練習と森林と心臓と
家に帰った俺はさっそく自室で魔力を感じる練習を始めた。父や母が何か聴きたげではあったが、正直そっちよりも魔法にワクワクしてるので先の誓いを破るようであれだったが無視して自室にこもる。
確か神父は身体の中の何かよく分からない物質を動かしている気がした。つまり俺の中にその何かよく分からない物質があるということだ。まぁ想像しながらやってみよう。
「……無理だ」
30分ほど想像したが一向に何も感じない。何が間違っているかもわからない。そもそも魔力と言うのは身体全体にあるのか、それとも一部分に溜まっているのか、それを考えなければ……
「ん? 魔法を使うとき何を考えているかって?」
「うん、そうなんだ。才能はあるらしいんだけど魔力を感じ取れなくて……」
聴くは一時の恥、聴かぬは一生の恥、である。イリナは火の魔法を扱えたので、ちょっと聞いてみることにした。
「私が使えるのはせいぜい生活レベルだけど、だいたいろうそくの灯とかを想像してるかな。練習してた頃は実際に火を見ながらやってたよ」
「実際に見た方が良いのかな?」
「そうだね、頭で考えるよりも実際に見た方が楽だとは思うよ」
「分かった、ありがとう」
「いえいえ、ジュンくんのお役に立ててうれしいよ」
”実際に見る”これが大事そうだ。確かに0から作り出すより、元あるものを作る方が何倍も楽である。
”サワサワ”
森と言うか木が林立している場所に来ました。ミヨーの町からだいたい10分程度の場所である。ここら辺はまだ害獣がおらず、子供でも安心して遊べる場所だと、以前ダイナに教えてもらった。もちろん5歳児一人で行く場所ではないので、イリナがお付きとしている。
「ごめんね、イリナ。お仕事の邪魔しちゃって」
「いいのよ、ジュンくんのお家のお手伝いだし」
そういうイリアは俺の髪の毛をなでる。ちなみに今の格好はイリナにだっこされている状態で、イリアのわずかな膨らみを体全体で感じている。しかもブラジャーをしていないのだろう。あまり大きくないチェリーが実っているのも確認できた。これからも練習する時はイリナを誘おう。
「そういえばジュンくんは、ここで何を見たいの?」
「ん? 風だよ? 風が一番才能あるみたいだし」
「風かぁ、なるほど木の葉が揺れるのを観察したかったわけだ」
「そうそう」
イリナの質問に答えながら俺は、ぼぉーと木の葉を見る。風に揺られてカラカラと揺れている。
「そういえばイリナ、魔力って身体のどこにあるの?」
「魔力? うーん考えたことなかったけど…… 心臓じゃない?」
「心臓ね、ありがと」
どうやら心臓にあるらしい。なら心臓から送り出すイメージで…… 血液的なノリでいいかな。
それを指先から出すようにしよう……
風は確か、高気圧から低気圧に流れるから、俺の指先から出た魔力で空気中のマナを操り、空気自体を移動させれば…… ってここは前世でもないし、科学はとりあえず置いといて風が流れるイメージだけしよう……
「風よ……吹けよ……」
”ヒュー”
ぞわっとした感覚と共に、指先に涼しいものを瞬間的に感じた。これが魔法なのか。
「ねぇねぇイリナこっちきて」
取り敢えず魔法の使えるイリナを呼ぶ。
「どうしたの?」
「これが魔法?」
といいながら俺は先ほどと同じことを行う。
”ヒュー―”
さっきよりも幾分か強い風が出たような気がする。
「そう、これが魔法の力で生まれた風ですよ。きちんとジュンくんの指から出てる。すごいね」
やったーーーーーーー
とうとう魔法を手に入れた。これがラノベの世界で見た魔法。夢にまでは見なかったけど憧れた魔法である。転生してから5年間、長かったなぁ。
魔法使いになれた興奮で我を忘れた俺は、この後調子に乗って遊びすぎて、魔力切れでイリナにおんぶされながら帰りましたとさ。
はしゃぎすぎた……
魔力切れっていうのを身を持って体験してます。
「ジュン、大丈夫か?」
ダイナやシャニーも心配の顔である。まぁそりゃ愛すべき息子がお手伝いに抱えられて帰宅したら誰だってそうだよな。
「お夕飯は食べれる?」
「お母様……もうしばらく後でも良いでしょうか?」
「全然大丈夫よ」
「先に…… 食べておいてください……」
魔力切れは前世でいう乗り物酔いに近い感じである。目が回っているというよりは直接胃を揺さぶられたかのような感じ。時間が経てば治るのは約束されている感じだ。
「……気分悪い」
ありがとうございました