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scene:39 シャラザ通路

 ライオス迷洞の入り口にいる役人に、金を払って中に入ろうとした時、偉そうに口髭を生やした役人が珍しそうにスパトラを見てから声を掛けた。

「奇妙な傀儡だな。新しいものなのか?」

「ええ、最近完成したばかりの騎乗傀儡です」

「騎乗傀儡? ほう、そんなものが出来たのか。傀儡ロバなら偶に見るんだが、蜘蛛型傀儡か」

 役人はまだ質問したそうにしていたが、時間が惜しいエイタは「それじゃあ」と挨拶し迷宮の中に入った。


 迷宮の中に入ったスパトラは思った以上の働きをした。迷宮に平坦な道は少なく、起伏が多く岩が邪魔をしている場合もある。そんな道をスイスイと進むスパトラは頼もしい、そればかりではなくバーサクラットと遭遇した時には、その強力な脚で蹴り殺してしまった。


 途中、マウスヘッドに襲われた。その時、スパトラに騎乗したままのモモカがフィストガンを抜きマウスヘッドの頭を狙い打ちにして倒した。モモカはフィストガンを指先でクルクルと回しホルスターバッグに仕舞う。ニコッと笑ったモモカは胸を張り。

「フィストガンは最高なのです」

 何故か威力のあるハイブリッドボウより、フィストガンを一番気に入っているモモカは、ライオス迷洞での狩りが好きである。単純にフィストガンを使えるからなのだが、その嬉しそうな笑顔を見るとモモカの為に本気で魔導紋様の大改造をやろうかと考える程だ。

 フィストガンの核である『見えない手』の魔導紋様には大きな可能性があるとエイタは思っている。……暇がある時に研究しよう。


 峡谷迷宮に入り、串刺し鳥の林をマナシールドを使って突破する。もちろんマナシールドにぶつかって首を折り死んだ串刺し鳥からはマナ珠を回収した。六等区を抜け五等区に入った。ここは前回ワームの襲撃に遭い撤退した場所だ。

 遠くに三つの小山が見える。手前の荒れ地には雑草が少しだけ茂っているが、その先に有る砂利を敷き詰めたような土地には何もなかった。小山まで歩けば半刻《一時間》程で到着するだろう。

 見た目は安全そうに見えるけれども、砂の下にはワームが潜んでいる。


 エイタは安全に進める道を探し東の方へ進んだ。砂地に入ればワームが襲って来ると判っているのだから、初めから危険を冒そうとは考えない。

 小熊型傀儡のアイスはスパトラの頭の後ろにまたがり砂地の方へ目を向けていた。自力で歩いても楽々付いて来れるだけの性能なのだが、モモカがそうしたのだ。


「ヘカヘカ、ヘキョ」

 アイスが鳴き声を上げた。

「お兄ちゃん、アイスが何か見付けたみたい」

 アイスの偽魂眼は高性能で人間の眼より遠くのものが見える。少し歩くとアイスが見付けたものが何か判った。五〇マトル《メートル》ばかし砂地へ入った所に大きな穴が開いていた。


「やっぱり有ったんだ。小山への抜け道が」

 メルク達は知らなかったようだが、ベテランの探索者の間では知られている抜け道だった。この抜け道にはケイブスコーピオンや鎧イモリが巣食っている。それらの魔物はワームより手強いけれども、集団で襲って来ないので地上の砂地を行くより安全だと考えられていた。


「誰か出て来るよ」

 モモカが声を上げた。エイタが穴に注目すると三人の探索者が穴から這い出て来る。先頭に立っている男に見覚えが有り、すぐに思い出す。ヴィグマン商会を裏切りコルメン商会へ移籍したバリスと言う探索者だ。

 赤髪とデカイ鼻・大柄な体格と分厚い胸板、パワーファイターに違いない。革鎧にロングソードを背負った姿は手練れの雰囲気が有り、後ろに続く二人の探索者も戦槌と短弓を持ち手強そうだ。


 三人は足音を立てないようにゆっくりと近寄って来た。その先頭のバリスがエイタを見付け。

「お前、メルク達と一緒に居た奴だな。ヴィグマン商会の探索者か?」

「まあ、そんなものだ」

 エイタは適当に返事をした。職人だと言えばコルメン商会が潰れた原因になった者だと気付くかもしれない。

「ふん、おかしな傀儡を連れ迷宮探索か。そんな傀儡を用意出来る程ヴィグマン商会は儲けているのか。面白くねえな」

 裏切ったくせにヴィグマン商会が立ち直り繁盛するようになるとバリスは面白く無い気分になった。

 バリスがエイタの身なりをジロジロ見てから。

「お前、このシャラザ通路は初めてか?」

「そうだが、それが何?」

「そんな軽そうなメイスと変なクロスボウでここを通れると思っているなら笑っちまうぜ」

 エイタはプロミネンスメイスを腰に帯び、背中にはリパルシブガンとリュックを背負っていた。リパルシブガンを何かの道具だと勘違いし武器はメイスとモモカの持つハイブリッドボウだけだと勘違いしているようだ。


 バリスが親切にアドバイスをしているとは思えない。いちゃもんを付けエイタを笑い者にしている感じである。

「余計なお世話だ」

 エイタが声を上げるとバリスと仲間の二人はムッとした顔をする。

「そうかい、人が親切にアドバイスしてやろうとしているのに……ふん、精々シャラザ通路でくたばらないようにするんだな」

 三人はエイタを睨み付けてから、足早に去って行った。

 少しの間だけバリス達を見送ってから、シャラザ通路の入り口を目指し慎重に足を進める。スパトラも忍び足モードになっている。ワームは音に敏感で人の気配に気付くと襲って来るからだ。


 丁度半分程の距離を歩いた時、斜め後方から矢が飛んで来た。矢はエイタ達の目の前に落ち『ドン』と音を響かせ爆発した。

 エイタとモモカが歩いている場所から少し距離が有ったので爆発自体には巻き込まれなかったが、爆風で撒き散らされた砂を浴びた。エイタは後ろを振り向き誰が矢を射たのか確かめる。あの三人が急いで走って逃げる姿が目に入った。

 多分爆発するような魔導紋様を刻印した特別な矢を使ったのだろう。

「ウッ、ペッペッ。口の中にも砂が入ったよお」

 モモカが涙目になって声を上げた。エイタは思わず怒声を発した。

「あのド畜生どもが!」


 明らかに狙いは逸れていたので質の悪い嫌がらせだと思われる。嫌がらせだとしてもベテランの探索者がするような事ではなかった。

 その時はそう思った。だが、砂地の中からボコボコとワームが姿を現した時、それが単なる嫌がらせではなく殺意の籠もった仕打ちだったと悟った。


「モモちゃんはスパトラから降りないで迎撃、アイスは降りて戦え」

 アイスが最初に戦闘を開始した。ワームに駆け寄り鋭い爪で引き裂く。エイタはリパルシブガンを取り出しワームに狙いを付ける。セレクトレバーは【2】に設定している。

 矢継ぎ早に引き金を引くと専用弾がワームの頭を吹き飛ばす。モモカもハイブリッドボウで専用弾を撒き散らし近付いて来るワームを倒す。

 ワームの防御力はそれほど高くなく、専用弾は簡単にワームの皮膚を突き破り脳味噌を破壊した。


 すぐに弾が尽き弾倉ごと交換する。腰のポーチには二つの弾倉を入れていた。ワームを倒すには一発か二発の弾が必要で、エイタとモモカが弾倉一つ分を撃った時には十六匹のワームが砂地に横たわっていた。それでもワームの数は半分も減っていない。エイタとモモカはワームを始末しながら、少しずつ通路の入口へと近付く。

 ワームの背後で大きな音がした。

「チッ、巨大ワームだ」

 砂の中から人間を一呑ひとのみに出来そうな化け物が現れた。うねうねと巨体を揺らしながら周囲の砂を押し退け全身を現した巨大ワームは全長九マトル《メートル》程もあった。巨体にも関わらず素早い動きで近付いて来る。


「モモちゃん、逃げるよ」

「うん」

 二人はシャラザ通路に向け駈け出した。モモカを乗せたスパトラを守りながら走り、時折リパルシブガンを撃つ。その専用弾は巨大ワームの身体に命中するが致命傷にはならない。

 ワームの体構造は原始的で急所らしい急所が少ない。唯一の急所は頭部にある脳で、ピンポイントに脳を撃ち抜かないと死なないようだ。通常のワームなら頭を撃ち抜けば高い確率で脳を破壊出来るが、巨大ワームの脳は巨体の割には小さいようで中々命中しない。


 巨大ワームがエイタに追い付き巨大な口を開け襲い掛かった。辛うじて噛み付き攻撃を避けるも体当りされ前方に吹き飛ばされた。幸運にもモモカが逃げ込んだ入り口に転がり込めた。単純な体当たりだったが、エイタのダメージは大きかった。脳震盪を起こし暫くボーツとする。

 それを見たモモカはハイブリッドボウを構え、巨大ワームを睨み付けた。

 モモカがハイブリッドボウを続け様に撃ち巨大ワームの頭に小さな穴を開ける。但しハイブリッドボウの威力が足らず脳まで専用弾が届かない。その事を後でモモカから聞き、エイタは雷撃専用弾や凍結専用弾を用意しなかったのを後悔する。


 巨大ワームはモモカの攻撃を嫌がり一旦は後退する。その間にエイタから貰った<治癒の指輪>でエイタを治療する。意識がはっきりしたエイタはモモカに。

「ありがとう。偉いぞ」

 モモカが本当に嬉しそうに笑った。

 怒り狂っている化け物は執念深かった。シャラザ通路にまで入り込みエイタ達に攻撃を加えようとする。

 エイタはプロミネンスメイスを抜き柄の部分にある設定スイッチをカチッと回し【雷撃】にする。メイスの柄の中には四等級のマナ珠が五個入っており、雷撃なら二〇回程度放つ魔力を秘めている。

 右手に持ったメイスを振りかざし通路に侵入しようとしている巨大ワームの頭に一撃を放った。メイスの先端には三層に重ねられた魔煌合金を覆うように突起の付いた鋼鉄の鈍器が付いていた。


 突起の付いた鈍器が巨大ワームの頭に減り込むと同時にスパークが閃き高圧の雷撃が化け物の身体に流れ込んだ。巨大ワームがのた打ち回った後ピクピクと痙攣し動かなくなった。どうやら脳に電撃を喰らい麻痺したようだ。

 手早く設定スイッチを【陽焔】にするとメイスの先端から光輝く炎の棒が伸びる。雷撃のエネルギーにより空気がプラズマの渦となり半マトル《メートル》程伸びたのを確かめ、巨大ワームの頭に叩き付ける。単なる炎なら表面を焦がすだけだったであろう。しかしプロミネンスメイスから伸びたプラズマは一万度を超える高温で魔物の内部まで焼き切った。


 巨大ワームが完全に死んだ瞬間、その顕在値がエイタの魂に吸収される。アサルトウルフに匹敵する魔物だったようで久しぶりにエイタの顕在値レベルが上がった。

 巨大ワームを仕留めたエイタは通路の外が気になりだした。入り口まで戻り外の様子を見ると複数のワームがうろうろしている。

「戻って、あいつらを打ちのめしてやりたいけど……運の良い奴らだ」

 爆裂の矢を射た三人組に猛烈な怒りを覚えながらもワームの群れの中を突破して戻る気にはなれない。ワームは通路の中に入るのを避けているようだ。後で聞いた話に依ると通路に居る鎧イモリはワームの天敵で通路に入ったワームは鎧イモリに食われるらしい。


「お兄ちゃん、大きなマナ珠が取れたよ」

 モモカが巨大ワームから回収したマナ珠を持って来た。やはりアサルトウルフと同じ三等級のマナ珠である。売れば金貨一〇枚になる高価な物だが、今のエイタにとっては素材の一つにしか過ぎない。

「これからどうするか。ワームがうろつている間は戻るのは危険だし、先に進むしかないか」

 小型のワームだけなら全部を仕留めるだけの弾はある。ただ可能性として他にも巨大ワームが居るかもしれない。その場合、モモカを守りながら戦うのは危険だ。


 シャラザ通路の入口付近で少し休んでから、邪魔になる巨大ワームの死体を切り刻んで入り口から外に捨てた。このままでは通路内で腐って酷い事になり、帰り道として使えなくなるのは困る。

「モモちゃん、先に進もうか」

「うん、あの山まで行くんでしょ。綺麗な魔煌晶が有るかな」

「どうだろ。有ったらいいね」

 峡谷迷宮の奥には赤煌晶や紫煌晶が掘り出される採掘場所が有ると言われている。他にも魔力伝導率が神銀より高い『魔紅金』や鉄と混ぜると『魔剛鋼』と呼ばれる強靭な鋼となる『妙剛鉱』も産出する。


 エイタとしてもそれらの鉱物を手に入れたいと思っている。それらの素材を使って高品位の魔煌合金を合成すれば、より高度な魔導紋様を使えるようになるからだ。

 エイタが知識として持っている魔導紋様の中で『物品召喚』『思考加速』『次元深層信号』『亜空間接続』の四つは大量の魔力を必要とする魔導紋様であり、低品位の魔煌合金に刻印しても起動しないらしい。

 それに加え同じ魔導紋様を高品位の魔煌合金に刻印するだけで性能が上がると聞いている。


 エイタとモモカはシャラザ通路を進み始めた。幅二マトル《メートル》、高さ三マトル《メートル》の通路が枝分かれしながら北へと続いている。暫く歩いた頃、最初の分岐点に到着した。通路が三つに分かれており、どれを選ぶか迷ったエイタは通路の地面を調べた。

「オッ、地面に痕跡が……」

 モモカも地面を見てみたが何も判らない。

「お兄ちゃん、判るの?」


 エイタは『ふっ』と笑い。

「地面に痕跡が有っても人間が付けたかどうかが判らないので棒を倒して決める」

 モモカが残念な人を見るかのような眼でエイタを見た。

「仕方ないだろ。オイラは職人で狩人じゃないんだから」

 棒は左に倒れた。


 左の通路を選んで進んだ直後に、鎧イモリと遭遇した。人間の大人より一回り大きなトカゲ型の魔物で背中一面を非常に頑丈な鱗で覆っている。その鱗は鋼鉄の剣で断ち切れない硬さを持ち、戦斧や戦槌でないと仕留められないと言われている。

 エイタ達に気付いた鎧イモリは短い足でバタバタと走り寄り襲い掛かった。モモカがハイブリッドボウを発射する。専用弾は鎧イモリの鱗に食い込むが貫通しなかった。

「どうしよう、効かない」

「モモちゃんは下がって。オイラが仕留める」

 ハイブリッドボウの威力はリパルシブガンの【2】に相当するはずだから、それより強力でないと鎧イモリは仕留められないようだ。

 エイタはリパルシブガンのセレクトレバーを【3】に設定し引き金を引いた。


 リパルシブガンから発射された専用弾は背中に命中すると鱗を貫通し魔物の背中に穴を開けた。

「ヨシ、リパルシブガンなら仕留められるぞ」

 仕留めた鎧イモリからマナ珠を回収し、革鎧の材料になる皮も剥ぎ取った。剥ぎ取った革袋に入れスパトラの腹に吊り下げる。スパトラの体内にも収容スペースは有るが、そこには専用弾や食料・水筒、薬箱等が入っている。


 エイタ達はそのまま進み、二度Y字の分岐点を左に進んだ。通路は行き止まりだった。一つ手前の分岐点に戻り今度は右へと進む。運悪くケーブスコーピオンと遭遇する。

 一応<索敵符>を使っているので遭遇する前に魔物が居るのは判っている。ただ避けては通れないので戦う事にした。この魔物はサソリ型の魔物で中型犬程の大きさをしている。注意しなければならないのは、尻尾の毒針で、刺されれば身体が麻痺して動けなくなる。


 エイタはアイスに戦わせ実力を観察する事にした。

「アイス、戦え」

 スパトラから飛び降りたアイスが爪を伸ばし魔物に詰め寄った。ケーブスコーピオンが二本の巨大なハサミでアイスを威嚇する。アイスはぴょんと飛んで背中に乗り爪を大サソリの頭部にザクッと食い込ませた。

 かなりのダメージを与えたようで大サソリが暴れる。背中のアイスは爪をもう一度振り下ろそうとする。大サソリが尻尾の毒針でアイスを攻撃。アイスの背中に毒針が突き刺さった。尻尾の動きはエイタが予想していたより速く接近戦は避けた方がいいようだ。

「アイス!」

 モモカが悲鳴のような声を上げた。だが、アイスに毒針が効くはずがなかった。平然と爪を振り下ろし頭を引き裂き止めを刺した。


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