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夜が明ける前から、城の中は騒がしくなっていた。

騒がしいのもあるけれど、こんなぐちゃぐちゃな気持ちで寝れる訳がなくて。

うだうだしているうちに朝になってしまった。


のそりと起きて鏡を見る。目は充血し腫れて、顔も浮腫んいる。

「ひどい顔・・・」

パーティーは午後からだ。それまでにまともに戻るだろうか。

こんな状態で出たくはない。ずっとこのまま部屋に引きこもっていたい。

でも、出なくちゃいけない。


「・・・しっかりしろ、自分」

ぱん!と両頬を叩く。


これは、『お仕事』よ。

大人、なんだからしっかりやらなきゃ。



式典が午前中に城下街の大聖堂で行われるため、早くから王達は出払っているらしく、一人での朝食だった。

朝食を済ませた後、慌しく準備に入る。といってもわたしはただされるがままにいるだけで、イザベラをはじめ何人かの待女がやってくれた。

気を利かせてイザベラは、泣きはらしたひどい顔がわからないように化粧を施してくれた。


「ありがとう、イザベラさん。あんなひどい顔だったのに。化粧でなんとかなるものね」

とはいっても、目の充血だけは誤魔化せない。パーティーまでに治ればいいのだが。

「あまり寝ていらっしゃらないのでしょう?無理なさらないで下さい。体調が宜しくなかったらすぐ殿下に仰る様にして下さいね」

「うん・・・大丈夫よ。ありがとう」



パン!ボン!と外から花火の音がする。

しばらくして、城の外が騒がしくなった。

式典が終わり、戻ってきたようだ。

窓から正面の庭を見る。庭には招待客が道路の脇に立ち、その間を白馬に乗った騎士や馬車が長い列をなしている。その中にはウィルの姿もあり、人々に笑顔を向けている。



「そろそろ行きましょう、ユーリ様」

イザベラに促される。

いよいよパーティーの時間。しっかりやらなきゃ。もう一度自分に気合を入れた。




パーティーが行われるのはお城の中にある大広間。

高そうな香水の香りが近づくにつれて強く香る。

大広間に向かう通路の途中で、ウィルがわたしを待って立っていた。

「ここまで案内ありがとう、イザベラ」

イザベラはウィルに一礼すると後ろへと下がる。

「さあ、行こうか、ユーリ。今日も美しいね」

そう言って手を差し出す。

優しい笑顔で立つウィルをまともに見ることは出来ない。無言で目線を少し逸らしながらウィルの手を取る。

「ユーリ?」

「・・・行きましょう」

笑顔で、精一杯答えた。


大広間の中は、豪華なシャンデリアが至る所にあり、とても明るくて広い。

豪華なドレスを纏った女性や正装姿の男性が沢山いて、ダンスを踊っていたり、談笑をしている。

その光景に圧倒され、物怖じしてしまいそうになる。


「大丈夫か?ユーリ」

「だ、大丈夫よ」


いけない、いけない。気をしっかり持たないと。


どうやらわたしはある国の公爵令嬢でウィルの友人、とここではなっているらしい。パーティーを待つ間にイザベラから教えてもらった。

まあ、異世界から来ましたと言っても誰も信じてくれないし、そのくらい身分が良くないと出られるものではない、という事なんだろうけど。

そこまでしてわたしを参加させなくてもいいのに、と思ってしまう。

「見て、ウィル様にお相手がいるわ」

「珍しい、一体誰?」

「黒髪の美しい女性だね」


わたし達に気付いた招待客がざわつき始める。ウィルはそれをよそにパーティーの中へとエスコートする。

「ユーリ、王の隣にいるのが私の兄のルードだ。まず挨拶に行こう」

そう言うと一番奥の王達が座る席へと向かった。


「兄上」

ウィルが声を掛ける。

「待っていましたよ。ああ、貴方がユーリですね」

銀髪で長い髪を後ろで結んでいる。ウィルよりももっと深い青色の瞳。やはり目鼻立ちがしっかりとしていで、とても爽やかな青年だ。

「ユーリです。お初にお目にかかります」

イザベラに教わった通りの礼をする。

「ウィルから話は聞いていました。大変でしたね。ここでの生活に不便はありませんでしたか?」

「はい、皆さんが色々と良くしてくれていますので、特には」

「そう。それなら良かった」

と、わたしに優しい笑顔を見せた。そして、ウィルの方を見やると、

「ウィルも私が帰るまで皇太子として、この国を守ってくれた事、感謝しますよ」

と言った。

「この上ないお言葉、ありがとうございます」

ウィルはその言葉を受け、深く一礼をした。


「そういえばウィル、ヴォルグから報告を受けましたか?」

「いえ、まだ何も」

「でしたか。実は私が隣国にいた際にヴォルグから手紙を貰ってね、私もオウラの国について調べていたんです」

「兄上が?」

「ええ。あらゆる手段を使ってね。で、なぜあの魔術を使ったのか、わかりましたよ」

「本当ですか!?」

その言葉にウィルは大きな声で反応する。

「ウィル、静かに。この話はこのような場では話せる内容ではないので、近いうちに時間を作ります。その時にヴォルグも含めてお話しましょう。あまりいい話ではありませんがね」

優しい口調だが、只事ではないのが感じ取れる。

「兄上、感謝します」


「では、この話はまた後ほど。今日は楽しんで下さいね、ユーリ」

と、またわたしに笑顔を向ける。

「はい」

この状態で楽しめるかはわからないけど、とりあえず返事をした。


ついに、わかるんだ。


気になって華やかな音楽も人の声もわたしの耳には届かない。

早く知りたい。なぜわたしがここにいるのか。ここに来たのかを。


「―-リ。ユーリ、意識が飛んでるぞ」

ウィルの声にはっと我に返る。

「あ、・・・ごめんなさい」

「今はこのパーティに集中して。・・・まああの話を聞いてしまったら、仕方がないが」

ウィルは軽く笑顔を見せる。

「さすが、私の兄上だ。やはり兄はこの国の次期王にふさわしい」

「ウィルはもう皇太子ではないの?」

「ああ、午前中の式典で兄に皇太子を返上した。今はもう皇太子ではないよ」

「そうなの。・・・お疲れ様」

皇太子の名が外れ、ウィルは肩の荷が下りたのか幾分かほっとしているように見えた。色んな重圧と責任が今まで圧し掛かっていたんだろう。

「これから、ウィルはどうするの?」

「いずれこの国の領地をいくつかもらって公爵になる。すぐではないけれど。当分は第二王子としてこの城にいるんだ。まだやることがあるからね」


「お話の途中申し訳ない、ウィル様」

ルードと話終えたのを招待客の何人かが見ていたのであろう、次々と声を掛けられる。

隣国の公爵、伯爵、その令嬢、などと紹介されるが、よくわからない。とりあえず笑顔で軽く挨拶を済ましその場をやり過ごす。

「ユーリ嬢、いかがでしょう?ぜひ私にダンスのお相手を」

紹介された伯爵の一人がわたしにダンスを申し込む。

断ろうと話をする前に、ウィルが制する。

「・・・あいにくユーリはこういった場に慣れていなくてね、遠慮してくれないか?」

「おやおや、ははっ、これは残念」

ウィルの言葉に大分棘があるように聞こえたけれど、・・・・気のせいよね。

「断れっていって結局ウィルが断るのね」

「ん?自分で断った方が良かったか?」

「・・・助かったわ、ありがとう」

意地悪な笑顔。

人の気も知らないで。


「さあ、踊ろうか、ユーリ。おいで」

そう言うと、私をダンスフロアへと引き入れた。



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