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scene:1 捨てられた傀儡工

 

 この世界には三つの大陸が有ると書物には記されている。

 その中の一つであるラダルス大陸は、北方に行くほど寒く、南方ほど暑くなる気候を持つ大陸である。

 ラダルス大陸中央には、ベルブル湖と呼ばれる大陸最大の湖が在り、その巨大湖を取り囲むように五つの国が在った。


 ベルブル湖の北側には農業に不向きな土地が多いが最も広大な領地を有する軍事大国ブロッホ帝国、西側には大陸最大の人口を誇り国教である光翼神教の影響が強いマナバル皇国、南側には海運業と大陸一の小麦生産量で知られるジッダ侯主連合国。

 そして、ベルブル湖には直接接していないが、漁業や絹と綿織物で追随を許さない東の大国カッシーニ共和国。


 最後に残った一つは、ベルブル湖の東側湖畔に広がる幾つかの小さな都市国家が連合して成立した自由都市連盟である。


 自由都市連盟の首都は、ユ・ドクトと言う名のベルブル湖に面した商業都市である。

 幾度かの政変により何度も首都が変わった連盟だが、約三〇年前からユ・ドクトが首都として繁栄していた。


 商業都市であるユ・ドクトは、夜になっても眠らない街として知られていた。大通りには迷宮ダンジョンで採掘される夜光石を使った街灯が道を明るく照らし、人々の夜の生活を手助けしていた。

 街の大通りの両側に並ぶ建物は煉瓦れんがを使った堅牢な二階建て、三階建てのものが多く、ガラスを使った大きな窓越しに高価な商品が並べられているのが見える。


 さすがに一国の首都であり、大通りを走る馬車や荷馬車、行き交う人々は多く街には活気がある。そして、田舎から来た者を驚かせるものが存在する。大商人達が所有する傀儡馬車である。

 普通の馬に曳かせている馬車がほとんどなのだが、明らかに人工のものだと判る自動傀儡じどうくぐつの馬が曳く豪華な馬車があった。


 迷宮に存在する魔物の一種であるゴーレムを自動傀儡の仲間だと勘違いする者も居るが、自動傀儡は純然たる技術の結晶であり、傀儡工などの職人達が作り出した作品だ。


 自動傀儡じどうくぐつとは、先史時代に栄えた古代神聖帝国で発達した魔法文明の遺産である。

 樹木系魔物から採取される樹液を固め加工した人造筋肉とそれを制御する能力を持つ偽魂核ぎこんかくとを使って作り出された自動傀儡じどうくぐつは、恐るべき力を秘めていた。


 自動傀儡じどうくぐつの根源力とも言うべき偽魂核ぎこんかくは、アルコールを燃料に魔力を作り出す能力も併せ持っていた。

 それら全ての技術を開発した古代神聖帝国は、高度な文明を誇り世界の半分を支配していたと後世に伝わっている。


 古代神聖帝国には国一つを滅ぼすほどの戦略級攻撃魔法が存在したらしいが、『過ぎたる力は己を滅ぼす』と言う言葉を後世に残して滅んだ。


 魔法文明を維持してきた魔導技術や知識も殆どが喪失ロストし、残ったのは自動傀儡工学と魔導工芸品を作り出す魔導刻印術のみとなった。



 ユ・ドクトの中心にある中央官庁街は連盟議事堂を始めとする石造りの頑丈そうな建物が建ち並ぶ地区である。そこから東に向かった先に各国の大使館が集まっている場所があった。

 ある日の昼過ぎ、その大使館の一つジッダ侯主連合国大使館から、一台の馬車が走り出した。中型汎用傀儡馬が曳く馬車で四馬力ほどの出力がある。


 外見は馬とさほど変わりないが、魔物の皮を使った外殻や義眼は明らかに生物である馬とは異なる。

 頑丈な木材から人工骨格を削り出し、その骨格に人造筋肉、偽魂核ぎこんかくを中枢とする制御コア、アルコール燃料槽、補強用部品、そして、それらの内蔵部品を保護し外観を決定する外殻により傀儡馬は構成されている。


 傀儡馬車は都市の南へ出て、細い悪路を進み森の中へと入り込んだ。ほとんど整備されていない道だが馬車一台が通れる悪路が森の中を通っていた。傀儡馬を操る初老の御者は微かなアルコール臭を嗅ぎながら、馬車に乗せている若者の事を哀れに思った。


 馬車の中では、ロープでぐるぐる巻に縛られた若者が、馬車が揺れる度に硬い床に打ち付けられ呻き声を上げていた。


「うぐっ……」

 大きく揺れた拍子に身体の何処かを打ったのかくぐもった悲鳴が若者の口から漏れる。縛られた若者は口を覆っている布の所為でまともに悲鳴すら上げられないようだ。


 そんな哀れな姿の若者を、灰色のコートを着た逞しい体格をした武官が見下ろしていた。



  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


 若者はジッダ侯主連合国大使館付きの傀儡工だった。過去形なのは今は罪人だからだ。


 数日前。


 その夜は大使閣下の誕生パーティが行われ、外交官はもとより使用人も大使館の大広間に集まり、大使閣下にお祝いの言葉を告げ、大使館の料理人達が数日掛かりで用意した料理と酒を堪能していた。

 会場となっている広間には幾つもの夜光石を使ったシャンデリアが昼間のように部屋中を照らし、雇われた楽団が心地よい音楽を奏でる中、着飾った大使館員やその婦人達が楽しそうに談笑している。


 罪人となった若者エイタ・ザックスは、兄弟子であり大使館の主任傀儡工でもあるドムラルから、ヴィグマン()型の解体整備を命じられ、その夜は大使館内に在る工房で整備作業を行っていた。


「チッ、何でオイラだけが……」

 パーティーに出て美味しい料理をたらふく食べようとを楽しみにしていたのに、それを邪魔した兄弟子の姿が心に浮かび上がった。おシャレのつもりなのだろうか、似合わない高価な服を小太りの体に纏い、四角い顔に下卑た笑いを浮かべ、人を馬鹿にするような口調で、突然整備を言い渡した時の姿が脳裏に焼き付いていた。


 薄くなりだした黒髪を気にする兄弟子、傀儡工の師匠であるシュノックに怒られる兄弟子、……いかんいかん、妄想の世界に入り込んでいたようだ。それより整備を早く終わらせて残り物でもいいから食べよう。


 ヴィグマン()型と言うのは、大使館の要人警護の為に配備されている軍用傀儡である。

 大柄な男と同じ位の背丈の人型自動傀儡で、全身を金属鎧で固め、肩の上には一本の角を生やした金属製の頭部が乗っていた。顔は中央に眼だけが存在し赤い光を放っている。

 軍用傀儡『ヴィグマン()型』は、二十五年前に開発された古い兵器だった。だが、ジッダ侯主連合国歴代最高の傑作機と賞賛され、未だに主力軍用傀儡として使われ続けている。


 パーティに出席していなかったのは、不運にも警備当番となっていた武官達とエイタだけだった。

 エイタは大広間でパーティを楽しんでいる兄弟子に代わり、軍用傀儡を解体し関節部分に溜まったゴミを掻き出し、潤滑油を差す作業を行っていた。


「フンフン♪……フン♪」

 愚痴は零しつつも根っからの職人であるエイタは、滅多に触らせて貰えない軍用傀儡を整備出来るので機嫌は悪くはない。


 そして、作業が終わりに近づいた頃、工房に覆面をした賊が侵入した。全身を黒い衣装で包み込み顔も黒い布で覆っている。背丈は普通だが、俊敏な動きをしている。

 警備する武官の目をくぐって侵入した賊の手腕は賞賛に値するだろう。だが、最後に若き傀儡工に見つかってしまう。


「誰だ、そこで何をしている!」


 工房のドアから侵入した賊を発見したエイタは、大きな声を上げ誰何すいかした。

 エイタはひょろりとした体格だが、肩と腕は太く腕力には自信が有った。それを過信したエイタが、賊に掴み掛かったのは明らかに失敗だった。


 そのまま大声を上げ、警備の武官に助けを求めるべきだったのだ。


 駆け寄るエイタに、賊は小さな暗器(隠し武器)を投げ付け、太い針のような物がエイタの肩に突き刺さった。


「こんなもん……」


 エイタは器用そうな指で針を抜き取り、もう一度掴み掛かろうとするが、途中で手足の力が抜け転倒した。

 針に麻痺毒が塗られていたのだ。


 暫く藻掻いていた若者が静かになると、賊は解体してあるヴィグマン()型を大きな革袋に詰め持ち去った。


 翌朝、倒れているエイタと紛失した軍用傀儡の事が大使閣下に報告されると、大使館中が大騒ぎとなった。


 エイタが自国の軍事機密を盗まれた原因を作ったとして問題にされた。ヴィグマン()型が解体中でなければ、自己防衛機構が働き奪われなかっただろう。そこを警備を担当していた武官が問題視したのだ。


 何故、今更古い軍用傀儡が盗まれるのか不審に思う人間は居るだろう。ヴィグマン()型は確かに古い軍用傀儡である。以前にも戦場で故障したヴィグマン()型が敵に鹵獲された事は有った。だが、その場合守秘コードが実行され、軍用傀儡の根幹である制御コアが自壊し、人造筋肉が燃えるようになっていた。

 今回は制御コアを含む完全な形で奪われたのだ。ジッダ侯主連合国としては大問題である。


 解体整備は兄弟子の命令であり、自分はそれに従っただけだとエイタは訴えた。だが、その主張は、兄弟子のドムラルにより否定され、勝手に解体した事にされた。

 兄弟子であるドムラルは何故エイタを裏切るような証言をしたか。そこにはドムラルの野望と複雑な心理が秘められていた。


 エイタは、死んだ師匠シュノックから可愛がられていた。その師匠が亡くなる時もエイタの面倒を見るように遺言された。その遺言故に大使館付き傀儡工として雇われた時に一緒に連れて来たのだ。

 そして、シュノックは死ぬ直前に、三人の弟子達と職人仲間を集めもう一つの遺言を残していた。


「儂の研究ノートはエイタにのこす」


 傀儡工シュノックが生涯に渡り研究した成果を書き記したノートをエイタに遺すと言う事は、シュノックの後継者にエイタが指名された事を意味する。

 兄弟子二人を差し置いてエイタを後継者に指名した師匠に兄弟子達は怒りを覚えた。確かにエイタには才能があると認めるが、自分達がそれほど劣っているとは思えないドムラルは怒りを心の奥に秘めたままエイタの面倒をみてきたのだ。


 ドムラルは自分の責任とされるのを恐れると同時に、エイタを葬るチャンスが来たと考えた。そして、躊躇いなく嘘の証言をする。


 整備しろと命じた覚えはないと断言した時のエイタの顔を思い出すと笑いが込み上げて来る。そして、ドムラルはエイタのもので有った師匠のノートを自分の懐に仕舞いほくそ笑む。


 武官に依る尋問が始まって二日目、エイタが致命的な間違いを犯した。

 軍用傀儡を奪われた責任は警備の武官にも有るとエイタが口にしたのだ。尋問していた武官の眼に暗い影が差し、口元が引き攣るのが見えた。

 その尋問している武官が、事件の夜の警備担当だったのだ。黒髪を短めに刈り上げ、青い瞳でエイタを睨んでいる。背丈はエイタと同じほどだが、身体の厚みが倍ほどもある。


 その武官は、ジッダ侯主連合国の軍事機密が詰まっているヴィグマン()型を賊に奪われた責任はすべてエイタに有ると言う報告書を作成し大使に提出した。

 エイタは有罪と判断され、罰として鞭打ち四〇回の刑と三ヶ月の賦役と国外追放を申し渡された。


 その武官は、同じ紺の武官服を着た仲間と話し、エイタの処罰を任せてくれるように頼んだ。

 その後、何かにかされているように急いでエイタの鞭打ち刑が行われた。場所は大使館の地下室。


 バチッと鞭が人体を叩く音が響く。「ううっ……」


 太い鞭がエイタの背中の皮膚を削り、血を流させる。猿轡さるぐつわめられているエイタには、悲鳴を上げる自由もなかった。


 そして、さらに鞭の音が続く。「うぐっ……」

 エイタの顔は恐怖と憎悪が入り混じり、醜く歪んでいた。


 地下室のドアが空き、兄弟子のドムラルと大使のクモルト・ミンガルが入って来た。

「ドムラル……先輩……た、たすけてぇ」

 エイタの兄弟子はエイタを忌々しそうに睨み付け、武官から鞭を取ると振り下ろした。

「ガハッ……な、何で?」

「痛いか、エイタ。貴様の所為でこっちは大迷惑だ。何でこんな弟子を師匠が可愛がったのか理解出来んよ」

「そんな……」

 もう一度、鞭が振り下ろされた。


 ドムラルは鞭を大使に渡す。大使はエイタを冷たい目で見詰め。

「折角の誕生日を台無しにしおって」

 大使の手が二度、三度と閃き、既に血塗れになっている鞭がエイタの背中を切り刻む。


 …………………………


 武官の手に鞭が戻され、鞭打たれるエイタの様子をドムラルと大使は満足気に見物する。ドムラルは鞭打ちを命じた武官に話し掛けた。

「ティガル殿、このままエイタを本国に帰し賦役をさせる気じゃないでしょうね」

「本当に弟弟子を憎んでいるようだな。……心配するな、奴は生きて本国に帰えすつもりはない」

 その一時間後、エイタは地下室から引き出され、傀儡馬車で大使館から連れだされた。



  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


「馬鹿が……おとなしく罪を認めておれば良かったのに」

 傀儡馬車でエイタを運んで来た武官が、クメアの森に存在する『地下迷路採掘場』の前に建てられた小屋にエイタを引き摺り出した。

 この小屋は地下迷路採掘場で働く者達を管理する商人の使用人が住む小屋で、ログハウスのような構造をしている。武官が予め連絡していたので、中に取引をする商人が居るのは判っていた。

 この武官は、あの夜警備当番だった武官である。


 日中であっても薄暗い常緑樹の森には、時折り不気味な叫び声が響き渡る。武官は不快そうに周りに視線を巡らす。冬も終りに近い季節になっているが、吹き込む風は相変わらず冷たい。


 小屋の中には商人らしい風体の恰幅の良い赤髪黒眼の男が待っていた。一目で高級な服と判る前合わせの絹の服を身に纏い、腰には銀糸の刺繍が入った帯を締めている。顔は丸く、口髭を生やしている。

 顔見知りの商人を確認した武官がぼそりと告げる。

「こいつは罪人だ。三ヶ月の賦役として、ここで働かせようと思う」

「エッ、賦役ならば、お国に連れ帰って、働かせるのでは?」

「それだと俺の得にならんだろ」

 武官はここで働かせる代わりに金銭を寄越せと言っているのだ。

「武官様がそうおっしゃるなら、私共としては好都合ですが、死ぬかもしれませんよ」

 武官がニヤリと笑った。

「その事について相談が有る。俺としては奴が生きて帰って来ない方が都合がいい。何か理由を付けて一生ここから出さないようにして欲しいんだ」


 武官は何枚かの銀貨を手にして去って行った。

 商人のドラウスはエイタの状態を調べ、溜息を吐いてから言う。

「ふむ、相当痛めつけられたようだな。だが、金を払った以上働いて貰うぞ」

 商人は下働きの使用人に命じて、意識が朦朧としているエイタを担がせ小屋の後ろにある細い道を運ばせた。人間ひと一人がやっと通れるほどの細い道を二〇歩ほど歩くと鉄のドアが五つほど並ぶ岩壁に行き当たる。


 そこは山のような巨大な一枚岩を刳り抜いて完成させた何かの施設のようだった。


 一番右端のドアを開け、ロープを解いてエイタを放り込んだ。ガチャッとドアの鍵が閉められる音を朦朧とする意識の中でエイタは聞いた。

 その後、数時間ほど気を失っていたエイタが目を覚ました。目に映るのは薄暗い部屋だ。辺りを見回すと大きな岩を刳り抜いて作られたような小部屋に居るのが判った。角の天井付近に明かり取り用の天窓があり、弱い日差しが中を照らしていた。中には寝台代わりになる藁束の山しかなく、それ以外だと部屋の隅に小さいが底知れぬ深さの穴が有るだけだった。

「オイラ、何でこんな所に?」

 少しだけ思い出した。鞭打ちを受けた後、あの武官に運ばれて馬車に乗せられたのは覚えている。そして、自分が賦役を課せられているのは知っている。


 ……ここは鉱山か何かだろうか? 賦役を課せられた罪人が鉱山に送られたと言う話は聞いた事が有った。


 明かり取りが有る方のドアの向こうで何か音がした。人の気配がして、鉄のドアの真ん中がパカリと開いた。頭の大きさより少し大きい位の穴だ。

「おい、起きたか。貴様は俺が預かった」

「あんた、誰だ。役人か?」

 穴から、口ひげを生やした丸い顔が覗いていた。

「俺は、この地下迷路採掘場で商売をしているドラウスと言う者だ」

「地下迷路採掘場?」

 ドラウスが馬鹿にするように笑い応えた。

「ふん、無学な奴め。しょうがない、教えてやろう」

 ドラウスの説明により、この地下迷路採掘場がどういう場所かを知った。


 地下迷路採掘場は、古代神聖帝国が滅びた後に建国されたルシアテス共和国という国が作り上げた施設であった。但し、ルシアテス共和国も滅びた後、迷宮化し魔物の巣となった。

 最初は滅びた国が残したかもしれない歴史的遺物や宝物を探して盗掘屋が立ち入るようになった。

 この瘴気が満ちる迷宮から、貴重な魔煌晶が産出すると知られてからは、探索者を中心とする者達が入り込み魔煌晶を採掘するようになる。


 魔煌晶とは瘴気が結晶化したものの総称であり、魔煌晶と様々な金属を融合させる事により、魔導工芸品や自動傀儡に使われる特殊合金となる。魔煌晶の種類は色により類別され、黄・緑・青・赤・紫の順で希少なものとなり、出来上がる特殊合金の魔力保持力も大きなものとなる。


 誰のものでもない迷宮だが、その価値は計り知れなかった。そこに気付いた自由都市連盟の商業ギルドは、金で抱き込んだ連盟議員を動かし、一つの法律を成立させた。

 無秩序に採掘するのでは、迷宮が荒れ魔煌晶が尽きるかもしれないと言う理由で、管理を商業ギルドに任せると言う法律だった。

 良識有る連盟議員は、国が管理しちゃんとした調査を行うべきだと主張したが、金の力で地下迷路採掘場は商業ギルドのものとなった。


 それから採掘の権限が入札制となり、迷宮への入口となる小部屋ごとに採掘の権利が売買された。ルシアテス共和国が作り上げた施設なので、どんな使われ方をしていたのかは不明だが、迷路へと続く小部屋は多く八十二部屋も存在した。

 大人数を同時に受け入れる大規模な施設だったようだ。国が調査権を放棄したので、本格的な調査が行われないまま、この制度は長きに渡り続けられた。


 時代を経るに従い、地下迷路採掘場の魔物分布がかたよるようになった。迷路の南側は入り口に通じる通路で瘴気が薄い為なのか魔物は近寄らず、東側は弱い魔物しか居ないが、大勢の採掘人夫が集まった為、魔煌晶の採掘量が減った。

 西側にも、それほど強い魔物は居ないが、数多くの罠が存在した。そして、北側には強い魔物が棲み着き採掘人夫を容赦なく殺した。


 そのうちに地下迷路採掘場で働こうという採掘人夫は居なくなった。権利を買った商人達は、人買いに頼んで人夫を集めさせた。

 この自由都市連盟には奴隷制度はないので奴隷は存在しない。だが、税を払えず破産した家族や犯罪者、その家族が違法スレスレの契約内容で、ここの商人に雇われ採掘人夫の替わりに働かされるようになった。


 商人達は、そのような人々を『採掘下人さいくつげにん』と呼ぶようになった。


 エイタが放り込まれた地下迷路採掘場とは、そう言う場所だった。


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