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・・・・眠れない。


広いベッドの上で、ごろごろと身体を動かす。

抱きしめられた身体が、未だに熱い。


まいった。抱きしめられただけで、夜も眠れなくなるなんて。

それなりに経験はしてきたはずなのに。


ウィルの身体に包まれた時の安心感。

ウィルの鼓動。

ウィルの匂い。

何もかもが、居心地が良かった。


「もし、帰ることが出来ない時は、その時は私と結婚しよう、ユーリ」


その言葉を聞いて、一瞬戻れなくてもいいって思ってしまった。

その腕にいつでも抱かれる事が出来るのなら。



・・・駄目よ。悠里。こんな一時的な感情に惑わされては。

いきなりで驚いただけ。ただそれだけ。

「あの言葉はわたしを慰めるだけのものよ・・・。きっと帰れる。戻れるはずよ」

こんなかわいくもない年上の女に、あんなかっこいい王子様が本気思っている訳ないじゃない。




その後、何日かウィルは部屋に訪れることはなかった。

食事も王達とわたしだけだった。

イザベラによると仕事が忙しいらしい。10日後に兄が戻ってくるんだそうだ。

「通常の公務に加えて皇太子の引継ぎと、式典やパーティーの準備でなかなか終わらないみたいですわ」


その方が今はありがたい。

どんな顔して会ったらいいかわからないから。


「ユーリ様にもルード様が帰ってくる際に行われるパーティーにはご出席していただきたいとの事ですので、少し忙しくなると思いますがよろしくお願いしますね」

「え?わたしも出るの?」

「ええ。皇太子殿下たっての希望です。そこで参加する者にお披露目したいと」

ええええええ!?

ちょっとまってよー!

「無理よ!何にも出来ないし、わからないし、迷惑かけちゃうわ。無理むりムリ!」

パーティーって、煌びやかなドレス着て、ダンス踊ってってやつ?

無理だ。

そんな社交場のマナーもルールもわからないのに。

「その場では皇太子殿下についていらっしゃればいいですし、最低限のマナーは今から仕込みますので」

「へ?し・・仕込む?」

「はい。私イザベラが責任を持って」

にこりと笑う。

その笑顔が、すごく怖かった。・・・嫌な予感。



「そこ!足の出る向きが違いますっ!腕を下ろさないで!!背筋をしっかり伸ばして下さいっっ!!」

ひ、ひいいいい!!!

怖い怖い!いつものイザベラじゃない!!!


嫌な予感は当たったようだ。

とんでもないスパルタじゃないか。

コルセットでぎちぎち身体を拘束されただでさえ苦しいのに、休憩もろくにとれず、歩き方や基本的なダンスや、身振り手振りなど容赦ない指導が続く。

疲れがついつい顔に出てしまい、顔が曇る。

その変化をイザベラは見逃さない。

「笑顔を絶やさない!!!」

「はっ!はいいっ!!」

必死に口角を上げて作り笑顔。

ああ、大変・・・

残業でも休日出勤でも仕事していた方が何万倍も楽だわ。


「・・・今日はこのくらいにしておきましょうか。お疲れ様でしたユーリ様」

いつものやわらかい声に戻る。待ちに待った終了の合図。

「はぁ・・・。体中が痛いわ。足もパンパン。笑顔の作りすぎで、顔が引きつっちゃう。・・・大変なのね、ここの人達も」

「なにしろ時間がありませんから。申し訳ありません。湯浴みの準備はされてますのでお入り下さい。その後マッサージをいたしましょう」

「ありがとう。うれしいわ」


今のもっぱらの楽しみはお風呂とその後のマッサージ。

がっちりと固定されたコルセットを外してもらう。

一気に開放感が体中を駆け巡る。

お湯に浸かれば、苛め抜いた老体?に暖かさがじんわりと染み入る。

「あああああ、気持ちいい・・・・」

それだけでも少し疲れは飛んでしまう。


ゆっくりお風呂に入った後、うつ伏せになりイザベラにマッサージをしてもらう。力の加減が絶妙で寝てしまいそうになる。

「力加減はいかがですか?」

「すっごくきもちいい・・・」


「そういえば、イザベラに聞きたいことがあるんだけど」

「なんでございましょう?」

「ウィルって誰かと、その、付き合ってたりとかしないの?」

ずっと気になってたこと。

ウィルだって20歳なわけだし。あんなにかっこいいんだから、周りの女性達だって黙ってないはずだもの。

「そうですね、ルード様がまだこのお城にいた時は、それなりに女性と交流はありましたが、ルード様が隣国へ行かれて皇太子としてのお仕事をされる様になってからは、そういった話は聞かなくなりましたわ」

「前はいたのね」

「いた、といってもちゃんとしたお付き合いをされたことはありませんわ。その、お言葉は悪いですが、お遊び程度といったところでしょうか」

やはり。

あの顔だもの。遊ばないわけないわよね。

わたしへの言葉も、ただの慰め。

女の扱いは手馴れているんだ。わたしが落ち込まないように言ってくれただけなんだわ。


「気になりますか?昔の事が」

イザベラは何かを感じ取ったようだ。

慌てて否定する。

「ち、違うのよ。あれだけかっこいいんだもの、誰かいるんじゃないかと思ったの。わたしがここに来てからずっと色々やってくれてたじゃない?誰かいい人がいたのなら、その人に申し訳ないと思っただけよ」

「ユーリ様は優しい方ですわね」

「別に優しくなんか・・・」


わたしの心の中は複雑だ。

いろんな感情がグルグル渦巻いて、自分でもどうしたらいいかわからない。


自分の気持ちを整理するのは、まだ時間がかかるみたいだ。



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