットを解体しよう」

 バーサクラットの皮を剥ぎ取り、腕の肉を裂いて中心の骨を取り出す。細長い骨だ、これならペンになるだろう。予備としてもう一方の腕からも骨を取り出した。

 骨から肉をこそぎ落とし石ナイフで骨を斜めに切る。慎重に骨を削ってペンを完成させた。予備の骨も同じように加工し予備のペンを作った。


 それから採掘を開始し、昨日よりちょっと少ないほどの黄煌晶を手に入れた。

 帰る途中、小空間で迷宮蔦の実を採取した。広場に戻る入り口で中の様子を探る。今日は怪しげな男達は居ないようだ。素早く広場を横切り自分の部屋に戻った。


 天窓から見える空の様子で夕方近いのが判った。暫く待つとジェルドが現れ、黄煌晶と交換にパンとスープを手に入れた。


 食事をしてから、刻印呪液を作製する作業を始めた。まずは明日の朝食用に残しているスープを水筒に移し替えジョッキを空にして、広場の小川で洗って戻った。


 次に仕留めたバーサクラット五匹分のマナ珠を手拭いで包み、ツルハシの金属部分で何度も叩く。粉々になったマナ珠の粉末をジョッキの中に入れた。

 手拭いで迷宮蔦の実を包み潰して黄色の油分をジョッキの中に絞り落とした。指で掻き混ぜて魔力を流し込む為に、ゆっくりと深呼吸を行い精神を落ち着かせる。


 エイタは、師匠から習った要領を思い出しながら己の意識を精神の奥へと沈み込ませ、第一階梯深層域の魔力溜りにまで到達させた。そして、魔力溜りから少量の魔力を引き出す。

 魔力が心臓から溢れ出し、その魔力を右の肩・肘・人差し指へと導きジョッキの中に放出した。魔力がマナ珠の粉と反応して化学変化を引き起こした。黄色の油がオレンジ色に変わる。


 こうして即席だが、刻印呪液が完成した。


 今日作成した骨ペンの先を刻印呪液に浸し、左手の甲に魔導刻印術の初歩である『基魂表示』の魔導紋様を描く。これは師匠シュノックに教えられた方の魔導紋様である。


 創造神が残したと言われる天霊文字をある法則に従い崩し複雑な幾何学模様のように並べた魔導紋様。それは繊細で美しいものだが、人間には計り知れない力を内包していた。

 本来は物に刻み込んで発動する魔導刻印術だが、初歩の魔導紋様なら描いたものでも問題なく起動する。


 『基魂表示』の魔導紋様が完成した。乾いたのを確かめてから、エイタは右の人差し指で描いた魔導紋様を触る。先ほどと同じように意識を精神の奥深くに沈み込ませ魔力を生み出す。


 魔力を左手の甲に描かれた魔導紋様の魔力門と呼ばれる模様へと流し込んだ。

 魔力門から流れ込んだ魔力は魔導経路を通り次々と魔導紋様の構成パーツを励起していく。そして、最後の構成パーツに魔力が流れ込んだ時、刻印呪液に含まれる魔力と反応し、魔導模様全体が赤い光を放つ。


 次の瞬間、エイタの脳裏に文字が浮かび上がる。以前に師匠と試した時とほとんど同じだ。


====================

【エイタ・ザックス】

【年齢】十七歳

【性別】男

【称号】ジッダ侯主連合国生まれの傀儡工

【顕在値】レベル2

【スキル】一般生活技能:六級、魔力制御:六級、魔導刻印術:九級

====================


 予想通り顕在値のレベルが上がっていた。この顕在値レベルは、筋力・俊敏性・魔力・耐久力・精神力にも影響するので、基礎能力すべてが若干だが上がったはずだ。


 だが、平均的な探求者の顕在値は、レベル15だと言われているから誤差の範囲だろう。


 また、自動傀儡工学や魔導刻印術の級は習得した技術レベルを表しており、それにより任せられる仕事の種類も変わって来る。


 ・九級:初心者(学び始めたばかりの者)

 ・八級:見習い(指導者の手助けが常時必要)

 ・七級:駆け出し(初歩の簡単なものなら任せられる)

 ・六級:一人前(ほとんどの者がこのレベルで終わる)

 ・五級:中堅(後輩の指導が可能)

 ・四級:上級者(新しい技術や技の開発が行える)

 ・三級:達人(国家レベルで名前が知られる)

 ・二級:覇者(国に一人居るかどうかの逸材)

 ・一級:超越者(歴史的に名前が残る者)


 というような指標が級には有るが、絶対的なものではない。


 あの小空間に有った銅板の『基魂表示』と今使ったものが異なっていたのが気になり始めた。


 魔導紋様を構成するパーツは【天霊紋】と呼ばれている。創造神が世界を構築する為に使ったとされる天霊文字を人間が使えるように紋様化したものである。

 数万種類も存在すると言われる【天霊紋】だが、現代の人間が魔導紋様として使用しているのはわずか数百ほどでしかないと言われている。


 銅板の魔導紋様と師匠に教わったものとを比較する。師匠に教わったものは八つの天霊紋が欠落していた。銅板に記述されていた魔導刻印理論には、欠落している天霊紋の情報も記述されていたが、エイタにはまだ理解出来ないもので、それを理解するには一ヶ月以上の時間が必要だった。


 そこで、試しに小空間に有った銅板の『基魂表示』で描き直し、魔力を込めてみた。

 魔導模様に新たな魔導経路が浮かび上がり魔力の流れが変わる。未知の八つの【天霊紋】に魔力が流れ込み励起し全体が赤く輝く。

 次の瞬間、魔力が逆流した。チクチクと刺すような不快な感覚から、逆流した魔力がエイタの身体を一周し、何らかの作用を及ぼしたのが分かった。


 身体を一周した魔力が再び魔導紋様に戻り、エイタの脳裏に文字が浮かび上がった。


====================

【エイタ・ザックス】

【年齢】十七歳

【性別】男

【称号】ジッダ侯主連合国生まれの傀儡工

【顕在値】レベル2

【魔力量】24/30

【技能スキル】一般生活技能:六級

【魔導スキル】魔力制御:六級、魔導刻印術:九級

【状態分析】

 魔導異常<なし>、疲労度<3>、

 背中に裂傷、左脇腹に打撲、手足に多数の擦り傷有り

====================


「ウワッ! ……こっちの方が情報量多い」


 スキルが二つに別れ、二項目の情報が増えていた。【魔力量】は現在残っている魔力量らしい。【状態分析】は身体の異常を分析し知らせてくれる。……便利だ、どうしてこちらが残っておらず、簡易版みたいな方が残っているんだろう。


 推理してみた。一つは現在の『基魂表示』より消費魔力が多いからだろう。魔力が流れる感覚から二倍以上の魔力を消費したように感じた。

 もう一つは教える側の出し惜しみだ。弟子には簡易版を教え、師の権威を守る為に本来の魔導紋様を伝えなかったのではないか。そういう教育者は多かったのではないか。


 後はチクチクする不快感だ。あれが嫌われた可能性がある。

 それに対象が生物でない場合は無用な機能だ。


 久しぶりに魔導紋様を使ったからだろうか。疲れを覚え酷く眠い。エイタは藁束に横たわり眠りについた。


 翌朝、日の出と共に目を覚ました。ジョッキの中を確かめるとまだ刻印呪液が大量に残っていた。捨てるのは勿体無い。そう思ったエイタは、保存する容器を探した。


 この部屋に有るはずもなく、代わりに部屋の隅に積んである銅鉱石が目に入った。

「うん、『抽出分離』の魔導紋様で銅だけ抽出して加工すれば……うまくいくかも」


 銅鉱石の一番大きなものを探して、それに刻印呪液で『抽出分離』を描いた。最後に抽出条件を『銅』に設定するよう書き加える。設定が終わった後、魔力を込めた。

 握り拳二つ分ほどの銅鉱石が赤く光り、魔導紋様の中心部から銅が流れ出す。それが小石ほどの量になった時、効力が消えた。

「ヨッシャ、もう一仕事だ」


 その銅に『変形』魔導紋様を描き込み魔力込める。全体が赤い光を帯びたのを確かめてから、その銅を持つ指に力を加える。硬いはずの銅がグニャリと変形した。陶芸家が指先で形を整えるように銅を変形させて行く。

 最終的にインク壺のような形になる。


 そこにジョッキの刻印呪液を移し、手拭いの切れ端と銅の残りを使ってコルク代わりに蓋をした。


「さて、今日はどうする」

 昨日、考えたのは基魂情報ステータスを調べる事。そして、

「そうや、武器が欲しいと思ったんだ。だけど武器か……難しいな」


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