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scene:29 ワームの群れと遭遇し撤退

あらすじに予告していたのですが、タイトルを変更します。

新しいタイトルは

『職人は魔工兵器を持って迷宮に挑み、軍用傀儡は戦場を疾駆する』

となります。今後もよろしくお願いします。

 今日の目標は五等区に到達するまでと考えていたので、この亀裂門を抜けると目標達成となる。エイタ達は亀裂門を通り抜け荒れ地に入った。そこから北の方角に三つの小山が三角形に並んでいるのが見える。

 そこは荒涼とした地形で地面は砂利と岩が散乱しており、所々に雑草が生えているだけの場所だった。

「殺風景な場所ですね」

 メルクがエイタに話し掛けた。エイタもそうだったが、五等区には魔物がうようよ居て息つく暇もなく襲い掛かって来ると想像していた。

 何故そんな想像をしていたかと言うと、探索者の多くが五等区を抜けられず、この一帯で足踏みしていると聞いたからだ。


 遠くに見える山までは砂地の地形が続き、風に依って出来た波のような模様が遠くまで見える。波模様を描く砂の上を歩くと足の下で模様が崩れる感触が伝わって来る。……歩き難い。

「魔物も居ないようだな」

 エイタは応えた後、<索敵符>を使って反応を調べてみる。魔物の反応は無かった。


 エイタ達は進み始めたが、モモカが苦労している。足を踏み出す度に足元が崩れバランスを崩す。

「モモちゃん、おんぶして上げようか?」

「大丈夫、歩けるよ」

 まだまだ体力は有りそうなのでモモカの意思に任せる事にした。エイタはモモカ用の乗り物兼荷物運びとなるものを用意しようと思い付いた。

 ベテラン探索者達の中には、ロバ型の自動傀儡を荷物運び用に迷宮へ連れて行く者も居る。但し迷宮用に改良されたもので、魔物から逃げるような機能などを追加してある。


 もちろん、モモカはアリサに預けエイタだけが迷宮へ行くという選択肢は有ったが、モモカ自身が迷宮に行くのを楽しみにしているので居残りさせるは可哀想だった。

 但しモモカに危険が及ぶような迷宮の奥へは連れて行かないつもりである。先程のマッシブツリーは例外だが、五等区で遭遇するオーク程度なら問題ないと考えていた。


 小山までの三割ほどに到達した頃、何か危険な気配を感じ立ち止まった。メルクは索敵具を使って魔物の反応を探したが何もない。

「どうかしたんですか?」

 エイタに尋ねると、エイタは眉間にシワを寄せ神経を張り詰めた表情を浮かべている。そして、モモカもキョロキョロして敵を探していた。

「判った。地面から変な音がする」

 モモカが可愛い声で叫んだ。その声を聞いた瞬間、エイタが大声で指示する。

「地中に魔物が居る。散開しろ!」


 それぞれが距離を取った時、地面から大きなワームが顔を出した。地面の上に頭だけを出したワームは鋭い牙が並んだ口を開け、エイタ達を威嚇する。

 メルクがインセックボウを構えワームの頭を狙って引金を引く。ボルトが飛翔しワームの頭に突き刺さった。ワームが体液を流し苦しむが致命傷にはならなかった。ヒューイがブーストフレイルをワームへ振り下ろし止めを刺す。


「ワームって思ってた以上に大きいな。頭なんか俺と同じ位有るぞ」

 ヒューイが驚いていた。メルクがエイタの方を見ると、危険な気配が消えていないようで、臨戦態勢を崩さずに居る。

「ヒューイ、気を抜くな。マナ珠を回収したら敵を警戒しろ」

 マナ珠を回収した時、地面から数十匹にも及ぶワームの群れが現れた。それを目にしたエイタは囲まれると危険だと判断し退却の号令を発した。

「逃げるぞ!」

 エイタはモモカを抱えると逃げ出した。それを追い掛けるようにメルク達が続き、アイスはメルク達の後ろを余裕で走っている。


 エイタが後ろを振り返ると、体長三マトル《メートル》ほどのワームがうじゃうじゃと砂地を這い追って来ているのが見えた。その移動速度が思った以上に速いのを確認し、エイタの背筋が凍った。

 後ろを走っていたアイスにワームが襲い掛かった。アイスの自己防衛機構が反応し両手の爪を伸ばし、その鋭い刃をワームに打ち込んだ。唯の愛玩傀儡ではなく軍用傀儡に匹敵する機能を持つアイスだからこその働きだ。

「アイス、頑張れぇ!」

 抱きかかえられているモモカはエイタの肩越しにアイスの反撃を見た。小さなアイスを狙っているワームは一匹ではなく次々とアイスに襲い掛かった。アイスは容赦なく長く伸びた爪でワームを引き裂き返り討ちにする。


 モモカはアイスを援護する為、フィストガンを抜いて応戦する。スピードを【大】にした拳骨がワームを襲い宙に弾き飛ばす。当たり所が悪かったワームは死に、それ以外の奴も大きなダメージを受け追って来るのを諦めた。開発者であるエイタが考えていた以上にフィストガンの威力は高いようだ。

 やっと亀裂門に戻った時にはフィストガンに装填してあるマナ珠が空になっていた。


「無事に逃げ切ったようだな」

 エイタは皆の無事を確認し、背後の砂地に点々と転がっているワームの死体を確認した。マナ珠は惜しいけど、危険を犯し回収しに行くほどの価値はない。

 数は多いが打たれ弱いワームに消極的過ぎたかと考えた時、ワームの死体が転がっている砂地が盛り上がり、直径がモモカの身長ほどもある巨大ワームが現れワームの死体を呑み込んだ。


「でけえー!」

 ヒューイが大声で叫ぶ。その声に反応したかのように巨大ワームが、こちらの方を向いた。エイタが詳細に巨大ワームを観察すると頭には眼が存在しなかった。

「あいつらは音に反応して襲い掛かるのか」

 小声で言ったはずなのに巨大ワームがピクリと反応する。エイタ達は音を立てないように後退し亀裂門に入り戻り始めた。


「あれはぬしだな」

 ヒューイが言うとメルクとジャスキーが賛同する。

「あの主を倒さないと山の方へは行けないのかな?」

 ジャスキーが自信無さそうな声を出す。エイタもワームはともかく巨大ワームを仕留めるのは苦労しそうだと思っていた。しかし、よく考えてみるとエイタ達以外の探索者も峡谷迷宮へ来ているはずだった。

 エイタ達は途中で神銀の抽出をしていたので、他の探索者達の方が先にあの砂地を突破しているはず。主が倒されていないと言う事は、何処かに砂地を抜けるルートがあるのだ。


 迷宮を抜け出しヴィグマン商会へ行ったエイタ達は戦利品をアリサの前で披露した。六等級マナ珠一〇〇個以上とマッシブツリーの三等級マナ珠、拳一つ分の神銀、計量枡二杯分ほどの青煌晶。

「凄いじゃない。あなた達が青煌晶を持って帰れるようになるのはずっと先だと思ってたのに」

 アリサの正直な感想はメルク達の心に小さなダメージを与えた。

「ずっと先って……俺達けっこう強くなってると思うんだけど」

「まだまだよ。今回はエイタさんが一緒に行ったから採掘出来たんでしょ」


「……」


 メルク達は反論出来なかったようだ。

「エイタさん、この青煌晶と神銀は商会で引き取ってもいいの?」

「フィストガンに使う分の六等級マナ珠と神銀半分、青煌晶を一〇個ほどは、オイラが使うよ」

「神銀はチサリーベアの改良に使うの?」

 チサリーベアに神銀を使うと製造原価が高くなるので、アリサは確認する。

「いや、神銀を使って構築ゴーグルを作ろうかと考えているんだ」


「私としてはチサリーベアの改良に力を入れて欲しいんだけど」

 エイタは判っていると言うように頷き説明を始める。

「チサリーベアを改良するには高性能な構築ゴーグルが必要で、その素材として赤煌晶か神銀のどちらかが必要だったから、赤煌晶を狙って迷宮に潜ったんだ。その結果、神銀が手に入ったのは意外だったけど、これでチサリーベアの改良を進められる」

 構築ゴーグルはガラスの代わりに嵌っている魔煌合金の品質により、扱える動思考論理の容量が異なる。現在使っている構築ゴーグルは青煌晶と銅を使った青煌銅で、通常の愛玩傀儡や傀儡馬を動かすのに必要な動思考論理を構築するには十分でも、改良型のチサリーベアを動かす動思考論理には不十分だった。


 自動傀儡の制御コアは偽魂核を中心に組み上げられている。その偽魂核は最低でも三層に分かれており、一番中心の層に『偽魂核』の魔導紋様が刻印され、それは中枢魂層と呼ばれる。

 中枢魂層が動思考論理と繋がる事により人造知性と呼べる思考能力を持ち、情況判断と行動制御を行う。

 通常、動思考論理は中枢魂層を経由して構築されるので、実際に書き込まれる場所は二層目となる。愛玩傀儡や傀儡馬なら二層目だけを使って動思考論理を構築すれば事足りる。

 だが、改良型のチサリーベアは二層目だけの容量では足りず三層目を使わなければならなくなった。それは軍用傀儡で使われる積層化技術を組み込んだ動思考論理になる事を意味する。


 軍用の積層化技術は国家レベルで秘匿されるものである。本来なら愛玩傀儡程度に使われる技術ではない。但しエイタ自身は積層化技術の存在は知っていても技術知識がある訳ではない。

 一から積層化技術を創出する事になる。二層目と三層目の連結部分の構造やアルゴリズムをどうするか、アイデアはあるものの、それがものになるかどうかは判らなかった。


 その翌日、青煌晶と神銀を使って新しい構築ゴーグルを作り、動思考論理の構築作業を始めた。最初に行ったのは全体のアルゴリズムを二層目と三層目にどう振り分けるかの選別作業である。

 頻繁に使われるアルゴリズムは二層目、それ以外を三層目と分け、連結部分の構築に取り掛かるが、難航する。軍用傀儡の開発では数十人の開発者が協力して作り上げる部分を一人で構築しようとしているのだから当然である。


 エイタは開発作業だけでも大変なのに、五日毎に迷宮に潜りマッシブツリーを倒し神銀と青煌晶を採掘していた。マッシブツリーには凍結ボルトの方が有効だと判ってからは、凍結ボルトで仕留めた後に樹液も回収する。

 

 当然、魔導診断器の製作もあるので寝る暇もないほど忙しかった。そんな生活が一ヶ月ほど続いた頃、改良型チサリーベアが完成した。



  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


 新型軍用傀儡の開発チームが毒殺された事件の後、調査局高等管理官ベスルは連盟総長直々に犯人を探し出せと命じられ調査を開始した。

 連盟総長から指名されたベスルは痩せており外見だけなら頼りなく見えるが、強靭な精神を持ちカミソリのような鋭さを隠し持っている男だった。


 これだけの大事件であるから手掛かりも多いのでは思われたが、大した手掛かりもなく捜査は行き詰った。そこで事件が起きた高級酒楼ヒメズ館の従業員を監視する事にした。

 毒は酒に入れてあったので従業員の中に共犯者が居ると考えたのだ。季節が春から夏に変わった頃、従業員の一人の金遣いが荒くなった。毎夜のごとく花街へ繰り出し大金を使うようになったのだ。

 ベスルはその男を捕らえ大金の出処でどころを尋問した。厳しい尋問の末、従業員は裏社会の顔役の一人であるオウバル・タミニスから頼まれ大金と引き換えに事件の夜に一人の男を店に引き込む手伝いをしたと証言した。


 ベスルはオウバルの動きを監視したが、他国の誰かと繋がっている証拠は見付けられなかった。その代わりオウバルとその配下が行っている犯罪の数々を知り捕らえて尋問する方がいいと判断を下した。

 とは言え数十人の配下が居る裏社会の顔役である。ベスルと部下だけで捕らえるのは無理なので警邏隊に協力を要請した。


 ある日の夕刻、オウバルの経営する娼館の裏にベスル達と警邏隊のユジマス隊長が集合した。ユジマスは大柄な男で部下たちからの信頼も厚く市民からも慕われていた。

 ベスルが部下と一緒に娼館の裏で待っていると左の腰に剣を吊るし、右側にも変なものを装備したユジマス隊長が現れた。

「ベスル殿、部下達の配置は終わった。いつでも合図してくれ」

「ご協力感謝します」

 ベスルの突入の合図で、警邏隊が娼館に飛び込んだ。オウバルの部屋は娼館の最上階にあり、そこには大勢の配下も居た。まず、娼館の女達や客が騒ぎ始め、それを聞いたオウバルの配下が武器を取り出し身構えた。

 上から降りて来たオウバルの配下と下から登って来た警邏隊が戦い始めると、女達が悲鳴を上げ始める。


 娼館の出口からは大勢の客と女達が我先にと逃げ出している。ベスルとユジマス隊長は裏から入り階段を登って上へと向かった。途中、オウバルの配下が阻止しようとするが、ユジマスとベスルの部下が叩き伏せる。

 ベスルとユジマス隊長のみが最上階へと上がった。最上階は下の娼館とは違いソファーを並べただけの広い部屋と奥にオウバルの部屋だけという構造だった。広い部屋には五人の人相が悪い男達がたむろしていた。

「お前ら、ここを何処だと思ってやがるんだ!」

 人相の悪い男の一人が吠えた。その声に応えてベスルが。

「オウバルに用があります。退きなさい」


 裏社会に生きる者達がそんな命令を聞くはずがなく、ベスルとユジマス隊長を取り囲んだ。二人対五人では圧倒的にが悪い。ベスルは剣を携えているが技量はそれほどでもない。頼みの綱はユジマス隊長だけである。

 そのユジマスが剣を抜かず、右の腰に有るホルスターバッグからフィストガンを抜いた。

「何だ、そいつは?」

 取り囲んでいる一人が問う。ベスルも同じ事を聞きたかった。

「こいつか、もう一つの私の拳だ」


 ユジマスは振り向くと背後に居る敵にフィストガンの引金を引く。その男は顔面を歪ませて吹き飛んだ。次に正面に居る敵に引金を引く。次々に囲んでいる男達が吹き飛んだ。

 その様子を見ていたベスルは唖然としているほか無かった。

「人間相手なら、こいつが一番だな。さあ、オウバルを捕まえに行きますよ」

 ユジマスがオウバルの部屋へと向かう。中には不貞腐れた顔をする裏社会の顔役が居た。

「ユジマスか、俺らより悪どい奴らは他に居るだろう。何故、俺らなんだよ?」


 ユ・ドクトには顔役と呼ばれる犯罪者が数人おり、その中でオウバルは小物の方だった。

「貴様はヒメズ館の事件に関わっているだろ」

 ベスルが指摘するとオウバルは舌打ちし顔を背ける。ユジマスはオウバルを捕縛しベスルに引き渡した。

 厳しい尋問でオウバルは毒殺事件の裏にカッシーニ共和国が関わっているのを白状させた。


 ベスルはその情報を持って総長執務室へ出向きダルザック連盟総長へ報告した。

「カッシーニだったか。あの外道めが……」

 カッシーニ共和国の元首はモンパリオ大統領である。きつね顔の老人で数年前に一度会った事があった。

「如何致しますか?」

「その顔役の証言だけでは、カッシーニ共和国を告発する事など無理だ。カッシーニ共和国との国境付近で取締りを強化するのが精々だろう」

 ダルザック連盟総長はベスルが提出した報告書を読み、一点だけ興味を引く情報を見付けた。


「このユジマス隊長が使った武器は何だ?」

「フィストガンと呼ばれる武器で、拳の形をした魔力の塊が撃ち出される射撃武器のようです」

 ベスルが説明するとダルザック連盟総長は少し考え。

「誰が作ったのだ?」

「ヴィグマン商会という店で働く職人でエイタ・ザックスと言う若者だそうです」

「ふむ、この国にも若い技術者が育っているのだな」

 素早くベスルが訂正する。

「いえ、この者はジッダ侯主連合国の者です」

「優秀な若者なのに、何故自国を離れユ・ドクトへ来ているのだ。少し詳しく調べてくれ」

「承知致しました」

 ベスルは頭を下げ総長執務室を去った。


2016/5/28 ユージス連盟総長をダルザック連盟総長に統一

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