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目が覚めた。
が、しかし目に映るものは見慣れた天井ではなかった。
今まで生活していて見たことのない天井。とても綺麗な彫刻が施されている。
世界史の教科書で見るような中世の絵画のような、そんな感じの。
「・・・・ん・・・」
どうやらわたしはベッドで寝かされているようだ。
ふかふかしている。自分の家のベッドに比べたら何百倍も寝心地がいい。
ゆっくりと上半身を起こす。
目に映るものは、全てわたしが見たことがない景色。部屋に置いてある家具にも全て装飾が施され、触るのも憚れる様なお高いものに見える。
「ここ・・・どこ・・・?」
「目が覚めましたか?」
声がする方を向くと、一人の女性が立っていた。
年は20歳になるかならないか位だろうか。とても綺麗な顔だ。日本人特有の顔ではない。ヨーロッパとかあっちのほうの綺麗な人。髪の毛も明るい茶色だ。着ている服も、秋葉原のメイドさんのような格好。でもスカートは足首まである。清楚な格好だ。
「あなたは・・・?」
日本語が通じるか、オドオドしながらその女性に聞いてみる。
「私はイザベラ。ここ、ウィード国の王子であるウィル様に仕えている待女でございます」
どうやら日本語で通じるようだ。
・・・って、ウィード?
聞いた事もない国。わたしの知ってる世界地図の中にそんな国はないはず。
「ウィード・・・国?それはヨーロッパにある国なの?」
「よーろっぱ?・・・なんでしょう?そんな国はございませんよ?ここはこの世の中で一番大きな国ですが」
え?どういうことなの?知らないって・・・。
わたしが混乱していると、ギイ、とドアが開く音がした。
「目覚めたのか?」
低い、でも透き通るような声。
「皇太子殿下。はい、先程」
ベッドから身体を離す。ドアの入り口に立っていたのは、それはとても綺麗で高貴な男だった。
身長は180は軽くあるだろうか。すらっとしていて、がしかし線は細くない。テレビで見るような、イギリスの王族の正装のような、そんな服を着ている。服で隠れてはいるけれど、鍛えているなと分かる、筋肉質な身体。髪は金色が少しまじった銀色で中々見ない色だ。瞳も宝石のような淡い青色。ハリウッドスターにいそうな、精錬された顔だ。
「大きな怪我もないようだな。・・・私はこの国の王子、ウィルだ。そなたは?」
「わた・・・しは、ゆうり、野中悠里です・・・わたしはなぜここに?」
聞きなれない名前なのか、イザベラの表情が変わる。
「ユーリか。そなたはこの城の敷地内にある庭に倒れていたのを、護衛が見つけたのだ。気を失っていたのでこの客室へ運んだのだが。・・・しかしこの城の敷地内は厳重な警備で、許可なく入る事は出来ない。そなたはどうやって侵入したのだ?」
女だからなのか、それは良く分からないけれどやさしく問いかける。が、警戒はしているようだ。かすかに感じる殺気が怖い。
わたしはおそるおそる答える。
「そ・・そんな事・・・。分かりません。わたしにも。ただ歩いていたら、いきなり足元が崩れる感じがあって、それで気がついたら・・・ここに・・・」
わたしの言葉にウィルの表情が一瞬変わる。
「・・・そうか。イザベラ、少し席を外してくれ」
「はい。皇太子殿下」
イザベラは部屋を出る。
完全に部屋から離れるのを確認して、ウィルは話し始めた。
「ユーリ、そなたはこの世界の人間ではないな?」