scene:19 ライオス迷洞
翌日は、昨日作製した武器を使い易くなるように調整した。それぞれの柄の長さや重心を調整し満足した頃には、昼になっていた。
昼食は町に出て、屋台のごった煮を食べる。モモカはこれが気に入ったようで、凄く美味しいと言って食べていた。
昨日行った素材屋に寄り、牛の革を買う。その革でインセックボウや新しい武器を入れるバッグを作ろうと考えたのだ。インセックボウを裸のままで持ち歩くと注目が集まるのだ。
今までにない武器なので珍しいのだろう。わざわざエイタを引き止め、どういう武器なのか説明を求める者まで居た。
ヴィグマン邸に戻って、先ほど買った革でショルダーバッグを作った。モモカ用も作ったので、迷宮に出向くモモカは左右に十字になるように二つのショルダーバッグを担いで歩く事になる。
エイタはショルダーバッグとリュックを担ぐのだが、これに新しい武器を入れるバッグもとなると流石に動き難い。考えた末、リュックを改造し中に新しい武器が仕舞えるようにした。
ついでにベルトに付けられる小さな小物入れ(ベルトポーチ)を作った。こいつに魔導符などを入れようと考えたのだ。
最後に失くしたボルトの補給を行う。これで準備は整った。その日の残りはモモカとゆっくりと過ごし体を休めた。
翌朝、メルク、ヒューイ、ジャスキーの三人が迎えに来た。早く行かないと採掘場所を取られてしまうらしい。ライオス迷洞は北へ一刻《二時間》ほど歩いた場所にあり、そこへと続く道には探索者と思しき者達が数名歩いていた。
新米探索者の三人はそれぞれがリュックを背負い、小さめのツルハシをリュックに縛り付けていた。メルクの武器はショートソードで腰に吊っている。ヒューイの武器は戦鎚でリュックに柄の部分を入れ、頭部分だけを外に出している。ジャスキーの武器は弓だった。
メルクがモモカを心配して頻繁に休憩しようかと訊いて来る。その度にモモカは大丈夫と答えた。実際、モモカの方が顕在値レベルが高いので、体力的には余り変わらないと思う。
「モモちゃんは女の子なんだよね?」
メルクがモモカに尋ねた。モモカは笑顔で質問に答える。
「そうだよ、何で皆あたしの事、男の子だと思うんだろ」
「髪が短いからだよ。女の人は胸まで髪を伸ばすのが普通なんだ」
「そうなんだ。お兄ちゃん、あたしも伸ばした方がいいの?」
エイタは頷き、モモカの頭を撫でる。
「見えて来た。あれがライオス迷洞の入り口だよ」
この付近で最大の山の麓に洞窟が口を開けていた。その前には数人の役人らしい者達がおり、迷宮に入っていく者達から、入場料を徴収している。
政府が管理する迷宮は、入る度に銅貨三枚を支払わなければならない決まりになっていた。その代わり金さえ払えば赤ん坊だろうと犯罪者だろうと調べもせずに入れた。
ライオス迷洞の地図は普通に売っている。今回はヴィグマン商会が買ったものをメルクが借りて持って来ているので迷子になる心配は無いだろう。
エイタ達は金を払って迷宮に入る。中は薄暗かった。地下迷路採掘場ほど瘴気が濃くないようだ。新米探索者達が武器を取り出すのを見て、エイタとモモカはインセックボウを取り出した。
「そのクロスボウだけど、デカい虫の足みたいのは何なの?」
メルクが尋ねる。エイタは説明した。
「傀儡義手だよ。自動的に弦を引いてボルトを番えてくれるんだ」
「へえ、変わった武器を使うんだな」
ライオス迷洞の構造は四区画に分かれていて、最初に通る区画は等外区と呼ばれるミニスライムとアモンバードしか居ないエリアだった。次の九等区はバーサクラットと大吸血コウモリが出没し、その次の八等区は八つ目蜘蛛と尾長狼が、最後の七等区にはマウスヘッドとウィップツリーが巣食っていた。
新米探索者達は等外区で採掘場所を探すようだ。知っている採掘場所を順番にチェックしている様子であるが、不運にも立ち寄ったすべてに先客が居た。朝も早いというのに相当な数の探索者が迷宮に潜っているようだ。
狭い通路をウロウロしていると前方からアモンバードが駆け寄って来た。
「嘴に気をつけろ!」
メルクが叫んで剣を抜く。三人はアモンバードを睨んだまま荷物を降ろし戦闘の準備をする。
ジャスキーが弓に矢を番えアモンバードを狙う。モモカもインセックボウを構え、近付いて来る真っ黒くデカい鶏を攻撃しようとする。
「モモちゃんは攻撃はしないで」
モモカはコテッと首を傾げる。
「今日は、あの三人がどれくらい強いか見る為に来てるんだ。だから、モモちゃんが魔物を倒しちゃ駄目だよ」
「でも、黒い鳥さんだよ」
相手がアモンバードだと実力を測るには役者不足だと言いたいらしい。
「まずは簡単な奴からさ。でも、三人がやられそうになったら助けてあげようね」
「はぁ~い」
モモカは元気一杯という感じで返事をする。エイタの三人を助けると言う言葉にやる気を出したらしい。
ジャスキーが矢を射た。弦を離れた矢はアモンバードの羽を掠めて迷宮の地面に突き刺さる。メルクが飛び出しショートソードをアモンバード目掛けて振り下ろした。
アモンバードがサッと躱しメルクの足をつつこうとする。メルクが慌てて飛び退き、ヒューイに戦いを譲る。ヒューイは戦鎚を振り回すが、腰が引けているので攻撃に鋭さが無く当たらない。
ジャスキーがもう一度矢を番え慎重に狙って射た。今度はアモンバードの足に命中する。チャンスだと感じたメルクがショートソードをアモンバードの首に送り込む。刃が鶏の首を掻き切った。
「よし、仕留めたぞ」
メルクが剣を持つ手を高く掲げ喜びを表す。エイタは何を大袈裟なと思うが、三人にとってはアモンバードも強敵の一つだったようだ。
エイタが最初にバーサクラットと戦った時と同じような感じなので、三人は探索者となったばかりらしい。リッジとか言う商人が三人をヴィグマン商会から引き抜かなかったのは、戦力にならないと判断したからのようだ。
三人がマナ珠を回収し、血抜きと内臓を捨て革袋に入れてリュックに仕舞う。
「どうする、等外区は遅かったみたいだ」
空いている採掘場所を見付けられなかった三人は、迷路の奥へ行くか相談している。
「アモンバード一羽じゃ帰れないよ。九等区へ行こう」
九等区へ行く事に決まり、メルクが先頭を切って歩き出す。三人は<索敵符>の類は持っていないようで、キョロキョロと暗い迷宮の中を確認している。
何かが羽ばたく音が聞こえ、メルクが用心するように声を掛ける。甲高い鳴き声が聞こえて来て、大吸血コウモリが数羽近付いて来るのが判った。
ジャスキーが弓を構え大吸血コウモリに狙いを付けて矢を放つ。狙いは外れ矢は素通りして通路の壁に当たって地面に落ちた。一射目を外したジャスキーは慌てて矢を番えもう一度射るが、慌てて碌に狙いも付けずに放った矢が命中するはずもなく。
「落ち着け、よく狙って放つんだ」
メルクがジャスキーに声を掛けるが、頭に血が上ったジャスキーは物凄い勢いで矢を放ち続ける。
近付いた大吸血コウモリにメルクとヒューイが武器を振るうが、空を飛ぶ大吸血コウモリを落とすのは難しいようだ。三人の頭上を飛び越え、エイタとモモカの方にも近付いて来た。
エイタは作製したばかりのベルトポーチから<魔盾符>を取り出し左手に握り締める。左手の中に有る<魔盾符>に魔力を込めると、左手前方三〇〇ウレ《ミリ》の空中に直径一マトル《メートル》ほどの淡い光を放つマナシールドが生まれた。
このマナシールドは魔力を持つ物を遮る効果が有り、魔力を持つ魔物の身体を弾き返す事が可能だった。
エイタは近寄って来た大吸血コウモリをマナシールドで叩き落とす。地面に落ちたコウモリは青銅ナイフで止めを刺す。迷宮で初めて作ったものなので何となく愛着があり使い続けているが、所々刃が欠けている。名残惜しいが換え時かもしれない。
「ワッ、助けて」
ジャスキーが大吸血コウモリに襲われていた。鋭い爪で頭の毛を掻き毟られている。ジャスキーは上半身を大きく振り、コウモリの爪から逃れて飛び退いた。
大吸血コウモリはジャスキーを追撃しようとして、モモカが放ったボルトに刺し貫かれた。
何とか大吸血コウモリを撃退したエイタ達は、九等区で採掘場所を見付けた。先客の姿は見えず、新米探索者達は勇んでツルハシを振るう。
その地層から転がり落ちたのは黄煌晶だった。全部で計量枡三杯分ほどだった。
「やったぜ。俺達の実力を持ってすれば、この通りさ」
誇らしそうに胸を張る新米探索者達。
エイタは深い溜息を吐き、三人の頭を続けざまに撫でる。この少年達には探索者の技術を教えてくれる先輩もおらず、手探りで頑張っているのが判った。
「苦労しているんだな、お前達」
ヒューイとメルクが即座に言い返す。
「どういう意味だよ。俺達を馬鹿にしているのか」
「そんなこと言うんなら、自分の力を見せてみろ」
エイタは職人ではあるが、迷宮で生き抜いた経験が有る。その経験から学んだ事を少し少年達に教えてやろうと思った。
「判った。それじゃあ奥に行こうぜ」
エイタとモモカが先頭になって、八等区を目指して進み始める。
「おい、こんな奥に来て大丈夫なのか?」
メルクが心配そうに訊いてきた。
「大丈夫だ」
エイタは躊躇いもせずに奥へと進む。三匹の尾長狼と遭遇した。灰色で尾が長い狼で体長は中型犬ほどで大きくはないが、群れで連携を取って襲う習性があるので厄介な魔物だった。
「モモちゃん、連射で片付けるぞ」
「了解なの」
エイタとモモカがインセックボウを構え、尾長狼が近付いた所に続けざまにボルトを放った。一瞬で一〇本のボルトが発射され、尾長狼の身体に突き立った。
エイタとモモカの背後で新米探索者達が「なんじゃこりゃ」とか「そんな馬鹿な」とか言いながら騒いでいる。
「マナ珠を回収……こいつの毛皮は売れるのか?」
エイタが新米探索者達に尋ねると。
「安いけど、売れるよ」
「安いのか……じゃあ放っておいて先に進もう」
新米探索者達は目を丸くして驚く。エイタとモモカはボルトを回収すると先に進み始めた。途中、八つ目蜘蛛と遭遇するが瞬殺する。
七等区に入ると、エイタは移動速度を落とした。ここまで来ると瘴気の濃度が高くなり、地下迷路採掘場並の明るさになる。
瘴気の濃い方に進み、ウィップツリーと遭遇した。エイタにとってはお馴染みの魔物だが、新米探索者達は初めてのようで、固唾を呑んで見守っている。
ウィップツリーにはインセックボウは余り有効ではない。それで武器を新しく作ったものに持ち替えた。この武器は一応『キメラスピア』と名付けた。厳密には槍なのかと言う疑問は残るが特殊な形状の槍という事で押し通すと決めた。
右手に戦鎚、左手に槍を持ちウィップツリーに駆け寄ったエイタは、出会い頭に飛び蹴りを放った。全体重の乗った蹴りは、ウィップツリーを跳ね飛ばし地面に横倒しにした。
こうなるとウィップツリーは弱い、地面でバタバタするが起き上がれない。興味本位で倒れたウィップツリーがどのくらいで起き上がるか試した事が有る。そのウィップツリーは起き上がるのに心臓が七〇拍するほど時間が掛かった。
エイタは武器を構えたまま近付いた。横倒しの状態でも鞭は健在なのだ。左から鞭が飛んで来たのを目にして、槍で切り払う。ウィップツリーの弱点である主根を狙って蹴り上げる。三本有る主根すべてを折るとウィップツリーは動きを止めた。
マナ珠と樹液を回収する。樹液はウィップツリーの頭の部分に穴を開けると溢れ出す。この迷宮にはウィップツリーが居ると聞いて用意した油壷をリュックから出して樹液を流し込みコルクで栓をする。
「お前達も手伝え、ウィップツリーの鞭を切り取ってくれ」
唖然として見ていた三人が、やっと動き出し鞭を回収してきた。
「あんた、いや、エイタさんは本当に探索者じゃないんですか」
メルクの質問には、笑って否定した。
「さて、この近くに採掘場所が有りそうだが、探してくれ」
「判りました。ヒューイ、ジャスキー探すぞ」
ヒューイが採掘場所を見付けた。三人に採掘させると、緑煌晶と黄煌晶がバラバラと地面に落ち、新米探索者に驚きの声を上げさせた。
その採掘場所では、緑煌晶が計量枡二杯分、黄煌晶が計量枡六杯分も手に入った。
「そろそろ帰るか」
エイタが言うとメルクが頷いた。通路を引き返し少し戻った時、見知らぬ場所に辿り着いたのに気付いた。少し前に選んだ分岐路を間違えたようだ。
地下迷路採掘場の小空間に似た場所で、流石に草は生えていないが天井が高く走り回れるほど広い。嫌な予感がした。こういう場所は魔物の棲み家になっている事が多いのだ。
予感は的中し、エイタ達が来た通路からマウスヘッドの群れが現れた。ぞろぞろと現れ、その数は一〇匹を越えただろう。
その群れがエイタ達を見付け甲高い声で騒ぎ始めた。マウスヘッドは身長一.二マトル《メートル》ほどの人型の魔物で、頭がネズミと言うのが特徴である。身体は茶色の短い毛でびっしりと覆われており、腰の部分だけはボロい布で覆い隠していた。こいつらの知能は高く、どこから拾ってくるのかショートソードや棍棒で武装している奴が多い。
その数の多さに新米探索者達は怯えているようだ。
マウスヘッド達は今にも襲って来そうな雰囲気になっている。エイタはキメラスピアに魔力を流し込み、一本の特殊な槍にする。その槍を地面に突き立て、インセックボウを構えた。
「モモちゃん、一匹ずつ狙って仕留めるんだ」
「任せなさいなの」
マウスヘッドにボルトをお見舞いする。連続で発射されるボルトは、マウスヘッドの腹や胸、頭に突き立った。次々に敵は倒れるが、全部を倒す前にボルトが尽きた。リュックの中には予備が有るが、取り出す時間が無い。
エイタはインセックボウをジャスキーに放り投げ、キメラスピアを手にして突撃する。
「お前達は、モモちゃんを守れ」
エイタが三人に指示を出して、キメラスピアの穂先を生き残ったマウスヘッドの首に突き入れる。そいつは悲鳴を上げる事も叶わず息を止めた。
残るマウスヘッドは三匹に減っていた。右から襲って来た奴が、エイタの腹目掛けてショートソードを薙ぎ払う。エイタはステップして躱し、ショートソードを持つ手を蹴り上げる。そいつは唯一の武器を手放し悲鳴を上げて逃げようとした。背中にキメラスピアを突き入れる。
残り二匹の中、一匹はエイタに襲い掛かり、もう一匹はモモカの方に向かった。エイタは棍棒を持つマウスヘッドに突きを放つ、喚きながらマウスヘッドは躱し、エイタの懐に飛び込もうとした。
エイタは反射的に右膝をマウスヘッドの顔面に叩き込んだ。奴は鼻血を出して吹き飛んだ。
モモカの方へ行ったマウスヘッドが気になり、後ろを振り向くと新米探索者三人とマウスヘッドが戦っていた。ショートソードを持つ奴で、デタラメに剣を振り回している。
エイタはキメラスピアの槍側を持ち戦鎚でマウスヘッドの足を薙ぎ払った。マウスヘッドが横倒しになり、三人が止めを刺した。
「危ない」
モモカの声が聞こえ、後ろでマウスヘッドの悲鳴が上がった。見ると奴の首にボルトが突き刺さっている。背後からエイタを襲おうとして、モモカのインセックボウの攻撃を受けたらしい。
「終わった」
マウスヘッドすべてが地面に倒れている。モモカが駆け寄りエイタに抱きついて来た。エイタがやられそうになったのを見て不安になったらしい。
「大丈夫だよ。こんな奴らに、オイラは負けないよ」
「うん」
モモカはエイタの言葉を聞いて安心したようだ。
「もうビックリし過ぎて言葉も無いよ」
メルクがポツリと言う。それにヒューイとジャスキーが頷いた。
「メルク、何処で道を間違えたか判るか?」
メルクは地図を出し、通路を確認する。やっぱり一つ手前の分岐路だったようだ。帰り道が判明したので、マナ珠の回収を行う。マウスヘッドはマナ珠以外は有益な素材を残さない残念な魔物である。
マナ珠を回収し終わった頃、モモカが声を上げた。
「お兄ちゃん、採掘場所が有るよ」
有るとは予想していたが、モモカの手柄である。エイタはモモカの頭を撫でながら褒めた。
モモカが照れたように笑う。その仕草が可愛いい。新米探索者達もモモカを見て微笑んでいた。
「お前達、ボーッとしてないで採掘するんだ。早く終わらせて、今度こそ帰るぞ」
その採掘場所からは、緑煌晶が計量枡六杯分出て来た。このライオス迷洞では記録的な収穫だった。三人が疲れたようなので少し休憩してから引き返した。
途中、魔物に遭遇したが、エイタとモモカがインセックボウで瞬殺する。漸く地上に戻れたのは昼をだいぶ過ぎた頃だった。
迷宮の入り口に屋台が店開きしていた。アモンバードの肉を串刺しにして焼いていた。塩だけの味付けらしいが美味そうに見えた。エイタは一人三本ずつ買い、皆に分けた。結構大きく切った肉なので食べ応えが有る。
「オヤジ、焼き加減が抜群だぜ」
ヒューイが屋台の店主を褒める。
「褒めてくれても何も出ねえぞ」
エイタ達が迷宮の入り口で休んでいると入り口から三人組の探索者が現れた。
「ん……メルクじゃねえか」
その三人組を見たメルクは顔色を変えた。
「バリスさん……」
「お前ら、まだヴィグマン商会の専属やってるのか。早く見切りをつけて別の店に移った方がいいぞ」
髭面のごついオッさんが馬鹿にするようにメルク達に話し掛ける。
「ヴィグマン商会はいい店だよ」
ヒューイが言い返すが、その言葉に普段の威勢の良さがない。
「何がいい店だよ。もう直潰れるって話じゃねえか。早めに専属辞めて良かったぜ」
どうやらリッジの商会に引き抜かれた探索者と言うのが、バリス達らしい。
ヒューイが顔を真赤にして怒る。
「ヴィグマン商会は潰れるもんか。俺達が絶対に潰させないよ」
「ふん、偉くなったもんだな、ヒューイ。俺様に口答えするとは百年早えんだよ」
メルク達は唇を噛み悔しみを耐えていた。そんな姿を見て満足したのかバリス達は去って行った。
「あいつら裏切り者なんだ。エイタさん、いや師匠、俺に色々教えて下さい」
メルクがいきなりエイタを師匠と呼び始めた。
「俺もよろしくお願いします、師匠」
「僕もお願いします」
エイタはいきなり師匠呼ばわりされ困惑した。
「教えてやるから師匠は止せ」
メルク達が笑顔を見せる。
「本当ですか、ありがとうございます」
「だけど、勘違いするなよ。オイラは職人だ、お前らを強くする武器や防具なんかの装備を作るのが仕事だ。まあ、少しは迷宮での戦い方も知っているから教えてやるが、本当に少しだぞ」
「それでいいです。あのクロスボウなんかも作って貰えるんですか?」
「お前らの装備は、アリサさんと相談して決める。金を出すのはヴィグマン商会なんだから当然だろ」
「判りました」
エイタ達はユ・ドクトへと帰還した。迷宮で採掘した魔煌晶をアリサに見せると、物凄く喜んでくれた。専属探索者を引き抜かれ、アリサも不安になっていたんだろう。
残ったメルク達が成長し、ヴィグマン商会を支える柱となってくれればとアリサは祈った。