12
目を覚ます。
いつもの彫刻された天井が映る。
ひとつ違うことと言えば、目を覚ました時にウィルが隣にいた事。
「目を、覚ましたか?ユーリ」
心配そうに、わたしの手を握り締めながら呟く。
「わたし、倒れて・・・」
「・・・ああ。私が部屋に運んだ。・・・すまない。わたしの力が至らないばかりに・・・」
そうだ。帰る方法がないと聞いて、ショックで気を失ってしまったんだった。
・・・もう帰れない・・・。
これから、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
心のどこかで帰れると思っていたから、帰れなくなったとわかった今、これからどうしていったらいいのか考えようとするけれど、頭がうまく働かない。
顔を動かし、ウィルを見る。
ウィルは俯いていた。肩が少し震えている。
「・・・泣いているの?」
わたしは少し身体を起き上がらせると、握られていない手でウィルの髪を撫でる。
「泣かないで・・・」
震えた声で、ウィルは口を開く。
「こんなに、わたしの力がないと思い知らされたのは初めてだ。・・・もっと早く、オウラの陰謀を知ることが出来ていたのなら、ユーリはこの世界に来る事もなかったのに。私のせいでユーリは・・・」
「・・・あなたのせいじゃない。そんなに思いつめては駄目よ」
こんな立派な人が、わたしの為に泣いている。
わたしの事を思って泣いてくれている。
これから先、一人で生きていくとしても。
この世界で何があっても。
あなたがわたしの為に、そこまで思っていてくれた事。
それだけでわたしは生きていけるわ。
「ウィル・・・ありがとう。私のために泣いてくれて。わたし、それだけで充分よ」
少し落ち着いたのか、ウィルは顔を上げてわたしを見る。
「・・・ユーリ、ユーリはあのメルンの花の庭で、私が言った言葉を覚えているか?」
「・・・結婚の話?」
「ああ。あの話。本気で考えてくれないか?」
その言葉に、心の中がざわつく。
「その話は、・・・わたしを慰めるためだけの言葉じゃないの・・・?」
「・・・どうして?」
ウィルの瞳がわたしを捕まえて離さない。
「っ・・・だって、あなたは若くて、格好良くて、この国の王子様・・・・こんな身寄りもない、どこから来たのかわからないような年上の女・・・」
「そんなことは関係ない」
「関係あるわ。わたしと一緒になったって良い事なんか何もない・・・。あなたにはもっといい人がいるはずよ」
「そんなことはない」
ベッドに腰掛けるようにして、ウィルはわたしの両手を自分の大きな手につつんだ。そして、口元に近づける。
「なぜ、私が泣いたかわかるか?・・・もちろん自分のふがいなさもある。でも、それだけじゃない。お前が帰れない事に安心して、喜んでいる自分に絶望して泣いたんだ。ユーリの本当の願いは戻る事なのに、それを望んでいない自分がいて、泣いた」
ウィルは切なく笑う。
「私は善人じゃない。所詮その程度の男なんだ。お前の幸せよりも、自分の気持ちを優先した。・・・ごめん」
「ウィル・・・」
そんな風に思っていたなんて、知らなかった。
あの時、ああ言ってくれたのも、全てウィルの本当の気持ちだった。
それをわたしは・・・。
「本当は、あのメルンの花の中で、ユーリにもうひとつ言葉を伝えたかった。でも、その言葉を言ってしまったら私はお前を返せなくなる。自分のものにしてしまいそうだった。だから、言えなかった」
「・・・言ってもいいか?」
わたしの瞳からひとつ、またひとつと涙がこぼれる。
無言で頷く。
「ユーリ、お前のことを愛している」




