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魔法と巨人と教会と

 そしてその週の終末、いわゆる日曜日に当たる日に俺は父ダイナと母シャニーに手を引かれ、ミヨーの町の教会へと出向いた。俺はふだんのミサも行かなかったので教会自体は初めてであった。

「どうジュン、教会は大きいでしょう?」

「はい、お母様、予想以上の大きさです」

 そう、教会は前世の教会に比べてやたらと巨大だった。何階建てだろうか、超高層ビルと言っても差支えないくらいだ。

「このミヨーがもともと水魔法と土魔法が得意だった一人の魔法使いによって開拓されたのは本で読んだことあるわよね?」

「はい、お母様、その人は途轍もない魔法使いだったと書いてありました」

「そうそう、よく覚えているわね」

「そこで、その魔法使いなんだが、その魔法使いが死ぬ前に自身の持つありったけの力を使って作ったのがこの教会と言われてるんだよな、シャニー」

「そうよダイナ、あなたもさすがね」

「いやいや、これくらい常識さ」

 ダイナもシャニーもバカップル全開でこの先が続かない。まぁ分かるのはこの巨大な協会は一人の手によって作られたということである。まったく規格外な人もいるものだ。


「……すごい」

 教会の外観も壮観だったが、中はもっと壮観だった。ロマネスク様式に似た建築様式で作られており、中に入るだけで何となく心が浄化されるような気がする。

「この神聖な空気、いつ来ても良いものよね」

 シャニーもこの神聖な空気を感じているようだ。

 そして目の前にはとても巨大な白髪の男性が立っている。

「やぁシャニーにダイナ。お久しぶりだねぇ」

「お久しぶりです」

「そしてこの子が息子と言うジュンくんかな」

 目の前の白髪の巨人が俺に手を伸ばす。大きな手が迫ってくると、思わず目を閉じてしまうのも仕方ないだろう。

「あはは、嫌われちゃったかな」

 白髪の男性は手を戻し、そのまま自分の頬を撫でている。

「すみません神父様」

「いやいやいいのだよ、この身体だしね」

「えっと…… 神父様なの?」

「そうだよ、僕が神父だ。よろしくねジュンくん」

 この巨人みたいのが神父、さすが異世界だなぁとか失礼なことを思っていると、シャニーとダイナは神父とお話を始めたようだ。正直大人同士の会話にはあまり興味はないから目をきょろきょろさせていると、大きな長椅子に一人女の子が座っているのが見える。

 黒髪黒目という前世の日本人のような格好にふとしたなつかしさを感じるが、相手は視線が合うなり逃げて行った。

 誰だろう?



「では適正を見ようか、ジュンくん、利き手はどっちだい?」

「右利きです」

 いよいよ魔法の適性を見ようとしていた。俺は内心のウキウキがばれないように、できるかぎりのすました顔で水晶の前に座っていた。後ろには期待顔のシャニーとダイナがいる。二人とも魔法が使えないため遺伝学的には魔法を使える可能性は低いらしいが、転生者である俺にとってはまた別の話かもしれない。まな板神様にでもお祈りしとこうかな。

「分かった。では左手を水晶にかざしてごらん」

 俺は神父の言うとおりに左手を水晶の前に持っていく。すると水晶が不思議な色を呈し始めた。最初は無色透明だったのに、有色透明からそして透明性が薄れ、そしてまた無色透明に戻っていく。

結構な色の移り変わりにシャニーもダイナも驚きの顔で固まり、神父も水晶をじっと見つめている。

「……ど、どうなんでしょうか」

 俺に答えを促された神父は、俺の目を一度強く見てから、

「君はすべての魔法属性を扱えるよ。火も水も、もちろん呪いも癒しもね」

 すべての属性が使えると聞いて、顔を明るくさせたシャニー、ダイナ、ジュンだが呪いも使えると聞いて顔が曇る。先にも述べたように呪いの魔法はあまり世間体が良くないのだ。もちろん有用なのだが。

「とりあえずよかったです」

「そうだなシャニー、ジュンはやっぱり神童だったんだ」

 しかしそれでもシャニーもダイナも我が子を誇るようにしゃべってくれる。これは前世であまり家族の縁があったわけではない俺にはたまらなくむず痒いものであった。

「呪い魔法使えるけどいいの?」

「もちろんじゃない、私はあなたの母よ」

「俺はお前の父だ。みんながお前を嫌っても俺たちはお前の味方だ」

「お父様、お母様……」

「ンフン」

 あ、神父様を置き去りに素晴らしい家族の絵を形作っていました。

「それでね、ジュンくん、君はすべての魔法が使えるけど、その中でもどれが得意なのか不得意なのかは存在するんだ。それを測ってみるから右手を水晶に出してごらん」

「は、はい……」

 これで呪いとか出たらどうしようとか思う俺、さっきまでの和やかな家族の中に一種の緊張が生まれる。俺の右手がかざされた水晶はこんどはあまり色を変えずにいる。

「ジュンくん、君の得意な魔法分野は3つある」

「3つもですか……」

 たしか本ではたいてい2つが限度のようなのだが。

「そう、3つ。これは非常に珍しいことだからむやみやたらに人に吹聴しない方が良いね。シャニーとダイナは自重を」

「「はい」」

 父も母もこればっかりは真剣にうなずく。

「それで3つの魔法だけど、才能であるからそれを伸ばすかどうかは気味次第だ。才能に溺れて練習しなかったらもちろん伸びないから、それを覚えていてね」

「はい、了解しました」

 おれも真剣にうなずく。そりゃ異世界転生で魔法を使えるのなら真剣に練習するに決まってる。

「君の持つ才能は火、水、土、草、呪は一般的な魔法使いレベルだね、そして癒しと雷は宮廷魔術師レベルだよ。素晴らしい才覚だ。けれども一番の才能は風だね。これはもう規格外ってやつだね。この教会を作ったとされる魔法使いレベルかもしれない。それぐらい才能にあふれている。これを生かすか殺すかは君次第だよ。ジュンくん」

 風魔法、俺はそれを心で復唱しながら決意する。これを使いこなすと、そして呪いを使える俺でも愛するといった今の父や母を守って見せると。

 正直、俺は今までシャニーやダイナに対して父や母と言った気持ちではなく、なんとなくイリアと同じお手伝いさん的な感じであった。しかし、今回の魔法適正試験で、俺のことを本気で愛してくれている、この世界で唯一無二な存在だと気づいた。今までがはずかしい。

「お父様、お母様、そして神父様。ありがとうございます」

 俺は思いっきり頭を下げた。それは今までの俺との決別でもあり、そしてこれからへの決意である。

 まぁ両親は「急にどうしたのジュン…… 大丈夫?」という状態だったが。

ありがとうございました

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