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何を言っているのかよく分からなかった。
この世界の人間ではない?
確かに聞いた事もない国の名前だし、人種も違うなと分かるけど・・・。
ここは日本、いや地球ではない、ということなの?
「それは・・・、どういう・・・」
「どうやら、どこかでだれかが「召喚の魔術」を使用したようだな」
「しょ・・・召喚?・・・魔術?」
漫画とかゲームの中でしか聞いたことのない言葉だ。
「私の知る限りでは、ユーリのような髪と目の色をした者はあまりいない。そのような服も見たことがない。それに魔力をユーリの身体からは感じられない」
多分彼から見た私は相当異質なものに見えるんだろう。わたしをまじまじと見る。淡いブルーの瞳がとても美しい。見られることに少し恥ずかしくなる。
「本来なら、召喚した者の描いた円陣の中に召喚されると聞くが、何もない庭に倒れていたところを見ると、術が未熟だったようだ」
「なぜわたしが?なんのために?」
気持ちを落ち着かせようとするけれど、なかなか呼吸は落ち着かない。とても息苦しい。
「さあ、それはわからない。第一、召喚の魔術はこの世界では禁術とされている。その術を知りうる者も、相当な魔力を持つ魔術師か、私のような王族の一部しかわからないからな」
「ただ」
「ただ?」
「何か良からぬ事が水面下で動いているんだろう」
ウィルはそういうとわたしに背を向けた。
「あ、あの・・・わたし、これからどうすれば・・・?その、ろ、牢屋とかには入れないわよね?」
おそるおそる聞く。
「牢屋?なぜそんなところに?」
不思議そうな顔をしてこちらを振り向くウィル。
「だって、こんな素性のわからない女だし。何かあるかもと思うんじゃないかって・・・」
「・・・そうだな。もし、ユーリの身体から魔力が感じられたならそうしたかもしれない。この世界では人は少なからず魔力を持ち合わせている。この城の周りも魔力で結界を張っているし。強力な結界破りの術を使わなければ正門以外から入る事はまず出来ない」
ウィルの瞳がギラリと光る。
「やはり、ユーリの身体からは何も感じられない。この世界で魔力を持たない人間は皆無なんだ」
魔力、ときいても全くピンとこないのだけど。オーラみたいに見えるものなのだろうか。よくわからない。
「もしスパイだったら、そんな目立つ格好をした者が、庭で気を失うなんてヘマはしないだろうし」
ふふっと笑いながら、それでも不安そうにしているわたしを見る。
「それに・・・」
「それに?」
「・・・・いやなんでもない」
とわたしから視線をそらした。
「まあ、心配するな。ユーリはこの城で面倒を見よう。ユーリがどんな所から来たのかは後でゆっくりと聞く。そして、元の場所に戻れるのかも私が責任持って調べる」
その言葉に少しほっとする。この部屋だけでも見慣れないものばかり。きっと外もわたしの知らないものばかりなはず。そんなところに放り出されたらたまったもんじゃない。
「それまで、この世界を少しでも知った方がいいかもしれないな。ユーリには私の待女のイザベラをつけよう。色々と教えてもらうといい。彼女は優秀だ。身の回りのことも、何かあればイザベラに言えばやってくれる。服も・・・だな、ここの世界では女性はそういった服は着ない。この世界での服を着たほうがいい」
と、わたしの履いているGパンに目をやる。多分、女性はズボンを履かないんだろうな、と思った。
「わかったわ。あ、ありがとう・・・えと」
確かイザベラは皇太子殿下と言っていたはず。
「ありがとうございます。皇太子殿下」
ぺこっと頭を下げる。
「ウィル、でいい」
「でも、この国の王子様なんでしょう?気軽に呼ぶわけにはいかないんじゃ」
「あまり堅苦しい名称で呼ばれるのは、好かない。ユーリにはウィルと呼んでもらいたい」
「・・・は、はあ」
軽々しく名前で呼んでいいんだろうか?と思うのだけど、これで機嫌を損ねて見捨てられても困ってしまう。わたしは素直にその言葉に従うことにした。